北半球に冬が到来し、世界各地で新型コロナウイルスの感染が拡大する中、企業のテレワークは、まだまだ続きそうである。欧米では再度、ロックダウンが行われる地域が多く、ロックダウンや寒い冬を嫌う人たちには、暖かい気候や制限のない生活を求めて、他国に脱出する人たちもいる。日本でもテレワークの普及により、地方移住が期待され、行政の後押しも始まっている。今回は、そうした世界的な流れについてまとめた。
地方移住
最近、アメリカでニュースをにぎわせているものに、シリコンバレーのIT企業が次々にテキサスに本社を移転しているという話がある。電気自動車のテスラが、テキサス州都オースティンで新たに工場を建設し、オラクルも本社をオースティンに移転するという。オースティンは、シリコンヒルズと言われ、元々、デルをはじめとするIT企業が集まっていたところに、今ではアップルやフェイスブックなどシリコンバレーの有名企業の面々が拠点を構えている。HP(ヒューレットパッカード)も、本社をヒューストンに移転する予定だ。
カリフォルニアは規制が多く、従業員保護も厚いため、もう何年も前から、規制が少なく、事業のやりやすい州への企業移転が起こっている。とくにテキサスは20年ほど前から、企業誘致に力を入れており、移転企業の最大の受け皿となっている。(※1)
テスラでは会社だけでなく、創業者自らもオースティンに移住するという。他にもドロップボックスの創業者など有名起業家がオースティンに移住する予定だと言われている。なお、オラクルの創業者は、すでにハワイに移住している。カリフォルニアは、州の所得税が全米一高く(最高13%)、高所得者は所得の半分以上を税金で持っていかれる。一方、テキサスには所得税がない(その代わり、固定資産税が高い)。
オースティンには、すでにIT起業をサポートするネットワーク、エコシステムができており、シリコンバレーにいなければ享受できないメリットが薄れつつあることが、脱出に拍車をかけている。ある起業家は、オースティンに移転した、有名スタートアップ・アクセラレータの起業家向けSlackチャネルを立ち上げたところ、多すぎて、150人で定員を締め切りにしなければならなかったという。シリコンバレーから移転した個人的な知人も、気がついたら20人もいたという。
※1.トヨタも、数年前に北米本社を南カリフォルニアからダラス郊外に移転。
高い生活費が誘因
他州に移住するのは、億万長者だけではない。カリフォルニアやニューヨークなど住宅価格や家賃が高騰している地域では、世界的な金融危機を起こした不動産バブルの時期から、住宅価格の低い他の州に移住する人たちが後を絶たない。
アメリカでは過去20年ほどで、良質の就労機会が一部の大都市圏に集中してしまい、とくに東西両海岸では住宅価格の高騰が社会問題となっている。シリコンバレーを中心に北カリフォルニアでは、住宅価格の中央値は1億円を超えており、(小さな)家を購入する(住宅ローンを借りる)には2000万円近くの年収が必要である。中央値の住宅を購入できるのは住民の18%のみで、IT就労者の70%が「ベイエリアでは家を購入できない」と答えている。家賃も1DKで3000ドル以上するため、一般庶民が住めなくなっており、社会問題にもなっている。(こうした家賃高騰地域では、パンデミック発生後、家賃が下落しており、需要の低下がうかがえる。)
新型コロナウイルスで一挙にテレワークが普及し、仕事をあきらめずに、生活費の安い地域に移住することができる時代が到来したのである。
今年5月に行われたアメリカのホワイトカラー3000人近くが回答したアンケート調査では、回答者の66%が北カリフォルニアのベイエアリア(サンフランシスコ~シリコンバレー)やニューヨーク、シアトルから「他の地域に移住してもよい」と答えている。(※2)とくにニューヨークでは75%が「移住したい」と答えているが、春のコロナ感染拡大以降、住民の脱出が続いている。
今春、フェイスブックが「ベイエアリアから移住した場合、移住先の生活費に合わせて給料を削減する」と発表した後、「給料が減っても移住を考える」という人は32%で、フェイスブックの社員の間では38%にのぼった。なおフェイスブックでは、社員がどこからネットワークにログインするかをチェックして居場所を確定するという。
