正しいか誤りかは相対的なもの

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河谷隆司の多文化人材の活かし方

企業とのコラボで筆者が行っている世界ビデオインタビュー。このコラムでは、「多文化人材の活かし方」について世界4極の現地人リーダーに登場してもらい、世界各地での効果的なリーダーシップのヒントに迫っています。

さて今回は、ロンドンでの赴任者研修の折に収録した、日系IT企業勤務の英国人営業部長氏(政府系営業)のインタビューを聞きましょう。英国の職場は多国籍のるつぼで知られていますが、そんな環境の中でどのように求心力を高めているのかが、私の関心事でした。

私の質問への第一声はこれでした。

多文化チームをマネージするには、みんなが「面白い!」と思えるような、共通のゴールを持つことが大切です。ありたいビジョン、向かいたい方向、達成したい願望を一緒に作るのです。 (Create a vision, direction, aspiration together)」。

シナジーを産んでいるような高業績チームは、参加欲求が強いメンバーばかりですから向かいたい方向もいい意味でばらばら。そこに一定の方向感覚を持たせるには、まずは、なるべく多くのメンバーが、「どうやるか」は別にして、基本哲学に於いて面白い!と感じることが基本なのです。ここにコストはかかりません。必要なのは業務に関わる暗黙知を深く思索し、持論を常に磨いておくことです。ここが今の日本には圧倒的に足りないのではないでしょうか。この「感じさせる力」を強化することで、仕事の魅力度を上げましょう。これが定着施策の第一歩ではないでしょうか。続けてこう言い換えました。

“Having a common goal, something that people want to come to do. “
 「みんなが集まってきてやりたいと思えるような、共通のゴールを持つことです。」
 

そのようなゴールは自然発生しませんから、仕掛け人が必要です。そして、皆が関与したくなるようなゴール作りに議論の時間をかけるということです。日本は文化均質ですからそのゴールを曖昧にしたまま、各論から始まるミーティングや商談ばかりの様に感じてなりません。さらに氏はチームをこう例えます。

チームは、個人の集合体よりも偉大ですから (a team is greater than the sum of the individuals)。

人々が漫然と集団を成しているのではなく、個々人が存在意義を感じ、それぞれこだわりを持ったプロ集団といったイメージでしょう。さらに「西洋の常識では、ゴールはお互いへの挑戦、着想、インプット、コラボレーションから 浮上してくるもの (goal emerges out of…) であって、あらかじめ処方されているものではないのです。 ゴールは(議論を通して)途中で変わっていいのです。」と添えました。彼の意味する生きたチームの様子がよくイメージできるコメントです。

最後に、日本人赴任者へのアドバイを聞いたところ、大変印象的な言葉を聞くことができました。

「日本人にはもっと自身の考えを前面に出して欲しいですね。西洋では、 “There’s nothing wrong to be wrong. Right or wrong is relative.” (間違うことは何も悪いことではないし、正しいか誤やりかは相対的なものです)なのです。 それと、人とその人柄を知って欲しいですね。 (Know your people, their characters)。

意図して、意識して、集団の気持ちをひとつに仕向けるエネルギーの使い方を学ぶことの出来たインタビューでした。参考になれば幸いです。


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【お知らせ】

産経新聞・朝刊文化欄にて、9月5日より隔週水曜日に連載を始めます。
「河谷隆司の侍イングリッシュ」

●株式会社 ダイバーシティ・マネジメント研究所 
 「アジア太平洋×異文化マネジメント×日本ビジネス文化」の3つのドメインで1990年から日系と外資系企業を支援しています。オルタナティブな勤労文化にロジックを打ち込み、パッションをもって語れば、日本企業はまだまだ化けます。宝箱がまだ開いていないのです。多国籍社員が互いに学んで成長し、シナジーの生まれる職場作りに邁進しています。
https://www.diversityasia.com/

河谷隆司プロフィール
株式会社 ダイバーシティ・マネジメント研究所 代表取締役 世界各地の日系と外資系企業、政府機関、経営大学院で異文化マネジメント、日本型ビジネス文化、グローバルビジネススキルを指導。マレーシア戦略国際問題研究所を含めアジア勤務17年。外資系日本支社長へのコーチング、外資系企業の日本企業買収前後の文化統合コンサルティングにも携わる。メインドメインは「アジア太平洋×異文化マネジメント×日本精神」の三位一体。日本文化を発信するネットテレビJapan Spiritキャスター(YouTube視聴可)。著書は『Winning Together at Japanese Companies』『アジア発 異文化マネジメントガイド』他多数。