信号までの距離と報酬ガバナンス

なぜ、日本は失われた20年を恋々と過ごさなければならなかったのか。なぜ自分は大事なプレゼンテーションで失敗したのか。なぜあいつが自分よりもモテるのか。
 どこが間違っていたのか。何をすべきだったのか。

 コトの大小の差はあれど、こう言った類の悩みを誰しもが一度は持った経験があるはずである。かくいう私もそういった経験で何度ももがき苦しみ、現在に至っている。
 今となっては何ということは無いことも、当時は精神的にかなりキツかったものもある。

 そこで最初に戻って考える。なぜこのような状況になってしまったのか。この状況を未然に防ぐ手立てはなかったのか。結論は明々白々である。事前の備えが足りなかったのだ。
 それは先読みであり、準備であり、努力である。

 そんなことは今更言うまでもなく、分かり切っている。分かり切っているが、私も含めてできないのが人間なのだ。ドアが閉まりかけの電車に無理やり入ってくる人がいる。信号が点滅し始めてから走り出す人がいる。これらも同じことだと思う。

 閑話休題。私はマーサーで現地雇用社員の報酬水準を検証するためのツールを提供している。これはクライアントに自社の従業員データを提出して頂き、それらをまとめたデータベースへのアクセス権を提供してユーザー側で操作・分析をする、参加型の報酬サーベイサービスである。

 昨今の経済状況下、あらゆる企業が海外の売上比率を上げようと色々な施策を取っている。その施策を実行に移すにあたり、本社からある程度のガバナンスを効かせよう、という流れがあり、その一環として海外拠点のガバナンスのありようについて照会を受ける機会が急増している。

 特に幹部候補者や役員に照準を絞って、教育や評価、報酬、キャリアプランなどしっかりとしたリテンション施策やサクセッションプランを行いたい、という企業の声が多く、グローバル報酬ガバナンスの一環として、自社報酬の妥当性検証、グローバルグレーディング設計のサポートをさせて頂いている。

 今までもそういった施策が必要なことは分かっていたが、ここにきて愈々行動に移す企業が飛躍的に増えてきているのである。

 今までは駐在員で回していたマネジメント層をローカル化する際の照会も同様に増えている(ローカライゼイション)。この動きには賛否の声があると思うが、少なくとも一定以上の層がいつも駐在員、という状態が定常的に続けば現地社員のモチベーションにどのように影響するか、という点においては想像に難くないと思う。

 先ほど信号の話をしたが、まさにこれは信号と自分の距離、信号のシグナルが変わるタイミング、周辺の交通量や横断歩道を渡り切るまでの障害物の有無を勘案して先に動き出している好例だと捉えている。

 従来のやり方を踏襲し続ける方が楽であるが、環境がそれを許さない中、苦しい、しんどいと分かっている変化に真正面から取り組むクライアントに対し、真摯に誠実に向かい合い、バリューを出し切ることがマーサーの使命だと考える。

 我々の提供する成果物はデータである。データ自体は数字の集合体である。見方を少し変えるだけでガラリと結果が変わることは当然起こり得るので、自社にとって最適なベンチマークの対象となるマーケットを見つけること、そして定点観測で見ていくことが重要である。

 ただそのベンチマーキングを続けているうちに、当初手段であったはずのベンチマーキングが目的と化し、漫然と市場の50%タイルを目指す、ということも実際に現場で起こっていることである。常に自社の報酬ポリシーと照らし合わせ、マネジメント層や社員に聞かれた時に自信を持って納得感のある回答ができるかどうか、そのことが肝要である。

 私の目指す役割としては、ただ漫然とデータを提供して終わるのではなく、データ結果が出ている背景、時系列で見たトレンド、周辺国との違いなど対象データ以外の情報との相関関係を見つけ出し、それを提示することでデータの価値を高めていくことである。但し、最終的にはそのデータの価値はクライアントがどのような目的を持って何をしたいのか、どうなりたいのか、というゴール次第なのである。

 昨今、環境の変化が激しい中、自然災害や企業合併など想定もしない事態が起こりうる。その際に求められるのは迅速かつ柔軟な対応である。その適切な対応を行動に移すには事前の準備と確固たる信念を持つことである。教科書にある‘べき論’に固執するのではなく、具体的に想定したなりたい姿に向けて、確実に、タイムリーに行動を起こすことで例え失敗したとしても、それは失敗ではなく成功するための重要なステップになるのである。

 私も日々精進し入念に準備をすることで、日本を失われた30年にせず、スティーブ ジョブズばりのプレゼンテーションをして、あいつよりも少しだけ人気を得たいと思う。

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執筆者: 倉持 歳弘 (インフォメーション・ソリューションズ)
シニアコンサルタント

略歴
日系半導体商社、グローバルリサーチ会社でのソリューション提案を経て現職。
マーサーでは、ハイテク産業担当のコンサルタントとして、マーサーの強みでもあるデータベースを基にした、
グローバルな報酬水準の妥当性検証、グローバルグレーディング導入支援、グローバルな報酬制度設計支援等の
コンサルティングプロジェクトに従事。
また、日系企業の海外進出やオンライン業界の更なる日本での成長についてのサポートにも力を入れている。

関西大学法学部卒
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マーサージャパン株式会社プロフィール
マーサーは世界 40カ国以上、約180都市において、コンサルティング、アウトソーシング、インベストメント分野で 25,000 社以上のクライアントにサービスを提供するグローバル・コンサルティング・ファームです。世界各地に在籍する 19,000 名以上のスタッフがクライアントの皆様のパートナーとして多様な課題に取り組み、最適なソリューションを総合的に提供しています。ニューヨーク、シカゴ、ロンドン証券取引所に上場している、マーシュ・アンド・マクレナン・カンパニーズ(証券コード: MMC )グループの一員です。[http://www.mercer.co.jp/ ]