その後、シリコンバレーの他社も次々「地域外への移住者は給料を削減する」と発表したが、48%が「同じ仕事をしているのなら、給料は下がるべきではない」と答えたものの、「ワークライフバランスが向上し、全体の生活費が下がるのなら、給料が下がっても移住する」という人も42%いた。企業別にみると、Squareの社員では67%、Netflixでは63%、VMware では61%が「移住する」と答えている。
また、今年6月~7月にかけてアメリカのフルタイム就労者2000人以上を対象に行われたアンケート調査では、コロナウイルスの影響で、すでに5人に1人が「転居した」と答えている。その時点で、「フルリモート、またはそれに近い形でテレワークができるなら、転居したい」という人は半数に達していた(ただし、3割は「同じ地域の郊外に転居」)。さらに、44%は「給料が下がっても転居したい」と答えている。(※3)
最近では、10月にアメリカ人2万人以上を対象に行われたアンケート調査では、(※4)7%~12%から、テレワークが普及した結果、「主要都市から住宅価格の低い地域への移住を考えている」、または「すでに移住した」という回答が得られた。テレワークとは関係なしに移住しようとしている人も含めると、これは通常の3~4倍にのぼり、移住への関心の高さがうかがえる。(※5)
また、この3割以上が「大都市圏とその郊外から移住したい」という人で、一番の動機として住宅価格が挙げられた。53%が「現在の自宅より住宅が安価な地域への移住」を希望している。また、55%が「現在の自宅よりも(車で)2時間以上離れたところ」、41%が「4時間以上離れたところ」への移住を希望しており、移住先が通勤圏ではないことをうかがわせる。
※2.Blind The Permanent Relocation: Pay Cut Edition”
※3.OWL Labs “State of Remote Work 2020” 従業員10人以上の企業の社員が対象。
※4.Upwork “Economist Report: Remote Workers on the Move”
※5.企業の内訳は、52%が国内企業、17%が国際企業、32%がグローバル企業。従業員数は総計483万人。
居住地に見合った給与
先に述べたように、こうして生活費の安い地域に移住する社員の給与を下げる企業が出てきているが、下げ幅は各企業によるものの、たとえば、シリコンバレーからデンバーに移住すれば、18%削減、南カリフォルニア(ロサンジェルスやサンディエゴ)なら8%という具合だ。10月に行なわれた北米企業344社(計483万人雇用)を対象にアンケート調査では、回答企業の49%が、新たな就業の形に合うように報酬制度を変更することが必要と考えており、それには社員の居住地ベースで報酬を決めるということも含まれている。(※6)
大半の企業が今後3年間は、フレキシブルな就業形態によって、給与・福利厚生予算が大幅に変わることはないと見ているものの、57%は不動産経費が下がり、36%が通勤費は下がると見ている。回答企業の61%が、2021年にはテレワークをする社員にも、場所にかかわらず通勤社員と同じ給与を払うと答えたが、26%は「居住地によって額を変える」と答えている。(なお、企業の29%が、託児所や、託児向け補助金、eラーニングなど、柔軟な勤務形態に応じた福利厚生を新たに提供している。)
回答企業の社員の59%がテレワークを行っているが、2021年の第一四半期には、これが52%に落ち、今後3年で、テレワークをするフルタイム社員の割合は、約3割落ちるとも予測している。オンライン決済処理プラットフォームを提供するStripeでは、米国内外に16の拠点を構えているが、9月に、サンフランシスコ、ニューヨーク、シアトルの事務所から低コストの地域に移住した社員には、給与を10%削減する代わりに、2万ドルの一時金を提供した。同社では、何年も前からテレワークを推奨しているが、顧客の近くにいることで、より顧客のニーズに合った製品を開発できるという考えから、リモートエンジニアを100人採用するという。
「テレワークできるなら、東京にいる必要はない」という人が日本にもいるように、こうした動きは、アメリカに限ったものではない。パンデミック発生後に、IT人材の就職マッチングサービスが、世界各国のIT転職希望者2000人以上に行ったアンケート調査では、53%が「永久にテレワークができるならば、生活費の低い市に引っ越す可能性がある」と答えている。(※7) ただし、「永久にテレワークができるならば、給与が下がってもいい」という人は3分の1のみで、55%は「受け入れられない」ということだ。
