日本でも、2年半ぶりにインバウンドが再開され、同時に全国旅行支援も始まり、観光業界には活気が戻ってきている。しかし、業界ではコロナ前から問題だった人手不足が再燃しており、手放しに喜べる状態ではなさそうだ。
今年7月の調査によると、企業の人手不足の割合は、全51業種中、旅館・ホテルがワースト1位であった。(※1) 正社員を不足とする旅館・ホテルの割合は、コロナ禍前の2019年6月が73%で過去最高を記録していたが、コロナ禍で割合は大きく低下した後、今年7月はピーク時に迫る7割弱に上昇している。一方、非正社員が不足している割合は、業種別では飲食店が73%で最下位、旅館・ホテルは55%でワースト4位だった。
沖縄では、インバウンド再開以前の7月には国内からの観光客数がコロナ禍前の2019年の9割以上に回復しており、9月には那覇空港の土産品店の売上は2019年に近づいたという。需要は回復しつつあるものの、供給が追い付かなければ売上につながらないため、地元では頭を悩ませている。
世界的に人手不足
日本よりも一足先に観光客の受け入れを再開した欧米では、今夏、予想以上に海外旅行の需要がリバウンドし、各地の空港はカオス状態に陥った(英語圏では大きなニュースに)。それというのも、コロナ禍で空港や航空会社の人員が削減された中、旅行需要が予想以上に急速に戻ったからだ。
コロナの需要減で整理解雇が行われ、かつアメリカやカナダでは連邦政府職員や航空会社社員にワクチン接種が義務付けられた(拒否すれば解雇または一時帰休)ことも要因となった。
たとえばフランスのシャルル・ド・ゴール空港では、2万人が解雇され、今夏、保安や保守などの人員が4,000人不足した。ドイツでも、空港スタッフの2割が不足し、航空業界ではでトルコから一時的に2,000人の雇用を許可するよう政府に求めたが、実際に雇われたのは150人だった。政府は就労ビザの発給を急いだが、夏の旅行ピークには間に合いそうになかったため、多くの空港が断念したからだという。
アムステルダムやダブリンの空港では、乗客数が空港の容量を超えてしまい、チェックインは4時間超にものぼり、アメリカの航空会社に「これ以上、航空券を販売しないように」と通達したくらいだった。今夏、ヨーロッパ最悪の空港となったアムステルダム(スキポール空港)では、空港職員がコロナ前から1万人減ったままで、9月に、再度、危機的状況に達し、CEOが辞任。
また、エアカナダでは欠航・遅延率が50%に達したことが影響し、トロント・ピアソン空港はカオスに陥った。ともに世界ワースト1の航空会社、ワースト1の空港としてメディアに取り上げられ、評判を大きく落とす結果となった。(※2)
※1.帝国データバンク。2022年4月15~30日に全国2万4854社を対象に調査。1万1267社が回答。
※2.筆者も実際にアメリカ―カナダ間を往復した際、アメリカの空港では、4時間~10時間の遅延、遅延続きのため乗務員が規定の勤務時間を超えてしまうという理由で欠航。空港ではゲートが準備できておらず、駐機所で20分待機、ゲートに職員がおらず待機。カナダ到着時も、パイロットが空港職員から「複数のトラブルが発生しており、ゲート準備のメドがたたない」とアナウンスされるなど、トラブルが続いていた。
アメリカ
アメリカでは、ホテル需要は2021年から回復し始め、米ホテル・ロッジング協会によると 年間平均客室稼働率は、今年中に63%に達し、コロナ前2019年の66%に迫る勢いである(2020年は25%)。(※3) 一方、ホテルの名目客室売上(付帯収入含まず)は、今年終わりまでに、2019年を11%上回ると予測されている。ただし、インフレ調整額では、2019年レベルまで回復するには2025年までかかると見られている。
なお、出張・ビジネス旅行は、未だコロナ前より2割減、総額の半分以下を占め、おもにプライベート・観光旅行が旅行需要を牽引している。
・業界を忌避する就業者
一方、供給サイドを見ると、ホスピタリティ業界の就業者数は、2022年6月の時点では、2020年2月に比べ、130万人近く、7.8%少ないままで、今年終わり時点でコロナ前の84%にしか達しないと予測されている。2019年に比べ、40万人近く少ない状態で、2019年レベルに戻るのは2024年以降と見られている。
