みなさん、こんにちは。
ESコンサルタントの金野です。
先日、あるニュースで、こんなエピソードが紹介されていました。
車掌として車内アナウンスを担当している、ある若手社員の話です。
その社員はもともとその沿線の電車が大好きで、
電車に関わる仕事に就きたいと入社し、念願の車掌になったと言います。
本来であれば車内アナウンスと言えば、
始発駅から終着駅までの各駅の案内を順番に行なっていくのが普通ですが、
この車掌は、観光ツアーの添乗員さながら、
車窓から眺められる景色をこと細かく案内していきます。
最初は車内でアナウンスなど気にも留めずに過ごしていた乗客も、
次第に惹きつけられ、
「目の前に見える美術館の庭は通常は入場料を
払わないと入れない特別な場所ですが、この車内からは無料で眺められます!」
などとユーモアある説明に時たま笑いも起こり、
車内は賑やかな空間となります。
そして、電車が終点に到着すると、
乗客たちは車掌と一緒に記念撮影をし始め、
子ども達は大きく手を振りながら名残惜しそうに駅を後にしていくのです。
そこには、電鉄会社の一社員ながら、
乗客や地域の人たちによころばれる存在としてつながりを創り、
それを糧にイキイキと働く“個”の姿があります。
そして、そのような社員の存在を基点に、
たくさんの笑顔があふれる場を創りだした組織の姿があります。
この車掌さんの働き方に対して、
「マニュアル通りに正しくアナウンスしなさい」と指導するのと、
「もっと沿線の地域の魅力を見つけて紹介しなさい」と指導するのと、
どちらがまわりの共感を集めることができるでしょうか?
本人のモチベーションはどちらが持続するでしょうか?
それは、後者の方ですね。
電車が好きで、線路沿いの地域について知識が豊富、
という自分の“強み”をまわりにも表現し喜んでほしいというおもいに、
会社としての役割(車掌)が重なって、
「ユニークな車内アナウンス」という仕事が完成し、
それを基点にまわりの人たちの笑顔やよろこびが広がっていく。
それに対する共感の輪も広がっていく。
これがまさに、前回からお伝えしている「社内起業家」的な人材の
働き方が巻き起こす、組織の小さなイノベーションであると
言えるのではないかと思うのです。
「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」という
自分自身の“3つのコト”が何なのかを認識し、
その重なり合いを大きくしていく、というのが、
働く上でのモチベーションを持続させるために大切ですが、
そこに組織としての役割や地域社会からのニーズが重なり合うことで、
まわりからの共感を生み出すことができるのです。
つまり、先ほどの車掌さんに例えると、
・本人がやりたいこと=大好きな電車に携わりたい
・本人がやれること=豊富な知識や話術
これらに加えて、組織としての「お客様に正しい情報を伝える」
という役割や、沿線の地域からの「活性化させたい」というニーズが
加わることで、車掌さん本人や組織への共感が生まれ、
「この地域に来るときはこの電車に乗りたい」
「この電車に乗ってこの地域を楽しみたい」というおもいを高めてくれる、
というわけです。
このように、自己の「やりたいこと」「やれること」を自覚し、
組織としての「やるべき」役割が何なのかを理解するためには、
自社のキャリアアップコースをつくって、
将来に向けた「やるべきこと」を
イメージできるような形を示すことが重要です。
また、そもそも組織としてどのような方向に進んでゆくのか、
具体的なビジョンを示すことで、その方向性の中での自分の
存在価値を考えるきっかけをつくることもできるでしょう。
さらに、お客様や地域社会との接点である、
職場・現場で組織としての正しい判断ができるように、
クレドを意識することも大切です。
そして何より、これらのことを考え将来に向けた自己の
キャリアや組織のあり方をデザインする場として、ESの視点から、
上司と部下、あるいは地域社会との
「対話」の場をもうけることが重要であると言えるのではないでしょうか。