統計値の人気者「平均値」が生む誤解

「やられたらやり返す。倍返しだ」の名セリフでもお馴染み、大ヒットテレビドラマ「半沢直樹」。ビジネスパーソンの間でもかなりの話題になっていたが、私も楽しく鑑賞させてもらった。最終回の視聴率(関東地区)は42.2%で、「積木くずし」や「水戸黄門」の最高視聴率は追い抜けなかったものの、今世紀のドラマとしては最高視聴率を樹立した。

 視聴率はだれもが知っている指標だが、どのように算出されているかは意外と知られていないのではないだろうか。NHKを除いた民放の放送局の視聴率であれば、ビデオリサーチ社が選定した家庭(モニター)に視聴率を測る専用の機器を設置し、それを集計して発表している。関東地区であれば約1800万世帯に対し600世帯がサンプル抽出されており、そのサンプルの中で該当番組を視聴していた世帯の割合が視聴率、また毎分0秒での視聴率の平均がその番組の平均視聴率となる。一般的に番組の視聴率といえば、この平均視聴率を指すが、「半沢直樹」のケースでは、600世帯のうち253世帯が平均視聴していたことになる。残り347世帯は、「半沢直樹」以外の他の番組を見ていた世帯だけでなくテレビの電源を切っていた世帯も含んでいる。

 この平均視聴率のように統計データは物事の全体像を把握したり、ざっくりとした傾向をつかんだりするのに非常に役に立つ。周りを見渡しても、天気予報、受験の偏差値、平均寿命、内閣支持率、モノづくりにおける生産管理など、統計が活用されていないものを探すのは難しいぐらいに様々なことが統計と関係している。最近ではビッグデータという言葉がメディアを賑わせているが、IT技術の進歩により大量のデータが集められ、それを記憶する設備が整ってきたため世の中にはたくさんのデータがあふれかえり、そして増え続けているのである。そして、これらの膨大なデータをうまく分析する基本技術も統計である。

 先日も休日に書店へ顔を出して驚いたが、「統計」や「データ分析」をテーマにした書籍がずらりと並んでいた。年金や保険の分野で確率論や統計学などの数理的手法を駆使して仕事をしているアクチュアリー、ビッグデータのような特別なデータを扱っているデータサイエンティストだけでなく、まさに統計やデータ分析というものを広く一般的なレベルで活用されるような状況である。

 私がお客様から依頼される報酬水準の比較分析でも統計を活用している。その中で、小学校の算数でも習う最もポピュラーなものが「平均値」である。すべてのデータを足し合わせて、その個数で割るだけのとてもやさしい計算式で求められる数値だが、その使い方には注意が必要である。わかりやすさの反面、データにばらつきがある場合に誤解を与えることがあるのだ。

 A社の平均年収700万円  B社の平均年収1000万円

 この2社を見ると、B社の方が年間で300万円高くなっている。しかしデータ(下図)をよく見ると、役員についてはB社のほうがA社より高くなっているものの、社員に限ってみるとA社もB社も同じなのである。

              図

           A社 年収(万円)    B社 年収(万円)
           300            300
           400            400
           400            400
           600  ← 中央値 →   600
           900            900
         1100(役員)       1400(役員)
         1200(役員)       3000(役員)

           4900           7000
            n=7            n=7
         平均値 700万円 平均値 1000万円

 このケースでは平均だけではデータの偏りをうまく表現できていない。平均はあくまで合計値を個数で割ったものなので、その結果とデータの分布とはなんら関係がないのである。そのようなときは、データを数値別に並べて上からと下からのちょうど真ん中にあたる「中央値」を併せて考えるだけでもデータの実態に近づくことができる。その他、データの「最小値」や「最大値」、出現頻度が最も高い「最頻値」、全体を4つに分けた「四分位値」など、データの特性を代表するような値を踏まえ、データがどのような分布をしているのか意識することが重要である。

増渕 匡平 (インフォメーション・ソリューションズ)
 ※私が関わる報酬分析では、多くの場合、平均値、25%値、50%値(中央値)、75%値を開示することが多いが、データの量が多いときは10%値(ほぼ市場の最低水準)や90%値(ほぼ市場の最高水準)を開示する。

 マネジメントやマーケティングの世界で統計が注目されており、ビジネスパーソンにとっても一般的なスキルとして統計を活用する機会が増えている。データから価値を引出し、活用していくためにも、示されているデータを鵜呑みにするのではなく、そのデータをタテ・ヨコ・ナナメなど様々な角度から見て価値ある判断をしていただきたい。

増渕 匡平 (インフォメーション・ソリューションズ)
略歴
野村證券株式会社にて営業部門、人事部門を経て現職。
グローバルな給与・福利厚生に関する総報酬調査に従事し、国内外の企業にデータを用いた各種コンサルティング、インフォメーションサービスを提供している。特に日系企業人事組織のグローバル化支援に力を入れている。
東北大学経済学部卒
 

マーサージャパン株式会社プロフィール
マーサーは世界 40カ国以上、約180都市において、コンサルティング、アウトソーシング、インベストメント分野で 25,000 社以上のクライアントにサービスを提供するグローバル・コンサルティング・ファームです。世界各地に在籍する 19,000 名以上のスタッフがクライアントの皆様のパートナーとして多様な課題に取り組み、最適なソリューションを総合的に提供しています。ニューヨーク、シカゴ、ロンドン証券取引所に上場している、マーシュ・アンド・マクレナン・カンパニーズ(証券コード: MMC )グループの一員です。[http://www.mercer.co.jp/ ]