元々、離職率の高い業界であったが、2021年11月の業界の離職率は6.4%で、全業界平均の倍であった。ホテル・ロッジング協会が宿泊施設に対して行ったアンケート調査によると、回答企業の97%が「求人が埋まらずに人手不足」、半数は「極度に不足」と答えている。とくに客室清掃(58%)の人手が足りていないという。
2021年の調査では、コロナ禍で勤務先が廃業した業界就業者の4割以上が半年以上、2割以上が3~6カ月失業し、また、3割は勤務先が一時休業し、勤務時間が大幅に削減されたという結果だった。(※4)つまり、8割が失業、または勤務時間が大幅に削減されたということになる。(業界の失業者の6割近くが失業手当の申請をしていなかったというが、その最大の理由が「受給資格を満たしていると思わなかった」からだった。なお、失業手当の申請をしなかった人たちは、公式の失業者数に含まれていない。)
そのため、就業者のほぼ3割が別の業界への転職活動を行ない、転職先で一番人気がオフィスワーク(45%)、次いで小売(29%)、工場・倉庫(27%)だった。コロナ禍で、リモートワークができるようになった顧客サポートや営業などにも流れている。
また、2021年前半時点で、元業界就業者の38%が「業界に戻る気はない」と答え、52%が「異なる勤務形態」(52%)、「よりよい賃金」(45%)、「より充実した福利厚生」(29%)、「より柔軟な勤務体形」(29%)を求めて他の業界への転職活動を行っていた。転職希望者の半数以上が「どれだけ賃上げやインセンティブがあっても、飲食業や宿泊業に戻る気はない」と答えている。(※5)
ホスピタリティ業界未経験者も含めた就活者でも、60%が「同業界で働く気はない」と答え、その理由が「異なる勤務形態」(58%)、「低賃金」(37%)、「不十分な福利厚生」(20%)、「柔軟でない勤務体形」(17%)と答え、69%が「どれだけ賃上げやインセンティブがあっても、ホスピリティ業で働く気はない」と答えている。飲食業界を含むホスピタリティ業界は、業界の中で賃金が一番安い。
こうしたことから、業界では、根本的に業界を改革しなければ、必要な人材は集まらないとの危機感を抱いている。
※3.American Hotel & Lodging Association, “2022 Midyear State of the Hotel Industry Report.” 2022年5月にホテル経営者500人以上を調査。
※4.Joblist “Q1 2021 US Job Market Report” 2021年1~3月に、Joblist利用者の求職者5400人以上、ホスピタリティ業就業者2300人、失業または一時帰休者845人に調査。
※5.Joblist ”Q2 2021 USJob Market Report” 2021年4~6月にJoblist利用者の求職者1万6000人以上に調査。
・飲食業界
全米レストラン協会のアンケート調査によると、昨年の時点で、飲食店の74%が「従業員の採用が最大の課題」だと答えている。高級レストランの62%、カジュアルなレストランの54%が、通常より20%少ない人数のスタッフで回しているということだった。(※6)
アメリカのファーストフード・チェーン店では、コロナ下で、1年ほど店内飲食ができずテイクアウトと配達のみで運営した。その間、スタッフが大幅に削減されたため、昨夏、店内飲食の再開と同時に、多くの人員が必要となった。そこで、紹介した応募者が採用された場合には既存社員に紹介料を払ったり、各店舗でジョブフェアを行い、同日の面接・採用で、数千人規模の採用するなど、各社、あらゆる手段で人員確保を試みた。
しかし、未だに人手不足は解消しておらず、「今、スタッフが極度に足らないので10分後に戻ってきてもらえますか」「今、シフト交替の時間なので、フライドチキンを用意できるのは30分後になります」ともはやファーストフードの業態をなしていない店もある。午後5時にはチキンが売り切れているという店もあり、利用者の不満は募っている。
大手チェーンの場合、上記のような大規模な採用キャンペーンを行なえるが、小規模店では状況はさらに深刻で、近辺の競合店からスタッフを引き抜くなど、あらゆる手段を講じているという。
※6.National Restaurant Association “2021 State of the Restaurant Industry Report.”飲食店6000店をアンケート調査。
