日本人は「真実を語る」勇気を取り戻せ
このコラムでは、「多文化チームのマネジメント」について世界4極の日系企業の現地人リーダーに登場してもらい、今の日本企業の浮沈にインパクトする知恵を考えます。
先日、世界で100名を超えたビデオインタビューですが、毎回、現地リーダーに聞く質問があります。それがこれです。
「日本からやってくる赴任者がもっと優れたリーダーとなって、あなた方現地社員の能力を全開させることができるとしたら、彼らに期待するたったひとつの行動とは何ですか?」
この問いかけを世界中でしているのです。この質問へ答えてくれたのが、フランクフルトのYさんです。Yさんは、日系IT企業のシニアプロダクトエンジニア。日本に出張に来て青空に映えるビル群を見るだけで、母国では感じない異文化を感じるという海外への感覚の鋭い方です。
上の質問への答えはこうでした。
“Don’t hide anything that you think is critical.”
自分がとても重要だと思うことは決して隠さないことです。
この前提として、ドイツでの効果的マネジメントは、リーダーの同僚との“オープンさ”(Be open.)だと言います。オープンとは、「ボスがスタッフから孤立していて、上から下に降りてくる」のでは困ると。続けて、オープンさをこう表現しました。
“Openness not just in facts and figures but the way to communicate. This comes from heart; it’s not tactical.”
事実や数字に隠し事をしないだけでなく、コミュニケーションの仕方についてもです。これは心からくるもので、計算して行うものではありません。
ここで私のハッとした言葉は、「コミュニケーションの仕方についても」です。赴任者や出張者に隠し事をする人が多いとは思いませんが、その伝え方に大いに改善する必要があるということです。
ここを具体的に聞いていくと……
「やりたい事を明快にアドバイスすることです。やるべき事がはっきりあれば、達成や問題解決のハウツーの話を始めることが出来ますから!」と。私は、それは理想で、いきなりヨーロッパに管理者として来て、明快にアドバイスすることがどれほど難しいことか、と挑発すると……
「自分ではわからないから、一緒に答えを見つけたいのです。これはフリーな領域(パラメーター)です」と言えばいいというのです。そして、多くの管理者の思い込み、あるいは、強迫観念への反論がありました。
“A leader does not have to have all the answers all the time!”
リーダーだから常にすべての解を持っていなくてはいけない、ということはないのです!
マネージャーはかくあるべきもの、という上司像の異文化比較調査がありますが、日本人マネージャーが外国人スタッフを前にした時の発言様式は、中途半端なことは言いたくない。言って質問攻めにあいたくない。現場を混乱させたくない。こんな傾向が、強すぎるようです。
欧州連合EUとはいえ、この地域の多様性の複雑さは、単一国家にすぎない米国のいうダイバーシティの比ではありません。そう考えると、「一緒に答えを探したい」とスタッフへ率直に相談する態度は、日本の相談文化と符号して、とてもうまくいくリーダーシップ行動ではないでしょうか。
日本人は「不確実性の回避」傾向がかなり強いと言われます。すなわち、ビジネスの詳細を根掘り葉掘り詰めてからしか動かないし、仕事の目的や成果と同じくらいプロセス(型)にこだわりがあります。 この国民性が高い品質を生むのですが、そのプロセスをオープンに説明していないことが、「重要なことを隠す」と映るのです。今回のインタビューは、異文化コミュニケーションは、意味や意図の「見える化」が大切だという教訓を教えてくれるものでした。
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産経新聞・朝刊生活欄にて、隔週水曜日に連載中です。Talkの英会話からSpeakの「意味の発信」へ発想の転換を問うものです。ご批判下さい。
「河谷隆司の侍イングリッシュ」
●株式会社 ダイバーシティ・マネジメント研究所
「アジア太平洋×異文化マネジメント×日本ビジネス文化」の3つの領域で1990年から日系と外資系企業を支援しています。世界に蔓延する欧米型の働き方とは異なるオルタナティブな勤労文化を持つ日本。そこにロジックを打ち込み、情熱をもって発信すれば日本企業は大化けします。宝箱を開けるときは今です。多国籍社員が互いに学んで成長し、楽しくてシナジーの生まれる職場作りを支援しています。
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*河谷隆司の侍イングリッシュ
産経ニュース:https://www.sankei.com/life/news/180905/lif1809050014-n1.html