パンデミックによりテレワークが普及したことから、アメリカでは、新たなテレワーク向けサービスが各種登場している。先に報告したように、企業はテレワーク社員が利用できる福利厚生を提供し始めており、それに即したサービス、さらにはテレワークによって疲弊した社員向けメンタルヘルスサービス、テレワーク中の子どもの世話や教育を提供するサービスなどがあるが、ここでは7種を紹介する。
パーソナライズド福利厚生プラットフォーム(Fringe)
Fringeでは、企業に対し社員向け福利厚生を各種、オンラインプラットフォームで提供している。配車アプリ(Uber、Lyft)、料理宅配、ハウスクリーニング、フィットネスプログラム、託児サービス、Spotifyなどの音楽購読サービス、Netflixやアマゾンプライムの購読など、計100社以上のベンダーから、各社員が、それぞれ好きなサービスを選べるという仕組みだ。
会員企業はポイントを社員に配布し、社員は、そのポイントを使って好きなサービスを選び、各ベンダーでアカウントを開設してサービスを利用する。企業が費やす福利厚生費は、一般的に社員1人月50~200米ドルだという。一方Fringeでは、会員企業から社員1人あたり月5ドルを徴収している。
Fringeでは、2年前に中小企業向けに年金サービスの提供を開始したところ、中小企業の間では日常で利用できる社員向けサービスの需要が高いことが判明した。そこで、企業向け福利厚生サービスを開始したところ、パンデミックでテレワークが普及し、需要が一挙に増加したという。それまで、利用企業は一握りのIT企業だったが、会員企業は3月から22倍に増加し、特に料理宅配サービスが500%増の人気だという。
なお、社員がどのサービスを選んだかは、企業には知らされない。また、社員が利用できるのは企業から配布されたポイントのみで、自費で課金することはできない。同社のサービスは、勤務功労者や成績優秀者向けお祝い、誕生日のお祝い、社員間の贈物などにも利用されている。雇用主にとっては、福利厚生管理を丸投げでき、かつ個々の社員のニーズに合った福利厚生を提供でき、社員の満足度を高められるメリットがある。
スナック宅配サービス(Caroo)
日本には企業向け「置き菓子」サービスを提供する会社があるが、同様のサービスを提供していたCaroo(元SnackNation)ではテレワーク普及後、在宅勤務をする社員に宅配サービスを開始した。とくにヘルシースナックに力を入れており、プロテインバーやチップ、ジャーキーなどを組み合わせた各種パッケージを提供している。パンデミック発生後、大企業から中小企業まで新たな企業から関心が寄せられ、テレワーク普及でオフィス配送向けが減った分、社員の自宅向けが増加したという。
宅配用スナックボックスは15品入りの24.95米ドル(送料無料)からで、各企業が設定した予算内で、社員は好きなパッケージを選ぶことができる。社員用宅配向けに、スナックだけでなく、チーム構築のためのグッズなど、下記のような新たなパッケージも開始している。どれもスナック8品とテーマ別グッズからなり、価格はすべて49.95ドル(送料無料)である。
・Night in Box(一日の勤務後の疲れを癒す): マグ、トランプ、グラデーションパズル、キャンドル
・Happy Hour Box(チーム構築のためのバーチャルハッピーアワー用): カクテルキット、ワインタンブラー、チーム構築ゲーム、グリーティングカード
・Mindfulness Box: ウォーターボトル(水筒)、手帳、ジェルペン、ストレスボール、チーム構築ゲーム
なおCarooでは、ベンダーが迅速に最適な商品提供をできるよう、パッケージのキュレーション(商品組み合わせ)に機械学習を利用している。
調理済み食事宅配サービス(Freshly)
Freshlyでは以前から調理済み宅配サービスを行っていたが、テレワーク普及後の4月からB2Bプラットフォームを立ち上げ、企業の福利厚生向けサービスを開始した。企業はプラットフォームを通じ、社員向けに食事代を100%補助、または社員割引を提供できる。調理食材を宅配するサービスは以前からあるが、同社では調理済みの料理を提供しており、冷凍ではなく冷蔵パックで配送し、電子レンジで温めるだけで食べられるという手軽さがウリである。さらに高タンパク質で低脂肪、砂糖控えめで、加工食材は極力使わず、グルテンフリー、保存料不使用で、ファーストフードに比べ健康的で栄養価の高い食事という点も人気を得ている。 (www.freshly.com)
パンデミックで外出禁止令が出てから、8月までに500万食を宅配し、販売予測の350万食を大きく上回った。料理の種類は30以上あるが、「Feed-Better Food」「Home Bistro」などのカテゴリー別に選ぶため、自分で30種類の中からカスタマイズすることはできない。
