皆さん、こんにちは、金野です。
今回は、「 ES 」について考える上で欠かせないツール「クレド」についてご紹介していきたいと思います。
皆さんの中には、「クレド」という言葉を聴いたことがあったり、既に会社でクレドを導入している方もいらっしゃるかもしれません。
また、自分自身の軸を明確にもとう、という意味で、「マイクレド」を推進するケースもあります。
私ども日本 ES 開発協会でも、5 年ほど前から企業のクレド作成にかかわる機会が増えてきましたが、私たち自身も、社会人として仕事をする上で必要な基本的な心構えを「 10 の心得」というクレドにまとめて、当協会主催の「Goodjob プロジェクト」 http://www.jinji-es.com/good-job_project.html などの活動の中で意識して行動しています。
クレドとは、「信条」「行動の価値基準」と言われており、会社によってその呼び方は「スピリット」「ウェイ」等まちまちですが、意味するところは同じです。
ここ最近よく聞かれるお話としては、
「クレドを作ったのだけど、何の効果もありません」
「ライバル会社がクレドを導入した。私のところでも導入したいのだが、相談に乗ってくれ」
等、クレドが日本で有名になった 5 年前に続く”第二のブーム”とも言える状況になってきています。
本当のクレドの使い方を理解していないまま、クレドを作ってしまっている会社も多いようですが、これでは無駄です。
それではクレドの効用とは何でしょうか ?
下記に次の 3 つを示してみました。
(1) クレドとは、「個人の価値観」と「会社の価値観」を結びつけるツール
(2) クレドとは、会社の素晴らしい DNA( 企業 DNA )を意識的に選択し残し、悪い DNA を駆逐するツール
(3) クレドとは、ビジョンを達成する上で、継続的、最短かつ効率的に達成するためのツール
以上 3 つを理解し、使い方さえしっかりしていれば素晴らしい効果があると言えます。
まずは簡単にこれらの効用についてお話したいと思います。
まず (1) ですが、会社には、クレドの上位指針としてビジョンや経営理念があります。
経営理念とは、会社そのものの存在意義であり、いわば、未来永劫達成することのない、会社そのもののあるべき姿だと考えてください。
そして、ビジョンとは、この経営理念に向かって追い続けていく姿を表します。
ある一定の時期における大きな目標であり、10 年後や 20 年後、30 年後の理念に向かっていく最中のあるべき状態を示しています。
これらは、どちらかというと会社からの制約条件も多く、どうしても経営者寄りになってしまいがちです。
そこで、このような会社の方向性や理念といった会社の大きな目標を個人の価値観と結びつける道具として、クレドが必要となってくるわけです。
ですから私が指導にあたる場合は、まずは必ず、社員一人ひとりの価値観を優先してクレド作りを行います。
具体的には、個々人の「会社での仕事を通した成功体験記」というものからクレドを作っていくのですが、この作文を書くという行為を通して、日頃の忙しい仕事の中では忘れがちな「達成感」や「承認された喜び」「誇り」などを思い出し、自社の仕事を通した自分自身の成長が組織の成長にも結び付いている、という実感を得られるのです。
そして、これらの作文をベースに自社のクレドを創り上げていくプロセスを通して、自己の価値観や会社の価値観を再認識し、その結びつきを強めていくことができるのです。
私は、他社のクレドの教え方とは区別して、社員の思いがこもったクレドということで「 ES クレド」と名づけています。
次は (2) の効用についてです。
あなたの会社には「あなたの会社らしさ」というものが存在します。
例えば私が所属している会社は、よく「体育会系ですね ! 」と言われます。
弊社の代表が大学時代に応援団に所属していたから、とか、私自身も高校時代はハンドボール部に明け暮れていた、等々、確かに体育会系に属していた人間は多いのですが、それ以上に大きいのは、弊社に掲げてある「修己治人」という座右の銘や、「 4 つのカギ」と言われる我々のクレドによる効果です。
会社には良い DNA と悪い DNA が混在していて、「我が社らしさ」をつくっています。
