「労働安全衛生法について法律があることは知っているけど、具体的には何のことかさっぱりわからない……」という声を人事労務関係の仕事をされているかたからよく耳にします。実際、最近特に、労働基準監督署の調査における指摘事項でも労働安全衛生体制を定めた労働安全衛生法に基づく指導や勧告が非常に目につくようになりました。その法律の存在を知っていても中身が今ひとつよくわからないという方が多いのではないでしょうか。
労働安全衛生法とは、主に職場における災害防止を目的に安全衛生管理体制や労働者の健康管理について定めている法律です。労災事故が起きた際には、この労働安全衛生法に基づき適切に安全や衛生の管理がなされていたかを検証することになります。重大な労災事故が起きた場合、警察と一緒に労働基準監督署も現場検証を実施します。刑法に基づく検証は警察、労働安全衛生法(労働基準法も同時にですが)に基づく検証は労働基準監督署が行うことになります。したがって刑法においては事件性が無くても、労働安全衛生法においては問題があると判断される場合もあります。
さらに、この労働安全衛生法により、職場環境の安全や衛生の管理のため事業場ごとに安全衛生管理体制を整えるように定められており、一定の要件の事業場は衛生管理者や産業医などを選任することになっております。
具体的には東京労働局のホームページがわかりやすいのでご参照ください。 http://www.roudoukyoku.go.jp/seido/anzen/
ご覧いただくとわかるように事業場の常時使用する労働者数と業種に応じて整えるべき各責任者および管理者、すなわち衛生管理者や産業医の人員数が定められております。「事業場」および「労働者数」の定義を整理したうえで、法律に則った人員を配置しているかどうか再確認してみる必要があるでしょう。そのときに例えば、「事業場」の基準は法人が単位なのか ? 「常時使用する労働者数」の中にパートは含めるかどうか ? などが問題になってくると思います。
【事業場とは ? (事業場の定義)】これは労働基準法の事業場の考え方と同じで、法人単位ではなく独立した場所を単位として 1 事業場と考えます。事業場の業種および規模の判断もこの事業場単位で考えます。
例)法人全体で 400 名 本社 80 名(事務) 支社 7 箇所 各々 40 名(事務) 工場 1 箇所 40 名(製造業)
この場合、法人全体では 420 名の労働者数ですが物理的に独立した事業所ごとに業種と労働者数を判断していきます。
本社は 80 名 で事務の事業場各支社は 40 名 で事務の事業場工場は 40 名 で製造業の事業場
上記のような考えかたで、その業種および労働者数に応じた「衛生管理者」や「産業医」などを選任することになります。たとえば本社は事務の業種で労働者数が選任要件の 50 名を超えているので「衛生管理者」および「産業医」を選任する必要があります。しかしその他の事業場は選任要件の 50 名を超えていないので「衛生責任者」および「産業医」の選任の必要はなく「安全衛生推進者」もしくは「衛生推進者」を選任すればよいこととなっております。
【労働者数とは ? (労働者数の定義)】「常時使用する労働者数」の中に正社員を算入することは当然ですが、パートやアルバイトはこの「常時使用する労働者」に算入すべきかどうかの判断が問題になってきます。その判断は、週 1 日でも反復継続して出勤していれば「常時使用する労働者」として考え、季節的や繁忙期のみのパートアルバイトは「常時使用する労働者」とは考えず、事業場の規模を図る「常時使用する労働者」には算入しません。
比較的労災事故が少ないホワイトカラー企業にはあまり馴染みのないことかもしれませんが、法令順守という観点から今一度社内の労働安全衛生体制が整っているかを検証する必要があるでしょう。