社員にとっての 「働きやすい職場」 とは? - ワーク・ライフ・バランス

バイリンガル人材を必要とする外資系企業での人材獲得競争は、激化する一方です。 しかし、企業としては採用したらそれで終わりではなく、良い人材に長く仕事をしてもらうための 「働きやすい職場」 環境を人材に提供する努力が必要であると思います。

外資系の採用は、ほとんどが中途採用でそれなりにコストもかかっています。その為、採用した人材に短期間で辞められてしまっては、費用対効果も効率も悪いという結果を招くのです。そこで今回は、社員にとって 「働きやすい職場」 とは何かについて考えてみたいと思います。

「働きやすい職場」 と一口に言っても、その定義は恐らく人さまざまで、また 「個人がどのライフ・ステージにいるか」 によっても左右されると思います。以下に、社員の満足度を高め、この会社は 「働きやすい」 と思ってもらえるための要素をいくつか思いつくままに挙げてみます。

 1.給与が高い
 2.福利厚生が良い
 3.所属チームの人間関係が良く、居心地がいい
 4.仕事の中身がチャレンジングで充実している
 5.昇進の機会に恵まれている
 6.スキルをさらに高めることができる
 7.労働時間帯や就労形態の柔軟性がある

そのほかにもたくさん考えられますが、上記の1.「 給料が高い」 及び2.の 「福利厚生が良い」 は各業界それぞれに適正な給与水準というものがあり、1 社だけが抜きん出た給与やベネフィット (福利厚生) を提供することは非現実的と思われます。
また、3. ~ 6. までの要素はタイミングによっては一時的には簡単に得られるかもしれませんが、組織も個人も同じステージで止まっていることはなく、変化し続ける為に時には要素自体が足りなくなったり、無くなったりしてしまう可能性が十分にあるでしょう。

今回注目したい要素は、7.の 「 労働時間帯や就労形態の柔軟性」 です。どのライフ・ステージにいる社員にも、これこそがもっとも 「働きやすい職場」 だと実感できる要素なのではないかと私は考えます。

まず始めに、私の実体験をご紹介します。
入院生活を送っていた母が一時退院した際、病院の受け入れ体制が間に合わずに母は 2 週間ほどの自宅療養を強いられました。私と弟は二人でスケジュールを調整し、母の介護を経験することになったのです。私たちはお互いに、1 日もしくは半日の在宅勤務をすることで、この2 週間を乗り切りました。
幸運にも、二人とも外資系勤務でしたので、会社に存在する裁量労働制、フレックス勤務、在宅勤務制度のいずれかを利用することができました。また両者の会社も、制度が建前としてあるだけでなく実際に活用することができる環境でしたので、当時の私たちにとっては本当に助かりました。
何よりも、お互いの職場が提供する 「 労働時間帯や就労形態の柔軟性」 に対応した制度の存在に私たちは心から感謝したのです。

とりあえず在宅勤務期間は2週間程で済みましたが、もっと長期化したらどうなっていたことでしょう。遅刻・早退・欠勤を繰り返すうちに私たちは持っている休暇を全部使い果たし、どちらかが介護休暇を取る結果になっていたかもしれません。もしくは、辞職をも考えなければいけなくなったかもしれません。

この経験のように介護とは今後予想される最も身近な社会問題であって、男女に関係なく直面する可能性が高いでしょう。この社会問題に対し、企業は迅速に 「 労働時間帯や就労形態の柔軟性」 を活かした、社員ひとりひとりの都合に対応できる制度を検討する必要があるのではないでしょうか。

介護だけではありません。少子・高齢化が進む昨今、企業は出産を経験し、育児・子育てと向き合いながら仕事を続けていく、いわゆるワーキング・マザーにも注目しなければいけません。彼女たちワーキング・マザーの有効活用を考えつつ、組織全体の生産性をいかに保持していくかが、企業にとっての今後の課題と言えるでしょう。

また、「プライベートの時間は自分のためだけに使う」 事に徹する若手社員が最近増えています。彼らはオンとオフにメリハリを求め、プライベートの全てを犠牲にして仕事をすることを好ましく思いません。そんな彼らにとって、「引け目」 を感じることなく定時に退社し、アフターファイブを楽しめる職場と、はたまた、後ろめたい思いで定時退社しなければいけない職場とでは、「働きやすさ感」 はだいぶ異なることでしょう。

幸いなことに、前出の若手社員たちを含む私たちは、ハイテクの時代に仕事をしています。携帯電話を駆使することで緊急度の高い事項には対応できますし、日中の労働時間が、その企業の就労時間より短くなってしまう日があったとしても、早朝あるいは夜遅くに、Emailという手段で取り戻すことは十分可能だということは、私の実体験に基づく感想です。

日本には、まだまだ長時間労働を美徳とする文化があります。一口に外資系といえども、企業によってはその風潮があり、裁量労働制が形骸化しているところもあると聞きます。

少子・高齢化が進む中、各社員がそれぞれのライフ・ステージに合わせたワーク・ライフ・バランスを保てることは、企業にとってますます重要になるでしょう。
会社にとっての貴重な人材が、一時的に仕事を最優先できない状況に陥って、最悪にも職場を去らざるを得なくなるのはとても残念です。

社員にとっての 「働きやすい職場」 作りのために、労働時間数 / 時間帯の柔軟性、就労形態の選択肢を、人事としてもっと真剣に考えていかなければいけないと、実体験を踏まえ強く感じています。

 

鈴木 貴美子プロフィール
お茶の水女子大学卒業。GEジャパン、モルガン・スタンレー・ジャパン、ビッカーズ・アジア・パシフィック社、日本ゲートウェイなど、外資系の主に人事畑でキャリアを築き、DHLジャパン、日本シノプシス社の人事本部長を経て、家族の事情でワーク・ライフ・バランスを見直すため、2008年4月21日より、アボットジャパン株式会社 人財開発部 部長。