ヨーロッパ
ヨーロッパのホスピタリティ業界も人手不足に悩んでいるが、西欧では低賃金職は、主に東欧からの出稼ぎ労働者が担っていた。コロナの影響で、彼らが国に帰らなければならず、未だ戻ってきていないことが、ホスピタリティ業界での人手不足の大きな要因となっている。スペインでは、失業率が13%近くであるにもかかわらず、観光業や飲食業では人手不足に陥っている。
とくにEU離脱をしたイギリスでは、2020年に出稼ぎ労働者が国に帰ってしまい、9万3000の職が空いたままになっている。イギリスでは、EUに比べ、観光業の職が低い地位に見なされているのも一因だという。(ヨーロッパ大陸には、有名なホスピタリティの大学が数校ある)
オーストラリア
オーストラリアも同様で、ホスピタリティ業界は、海外からの出稼ぎ労働者(一時就労ビザ保有者)に依存していたため、コロナの影響で多くの働き手を失った。アルバイト要員であった留学生やワーキングホリデー利用者の就業者がいなくなったのも響いている。
求人(空ポスト)数では、宿泊・飲食業(5万人以上)が社会福祉分野に次いで2番目に多く、求人の伸び率も、芸術・レクリエーションに次いで2番目に高い。ホスピタリティ業界の空職率は5.7%で、やはり2番目に高い。ただし、これは、観光の需要が伸びているというより、需給のアンバランスによるものだという。
料理人は、オーストラリア(やニュージーランド)で一番不足している職のひとつだが、料理人だけでなく、マネジャー、ウエイター、バーテンダー、バリスタなどにも、入社インセンティブとして支度金を提供するレストラングループもある。求人キャンペーンとして、各店舗で日にちを決めて、当日、採用されれば、無料ランチや無料研修を提供するという飲食店グループもある。
オーストラリアでは、バリスタの週末の時給は60豪ドルが相場だが、時給90豪ドルでも週末の夜の皿洗いが見つからないという飲食店もある。また、年収10万豪ドルのジュニアシェフも他店に15万豪ドルで引き抜かれることがあるという。そこで、飲食業界では、未経験者の採用、育成に力を入れている。
アジア
韓国でも、ロックダウンでホスピタリティ業界労働者の多くが解雇または一時帰休となり、需要の再開に追い付けていない。求人広告を出しても、応募数がゼロといったことは珍しくない。2021年上半期には、ホスピタリティ業界で不足していた就業者数は2万7,000人弱だったのが、今年上半期には3倍近くの7万4,000人以上に膨れ上がった。後述するが、先月、飲食店勤務の就業者にも、2023年下半期から、就労ビザの発給を開始することが決まった。
ベトナムでも、コロナの影響で大幅に人員を削減したため、多くのホテルでは必要な人員の50~70%で運営している。ホーチミンでは、ルームサービス係が足りないため、管理職が行っているという5つ星ホテルもある。また、国際的なホテルのマネージャークラスでは、引き抜き合戦が行なわれているという。そこで、アポなしで面接を行なったり、給料以外にサービス料(チップ)を支払う、また、海外展開しているホテルチェーンでは、各国のホテルでの無料宿泊を提供するなどの例もある。一方、観光が回復していないため、給料は、まだコロナ前のレベルに戻っておらず、業界を離れた人材、新たな人材を引きつけるのが難しい状況である。業界で必要な人材は、今後も大幅に増え続ける見込みで、将来は近隣諸国から人材を調達する必要があると見られている。つまり、人材輸出国から人材輸入国になる可能性がある。
取り組み例
1)待遇改善
どこの国でも、ホスピタリティ業界の離職率は高く、低賃金と長時間・不規則な勤務形態が、その大きな要因となっているため、雇用主は待遇の改善に努めている。
米ホテル・ロッジング協会のアンケート調査では、人材確保のために、宿泊施設の90%近くが「賃上げ」、71%が「より柔軟な勤務スケジュール」の提供、43%が「福利厚生の充実」を行っている。
・賃上げ
どこの国も、同業界は低賃金であるため、とくに多くの国ではインフレの中、賃上げが行なわれている。
アメリカでは、飲食業界ではコロナ以前から人手不足だったところに、コロナ後、働き手が戻って来ず、空前の人手不足に見舞われている。ファーストフード・チェーンでは、次々、賃上げを行い、平均的な時給は15ドルに上昇している。(※7) ただし、物価高騰が激しいので、これで生活が楽になるわけではない。
