昨年11月に公開されたChatGPT(GPT 3.5)は、今年3月に、より高性能で汎用性に優れたGPT-4が公開され、進化を続けている。日本政府も、各省庁が業務効率化のために活用の検討を開始したが、アメリカでは企業での活用が急速に進んでいる。
今年2月にアメリカで行われたアンケート調査では、回答企業に勤める社員の半数近く(49%)が、すでにChatGPTを利用していると答えた。さらに、その90%が「今後、ChatGPTの利用を拡大する予定だ」という。
また、回答企業に勤める社員の3割が、今は利用していないが「今後、利用する予定」であり、そのうちの85%が「半年以内に利用を開始する」と答えている。(※1) つまり、年内には、大半の社員が利用することになる。
そのChatGPTの用途だが、すでに利用している社員の66%は「コーディング」、58%は「コピーライティング、コンテンツ作成」、57%は「顧客サポート」、52%は「議事録や文書の要約」に利用しているという。
(※1) ResumeBuilder.com、2023年2月15日に、米企業(従業員2人以上)において、ChatGPTをすでに利用している、または、今後、利用予定の1000人を対象にオンラインでアンケート調査。
・コスト削減
実に、ChatGPTを利用している社員の99%が、ChatGPTが「コスト削減につながった」と答えている。削減額は、48%が「5万ドル超」、11%は「10万ドル超」だという。
さらに、回答者の48%が、今年2月の時点ですでに、「ChatGPTで社員を置き換えた」と答えている。「2023年末までに、ChatGPTが社員の解雇につながるか」という問いに対しては、33%が「確実に」、26%「多分」と答えている。「5年以内につながるか」に対しては、63%が「確実に」、31%が「多分」と答えており、今後、人間がChatGPTによって置き換えられることは間違いないだろう。
一方、まだChatGPTを利用していない社員では、「ChatGPTの利用が社員の解雇につながるか」の問いに対し、「確実に」と答えたのは9%のみで、「多分」は19%だった。
なお、回答者の85%が44歳未満であり、中年未満の世代が新しい技術を駆使しているのがうかがえる。
人事採用業務での利用
ChatGPTは人材採用業務でも利用されおり、回答者の77%が「職務記述書(job description)の作成」、66%が「面接要件の下書き」、65%が「応募者への返信」に活用しているという。
また、ChatGPTを利用している社員の55%が「ChatGPTの仕事の質はすばらしい」、34%が「非常によい」と答えており、実に89%が満足している。
人事採用担当者を対象に行われた別のアンケート調査では、採用担当者の82%が採用過程でChatGPTを利用していることもわかった。(※2) そのうち、85%が「職務記述書の作成」、85%が「応募者とのやりとり」に利用しているという。なお、どちらも39%は「非常によく利用している」ということだ。
(※2) ResumeBuilder.com 「いくらかは」「非常に頻繁に」応募者の選定に関わるという担当者1000人を調査。
こうしたルーティンの作業は、すでにChatGPTで置き換えられているということで、ChatGPIを活用することで、担当者は、より付加価値の高い戦略的な作業に専念できるということだ。
また、採用担当者の61%が、昨年11月に ChatGPTが公開されてから「応募者の質が上がった」とも答えている。
一方、応募者がChatGPTを利用するのを好ましく思っていない採用担当者もおり、28%が「ChatGPTの利用は不正行為である」と答え、27%は「ChatGPTを利用した応募者は却下する」と答えている。その理由として、「まったく同じ文句のカバーレターが送られてくることが多すぎるから」「自分独自の考えを持つべきだから」「簡単な応募書類も自分で作成できないのであれば、仕事で使えないから」が挙げられた。
また、採用担当者の79%が応募書類でAIが使われているかどうかを検知する「AI検知ツールを利用している」とも言う。また、ChatGPTを利用される可能性があるので、「審査過程において、持ち帰り課題の廃止を検討している」という企業は93%にのぼっている。
なお、求職者に対する調査では、今年2月の時点で、「履歴書やカバーレターを書くのにChatGPTを利用した」という回答者は46%であった。
・人材採用での活用事例
人事採用面でのChatGPTの具体的な活用例を紹介したい。
リンクトインでは、企業向け求人広告作成にはGPT-3.5、ユーザー(求職者)向けプロフィールカスタマイゼーションにはGPT-4を利用しているが、今年に入り、AIアシスタントの試験展開を行っている。
求人広告の作成では、広告主が役職、企業名、勤務地、職種を入力すると、自動的にターゲットを絞った求人広告が作成される仕組みだ。今年中に、カナダ、イギリス、オーストラリア、インドなど英語圏で導入される予定である。
求職者向けには、既存のプロフィールを向上させるには、どうすればいいかというアドバイスをAIが行うサービスを提供している。これも、先月からプレミアムユーザー向けに試験展開中で、今年中に全プレミアユーザーが使えるようになる。
あるヘッドハンターは、クライアント企業向けに適した人材を探すために、業界や場所など希望条件に合った企業のリスト作成するが、これまでは、これを手作業で行っていた。今では、ChatGPTを使ってリストを作成し、リンクトインで、こうした企業をブール検索し、そこに勤務している適した人材を見つけているという。(アメリカの人事採用担当者にとってリンクトインは不可欠な存在。)
