厚生年金改正の流れ ~パートやアルバイトの社会保険について~

2003.11.17 ,

衆議院総選挙期間中は、特に年金改革についての記事や特集が新聞をはじめとするメディアで取り上げられていたように、今回の総選挙では「年金」が争点のひとつになりました。(という割には具体的に議論されていない気もしますが……)今回のコラムでは「厚生年金70歳以上も保険料負担」と「厚生年金パート適用拡大」についてお話します。

今年春の改正により、ボーナスからも月々の保険料と同様の保険料率で厚生年金の保険料を徴収するといういわゆる年俸制の導入で、既存の被保険者からの保険料の拡大を行いました。それだけでは年金財政の均衡が保てなかったのでしょうか。この春の改正が垂直方向への保険財源の確保ということなら、今回は水平方向への保険財源の確保つまり被保険者の適用範囲の拡大を検討し始めているようです。では具体的にどういった改正が予定されているか検証してみましょう。

「厚生年金 70 歳以上も保険料負担」についてつまりは 70 歳以上への被保険者資格の拡大ということです。現在健康保険は会社に在職していれば年齢にかかわらず原則加入、厚生年金保険の被保険者は 70 歳までと定められております。それを 70 歳以上でも元気に働き保険料を支払う能力がある方については保険料を徴収するということのようです。また、年金給付に関しても 60 歳代と同様に在職厚生年金制度の適用をうけ収入に応じて受け取る年金も減額される仕組みになるようです。

「厚生年金パート適用拡大」について現在のパートやアルバイトなどの短時間就労者の加入基準についておさらいしてみましょう。現在は「1 日の所定労働時間及び 1 ヶ月の所定労働日数がその事業所で同じような業務をしている一般社員のおおむね 3/4 以上であれば被保険者に該当」という加入基準になっています。

具体的には所定労働時間と所定労働日数の両方が一般社員に比しておおむね 3/4 以上であれば加入、月の労働日数が正社員と同様に出勤していても週の労働時間がおおむね 3/4 を下回っていれば社会保険の加入の義務はありません。また意外に知られていませんが学生でも上記基準を上回っている場合は社会保険の適用となります。(ちなみに雇用保険において昼間学生は適用除外となります)

また「所定」労働時間及び「所定」労働日数が一般社員と比しておおむね 3/4 以上という基準ですので、普段は正社員に比べ日数も時間も 3/4 以下で働いている、つまりそういった雇用契約で働いているパートやアルバイトが、繁忙期などでたまたま正社員並みに働いた場合はどうなるか、こういった場合は社会保険の被保険者にはなりません。労働契約上の「所定」の労働時間及び日数が一般社員と比べ 3/4 を下回っておれば、それはたまたま残業つまり「所定外」の労働によって結果としてそうなっただけであるので、社会保険には加入しなくてもいい労働者として取り扱われます。

 ちなみにこのパートをはじめとする短時間労働者に対する基準、実は厚生年金保険法や健康保険法の条分に一切記載されておりません。このパートをはじめとする短時間労働者の加入基準は昭和 55 年 6 月 6 日に「厚生省(当時)保険局保険課長、社会保険庁医療保険部保険課長、同庁年金保険部厚生年金課長」より各社会保険事務所あての 1 通の内部書類が根拠になっております。実はこの文章ご覧になった方は社会保険事務所職員でもないかぎりいらっしゃらないと思います。なぜならこの文章は省令でも通達でもないので具体的な文面が表に出てこないのです。実際社会保険事務所にて根拠の文章を見せるようにお願いしても、内部書類なのでお見せできないとの返答でした。保険の加入基準という非常に大事な問題が今まで法律で明記されておらず、また省令や通達でもなく内部文書のみの根拠で運用されているとは……

来年予定されている改正案とは加入基準の「おおむね 3/4 以上」から「週 20 時間以上」まで引き下げパートの適用範囲を拡大しようということです。

現在パートで社会保険に適用されないような働き方をされている方が 500 万人弱いるそうです。この方々を今回の改正で網をかけて適用対象にしてしまおう、つまり保険料を払ってもらう人たちにしようというのが厚生労働省の狙いのようです。これにより、500 万人弱のパートのうち 450 万人があらたに適用対象になると厚生労働省は期待しているようですが……。

まだ、「改正案」の段階ですが、来年予定されている厚生年金保険法の改正により、どのくらいの影響があるのかを検証し、その影響を回避するための方法を検討する必要があるでしょう。週労働時間 20 時間未満のパートを多く採用しきめ細かく配置するなどの対策が必要になるかもしれません。(実は 1 日 8 時間働く正社員 1 人より 4 時間のパートを 2 人雇ったほうが残業代コストも考えて企業にとって有利なんですが)、働く側も雇用する側も社会保険の負担を嫌っている現状では社会保険に加入しない雇用形態で働く人が増え、厚生労働省の思惑通りに社会保険の被保険者の増加すなわち社会保険料の増加にはつながらないことも予想されます。

また今回の年金制度の改正は働く側も企業にとってもあまり喜ばしくない改正になりそうですが、さらに追い討ちが……。11 月 12 日付けの日経ウェブ版トップに「年金保険料、2022 年度まで毎年上げ」の記事が出ていました。現在 13.58%(労使総額)を毎年 0.3% 値上げし、2022 年には 20% にするということらしいです。企業経営においては非常に厳しい時代が到来しているのではないでしょうか。これが更なる正社員の減少と失業の増加につながらなければよいのですが。

 

宮嶋 邦彦プロフィール
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