大手メキシコ料理チェーンでは初任給を時給11~18ドルに上げると同時に、福利厚生も充実させ、最速3年半でゼネラルマネジャーにまで昇進でき、年収10万ドルも可能であると打ち出した。同社では、2021年半年だけで、全米で8万2,000人を新たに採用している。(後述のTikTok Resumeを利用。)
また、入社インセンティブとして、ボーナス(支度金)を支払う店舗・企業も多い。
※7.ファーストフード店では、客からチップをもらえないので、賃金が比較的高い。チップがもらえる飲食店は、連邦政府の法定最低賃金は時給2.13ドルで、チップを含めて7.25ドルに達しない場合、雇用主が差額を埋めることになっている。法定最低賃金は、連邦政府の設定額を下回らない範囲で各州政府が決定する。
・福利厚生の充実
先述のアメリカでの求職者に対するアンケート調査では、求職者の74%が「コロナ後、雇用主は福利厚生を再検討する必要がある」と答えている。転職する上で重要なのは、57%が「賃金」、43%が「福利厚生」と答えており、福利厚生が賃金と同じくらい重要視されている。
求職者が最も重要視している福利厚生は、「健康保険」(68%)、「柔軟な勤務形態」(60%)、「有給の病休や育休」(51%)、「在宅勤務」(34%)だった。
アメリカでは、時給社員の場合、健康保険が提供されないケースも多く、コロナ禍で健康保険がさらに重要視されるようになっている。時給従業員の場合、病休や育休が無給のケースが多く、コロナや他の病気などで休んだ場合、ただちに生活困窮に陥る可能性が高くなる。
大手では、こうした層向けに、福利厚生の一環として給与前払いサービスを提供する企業もある。これは、(二週間に一度の)給料支払日前に稼いだ分の賃金を第三者のサービスを通じて引き出せるものだ。アメリカでは、以前からローン会社や銀行が給与前借サービスを提供していたが、フィンテックのEWA(Earned Wage Access)では、アプリを使って、従業員が稼いだ賃金を電子マネーで引き出せ、銀行口座を持っている必要はない。(アメリカでは、銀行口座の維持にはお金がかかるため、低所得者層では銀行口座を持っていない人が多い)給料日には、前払い分が差し引かれた残額が支払われる。手数料は、従業員が支払う場合が大半である。
2017年からEWAを提供しているウォールマートでは、従業員の間で、EWAは健康保険、確定拠出年金に次いで社員に人気の福利厚生であり、企業にとっては人材採用、離職防止のツールとして役立つものだ。
ホスピタリティ業界の低賃金労働者の多くが移民であり、クレジットカードや銀行口座を持っていない人も多い。ヒスパニック系では、給料前払いの使い道が食費と家賃で、生活費のやりくりに使われている。ヒスパニック系の回答者の3分の2が、「EWAを提供している企業は、就職先として魅力的である」と答えている。(※8)
※8. American Banker, ebn: “Earned Wage Access: Faster wage payments disrupt the traditional payday” 2021年3月に直近12カ月の間にEWAを利用した成人494人を対象にオンラインアンケート調査。
・柔軟な勤務形態
ホスピタリティ業界では、長時間労働や夜勤などもあるため、ワークライフバランスがとりにくい。これまで見てきたように、就業者の間で柔軟な勤務形態を求める声は高い。大手ホテルチェーンでは、社員に長期休暇を提供しているところもある。
オフィスワークのようにリモートワークをすることは不可能だが、柔軟な勤務時間、シフト対応は可能である。そのためには、シフト管理ソフトはもちろんのこと、従業員が自分でシフト変更をできるようなセルフスケジューリング・アプリなども必要であり、この分野では後述のデジタル化が不可欠である。
IHGオーストラリアでは、年内に新たに3,600人の社員を採用するために、2021年末に柔軟な勤務形態を開始した。これは、パートタイム社員を含め、社員が最低勤務時間にさえコミットすれば、残りの時間と勤務場所は自由に選べるというものだ。今年から、既存社員も希望のシフトを申請できるようになった。
一方、アメリカでは、飲食店やホスピタリティ業界向けオンデマンドの時給労働者のスタッフィングアプリも登場している。機械学習、アルゴリズムを使って、スキルや経験に基づいて、労働者と企業(店舗)をマッチングする。労働者は、自分の好きな時に好きなだけ働くことができるというものだ。