※6.Willis Towers Watson “Flexible Work and Rewards Survey: 2021 Design and Budget Priorities”
※7.Hired “2020 State of Salaries Report: Salary benchmarks and talent preferences”
リモート社員の採用
リモート職を中心としたジョブボードのFlexJobsでは、パンデミック発生後に求人広告数が毎月12~15%増加したという。とくにカナダとメキシコでの求人数の伸びが著しい。また、イギリスでは、パンデミック発生後に280社を対象に行った調査では、55%が「通勤圏内でない人材を雇うことを検討している」と回答している。しかし、テレワーク可能な求人を募集しているのは33%のみである。ただし65%は、将来的にテレワークが可能な求人を行うつもりだということだ。(※8)
※8.Management Today “Will hybrid working ever work?State of Remote Work 2020”
・海外での採用
シリコンバレーでは、グーグルやフェイスブックなどの有名企業に優秀な人材が集まり、スタートアップ企業が同様の人材を確保するのはむずかしい。そこで、有名企業が触手を伸ばしていない市場で人材を獲得するために、米国外で人材を探すスタートアップ企業もある。あるスタートアップ企業では、数年前には、社員50人のうち9割近くがシリコンバレー近辺在住だったのが、今では半数に減っている。1年半前にZoomやリモート機器を整え、オーストラリアでソフトのエンジニアを採用したのだが、パンデミック発生後は、海外での人材獲得に専念した。
最近では、カナダやウルグアイでエンジニアを採用している。同じ職種でも、モントリオールでは給料がシリコンバレーの半値近くですむという。同社では、共同作業をしやすいように同じタイムゾーンでの採用を心がけているため、社員は北米、中南米が中心である。また、一人雇った後は、その国・都市に集中して雇うという。
・中小企業向けPEO
ニュージーランドでは、3月から海外からの入国禁止を続けており、農業・漁業などで労働者不足が著しい状態だ。就労ビザ取得者にも、自国に帰国する人が出てしまい、元々、人材不足だったIT、医療、建設業などでは、人材不足が深刻化している。そこで、オーストラリアの人事ソフト開発会社では、今年、ニュージーランドの中小企業が国内外でテレワーカーを採用するための支援サービスを開始した。同社の中小企業向けATS(採用管理システム)では、54ヵ国の1700のジョブボードにアクセス可能である。
社員は同社が雇用し、顧客企業に派遣する仕組みで、PEO(professional employer organization)という形だ。この仕組みで中小企業は、現地の労働法や税制などの遵守といった煩雑な人事・労務業務に携わる必要がない。かつPEOでは、複数企業分の社員を雇用できるため、社員により手厚い福利厚生を提供できる。このサービスは、オーストラリアとニュージーランド以外にも、すでに同社の顧客企業がいるイギリス、シンガポール、マレーシアでも展開している。
テレワーカーの誘致合戦
移住を考えるテレワーカーが増えていることから、国内だけでなく、海外からも移住者を誘致しようという動きが活発化している。
地方都市
日本では最近、福島県が、来年度に県内の対象地域への移住者に200万円を支給すると発表したが、アメリカでも、人口が減少する地域では(内陸部)、パンデミック発生以前から住民を誘致する都市があった。オクラホマ州タルサでは、2018年に、移住者に1万ドルを支給する「タルサ・リモート」というプログラムを開始している。応募条件は、タルサ外の企業で勤務し、テレワークをしていること、選考基準には「コミュニティに積極的に参加し、ポジティブな影響を与えること」というのがある。初年度、1万人の応募者が殺到する中、100人が選ばれ、70人が実際に移住した。数カ月で同市を離れたのは2人のみだったという。
