フィットネス業界にダイナミックプライシング導入

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2016.05.31

航空業界やホテル業界では、あたり前のダイナミックプライシング。リアルタイムの需給状況に応じた価格設定をする手法が、アメリカではフィットネス業界に導入されつつある。
従来のフィットネスクラブは会費制で、入会後、会員がクラブを利用しても、しなくても会費を徴収するというビジネスモデルで、新会員勧誘に重きを置いてきた。
ところが、近年、ヨガやピラティスなどに特化する小規模スタジオ(ブティックフィットネススタジオ)が台頭しており、アメリカではフィットネスクラブ会員の4割以上がスタジオ型クラブの会員であるという(両型併用の会員も含む)。
そうした小規模スタジオでは、長期の契約なしで利用者らを引き付ける必要があるため、クラスの質に力を入れてきた。ところが、数年前に、複数のスタジオの様々なクラスを割引価格で受講できるClassPassが展開され、多くの利用者がClassPassに流れたため、スタジオの利益が低下した。また、引き続く料金値上げでClassPassの客離れが起きており、そのビジネスモデルも維持可能かどうか疑問である。(ClassPassについても最終ページで簡単に紹介。)
ダイナミックプライシングを導入することで、スタジオが質を落とさずに収益を最大化できるようにしたのが、今回、紹介するニューヨークのスタートアップ、Dibsである。

【Dibs Technology】

URL http://www.ondibs.com/
企業名 Dibs Technology, Inc.
本社所在地 ニューヨーク
創業 2015年
代表 Alicia Thomas(共同創業者兼CEO)
Jina Wye(共同創業者兼営業マーケティング責任者)
フェイスブック https://www.facebook.com/ondibs
ツイッター https://twitter.com/getondibs
資金調達 2016年1月にVCよりシード資金

 

 
■ 創業経緯
2011年にマンハッタンの変わった場所で出張フィットネスクラスを提供するKiwisweatを創立した創業者が、フィットネススタジオやインストラクターと触れるうちに、皆が価格設定に困っていることを知る。

特定のスタジオびいきの利用者は正規料金を払うことをいとわず、料金重視の利用者はClassPassを使って割引料金を買うが、その中間のセグメントが開拓されていないことに気づき、そのセグメントをターゲットにダイナミックプライシングモデルを思いつく。

アクセレレーター、DreamItに参加。
2015年にニューヨークの10のスタジオで試験展開したところ、スタジオの売上が50%以上増加。
 

■ 仕組み
リアルタイムの需給によって受講料金が変動するプラットホームをスタジオに提供。
スタジオは、受け入れ可能な最高値と最低値を設定するだけ。

クラス在庫や購入履歴、予約パターンなどを基に、同社独自のアルゴリズムを使って料金が設定される。たとえば、帰宅時間の人気インストラクターのクラスには最高の料金を徴収し、悪天候で受講生が少なければ料金が下がる。また、航空運賃と同様、早く買うほど低価で購入でき、クラス当日に近づくほど高くなる。

スタジオは大きな割引をすることなしに売上を最適化でき、時間が自由になる会員は通常より安い料金で受講できるというメリットがある。

Dibsでは、試験展開後、より多くのスタジオや会員のデータを基に、さらに効率化されたバージョンを提供しており、導入したスタジオでは利用者数が週20%増加。リピート予約率が65%で、リピート客の70%が3回以上利用しているという。つまり、在庫の効率化、料金の最適化によって、利用者・利用回数が増加し、市場を拡大できる。

なお、既存のシステムと相互性はないので、各スタジオは会員情報など既存データをすべてDibsのプラットホームに移行しなければならない。


利用者向けクラス予約画面
クラスを施設ごとに時間や料金で検索可能。
クラスの12時間前にキャンセルすれば全額返金。



■ 収益モデル
利用者がスタジオに支払う受講料の5%。

■ 今後の展望
ニューヨークの後、ロサンジェルス、ボストン、アトランタ、ロンドンなどに進出中。
将来は、ダイナミックプライシングを美容・スパ(エステ系)業界やエンタテーメント業界にも展開したいと考えている。
 

【ClassPass】

URL http://www.classpass.com/
企業名 ClassPass Inc.
本社所在地 ニューヨーク
創業 2013年
代表 Payal Kadakia(創業者兼CEO), Mary Biggins(共同創業者)
フェイスブック https://www.facebook.com/classpass
ツイッター https://twitter.com/classpass
リンクトイン https://www.linkedin.com/company/classpass
売上 年6,000万ドル
資金調達 VCより8,400万ドル

 

2012年、ギターやバレーなど稽古事の検索エンジンとして開始。従来のフィットネスクラブのように会費をまとめて先払いでないとフィットネスクラスをわざわざ探して運動する人が少ないことに気づき、クラスの予約がネットで可能なクラス検索システムを立ち上げたが、利用者が伸びず。簡単にクラスを見つけられても、利用者にとって個々のクラスに対し支払いをするのは面倒なのがネックだった。そこでクラスをまとめて販売することに。2013年、ClassPassとして開始。

複数のブティックフィットネススタジオのクラスを月極料金で、利用者がネットで予約して受講可能。利用者数は立ち上げ後、倍増。現在、全米30 以上の都市、カナダ、イギリス、オーストラリアの8,000施設のクラスを提供。

個々のスタジオにとっては新顧客開拓の広告宣伝として役立ち、ClassPass利用者の70%近くが、それまでブティックフィットネスクラスの利用者ではなかったといい、市場の拡大につながった。(ただし、受講者の大半がClassPass利用者となり、利益の低下で閉鎖に追い込まれたスタジオも。)

最近まで、月99~125ドルで提携スタジオのクラスをいくらでも受講できる(同じスタジオのクラスは月3回まで受講可)料金体系だったが、6月から下記のように変更。
 ・基本プラン(月5クラス):地域によって月40~75ドル
 ・コアプラン(月10 クラス):月100~135ドル
 ・無制限プラン(受講クラス数に制限なし):月150~200ドル

一年弱で料金が倍増し、ClassPass利用者の多くが激怒しており、脱会者も。
ClassPassでは利用者一人当たりの固定費を提携ジムに支払っており、予想よりもヘビーユーザーが多く、現料金体系ではビジネスモデルを維持できなかったもよう。

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。