企業のグローバル人材の必要性やグローバル化対応が言われて久しく、社内公用語化をはじめとする英語活用も急速に進んでいる。それは実を結んでいるだろうか?よりビジネスニーズに合わせた、グローバル化にふさわしい手法が必要になってきてはいないだろうか?
多くの人事担当者は「仕事ができて英語もできる人材」の不足に直面している。特に外資系企業では状況はより深刻だ。経済産業省の調べでは「英語でのビジネスコミュニケーションの困難性」を50%強の外資系企業が「日本で人材確保する上での阻害要因」として挙げている(※1)。JETROには「英語が話せるエンジニアがいない」「技術職・専門職プラス英語となると、極端に人材の幅が狭い」という声が寄せられている(※2)。対策はいくつか行われてきた(下図参照)。
対策1-「仕事ができる人材」の英語力を集中的に育成すること。例えば、マネージャークラスの英語発信力を引き上げる訓練をすることなどだ。
対策2-「英語ができる人材」を見つけ(社内、社外)、仕事力を育成する。海外経験者や外国人人材を積極的に登用する、語学力や海外経験のある人材を見つけて必要な部署に配置するという人事施策がそれに該当する。
対策3-現有の人材(あえて「普通の人材」とする)を一気に「ビジネスも、英語もできる人材」へと引き上げる方向性。これは、英語を使ったグローバルビジネス研修や海外短期留学や研修への派遣等が該当するだろう。対策3で対象とする人材は、図表にもある通り英語力のレベルに大きな開きがある。そのため特別な研修を行う前に、自己啓発としての英語学習の機会提供や社内研修として継続的な英語教育など、英語力の「底上げ」を行っている企業も多い。
対策4-発想を変えて、「仕事も英語もできる人材」を日本だけでなく世界に求めていく、ということも考えられる。
このように見ていくと、多様な人材の英語力を測る一定の基準というのが、企業にとっては人材確保のために不可欠であると理解できる。「『人』と『仕事(職務)』に対して、同じグローバル共通のモノサシ・ツールを適用すれば、世界中の人、仕事に対して、最適な人材配置や、育成、採用を大きく進めることができる」からだ(※3)。
世界的な競争に参入していく企業にとって、一定の基準が国際的なものであることは大きな意味を持つ。日本や東アジアの国々では、これまで英語力の序列化に重点を置いたテストが使用されてきた。人材を国内からのみ採用していた時代には、こういったテストスコアに一定の意味があったのは事実だ。しかしながら、そのスコアは実際に英語で何ができるかを示す基準ではなく、多様な人材の能力を正しく判断するためには不十分だといえる。
そこで、英語で「何ができるか」を示す、グローバル基準、と言える指標を紹介したい。
欧州のCEFRを導入し、「何ができるか」で英語評価の世界共通化を
欧州で広く普及しているCEFR(セファール)と呼ばれる新たな言語指標がそれだ。「Common European Framework for Reference of Languages(ヨーロッパ言語共通参照枠)」の略で、さまざまなレベルで統合のすすむ欧州で2001年公表以来、急速に普及した。話す、書く、聞く、読むという4技能それぞれにおいてその言語を使って「具体的に何ができるか」をレベル表示している。各等級は「can-do descriptor(=何ができるかを記述したもの)」で分けられており、初級からA1、A2、B1、B2と上がっていき最上級はC2レベル。すでに日本にも普及は始まっており、2012年からNHKの英語教育番組はすべてこれに準拠している。(CEFRのcan-do descriptorについてはこちらを参照)
この新たなモノサシを活用することで、組織図の中で「だれに」「どんな言語スキルが」「どんなレベルまで」必要かを決めることが可能となる。実際に何をして欲しいのかを具体的にCEFRを使って提示し、点数だけでない、コミュニケーションとしての英語力の必要性を認識してもらえれば、研修の効果も得られやすい。
CEFRを指標とした、各企業の戦略に応じた英語スキルとレベルの計画、それにのっとった採用や配置、教育。例えば、次の流れで実施してはどうだろう。
Step1)現状把握:まず問題把握、ニーズ分析を行う。必要なら各スキルの英語力評価実施。
Step2)各ポジションに求めるスキル・レベルを策定:事業形態や戦略によって英語の必要度や必要部署は異なるため、どんなスキルが、どこまで必要か、あるいはのぞましいか、を明確化。
Step3)訓練または配置・採用を上記にしたがって計画、実施:すでに必要なスキルとのぞまれるレベルが明確なので効率的かつロジカルに実行可能。
Step4)効果測定・評価・メインテナンス:施策の効果を測定しながら、常に全体のスキル・レベルの分布状況を把握し、次のプランニングの根拠とする。
このようにグローバル化にふさわしい英語評価指標とそれに準拠した英語戦略を持つことで、社員の学習意欲が向上するだけでなく、自社の実情と進みたい方向性に応じた、実務的かつグローバル化推進に直結する人事英語施策が展開できるのではないだろうか。
※1:経済産業省『第47回外資系企業動向調査』2013年調査
※2:日本貿易振興機構JETRO『日本における投資阻害要因に関する外資系企業の声と改善要望』2013年4月
※3:滝波純一「人事・組織のグローバル化対応『職能型』から『職務型』への道」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』www.dhbr.net/articles/-/1414 2012年
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