タルサでは2016年以降、エネルギー産業の衰退で、仕事を求めて他州に移る人が増加し、人口が減少した(オクラホマ州全体でも減少している)。流出人口の多くが、大卒以上または現役世代であり、こうした世代を呼び込み、家族を形成して、ずっと居住してもらうというのが狙いだ。同プログラムは、税金ではなく、非営利の財団の資金により運営されており、「税金で他州の住民を優遇している」という批判が出ることもない。タルサでは、サンフランシスコで3人のルームメートとアパート、バス・トイレをシェアしなければならなかった家賃(1100ドル)以下(940ドル)で、1DKのアパートが借りられるという生活費の安さが大きな魅力である。上記のプログラムで移住して、すでに自宅を購入した人もいるという。
パンデミック発生後、過去半年ほどで、同プログラムへの応募者数は3倍に増えたという。今では、アーカンソーやカンザス、ネブラスカ、オハイオ、アイオワなど、中西部を中心に他の州でも、同様の誘致プログラムを打ち出している。ハワイでも、12月にテレワーカーの誘致プログラムの試用運営が始まった。今回のパンデミックで、観光業に依存した経済の脆弱さが露呈し、(※9)そうした構造を変えるために、シリコンバレーでIT企業を立ち上げたハワイ出身者が立ち上げた。
これは、最低1ヵ月オアフに住み、数時間を非営利のコミュニティ活動に費やせば、ハワイへの渡航費を支給するというものだ。応募の際には、それまでのハワイでの体験やボランティア活動、コミュニティ活動の経験などについて聞かれる。物価の高いハワイで生活できるよう、所得も検討材料となる。第一期募集は、12月中旬で締め切られた。
サービス業以外の専門職を目指す大卒者は、どうしても就職のために米本土に渡ってしまうため、ハワイを離れた州出身者の帰島も促している。
※9.ハワイの失業率は9月時点で15%。オアフのレストランは、すでに15%廃業しており、2021年早くに観光客が戻らなければ、4月にはハワイのレストランの半数以上が廃業するという。すでにハワイのレストランの半数以上が、従業員が他州に移住したとも。
・州税を巡る争い
テレワーカーが増えたことにより、税金面で新たな問題も生じている。アメリカには、州を越えて通勤している人たちがおり、そうした人たちはテレワークによって、就労場所が企業のある州ではなく、居住の州に変わってしまったのだ。アメリカではニューヨークのように、以前から勤務先の場所をベースに課税を行っている州が一部あるが、パンデミックを機に、マサチューセッツでは、実際に仕事をする場所ではなく勤務先がある州で、州の所得税を課税するという緊急命令を4月に発令した。このため隣のニューハンプシャーでは、同州住人に対するマサチューセッツの課税を止めようと、現在、法廷で争っている。
就労者に対し住民サービスを提供するのは居住州であり、その住人から税金を徴収するのは居住州であるべきという訴えだ。その後、ハワイを含む数州が原告側に加わっている。なおアメリカでは、歳入庁に提出する連邦の確定申告以外に、州にも州税に関する確定申告の提出義務がある。居住州とは別の州で所得が生じた場合、その州でも確定申告を行い、州の所得税を納めることになる。(それを知らないテレワーカーが多数いると思われ、会計士などは喚起を促している。)
海外
パンデミックによって、どの国も観光業界が大きな打撃を受けている。とくに主要産業が観光業の国では死活問題であり、各国でのテレワークの普及により、テレワーカーに移住を促す国が続々登場している。学習自体が、ストレス対応に役立つとの研究結果もあり、個々の社員が将来に不安を抱える中、自分の将来に投資できる機会を与えることも重要だと考えられている。
・カリブ諸国
今夏ごろから、真っ先にテレワーカーの招致に乗り出したのが、経済をアメリカ人観光客に大きく依存するカリブ海の島国である。感染拡大を抑えられていないアメリカからは、ほとんどの国に入国できないため、門戸を開いてくれる国は、アメリカ人にとっては有難い存在だ。ただし大半の国が、雇用証明や所得証明を必要とし(自己申告の国も)、検疫手続きも結構、煩雑である。アングィラやバルバドスでは、1年のビザを発行しているが、どちらも2000米ドルのビザ料金を課している。ケイマンアイランドは、2年のビザを発行しているが、ビザ代が1500ドル近くかかり、また独身の場合、年収10万ドルの所得証明が必要である。一方バミューダは、1年のビザ料金は263ドルと安いが、生活費がスイスや日本よりも高いと言われている。なお、これらの国々では、現地の所得税などは課税されない。