筆者がよく通っていたアメリカのチェーンレストランで長年働いていた優秀なウエイトレスが、雇用主の必死の引き留めにもかかわらず、今年、退職し、Uber(Uber Eatsではない)の運転手となった。コロナ禍での対面接客にバーンアウトしていたところに、自分で好きなときに好きなだけ働ける柔軟性を求めてのことだった。
・キャリア形成支援
ホスピタリティ業界では、季節労働者、アルバイト要員も多く、別のキャリアを目指している就業者もいるわけで、大学や専門学校の学費を支援したり、学資ローンを肩代わりすることで、多様な人材を引きつけようという企業もある。
また、時給社員のキャリアパスも可視化させ、キャリアアップのための研修や学習支援に力を入れる企業も増えている。これにも、オンラインの学習ツールが利用されている。
2)サービスの削減
コロナを理由に、ホテルでは次々にサービスを削減して、宿泊客には不評を買っているが、ヒルトングループでは、昨年から宿泊客が滞在中の客室クリーニングは、リクエストがあったのみに限って行うことになった。先述のように、ホテル業界では、中でも客室清掃要員が一番不足している。
同様に、ルームサービスも提供しないホテルも増えている。2016年時点で、アメリカでは、すでにルームサービスを提供するホテルは22%のみだったが(主に高級ホテル)、コロナで廃止するホテルが相次ぎ、今では大手ホテルチェーンも、ルームサービスの代わりにUber Eats系のフードデリバリー・サービスを提供している。
3)自動化・デジタル化
コロナ禍で、日本のホテルも非対面型が一挙に進み、スマートキーや(多言語)室内タブレットなどが導入されている。
日本では、中小企業向けにIT導入補助金が設けられているが、これは宿泊施設などのホスピタリティ業界でも利用できる。2022年からは、それまで対象外であったPCやタブレット、キオスクやPOS端末などのハードウエアも補助対象となった。
・デジタル化が進む飲食チェーン
アメリカでは、コロナの影響で、メニューをQRコードで提供する飲食店が個人店でも増えた(ただし、オンラインのメニューに飛ぶだけの形が多い)。日本では、QRコードによるメニューを通じて注文までできる居酒屋が増えている。回転寿司店では、チェックイン(セルフ案内)から注文、会計まで全過程自動化されたスマート店も登場している。
今夏、アメリカで飲食店を対象に行われたアンケート調査では、回答者の75%が自動化ツールを少なくとも3分野で利用していると回答している。(※9)
回答者の96%が、バックヤードで自動化ツールを利用しており、一番使われているのが、従業員管理(68%)、接客(68%)、オンライン顧客対応(66%)、注文キャパ・アウトプット管理(57%)、在庫管理(51%)である。
フロント業務で使われているのは、QRコードメニュー、コンタクトレス支払、モバイル注文アプリ、デジタルロイヤルティ(ポイント等)プログラム、オンライン予約ソフトなどだ。
回答者の56%が「自動化してから売り上げが伸びた」、53%が「使っている自動化ツールは、人間と同じくらい、またはそれ以上の効果がある」と答えている。
アメリカのファーストフード・チェーンは軒並み、昨年、デジタル売上が大きく伸びた(コロナ禍で、2021年半ばまで店内飲食を停止し、テイクアウトと配達のみの販売を行っていた)。上述のメキシコ料理チェーンでは、2021年のデジタル売上が前年比25%増で、売上全体の46%を占めている。同社では、元々、ドライブスルーを設けていなかったのだが、コロナ禍でビジネスモデルをドライブスルーにシフトし、新規店舗の8割にドライブスルーを設けている。店員を通じて注文するよりも、セルフ注文の方が注文額が平均して12~20%多いという。
注文キオスク端末メーカー協会によると、キオスク(やタブレット)を使ったセルフ注文では、平均売上が最高3割伸びるということだ。
上述のように、ファーストフード店員の賃金が上昇しており(かつ、それでもなかなか人材が集まらない)、時給15ドルで月に6,000ドル人件費がかかるのなら、費用効果的にキオスクやモバイル注文システムを導入する方がいいということになる。(なお、米マクドナルドでは、コロナ前から店舗でキオスクを導入していたが、コロナで利用が停止されていた。)
