労働基準法のつぼ – 時間外労働管理について

2003.10.21

今回は、ある人事労務関係の新聞記事を例に労働基準行政つまり労働基準監督署が何に着目して監督しているのかについて考察してみたいと思います。

まずは、新聞記事(京都新聞 2003 年 9 月 19 付)をご覧下さい。

『2001 年 4 月以降、時間外労働管理や未払い賃金の支払いで労基署から 3 回の是正勧告を受けていた。今回、ことし 1-6 月分について調べた結果、全社員約 1 万 7000 人の約 3 分の 1 が対象となる巨額な未払いが分かった。

2001 年 4 月分までもさかのぼって調べており、11 月末に未払い分を支払うとしている。発表によると、同監督署が今年 4-5 月、本社と営業所を立ち入り調査。一部社員の退社記録やパソコン操作の記録と、会社が保管している賃金記録の食い違いなどが発覚した。

未払い額の最高は本店の係長級の社員で、計 223 万円。』

1. 労働基準監督署の立ち入り調査とは ? 労働基準監督署の調査とは、一般に臨検とよばれることもある調査で皆さんの会社に出向き賃金台帳、出勤簿、就業規則など法律で整備することが義務付けられている書類を確認することより労働基準法などの法律が守られているかどうかを監督調査することをいいます。

こういった立ち入り調査は (1) 定期的に行われるもの、(2) 災害時(労災発生時)に行われるもの、(3) 労働者による申告により行われるものがあります。最近の雇用動向を反映して労働相談が増えていることもあり、(3) の労働者の申告による調査が増えているようですが、厚生労働省がサービス残業に対して厳しく指導していく方針を明確にしてから、特に事故や申告がなくても一般的にサービス残業が多そうな会社、業種/業界を中心に指導に入っているようです。

2. 労基署からの是正勧告について『時間外労働管理や未払い賃金の支払いで労基署から 3 回の是正勧告を受けていた』

是正勧告とは、立ち入り調査の後、労働基準監督官が法違反に該当すると考えた事項について是正を勧告するものです。その書面を是正勧告書といいます。是正勧告書とは、あくまで是正を勧告したものですから、その勧告内容が法的強制力を生ずるものではありません。したがって会社側が法違反ではないと判断した場合、その勧告に応じないことも選択できます。あくまで勧告を受けた会社が自主的に勧告に従った是正を期待するという性格のものです。

しかし注意しなければならないのは、是正勧告書を交付する労働基準監督官は司法警察官の職務を行う権限を有しているということです。つまり労働関係法においての捜査権及び逮捕権を持っているということです。また 3 回も是正勧告が出ているということは会社側の対応が不誠実であるという印象を労働基準監督官がもった可能性が高く、追加で調査されていくうちに未払い賃金の金額が膨らんでいったのではと推測されます。

調査によって明るみに出た事実が、悪質な労働基準法違反であると判断された場合、逮捕されることもあります。実際今年2月に東京都で特別養護老人ホームの経営者が残業手当を払っていなかったとして逮捕されました。

3. 調査期間の遡及について『2001 年 4 月分までもさかのぼって調べており、……』

なぜ 2001 年の 4 月分まで遡って調べるのでしょうか。どうして過去の未払い賃金すべてに対して労働基準監督署は調べなかったのでしょうか。それは時効との関係です。賃金の請求時効が労働基準法に 2 年と定められており、労働監督における未払い賃金の指導も時効が成立してしまった 2001 年 3 月以前のものに関しては支払いを強制させる法的な裏づけがない為、時効が成立していない 2001 年 4 月以降の分に関して調査をおこなったということです。

4. 労働時間/残業代の確認方法について『一部社員の退社記録やパソコン操作の記録と、会社が保管している賃金記録の食い違いなどが発覚した』

出勤簿などの出退勤記録をもとに計算した労働時間及び残業代と、会社が支払った給与の記録に差があれば残業代未払いとして指摘されるのは当然です。ところで、皆様の会社では労働時間の把握はどういった方法で行っていますか ? タイムカード、カードリーダーなどを用いた方法でしょうか。

最近はあえてタイムカードを廃止し、自己申告制により労働時間管理をおこなう会社が増えているようです。自己申告により労働時間を把握することは違法でありませんが、あまりにずさんなやり方や恣意的に労働時間を少なく記録し、残業時間を過小に記録している場合も多々見受けられるようですから注意が必要です。そこで厚生労働省としても運用基準を示し、適切に運用するように指導しております。

厚生労働省が示している自己申告制で労働時間管理を行う場合の基準は下記のとおりです。

「原則的な方法」

使用者が自ら現認することにより確認し記録すること。つまり使用者あるいは労働時間管理をする者が直接出退勤時間を確認すること。

「その運用において講ずべき措置」

ア)対象労働者に対する労働時間の実態を正しく記録し、適切な自己申告を行うように十分な説明すること

イ)自己申告の労働時間と実際の労働時間と合致しているか否かを必要に応じて実態調査を実施すること

ウ)労働時間の適正申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどをしないこと

(「労働時間の適切な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」より)

昨今のホワイトカラー業務処理手法のIT 化を反映して、電子メールの送受信記録をはじめパソコン操作の記録をもとに調査するケースもあるようです。

5. 管理監督者の範囲について『未払い額の最高は本店の係長級の社員で、計 223 万円』

立ち入り調査において指摘される事項として多くなっているのが管理監督者の範囲についてです。労働基準法上で管理監督者又は機密の事務を取り扱う者については「労働時間」「休憩」「休日」については適用の除外とするとなっております。これを根拠に名ばかりの管理監督者(管理職)をたくさん作ってこの対象者への残業代を払わないといった事例が多く見受けられるようです。

管理監督者とは資格及び職位の名称にとらわれず、職務内容・責任と権限・勤務態様により判断することになっております。また賃金などの待遇面、欠勤や遅刻における賃金の計算の方法なども判断の材料にされます。したがって会社側が管理職=管理監督者としている認識している「課長」「係長」などが、労働基準行政から判断すると労働基準法上の管理監督者としてみとめられず、その方々の労働時間把握の徹底及び残業代の支払いを指摘される事案が多くなっているようです。

皆様の会社における管理職は労働基準法の管理監督者に該当しますか ? もし該当しないのに管理職だからといって残業代を払っていないと大変なことに……。

以上、新聞記事をもとに労働基準行政がどういったところに着目し調査及び監督を行うかを解説いたしましたが、いかがでしたでしょうか。特に賃金(残業、深夜などの割増賃金など)未払い及びその未払いの根拠になる労働時間の把握については積極的に監督指導してきます。

 

宮嶋 邦彦プロフィール
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