・ヨーロッパ
エストニアは今年、世界初の「デジタルノマドビザ」の発行を開始した。期限は1年で、月3500ユーロ以上の所得が必要である。フリーランスでも取得可能である。半年居住すると、税制上、居住者となり、納税義務が発生するが、今のところ、それを免れるために、半年以内に他国に出国する人が多いようである。観光業がGDPの12%を占め、経済的に大きな痛手を負っているジョージアも、同様のビザを発行している。コロナの入国制限で、観光客の入国はヨーロッパの5か国からに限られているが、このビザには、アメリカやブラジルも含む95ヵ国からの申請が可能だ。必要な所得も、月2000米ドルと手頃である。なお、通常は、同国にはビザなしで1年滞在できる。クロアチアやギリシャも、最近、同様のビザの発行が決まった。ギリシャでは1月からの施行だが、ビザ取得者は、7年間、所得税が通常の半分という優遇措置がある。
・中東
つい最近、アラブ首長連合のドバイも、ノマドビザを開始した。居住はドバイに限られ、月5000ドル以上の所得があることが条件である。他にもメキシコのように、以前から1年滞在できる一時居住ビザを発行している国もあり(メキシコ国内での就労は不可)、今後、各国の入国制限が緩和すれば、テレワーカーの誘致合戦が過熱しそうだ。(※10)
<IT就労者も移住を希望>
7月に、米中小企業のIT部門で働く764人を対象に行われたアンケート調査では、スタートアップ企業勤務者の71%が「テレワークが可能であれば、他国に移住する」と答えている。10移住先は、北米の他の国(カナダかメキシコ)が14%、次に北ヨーロッパが13%で、12%は米国内の他州を選ぶと回答した。(※11)
イギリスでも、従業員250人以下の中小のIT企業で働く764人に同じ質問をしたところ、79%が「同じ職で同じ給料で、テレワークができるなら移住する」と回答した。71%が他国に、8%が国内の別の地域に移住すると答えている。移住先として、16%が北米、14%が南ヨーロッパを挙げた。また、11%が、実際に、勤務先に「海外に移住したい」と申し出たという。イギリスでは、回答者の57%が、現地の経済が恩恵を受けられるという点で、労働力を輸入する移民政策よりも、海外でテレワークをする方が好ましいと答えている。
※10.日本にも、貯金3000万円以上を証明できる個人には最高1年まで滞在できるビザがある。観光やリクレーションが目的だが、テレワークも認められるか?
※11.Remote “Global Workforce Revolution Report”
<海外でのテレワークの課題>
海外でテレワークをする場合、アメリカ国内の他州でテレワークをする以上に、税金面、法律面で気をつけなければならないことが多々あり、雇用主としては、簡単に社員に「世界のどこでも好きなところで、テレワークをしてもいいよ」というワケにはいかない。
テレワーカーに現地での契約締結の権限があったり、複数の社員が同じ国で働けば、事業拠点があるとみなされ、法人としての課税義務が生じる場合もある。経済開発協力機構(OECD)では、コロナウイルスの影響で、社員が仕事をする場所が一時的に変わった場合、永久の事業所があるとはみなされないと租税条約に関する指針を発表している。
また、有休や解雇などに関する労働者の権利など、地元の法律が適応される場合もある。先述のように、半年居住すれば課税される国もあり、自国と租税条約などが締結されていなければ、就労者にとって二重課税となり得る。またセキュリティ面でも、海外の安宿や民泊で滞在すればWi-Fiの環境が悪く、セキュリティも脆弱である場合が少なくない。個人情報の扱いも、ヨーロッパはアメリカより、かなり厳格なため、今もフェイスブックがEU市民の個人情報をアメリカに転送していることに対し、法廷で問題になっている。
このように、社員が勤務先に無断で海外でテレワークを行わないよう、今後は雇用契約に、海外でのテレワークに関する規定も盛り込む企業が増えるだろう。
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