送料(5.99~11.99ドル)別で、週に4食(45.96ドル)、6食(56.94ドル)、10食(89.90ドル)、12食(101.888ドル)の宅配プランから選択可能である。週ごとに注文のため、不要な週は配送を飛ばすこともできる。冷蔵車で配送のため、地域ごとに配送日が決まっており、利用者は注文時に配送日を選択する。Freshlyでは食ロスを減らすために、データを利用して顧客需要に生産をマッチさせているという。
デジタルセラピー(Talkspace)
先に報告したように、テレワークが長引き、社員のメンタルヘルスへの関心が高まっている。そうした中、対面の必要のないデジタルセラピーが人気を得ているが、Talkspaceでは、有資格者のセラピストや精神科医、ナースプラクティショナー(NP)によるセラピーをウェブやモバイルプラットフォームで提供している。利用者はライブチャットでアセスメントテストを受けると、居住州のセラピストと24時間以内にマッチングが行われる。その後、そのセラピストとチャットルームを通じて、メッセージングやビデオセッションでセラピーを行う。料金は下記の通りである。
メッセージによるセラピーは無制限で、一日24時間いつでも利用でき、たとえば夜、眠れないときにセラピストにメッセージを送ることも可能である。対面でのセラピーのように、診療時まで忘れないよう相談内容をメモっておくといった必要がなく、悩みや症状が生じた際にメッセージを送れるというメリットがある。ただし、メッセージセラピーは、自殺願望のような深刻なものではなく、日々の悩みや落ち込みなどを相談するのに向いているという。
セラピーはアマゾンのアレクサとのリンクも可能で、セラピストのテキストメッセージを音声で聞いたり、アセスメントや課題を音声で行なうことができる。なお、精神科医やNPとのセッションは、初診が199ドル、その後、セッションごとに125ドルというれ料金体系だ。薬の処方も可能だが、抗うつ薬や抗不安薬、一部の睡眠薬などの規制薬は処方できない。
Talksplaceでは、もともと10年近く前に、個人向けにビデオを利用したグループセッションを提供することから始まったが、その後テキストベースのメッセージを利用したセラピーとして成長した。メンタルヘルスサービスに対する費用、スティグマ(偏見、烙印)、アクセスという3つのバリアをなくすことを目指し、オンラインでプライバシーを保ちながら、対面のセラピーよりも安価で提供できることをモットーとしている。
パンデミック発生後、保険会社との提携により、企業の社員向けサービスおよびEAP(従業員支援プログラム)を通じた提供が可能となった。ただし、今のところ保険が適用されるのはテキストベースのメッセージによるセラピーが中心である。(※1)同社では、パンデミック発生後の5月には、1月に比べて利用者数が50%増加したという。
バーチャルベビーシッター・保育(SitterStream)
3月にアメリカの多くの州で外出禁止令が発令された際、子ども4人を抱えて巣ごもりを強いられた母親が、「45分エクササイズをする間、子どもを見てくれる人がほしい」と考え出したのが、バーチャルベビーシッター、SitterStreamだ。バーチャルベビーシッターは、親が外出できるように雇うものではなく、親も在宅で仕事をしたり、家事をしたりする間に子どもの面倒を見てもらうものだ。セッションの間、親は子どもの近くにいて、スマホで連絡可能でなければならない。
SitterStreamでは、子どもの年齢に合わせた工芸、音楽、教育ゲームなどのアクティビティを行うので、「親が面倒を見られない間、子どもにテレビを見させたくない」という理由で利用する人もいる。外出禁止令が出た今も、在宅勤務を続ける人や、パンデミック中、他人を家に入れたくないという理由で、利用者は増え続けているという。
同社は、今ではバーチャル家庭教師も提供しており、最高4人までのマイクロスクール(school/learning/teaching pod)も開始している。ベビーシッター、家庭教師ともに、SitterStreamで身元を確認し、常時研修を行っている。予約、支払ともにオンラインで行われ、予約の際、子どもに関する質問に答えると、それに基づいてベビーシッターや家庭教師とマッチングが行われる。予約後、担当のベビーシッターや家庭教師から利用者にメッセージが送られ、事前にセッションの内容が説明される。セッションはFacetimeやZoomをして行われ、セッションの初めと終わりには、親も画面に登場しなければならない。
また、セッションは英語のほか、スペイン語、フランス語、ロシア語、ヘブライ語、日本語、中国語、手話などで行うことも可能だという。(利用者は日本にもいる。) 家庭教師は、現役教師や元教師、有名ビジネススクール卒の北京語話者、修士課程修了者、大学生などが名を連ねる(有名大学卒者、現役大学生が多い)なお、ベビーシッター、家庭教師ともに、米国籍者に限られる。会費は月19.99ドルで、セッション料は下記の通りだが、兄弟姉妹は追加料なしでセッションに参加できる。
