去る6月14日、田町の「女性と仕事の未来館」に約40名が集まり職場のストレスマネジメントに関する勉強会が開催された。その概略はすでに公開されているが、「非常に役立った」というのが参加者の一致した声だった。講師の一人、渡部卓先生のお話は、職場のストレスとうつをひとつのテーマとしていた。今回は、うつの中でも「現代型」といわれる「ディスチミア(Dysthymia, 気分変調)親和型うつ病」について考えてみたい。
「ディスチミア親和型うつ病」とは、「メランコリー親和型うつ病」に対することばだ。人事を預かるものとして、知らないでは済まされないことばになりつつある。医者でも心理学者でもない筆者にこんな高尚な題材について議論する資格はないが、知らないでは済まされないこの「ディスチミア親和型うつ病」について、見聞きしたことを紹介させていただきたい。
通常「うつ病」といえば、「メランコリー親和型」をさす。まじめで、几帳面、仕事熱心で、責任感が強い。こんな人が長く続くストレスに耐えられなくなり、発病するのが「うつ病」。中高年に多く見られる。
これに対し、「ディスチミア親和型うつ病」は、若者に見られる。生年でいうと1970年が分かれ目のようだ。九州大学大学院の神庭重信教授の分類によると、その違いは下表のようになる。
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メランコリー親和型 |
ディスチミア親和型 |
年齢層 |
中高年層(1970年以前出生?) |
青年層(1970年以降出生?) |
関連する気質 |
執着気質 |
逃避型抑うつと甘え・ヒステリー |
病前性格 |
社会的役割・規範への愛着 |
自己自身への愛着 |
うつの症状の特徴 |
焦燥と抑制 |
不完全と倦怠 |
治療関係 |
初期にはうつ病の診断に抵抗する |
初期からうつ病の診断に協力的 |
薬物への反応 |
多くは良好 |
多くは部分的効果にとどまる |
そもそもディスチミア親和型とはいったい何か。名付け親は、九州大学大学院生の樽味伸(たるみ しん)さん。2年前の2005年7月、33歳の若さで亡くなった。惜しい人を亡くしたものだ。
「ディスチミア親和型うつ病」は、従来のうつ病よりは軽症で、うつ病の概念が広がったためうつの範疇に入ってきた。端的にいうと、その発症のメカニズムはこうだ。
最近の若者は、社会全体が豊かになり、価値観が多様化する環境の中で、個性尊重といわれながら育ってきた。型にはまらないことは尊いことで、その中に価値を見出してきた。生活は豊かで、苦労もなく、あまり勉強もせずに育った。何となく就職し、社会に出た。しかし、そこには現実の厳しい企業社会が待っていた。社会規範、企業のルール、仕事のノルマ、人間関係など、がんじがらめの社会は壁となってたちはだかり、彼らにとって大きなストレスとなった。こうして現代型のうつ、「ディスチミア親和型のうつ病」が出現した。
彼らの多くは仕事熱心ではなく、秩序を否定、「やる気が出ない」といい、自分は悪くない、他人が悪いと周りを非難する。うつについてはいろいろと研究しており、自らうつ病だという、○○という薬がほしいという、自ら診断書を要求して休職するなどの特徴がある。薬を大量に服用し、自傷的になることもある。従来のうつ患者に「がんばれ」は禁句であったが、ディスチミア親和型の場合は、「がんばれ」と励ましてもよい。
そういわれてみれば、なるほどとうなずけるケースがあるかも知れない。筆者も抗うつ剤を服用しはじめてほぼ一年になる。ディスチミア親和型ではないかと不安になることがある。うつ状態との診断は比較的容易に受け入れた。副作用に悩まされたとき、薬を変えてほしいと願い出たことがある。しかし、他罰的になったこと、自傷的になったことなどはない。一年で薬の処方が随分変化し、抗うつ剤の投与量は半分以下に減ってきた。寛解まであと一息かなと考えると、ディスチミア親和型ではなさそうに思える。
人事に携わるものは、「ディスチミア親和型うつ病」の存在と特徴は知っておく必要がある。しかし、我々はあくまでもこの道の専門家ではない。30代、20代のうつ患者が発生した場合、人事は産業医や主治医など専門家と十分に連携を取り、「ディスチミア親和型うつ病」に該当しないか慎重に見極め、対処する必要がある。勝手な判断は慎み、専門家の判断を仰がなければならないと思う。読者の企業の実態に合わせ、参考にしていただきたいと願う次第である。