前回は「人を雇用すること」、あるいは「企業に雇用されること」は、労働契約を締結する行為であるとお話しました。そして、個別労働紛争が起こる原因の一つとして、企業も労働者も契約(労働契約)を締結する行為を行っているということを意識していない現実があるとお伝えしたことを覚えていらっしゃいますでしょうか。そこで今回は、「契約とは何か」について、皆さんが日頃接する出来事に置き換えてわかりやすくご説明します。日々の生活の中でも契約行為を行っていることを認識していただくきっかけになり、労働契約についても意識を高めていただければと思います。
1. 日常生活にも潜む契約行為
私達は、無意識のうちに多くの契約を締結しながら日常生活を送っています。そのうち、皆さんが一番良く行う身近な行為を例にしてお話しましょう。
例えば、昼休みにコンビニで弁当を購入することも契約行為のひとつです。この場合の契約は「売買契約」を結んだことになります。売買契約については民法に規定があり、(a) 財産権の移転を約束すること、(b) 代金を支払うことを約束すること、によって成立すると定められています。
弁当を購入するまでの流れを一つ一つ見てみると、
(1) コンビニの棚に陳列されている弁当を見る
(2) 多くの種類の中から1つを選ぶ
(3) 客が弁当を店員に渡す
(4) 店員が金額をレジに打ち込む
(5) 店員が客に弁当を渡す
(6) 代金を支払う
という一連の行為から成り立っています。
この行為を民法の売買契約の成立に当てはめてみると、(3) の客が弁当を店員に渡す行為が、(b) 代金を支払うことを約束すること に該当し、(4) の店員が金額をレジに打ち込む行為が、(a) 財産権の移転を約束すること = 弁当の所有権の移転 の約束の承諾になります。
いずれも「黙示による意思表示」ですが、立派に売買契約が成立したことになります。店員が弁当を渡す行為は、財産権を移転する約束 =「債務」の履行であり、その代金を受け取る行為が「債権」にあたります。その一方、客が弁当を購入する行為は、代金支払いの約束 =「債務」の履行であり、弁当を受け取る行為が「債権」にあたります。
これで、この売買契約による商品の引渡しと代金の支払いが完了することで、債権債務は無くなったことになります。
この他にも日常生活には多くの契約行為が潜んでいます。例えば、隣の同僚から「ちょっとその鉛筆使っていい ? 」と尋ねられ、「使ってもいいよ、でも返してね。」と言うことも「使用貸借契約」の成立です。あるいは、「このカバンを預かってくれる ? 」と依頼され、「いいよ、保管しておくね。」と言えば「寄託契約」が成立したことになります。
2. 労働契約に置き換えてみると…
労働契約を先ほどお話ししたような弁当の購入行為に置き換えてみると、(1) の「コンビニの棚に陳列されている弁当を見る」行為は求職者が「求人広告を見て就職先を探す」行為になり、(2) の「多くの種類の中から1つを選ぶ」行為が「応募する会社の選択」に、(3) の「客が弁当を店員に渡す」行為が「入社の申込み」、(5) の「店員が客に弁当を渡す」行為が、「企業からの入社の承諾」に該当します。
ただし、ここで注目したいこととして、労働契約の場合においては「当事者の一方(労働者)が、相手側(企業)に労働に従事することを約束すること」、「相手側(企業)が、当事者の一方(労働者)に対して、報酬を支払うことを約束すること」によって成立するということです。
つまり、売買契約の場合は、「弁当の所有権」という財産権の引渡しが『債務』であったものが、労働契約の場合は、「労働に従事する」という『債務』になります。この『債務』は、相手側(企業)から見ると、労働に従事させることができる『債権』に変わります。
このように見方を変えることにより、「債務」が「債権」になります。そして、お互いに債権債務を有する契約を「双務契約」と言っています。この債権債務について企業の最低の責務を定めているのが「労働基準法」であり、契約ルールを定めているのが「労働契約法」になります。
さて、契約行為に関して具体的にイメージを持っていただけたでしょうか?こういったイメージを持つことが、労働紛争を未然に防ぐことにもつながるのです。
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