さらに、10月より元保育園園長によるバーチャル保育も開始予定で、対象は2~5歳、1クラス5人までで、料金は月270ドルである。企業向けサービスも展開しており、会員企業では、こうしたサービスを福利厚生として社員に提供している。企業向け料金は、社員数によって下記の通りになっている。
企業向けバーチャル保育・児童教育サービス(Bundle)
ハーバードビジネススクールを卒業後、企業で勤めている間に、出産して育児との両立ができずに辞めていく女性を多数見た女性が、保育(および介護)に教育を加えたEduCare(education + care)を提供するために始めたのが、Bundleだ。アメリカでは、こうしたバーチャルサービスが続々登場しているが、Bundleでは企業と提携し、企業の福利厚生としてのみ提供している点が他のサービスとは異なる。 また同社では、バーチャルだけでなく、保育者や介護者の派遣も行っている。
保育だけでなく教育に力を入れるBundleでは、アメリカの教育スタンダードにそって専門家やデジタル教材会社が開発した教材を利用している。3~10歳または7~11歳向け科学や技術、美術などを取り入れたインタラクティブなアクティビティからなるもの、算数や語学などを組織だって学べるもの、学校の宿題を含め学校教育を補完するグループセッション(school pod)のほか、65歳以上向けの認知機能維持のためプログラムも用意されている。利用者は、算数、幾何学、語彙、読解、物理、生活科学など細分化された分野のプログラムを選択できる。
マイクロスクールマッチング・支援サービス(Weekdays)
感染がなかなか収束しないアメリカでは、7~8月に新学期を迎え、子どもの登校を躊躇する保護者が少なくない。また、実際にコロナが原因で亡くなる教師も出ており、教師側も対面での授業を恐れ、退職者も増えている。バーチャル授業が行われている州や校区もあるが、子どもが在宅では仕事との両立が難しい。そうした中、数人の保護者が集まって、(参加者の自宅など)近所に場所を確保し、教師や家庭教師を雇って子どもの教育を託すマイクロスクールが人気を得ていることは、7月に報告した。マイクロスクールに参加したい保護者は、フェイスブックなどを通じて仲間を探すことから始まったが、そうした家族同士をマッチングするサービスが各種登場している。
そうしたサービスのひとつ、Weekdaysは、ベンチャーキャピタル勤務の創業者自身が2人の子どもを抱え、託児所探しに苦労したことから生まれた。(※2)昨年から託児サービスの立ち上げを準備していたところ、パンデミックが発生し、急遽、教師と家族をマッチングして、マイクロスクールを支援するサービスを提供することになった。当初、保育のみであったが、今では対象児童は小学5年生まで拡大している。同社のマイクロスクールは、2~8人の児童からなる。参加者は、Weekdaysが前もって選抜した教師候補をビデオ面接し、採用を決める。同社のプラットフォームで、入会から支払、メッセージング、保護者と教師間の契約締結まで、全過程が自動化されている。
授業料は各教師が設定するが、生徒1人当たり月600ドルから1200ドルが相場だという。申込時に、他のマイクロスクールとの料金比較も可能になっている。Weekdaysでは、授業料に対する手数料として10%を徴収している。同社では保育士や教師の州免許取得も支援し、研修も行っており、マイクロスクール運営者向け損害保険も提供している。(運営者は、あくまでも教師で、Weekdaysはプラットフォームを提供という立場である。)保育士や教師にとっては、通常の給与の2~3倍稼げるとあって魅力的であり、応募者は多いそうだが、選考は厳しく、採用するのは応募者の10~15%のみであるという。
なお同社の教育は、学校での教育にとって代わるものではなく、補うものという位置づけで、教師は家庭教師のような立場だという。企業や自治体、非営利団体などとも提携し、企業の社員向けサービスも行なっている。
当初、創業者在住のシアトルから開始したが、今ではデンバーやロサンジェルス、サンフランシスコでも展開している。居住地域でマイクロスクールが見つからなければ、希望者は立ち上げメンバーとして登録しておけば、Weedkaysが、その地域で他の希望者を募り、教師も選考してくれる。その地域で初のマイクロスクール立ち上げに寄与すれば、特典がもらえることになっている。
※1.アメリカの健康保険は民間保険会社が提供するもので、メンタルヘルスか否かにかかわらず、どの保険のどのプランが利用できるかは、個々の医者によって異なる。対面セラピーをカバーする保険は少なく、カバーされるプランは保険料が高い。
※2.アメリカでは半数以上の家庭が信頼できる保育へのアクセスがなく、こうした状況は「保育砂漠(child care dessert)」と呼ばれている。
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