日本よりも浸透している海外の「ジョブシェア」導入例

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2021.02.01

 コロナ後の働き方として、日本でもジョブシェア(job share)に注目が集まっていることから、今回は、海外でのジョブシェアの導入例を紹介する。


1.ヨーロッパ


 パートタイム勤務者がもっとも多いオランダをはじめ、ヨーロッパでは、1980年代の不況時に失業率が大幅に増えた際、パートタイム勤務やジョブシェアが普及した。大半の国で、ジョブシェアに従事する就労者は「パートタイム就労者」として数えられており、正確にどれくらいの人がジョブシェアを行っているのか、数字を把握するのは難しい。 


イギリス


  2014年に、人材紹介会社がヨーロッパの企業経営者を対象に行なったアンケート調査では、ジョブシェアを提供している企業の割合は25%だった。イギリスが48%でもっとも高く、ドイツが15%と最低であった。(※1) イギリスの国家統計局によると、ジョブシェア契約で就労している従業員数は、2012年から2013年にかけて64%増加したものの、その後は減少し、上下変動を繰り返している。(※2) 2019年時点で、全就労者(7600万人)の0.2%にあたる15万人であった。イギリスでは、とくに政府がジョブシェアを後押ししており、公務員向けにジョブシェア・データベースも設けられている。ジョブシェア・サイトでは、ペアを組むパートナーを見つけるために、他のジョブシェア希望者を検索でき、また自動的にマッチングも行われる。
 
  元々は、産休から戻った女性がワークライフバランスを得られるよう支援するために設けられたものである。しかし、徐々に男性の利用者が増えており、2018年には男性利用者が全体の20%を占め、2015年に比べ割合が倍増していた。家族の介護のために利用する人も増えているという。(※3) イギリスでは、省庁や緑の党などで上級管理職の間でも利用されている。2017年に、運輸省の鉄道部門の次官補に二人の女性が任命されたのが、政府高官として初めてのジョブシェアであった。

・経営幹部によるジョブシェア

  他国に比べれば、ジョブシェア導入は進んでいるものの、なかなか広く普及しないことから、イギリスでは、政府の高官や企業の上級管理職がジョブシェアをすることで、ジョブシェアを広く周知させると同時に、上層部の間で理解を深めようという取り組みが官民で行なわれている。
 
  柔軟な働き方のコンサルタント会社が、毎年「Power 50」という有力者50名を選出しているが、その中にパートタイム勤務者のカテゴリーやジョブシェア勤務者のカテゴリーもある。2020年には、ジョブシェア・カテゴリーでは、英司法省の長官(女性)やロイド銀行の役員(男女)、BBCの編集者(女性)などが名を連ねている。パートタイム勤務者カテゴリーでは、イングランド銀行(中央銀行)や大手企業の上級管理職の男性も選ばれている。

※1.Robert Half
※2.Statista 2021“Number of employees working on job sharing contracts in the United Kingdom from 2012 to 2020
※3.イギリス政府では、公務員向けに、ポストが変わる度に上司と交渉をしなくていいよう、介護者が柔軟な働き方が必要であることを上司と合意したことを記録する「介護者パスポート」を発行している。

<ジョブシェア・プロジェクト>

  2010年に、ロンドンにある柔軟な働き方や多様な人材の採用(diversity recruiting)に特化するエグゼクティブ・サーチ(経営幹部向けヘッドハンティング)会社が、グローバル企業の経営幹部の間でジョブシェアを促進するための「ジョブシェア・プロジェクト」を開始した。協賛企業には、英最大のガス会社、セントリカ、DHL、RBS(Royal Bank of Scotland)、デロイト、KPMGなどのグローバル企業に加え、大学数校が、上級管理職におけるジョブシェアのフェイージビリティ研究パートナーとして参加している。

  上級管理職向けにジョブシェアを導入しようという企業には、導入のための手引き、ジョブシェアをしたい個人には、アセスメントや契約書などを提供している。

・採用の間口を広げるための工夫

  スイスの大手保険会社、チューリッヒのイギリス支社が、求人広告の8割に「パートタイム、フルタイム、ジョブシェア、柔軟な勤務形態」という表現を使い、かつ性別を特定する表現は使わなかったところ、2019年3月から2020年2月の1年で、管理職に応募する女性の数が20%上昇し、実際に採用された人数も33%上昇したという。(これで、上級管理職に占める女性の割合が、前年の37.5%から50%に上昇し、同社の目標が達成された)。また、すべての求人に対し、男女ともに応募数が倍増したという。
 
