部下と「一緒に」働くことの本当の意味
このコラムでは、「多文化チームのマネジメント」について世界4極の現地人リーダーに登場してもらい、世界で慕われる上司像、すなわち、”グッドボス”のマインドと行動を考えます。
さて今回は、ベトナムホーチミン市郊外の日系IT系製造拠点を訪問した際のインタビューです。日本人幹部からも現地社員からも慕われ、将来を嘱望されているベトナム人製造シニアマネージャーのTさん。ベトナムでは日本人赴任者と現地社員の間で共通言語が意志疎通の障害であるなか、現地社員のモチベーションで一番基本に大切なことは何かと聞くと、Tさんの答えはシンプルなものでした。
“It is important to work with subordinates.”
ベトナム人社員のモチベーションで重要なことは、部下と一緒に働くことです。
この一言は至極簡単に響きます。多くのマネージャーは毎日部下と働いていると思うことでしょう。ところが、日々職場で顔を合わせてゴールを確認して進捗を管理して…といった流れは、Tさんの意味する「一緒」ではありません。その具体例を聞くとTさんはこう例示しました。
Show them the boss also fights the difficulties.
彼らが問題を抱えている時には、ボスも一緒になってその問題と戦うのだという姿を見せることです。
「ですから部下が報告を上げたりアラームを出したりした時には、ボスとして彼らを助けなくてはなりません」。この「アラームを出した時」がポイントです。アラームが本物かどうか見極める目が必要です。それがマネジメントスキルです。
アラームを見誤った例をニューヨークで聞きました。ある人事課長が赴任者上司の人事部長に「その仕事は経験がありません。出来ませんから助けて下さい。Please help.」と言ったところこう返ってきました。「That’s your job. You must do it. I’ll take responsibility for it.」。彼女は怒りを露わにして…「経験のない仕事をすれば失敗する。失敗で評価されるのは私なんです。日本からやってきた赴任者が責任をとることなんてありません。雇用を賭けて働いているのは私の方なのです」。アラームが甘えなのか本物なのか。判断できないボスはアウトです。人を不幸にさえします。アジア圏の赴任者も、自分がニューヨークやロンドンにいるつもりで自身に喝を入れる必要があるのではないでしょうか。
Tさんはモチベーション対応の行動例を続けます。
「単に仕事の優先順位を整理してあげる(re-prioritizing their jobs)だけでも、気分はずっと良くなるものです。要は彼らの問題を一緒に解決しようと努力することなのです。ですが、だからと言って上司は部下のために働いている訳ではありません(we don’t work for them)。彼らが解決できないと判断した時だけ、彼らを助けるのです」
Tさんは判断眼をもつ立派なグローバルマネージャーです。彼は「私は叱る時も大声ですが、いい仕事ができた時は 「以前は、こんな成果をあげられるなんて想像できましたか? 君の能力はすごく高いよ!」 と大声でほめる」ことで評判です。“人前で叱るな”などの通り一遍の異文化ティップは、明快なリーダーシップの前では吹き飛んでしまいます。
一流外国籍人材が日系企業に来ないという事実。その根本的な原因は自らのマネジメントスキルにあるということを感じない幹部や社長はアウトです。日本企業の国際化に未来があるとしたら、最優先は広義のマネジメント研修でしょう。自社内で人が育たなくなった以上、現実解です。国際レベルのマネジメントのできる幹部養成なしには海外で稼いで社員を誘引する組織文化を国境をまたいで創ることは、夢物語です。ITシステムや部品調達網の整備よりリーダー人材網の構築が最優先なのですが、ここに共感する日本のリーダーは絶滅危惧種と言わざるを得ません。
もう忙殺を理由にしないで下さい。忙殺なら半期に一度、チーム内のコミュニケーションの時間をとって「失われた会話」を取り戻して下さい。「一緒に働く」組織づくりの原点に帰って自分に何ができるかを考えて即、行動する。その時は今です。そうでなければ日本企業のグローバルサクセスに明日はありません。
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産経新聞・朝刊生活欄にて、隔週水曜日に連載中です。Talkの英会話からSpeakの「意味の発信」へ発想の転換を問うものです。ご批判下さい。
「河谷隆司の侍イングリッシュ」
●株式会社 ダイバーシティ・マネジメント研究所
「アジア太平洋×異文化マネジメント×日本ビジネス文化」の3つの領域で1990年から日系と外資系企業を支援しています。世界に蔓延する欧米型の働き方とは異なるオルタナティブな勤労文化を持つ日本。そこにロジックを打ち込み、情熱をもって発信すれば日本企業は大化けします。宝箱を開けるときは今です。多国籍社員が互いに学んで成長し、楽しくてシナジーの生まれる職場作りを支援しています。
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*河谷隆司の侍イングリッシュ
産経ニュース:https://www.sankei.com/life/news/180905/lif1809050014-n1.html