できるリーダーは専門家の話に耳を傾ける、ダメなリーダーは話を聞かない

私はこれまで管理職・経営幹部を目指す数千人の社員の方たちとコーチングや研修でお会いしてきました。その中でも、登用試験に合格しリーダーとして活躍する方の共通点として感じるのは、「できるリーダーは専門家の話に耳を傾ける」ということです。

例えばコーチングを行なう際は、お客様自身に「リーダーとして何が足りていないのか」を気づいていただくために、「理想とされるリーダー像」や「最近の企業が求める人材像」などを説明することがあります。その際、「うちの会社ではそういうことは求められないなあ」「私の場合は少し違うと思います」などと一蹴する方は、管理職として登用される可能性は低くなります。なぜならば、外部の専門家である私の話を聞いた時に、即座に自分の価値観と照らして「それは違う」と言ってしまうということは、日頃からそのような癖がついているということですから、部下からの相談や他部署からの提案等に対しても同様の対応をとる可能性があるからです。また、上司や周りからのアドバイス、お客様からの提案等に対しても同じように対応し、それによって自分を成長させるための新たなチャンスを逃してしまっているかもしれません。

肝心なのは、まずは話の内容を受け入れた上で、「自分は実際にどうなのか」「自分であればどうなのか」などと考え判断することなのに、話を聴いただけで必要ないと判断してしまっては、「他の考えを自分の成長に活かす」ということができないことになってしまいます。

弊社がお付き合いしているある飲食業の会社の社長は、さまざまな知識を知恵に昇華させ実践するプロです。定例の打ち合わせの時には、必ず社長の手元には小さなノートが開かれています。私たちが、法改正情報や人事にまつわる旬の話をお伝えしている時も、話が発展してWebマーケティングや最近の若者の動向などをお話している時も、必ずキーワードをノートに書き留め、それを自社の組織づくりやマーケティング等に結びつけて内容をまとめていきます。そして、単に知識としてしまっておくだけではなく、実際に良いと感じたものはすぐに実践をします。距離の離れた拠点との打ち合わせ用に新たなシステムを導入したり、採用も見据えたHPを制作したり、社長が書き留めたメモから生まれたココロミは数多くあります。

できるリーダーは、相手の話に耳を傾けることができます。そして、どんな情報が自分に必要でどのように判断すれば良いのかを瞬時に嗅ぎ分ける感性が優れていますから、外部の専門家の話を自分自身の成長の糧とすることができます。

私たちのような他業種からの話をわざわざ聞かずとも、自分たちの経験知を軸とした経営は実践できるでしょう。しかしこの社長のように、あえて「町医者に診てもらう」感覚で、外部の専門家の話を聴き、自社に取り入れられるアイディアは積極的に実践していると言います。

風邪を引いてちょっと体調が優れない時に、昔から自分の体をよく分かっている町医者に診てもらうと、自分に合った治療を施してくれることので安心するものです。また、定期的に町医者に検診してもらうことで、自分が正しい生活習慣を身につけているか、メタボになっていないか等のチェックをしてもらうことができます。同様に、自分が取り組んでいる事業の方向性が正しいのか、このまま進んで間違いないのか、といった不安を感じた時、専門家と話をすることで、方向を軌道修正したり、現在地点を確認することができます。また、定期的に専門家と会って話を聞くことによって、自分のスタンスや見ている方向を確認することができるというわけです。

大切なのは「概念化」すること。単に新たな知識や情報をインプットして満足するのではなく、それを自分の経験知と照らし合わせ、自社の企業文化やビジョンに則した「知恵」にまで昇華させる力があるかどうか、が重要なのです。
 

金野 美香:日本ES開発協会プロフィール
金野美香(きんの みか)日本ES開発協会 専務理事 | 福島大学行政社会学部卒業後、有限会社人事・労務にて、日本初のES(従業員満足)コンサルタントとして、企業をはじめ、大学、商工団体で講師を務めるなど幅広く活動する。“会社と社員の懸け橋”という信念のもと、独自に編み出したES向上組織開発プログラム「クレボリューション」や、組織活性度診断「人財士」を活用した社内プロジェクトの立ち上げに取り組む。[http://www.jinji-roumu.com/] ・Tel:03-5827-8217 ・Mail:info@jinji-roumu.com