  柔軟な勤務形態が可能であることを前面に出すことで、女性を含め、より幅広い人材からの採用が可能であることがうかがえる。


スイス

  スイスでは、2014年に移民受け入れを厳格化したことから、人材不足となり、質のいい人材獲得のためにジョブシェアが推進された。スイス最大の銀行、UBSでは、スイス国内の社員は、テレワーク、パートタイム、ジョブシェアといった勤務形態を選ぶことができる。スイス以外でも、同様な柔軟な勤務形態を提供しており、インドのUBSでもジョブシェアを行なっている社員がいる。

・UBS

  UBSのイギリス支社では、それまでパートタイムで勤務していた女性二人が、2005年に、人事チームのリーダー職(フルタイム)に二人で応募した。二人ともパートタイム(フルタイムの60%以下)で働き続けたかったものの、もっとやりがいのある仕事に就きたかったことから、ジョブシェアを試みたという。二人とも、必要であれば、勤務時間を増やしたり、二人が平行して働いたり、フレキシブルに対応している。

・スイス大使館

  シンガポールのスイス大使館では、公使職の夫妻がジョブシェアを行なっている。二人は、10年以上前に、スイスで外交官研修時に出会ったのだが、スイスの外務省は、外交官カップルに対し先進的な政策を取っており、夫婦一緒に海外に赴任することも珍しくない。夫妻の最初の海外赴任先はニューヨークの国連の政府本部だったが、前任者も夫婦だったという。

  二人とも、毎日出勤するが、午前・午後で分担している。時差のあるスイス本国とやりとりするのに、どちらかが必ず出勤しているということになる。二人で政治チームを指揮するが、夫の方がビジネス関連、科学、外交、法務を担当、妻の方が財務、コミュニケーション、セキュリティ、文化を担当し、役割が分担されているが、必要に応じて臨機応変に二人で対応するという。
 
  緊急事態の際には、夫妻ともに出勤してマンパワーを倍増できるので、大使館にとってもメリットがある。両者が、それぞれのスキル、専門性を持ち寄れるので(一人分の職だが二人分のスキルと専門性)、チームとしてもプラスだという。

  夫妻には小学生の子どもが二人おり、家族としても、両親ともが子供と過ごす時間が増え、休暇を二人で一緒にとり、スイスに里帰りできることを大きなメリットとして挙げている。夫婦の片方がキャリアをあきらめる必要もない。とくに上司である大使の理解、サポートに助けられているという。


2. アジア・オセアニア


オーストラリア

 

  オーストラリアでも、政府機関が率先してジョブシェアプログラムを導入している。豪競争・消費者委員会では、パンデミック発生前の昨年1月に、GAFAのメディアや広告市場への影響を調査するゼネラルマネジャー職に、二人の女性を任命した。こうした高官職にジョブシェアが利用されるのは、オーストラリアでも稀であるという。

  二人は、チーム管理、分析・予算などの指揮・監督、報告書の作成などの職務を均等に分割している。片方の職務をもう一人が補足するという形にはしたくなかったという。

  オーストラリアの環境水源省では、職員3200人の2割ほどがパートタイムで働いているが、その多くが女性で、低スキル職に就いている。パートタイム職は、どうしても低スキル(かつ低賃金)職になりがちなので、同省では、後述するジョブシェア・マッチングサービスを利用して、ジョブシェアの促進を図っている。また、やはりマッチングサービスと提携し、職員向けに独自のマッチングサイトを立ち上げる州政府もある。


シンガポール

 

  出生率が日本よりも低く、人口減少が始まっているシンガポールでは、高齢化で高齢者介護の問題も浮上しており、政府がワークライフバランスを促進している。2013年には「ワークライフ助成金」を開始したが、2019年にその助成額を上げ、かつ受給条件を緩和した。

  2020年まで、柔軟な働き方をする社員一人あたり年に最高2000Sドル(シンガポールドル)を企業に付与していた(上限は2年間で7万ドル)。ジョブシェアに対しては、月給3600ドル以上の専門職レベルの社員の場合、一人当たり年3500ドルを助成していた(上限は2年間で3.5万ドル)。

  パンデミック発生後、テレワーク用に助成金を利用する企業が急増したという。また、2013年には、財務省の会計局で、二人の女性が現金管理・支払処理業務で試験的にジョブシェアが行なわれた。小学生の子供二人をもつ一人が午前勤務、もう一人は、幼児を母親が面倒見てくれている午後に勤務し、正午に二人が引継ぎを行なうという形だった。ジョブシェアは、二人がフルタイム勤務に戻る2015年までの一年半続けられ、二人とも退職せずにすんだという。

  2019年、シンガポール人材開発省では、シンガポール全国雇用者連合と協力し、企業でのジョブシェア導入を促進するために、手引きを作成している。しかし、2020年6月時点で、ジョブシェアを提供していたのは企業の1.3%であった。