※9. A Capterra “2022 Restaurant Automation Survey.”2022年7~8月に、キッチンカー(food truck)やファーストフード店98店を含む174店が回答。
・求人ツール
昨夏、世界的に一番人気のSNS、TikTokが、同社プラットフォームを採用ツールおよび就活ツールとして試験展開を行った際、アメリカの先述のメキシコ料理チェーンが大規模な求人キャンペーンを行って話題になった。これは、TikTok Resume(動画履歴書)という新たなサービス機能で、応募者がTikTokで自己紹介・アピールをする動画を作成して投稿すると、求人企業に送られるというものだ。
元々、オフィスワークではないサービス業やブルーカラー職には、紙の履歴書は向かないが(大半がPCやプリンターを所有していない)、SNS世代にアピールするにはSNSの活用は欠かせないだろう。
・ロボット
ホスピタリティ業界でのロボット活用では、日本の「変なホテル」が世界初として引用される。その他、東京の分身ロボットカフェDAWNや中国のロボットレストランが先進事例として紹介されている。(ロボット技術では、日本と中国が世界を牽引しているという認識。)
アメリカのホテルでも、一部ロボットが導入されており、AIを搭載して音声案内をするコンシェルジェロボットにはIBMのロボットが利用されている。タオルやアメニティ品などを客室に届けるロボットを利用しているホテルもある。
ソフトバンクの清掃ロボットは、日本では、すでに、いくつものホテルで導入され、また、同社の配膳ロボットは、飲食店でも活用されている。Pepper for Bizを接客に導入している回転寿司チェーンもある。ソフトバンクでは、先月、これらのロボットを中国企業と提携して、アメリカ市場で販売すると発表した。
日本では早くから寿司ロボットが導入されたが、アメリカでは、コロナ前に世界初のハンバーガー調理ロボットがお目見えした。今年に入ってからは、フライドポテト調理ロボットやピザ調理ロボットが登場している。
その他にも、アメリカでも警備員が不足しており、代わりに警備ロボットを導入するホテルも出てきている。アメリカでは、ホテルの駐車場での車上荒らしも多いことから、駐車場を毎日24時間、巡回する警備ロボットが登場している。(※10)
警備ロボットは、360度の視界とサーモグラフィで、発熱を察知し、発熱源に出向いてフロントデスクに通知し、フロントで現場の画像を見ることができる。ロボットを通じ、駐車場に居合わせた人と会話をすることもできる。昨年12月に導入したホテルでは、その後、被害が出ていないという。費用的にも、人件費よりも安くつくということだ。
※10.実際に筆者も、ホテルではないが、昨夏、ジムの駐車場で真昼間に車上荒らしにあったが(ジムのフロントから見える位置に駐車していたにもかかわらず)、コロナの影響か、それまで駐車場を巡回していた警備の車がなくなっており、その後も何台も被害に遭っている。
4)外国人労働者の採用
アメリカでは、元々、ホスピタリティ業界の就業者の多くが移民から成る(低賃金労働者の源となる不法移民も多い)。オーストラリアでも、移民のほか、国内で見つからない人材を海外から受け入れるための「一時スキル不足ビザ」で、ホテルマネジャーや料理人などを雇用できる。
コロナ前にインバウンドブームを迎えた日本も、2019年に特定技能制度が設けられ、宿泊業や外食業で外国人労働者を雇用できるようになった。また、留学生も欠かせない労働力となっている。
韓国では、先月、飲食店勤務の就業者にも、非専門就業ビザであるE9ビザの発行を許可し、来年下半期から施行される予定だ。
同時に、サービス業のビザ発給数も増加させるという。現在、E9ビザ保有者に割り当てられた5万9,000人分のうち、サービス業は100人のみであるという(4万4,500人が製造業、8,000人が農業、4,000人が漁業)。
現在は、訪問就業用のH2ビザで中国および元ソビエト連邦地域から朝鮮系のみ受け入れていたが、新たな施策によって、東南アジアやスリランカからも労働者の受け入れが可能となる。
どこの国も業界の人手不足が危機的状態で、今後、各国の人材確保合戦が熾烈化するのは間違いないだろう。
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