河谷隆司の多文化人材の活かし方
「優秀な中国人の働き手は腹をすかした狼だ。だから、彼らをマネージするマネージャーは狼の口を開けて、肉の塊を放り込めるような器じゃないと務まらない」~この引用は、上海で仕事でご一緒したことのある、日中ビジネスの中国人専門家が言っていたことですが、全く同感です。また、上海で面談した日系IT企業のグローバル営業担当の中国人部長は、「中国人が最も嫌がるのは管理されること。だから日本人が自己主張の強い中国人を管理するのは即刻止めて、日本との橋渡しに徹して、我々が中国での仕事がしやすいような環境作りをして欲しい」とピシャリと言い放ったのです。
中国人を定着させたかったら「夢」を語れ
う~ん、一理も二理もあるなぁ~と思いながらも、我らが駐在員はマネジメントを放棄するわけもいかず、どうしたものかと思案していたところ、複数の中国人マネージャーの口から同じワードがこぼれたのです。それは意外にも「夢を語れ」というものでした。先回のシリコンバレーから太平洋をまたいで、今回は、中国・上海で行ったインタビューを聴いて頂きましょう。
「夢を語ると、個人主義の中国人が落ち着いてくるんです。」
(中国・IT・システムインテグレーション課長・男性)
「個人志向の強い中国人をまとめる方法は相談。相談の中から彼らの期待を知っておくことです。夢*、ミッション、キャリアパス**を与える。これがないと個人主義の部分が出てくる。これがあると彼らも落ちついてくるのです。」
*なんと「夢=定着」という図式が経済功利重視の中国で生きている、というのです。マネージャークラスが相応の報酬を得ている中国では、金銭よりも、職場環境や発展空間がモチベーターとして大きいという教訓です。
**現地法人で“短期”的任務を担わざるを得ない駐在員には、少々重荷になる、現地社員へのキャリアパスの明示。何年くらいかと聞いたら、「短期1年と中期3年」との返事でホッとした次第。これくらいの時間軸なら示して、後任者にも確実に引継ぎしたいものです。
「例えば、退職希望の社員に、“我々が中国全土で一番有名なSI(System Integration)部隊になった場合を考えてください*。そうなると会社も大きくなる。その場合のあなたの位置づけを考えて欲しい。その時、あなたはどんな仕事をしているでしょうか?”と言って慰留したのです。みんな、今ワンチームで頑張れば、何年かたったらマネージャーになっているかもしれないと感じる。そう説得したら、個人主義の中国人も落ち着くのです。そういうふうにコントロールしています。」
*これこそ近未来を上司が部下に対して描くストーリー。このような到達したいイメージ、つまり、ビジョンを本気で語れるリーダーが日本にはもっと必要じゃないでしょうか。
本気度が試される中国でのマネジメント
「部下の立場、期待を聞いて自分の上司と相談、交渉、戦うことのできる上司が中国では慕われます。人間として*部下の尊敬が得られなければ、部下の信頼は得られません。」
*「人間としての尊敬」・・・これは身をもって本気で信念を示して初めて獲得できるのが中国です。腰砕けやその場凌ぎでは見透かされます。上司としての本気度が、如実に上司評価の尺度になるのが中国なのです。とても分かりやすいですね。
さて、いまだに勘違いしていませんか?中国人は成長欲求が強いので、動機付けは「金とポジション」だと。各種調査でも明らかになっていますが、一定の処遇を得ていて自己成長を真剣に考えている中国人に関しては、お金が動機の上位にくることはありません。それは迷信です。
有能人材を定着させたければ、金とポジションではなく夢を語れ。まさに目から鱗の名言でした。
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「アジア太平洋×異文化マネジメント×日本ビジネス文化」の3つのドメインで1990年から日系と外資系企業を支援しています。オルタナティブな勤労文化にロジックを打ち込み、パッションをもって語れば、日本企業はまだまだ化けます。宝箱がまだ開いていないのです。多国籍社員が互いに学んで成長し、シナジーの生まれる職場作りに邁進しています。
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