クレドを作ろうが作るまいが、「我が社らしさ」は、会社の中でその時々に応じて勝手に増殖していきます。
全くおかまいなくです。
これを、意図的に社内に良い DNA のみを残していくためのツールが「クレド」なのです。
ただし、単にクレドを掲げただけでは意味がなく、経済的でかつ再現性を有したさまざまなクレドに基づいた取り組みをセットに行なわなければならないのですが、そのあたりは、別の回で解説しましょう。
そして、(3) の効用です。
経営理念とビジョン、クレドの関係は、(1) の説明の通りですが、ビジョンとクレドの関係は、長い道中を旅する旅人と同じです。
ビジョンに描いたはるか遠くの目的地に着くまでは、いろいろな災難や苦難の道があるでしょう。
私たち「日本 ES 開発協会」では、「Good job プロジェクト」の一環として、昨年から「日光街道徒歩行軍」という企画を行なっています。
東京日本橋から日光東照宮まで、トータル 143 キロの道のりを、6 回の行程に分けて皆で歩き進めるものです。
前半の三回は約 20 キロずつ、合間で史跡の見学をしたり座禅をしたり、さまざまなワークショップを行なったりと、いくぶん心に余裕をもって歩き通せる距離ですが、後半三回は、40 キロ前後の道のりを 1 日で歩かねばならず、真っ暗闇の杉並木で思わず走り出したくなるような雰囲気の中でも全く足が前へ出てこなかったり、地元の人に応援の声をかけていただいて気持ちだけでも疲れが回復したりと、それぞれ大変な思いをしながら東照宮への距離を縮めていきました。
(★詳しくは、下記をご覧ください
http://www.jinji-es.com/toho/distance2.html )
しかし、
「どんな時でも弱音は吐かない」
「いつも明るくいこう」
「仲良く、喧嘩はしない」
「思いやりの気持ちを持って歩こう」
等、お互いに長い道のりを歩くにあたっての”心構え”があるだけで、目的地までの行程を無駄にすることなく、チャレンジ精神をもって歩き進めることが出来るのです。
つまり、これを組織に置き換えてみると、クレドとはビジョンを達成するためのプロセスを脇から支えるための”心のあり方”や”行動の価値基準”の役割を果たすのです。
ですから、クレドは単なる心構えではなく、さまざまな活動を通してビジョンと結びつき、ビジョンを達成するためのツールであると言えます。
さて、これらの素晴らしいクレドの効果ですが、冒頭でお話したように、「なかなか結果が出ない」と嘆いている会社も少なくありません。
このような会社のお話を伺ってみると、クレドの使い方に問題があるように思えてなりません。
この点について、元リッツ・カールトン大阪営業統括支配人 林田正光さんより、リッツ・カールトンでのクレドの使い方についてお話をしていただきました。
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リッツ・カールトンには「デイリーラインナップ」と呼ばれる朝礼があります。
各セクションごとに毎日、約 15 分ほど行われているミーティングです。
このミーティングの場では、20 ある行動基準のうち 1 つを取り上げ、自分自身
が体験し実践したことを発表します。
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いかがでしょうか ?
クレドとは、クレドに書いてある文章が出来た時に完成するのではないのです。
朝礼や会議、上司や部下の日常の会話など現場で語られて初めて、意味を成し、完成するものなのです。
横浜で 150 年もの歴史を持つ、CSR を通して地域貢献をしている大川印刷の大川社長の次の言葉が印象的です。
「会社は、ストーリーの数だけ強くなる。」
ES クレドの導入に際し、大川社長が社員に向かって語った言葉です。
つまり、現場の仕事を通して、クレドに基づいた行動から生まれたストーリーがどれだけ語られているか ? ということです。
このストーリーが多ければ多いほど、社員個々の価値観と会社の価値観が結び付いた強固な組織が創られると言えます。
クレドは、社員の意識を変え、行動を変えます。
そして、現場の仕事を通して、組織の隅々にクレドの内容が落とし込まれて完成するのです。