また、人材探しのために学校や組織のリストもChatGPTで作成している。これも、これまで手作業で作成し、週に15時間費やしていたが、今では5時間で行えるという。浮いた時間は、ネットワーキングやクライアント企業の発掘などに費やしている。(※3)
さらに、見つけた人材を面接する際の質問作成や職務記述書の作成にもChatGPTを利用している。
(※3) ResumeBuilder.com 2023年2月23日、求職中または最近求職していた1000人を調査。
求められるChatGPT人材
上述のアンケート調査でも、人材採用において、回答企業の92%が「AIやチャットボットの経験はプラス」、90%が「ChatGPTの経験があれば役立つ」と答えているが、現在、人材を募集している企業の91%が、ChatGPTを利用した経験のある人材を求めている。(※4)30%は、そうした人材がすぐにでも必要だということだ。
そのような人材を求める理由として、「よりクリエイティブで技術的なサポートによって会社の成長がスピード化する」「人材、その他のリソースを節約できる」「他の社員にChatGPTの使い方を教えられる」「会社の生産性、労働効率を向上できる」「会社の評判や市場シェアを向上できる」が挙げられた。
なお、ChatGPTの人材を求める企業の66%が、「それによって競争力を高めることができる」と答えており、今後、企業が生き残っていく上で、こうしたAI技術の活用、およびそうした人材の確保は不可欠となるだろう。
ChatGPTに精通した人材が求められる分野としては、ソフトエンジニア(58%)、顧客サービス(33%)、人事(32%)、マーケティング(31%)だった。
必要とするChatGPTのスキルは、初級(50%)、中級(39%)、管理職(43%)、上級管理職(43%)で、あらゆるレベルで、そうしたスキルが求められていることがわかる。
・プロンプトエンジニア
ChatGPTをはじめとする生成AIのスペシャリストは、「プロンプトエンジニア(prompt engineer)」と呼ばれ、その需要は日に日に高まっている。
「プロンプト(prompt)」とはAIに指示を与えるために入力する文字列のことで、プロンプトエンジニアとは、AIから最適な回答を得るために効果的なプロンプトを作成する人のことを言う。
なお、プロンプトエンジニアには、エンジニアとは言うものの、コンピューター科学や工学など技術的な知識は必要なく、文系出身者も従事している。
回答企業の29%が「現在、プロンプトエンジニアを求人中だ」という。そのうち21%が「10人超を採用したい」と答え、社員数が250人を超える企業では、27%が「10人以上を採用したい」と答えている。 (※5)
また、4分の1の企業が「給与は20万ドルを超えるだろう」と言い(ということは、大半の企業では、それ以下)、社員数1000人を超える企業では17%が「給与は30万ドルを超えるだろう」と答えている。実際に、20万ドルを超える求人があるが、現在、ChatGPTの実務経験がある人材が少ないのが大きな要因である。今後、供給が追い付けば、給与水準は下がるものと見られている。
すでに、プロンプトエンジニアを養成するためのオンラインコースも登場しているが、AIの進化速度が日進月歩なため、プロンプトエンジニアの需要は短期的なもので、今後、長く求められる職種ではないという見方もある。
なお、プロンプトエンジニアを募集している企業の75%が、「プロンプトエンジニアによって置き換えられる職種があるだろう」と答えている。
(※4)(※5) ResumeBuilder.com 2023年4月に、ChatGPTの経験のある人材を探しているアメリカ企業1000社を調査。
制約を設ける企業も
3月末に、イタリアがChatGPTの使用を禁止し、世界的に話題になったが、ChatGPTの社内での利用を禁止している企業もある。
今年に入り、JPモルガンやゴールドマンサックス、バンクオブアメリカなどアメリカの主要銀行が次々に社内でのChatGPTの利用を禁止した。これは、AIが云々というより、第三者のソフトの利用は許可しないという社内規則に則ったものである。(たとえば、バンクオフアメリカでは、WhatsAppなどの利用も禁止しており、新たなツールを利用する際には会社の許可を得ることを課している。)
また、アマゾンでは、社員に機密的な情報をChatGPTに入力しないように警告を発している。
実は、今年1月、アメリカで大企業の社員も含め1万人以上を対象に行った調査では、43%が仕事でChatGPTを含むAIツールを利用しているものの、68%が勤務先に無断で利用していることがわかっている。 (※6)
フリーのライターに、原稿の執筆にChatGPTの利用を禁じている出版社もあるように、盗用や知的財産権の侵害などの問題に発展することもあるため、多くの企業がChatGPTの使用に関し、何らかの制約を設ける必要性を感じている。今年3月の時点で、「ChatGPTの利用に関し、ガイドラインを設ける予定だ」という企業が半数近くを占めていた。(※7)
なお、大手メディアのニューズコーポレーションのように社員にChatGPTの利用を奨励する企業もある。
(※6) Fishbowl 2023年1月26~30日。アマゾンやグーグル、IBM、メタ、ツイッター、バンカメ、JPモーガン、マッキンゼー、ナイキなどに勤務する1万1000人以上を調査。
(※7) Gartner 2023年3月。人事責任者を調査。
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