若手を育てられない管理職

2012.10.12

新人社員研修を終えて、OJTが始まると、現場の管理職から耳にタコができるほど聞かされるのは「新人にさぁ~ 何を教えたの?今の若い人はさぁ~」から始まるクレームです。

一方、OJTの現場を垣間見ると、実務と育成を両立できている先輩社員や管理職の少ないことに驚きます。新人たちの言動に戸惑い、反感を買われることを恐れて直接厳しいことが言えない先輩社員。厳しい言葉はぶつけるけれど、行動変容を促せない管理職。
彼らは一様に、先輩や上司から厳しくも温かい指導をされてこなかった人々のような気がします。

そして、今も昔も変わらないのは、部下に慕われる上司は、部下のパフォーマンスが高まらない理由は自分側にあると考え、逃げない人なのだと思います。そのスタンスが相手に伝わらないと行動変容を促す存在になれない。叱っても響かないということです。

難しいのは、日々の業務指導(レビュー)の中で、その想いを同時に伝えるということです。どんな業務指導(レビュー)をすれば、育成と両立できるのでしょうか?
新人を育成する際のレビュー技法について、少しご紹介してみたいと思います。

【相手を知る(観察する)】
■先ずは相手の性格や行動特性、パフォーマンスを観ることに日常から集中します。本人の特質やスキル課題を見極め、業務指導の時間が成長機会にレバレッジするように図りたいものです。若手を指導する際に抑えておきたいのは、彼らが仕事をする理由や目的です。個々のモチベーションの源泉となるもの、獲得欲求がどこに強く作用しているのかを理解することで、業務支持や動機付けの仕方が変わります。また関係性づくりのために、業務指導にかける時間のうち、3分でもよいので、相手を知るために、あえて仕事とは直接関係のない話題(最近のニュースに対しての関心度、趣味や没頭していることなど)を意図的に盛り込むようにしています。

【主体を明らかにする】
■業務指導(レビュー)の時の、部下の主体を引き出します。ともすると、指示されたとおりに作業する作業者に成り下がる(そもそも気づいてない)場合も多いので要注意です。目的に対する本人の役割と責任を明確にし、自らが成果品質を高めるために先輩や上司の知見を得る時間であることを自覚させていきます。そのために本人が考えたことを必ず正しく最後まで聞くようにします。また自ら十分に考えずに、上司に答えを聞きにくるケースもあるため、その状況がみられた場合は、内容についてのレビューは即刻中断し、準備段階の考え方やプロセスを説明させ、マインド・スタンスを含め必要な指導を行います。

【期待値を共有する】
■レビューの冒頭は、レビュー終了時点で、具体的にどのような状態であればよいのか(次のステップに臨むことができるのか)を定義するよう促します。上述と重なりますが、レビューの目的と期待を明確にすることを大切にします。期待については、上司に対して、意思決定など判断を仰いでいるのか、本人の知識や思考の枠の外から知恵や意見が欲しいのか?などを具現化させます。「自分のやっていることが正しいか、正しくないか?を確認したい」というような要望には、あえて応えず、まずはポジションをとらせ、その理由を明確に伝えることができるまでは、その先の業務指導をしないようにします。

【業務を分解する】
■業務指示において、相手のケイパビリティや育成のストレッチをどの程度かけるかに応じて、与える業務の大きさを調整しますが、そのためには先ずは上司自身が、業務を分解し、理解しておく必要があります。業務は大きく成果物単位か、プロセス単位に分かれます。成果物の場合は成果物の構成要素にさらに分解し、構成要素を満たすためのステップと、品質を担保するためにミニマム何回のレビュー機会が必要かを予測します。プロセスはインプットとアウトプットを明確に理解しておきます。

【知識とスキルにわける】
■業務を分解したら、さらに業務を遂行するために知っておかなければならない知識と、行動するために必要なスキルに分けます。新人社員の仕事のひとつに議事録作成がありますが、議事録ほど新人社員が取り組む仕事の中で難易度が高いものはありません。会議体が単なる情報共有や報告会であれば、あらかじめ議事録を作成し、そのうえで会議に臨ませることもできますが、ディスカッションし合意形成に導く会議などでは、必要知識として、議事録の体裁、テンプレート、対象となる議事の背景、周辺の業務知識、用語の理解、会議体参加者一人一人の特性や力関係などの縮図などがあげられるでしょう。スキルは、抜けもれなく聞き取る力、そこから論理構造化し、キーファインディングスを導き出す論理思考、構造化力、メッセージの導出、ビジネス日本語力などが必要です。

【何を知っていて何ができるかを理解する】
■最初は本人の知識やスキルレベルが把握できないため、ある程度の塊で業務支持をし、アウトプットを待ちます。主要な成果物と成果物の品質基準、成果物の構成要素や成果物策定のステップなどについて部下に問いかけ、知識範囲や理解度を確認します。

【乱れうちしない(教えること・指導することは1度に3つ~7つ)】
■理解力のレベルにも応じますが、人間が一度に行動レベルに変換できることはあまり多くありません。頭ではわかっても行動に落とすには時間がかかるのです。行動をおこすことにフォーカスするために、一度に3つから、最大7つを目安に指示を与えるとよいでしょう。伝える側がどれだけ伝えるべき内容を絞り込めるかが、部下の成長につながります。

【期限を決める】
■いつまでに何をするのか、品質基準は何かを本人に約束させます。本人の見積もりが甘そうであれば、その時間内にどのような手順で実行しようと考えているのか、その考えを聞きます。その上で実現可能性について、本人に見えていないリスクがあれば指摘し、機動修正します。また、“やらないこと”を決めることも上司に求められるスキルです。

【相手の理解を確認する】
■安易に「わかりました」を信用せずに、理解の範囲と深さを確認します。理解したことと今後のアクションについて自らの言葉で語らせる時間を最後に必ずとるようにしています。わかりましたと言いつつ、よくわかっていなかったり、面と向かって「わかりません」とは言いづらいものです。

■翻訳する(視点をかえる、視座をあげる)
トップマネジメントやお客様が発信する、抽象度の高いビジョン、目的やメッセージを、若手が実行できる行動に変換したり、彼らが理解できる具体的な言葉に表現することが必要です。また業務支持をする場合は、その業務の目的、役割、意義、他者とのつながりについて部下が理解できる言葉で説明します。

などなど、業務指導(レビュー)のやり方をご紹介しましたが、そもそもの前提として「何を言うのか」ではなく、「誰が言うのか」ということを忘れてはいけません。自分のことを理解し、自分の能力を引き出し、高めてくれる相手だと思っていれば、叱咤されたとしても鼓舞されるでしょう。一方、普段から不信感や嫌悪感を抱いている相手から、たとえ褒められたとしても「あなたには言われたくない・・」と感じ、さらに関係性はさらに悪化するかもしれません。

上司自身の心の在り方、仕事に対する考え方、なにより行動そのものを、部下はとてもよく見ています。自分が軸ぶれすることなく信念を言動に移すことができているのか、胸に手をあてて省み、自らが成長していくことが大事ですね。部下ができないのは、自分の伝え方や教え方が悪いのです。
 

西村 明子プロフィール
株式会社アプランドル 代表取締役 外資系メーカー・コンサルティング会社の社長秘書、大学生のキャリア開発支援を経て大手通信事業会社の人事部人財開発部門へ。プロフェッショナル人事制度・研修制度、プロジェクト制度の導入を中心に、企業組織変革プロジェクトに従事。これまで新人社員から管理職層まで2万人以上を対象に研修制度の企画・運営を行う。