・DBS

  東南アジア最大の銀行、DBSでは、コロナ後の世界に向け、昨年11月に、正式にジョブシェアを開始することを発表した。希望する社員は、社員二人で一つの仕事をシェアすることが可能となり、給料は勤務時間に応じて調整されるが、健康保険など福利厚生は、そのまま提供される。
 なお同行では勤務時間の最高40%まで、テレワークを許可しており、出勤とバーチャル勤務を融合するために、新たな協働スペースも開設している。


3.アメリカ

  2016年のアンケート調査では、「限られた社員にジョブシェアを許可している」のは回答企業の19%であった。(※4) 同じ調査の過去のデータと比べると、2008年の29%に比べ、10ポイント減少している。なお同調査では、社員に占める女性の割合が25%未満の企業では、割合が大きい企業に比べ、柔軟性が乏しいという結果が出ており、女性社員が多い方が柔軟な勤務形態が導入されやすいということだろう。

政府によるワークシェア・プログラム

  アメリカでは、コロナ禍による失業者の増加を抑えるために、「ワークシェア・プログラム」を設けている州がある。(※5) これは、上記で見てきたジョブシェアとは少し違い、社員10人を解雇する代わりに、20人の勤務時間を短縮するというもので(“痛み分け”)、二人でペアになって一つの職をシェアするというわけではない。勤務時間が減った社員は、勤務時間に見合った失業保険を州政府から受け取ることができる。パンデミック発生以前からある制度だが、その利用者は昨年3月から徐々に増え始め、7月にピークに達し、170万人が利用した。

  州政府は、連邦政府のコロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES Act)の下、助成金を受け取ることができる。当初、助成金は半年で終了する予定だったが、感染拡大が止まらないため、1年に延期されている。このプログラムは、あくまでも、企業の業績が落ちた際に失業者を増やさないための短期的な措置という位置づけである。

  2008年の金融危機後、失業者が大幅に増え、このプログラムを設定する州が増えたが、2020年夏の時点で、設けられているのは26州のみに留まっている。アメリカでは、労働者保護が弱く、解雇が容易であり、また各州が独自の要件を定めることになっているため、利用していない州も多い。なお、カナダでも同じような制度が設けられている。

※4.SHRM 2016 National Study of Employers.” 2015年9月から2016年2月にかけ、営利企業920社(62%)と、非営利団体50(38%)の人事部長を対象にアンケート調査。
※5.米連邦政府や州政府は”work share””shared work”と呼んでいるが、政府外では「ジョブシェア」と呼ぶ人たちもいる。

・ドイツ

  ドイツでも、中小企業向けに社員のクビを切らず、勤務時間を減らせば、政府が給料減少分の6割を払う(実際に働いた分は賃金100%が支払われる)という制度があり、「短期労働」と呼ばれている。本来、半年ごとの短期プログラムで、この3月末に終了する予定だったが、コロナの感染が収束しないため、今年いっぱい(計21か月)継続することになった。また、プログラムが長引くほど、政府が負担する割合が増えるように改定されている。
 
  2008年の金融危機の際には、これで大幅な失業を避けることができ、GDPが下落したにもかかわらず、ドイツではG7の中で唯一、2009年に失業率が下がらなかった。ただ当時、影響を受けたのは、輸出需要の低下による製造業で、今回はロックダウンにより数多くの業界が影響を受けているため、これだけでは乗り切れないと考えられている。


4.ジョブシェア・マッチングサービス


  上記の国々では、ジョブシェアを希望する人たちをマッチングするスタートアップも、数年前から登場している。基本的に、ジョブシェア希望者二人が、ひとつの職に一緒に応募するという形が多いため、まずはシェアができるパートナーを探すことが先決となる。かつ、ジョブシェア可能な企業を集めて、応募者を推薦している。

  スタートアップの多くが、創業者自身が育児をしながら仕事を続けたり、職場復帰しようとして苦労した経験から立ち上げたというケースが多い。採用担当者であった創業者が、ひとつのフルタイム職に対し、二人の女性から応募があったことがきっかけで、その2日後に会社を辞めて、創業したという例もある(ドイツ)。


仕組み

  ジョブシェア希望者が、サイトで経歴、展望、価値観などの質問に答えると、アルゴリズムによってパートナーとマッチングが行なわれる。その後、求職者をペアで会員企業に推薦する仕組みだ。ジョブシェアを受け入れる企業の求人広告を掲載しているところもある。とくに子育てなどで一旦職場を離れた再就職希望者に特化し、提携先を通じて、再就職プランの作成やコーチングを支援し、託児サービスを提供しているところもある(イギリス)。また、自治体の支援を受けているスタートアップもある(スイス)。

  どの国でも、ジョブシェアをしたい人はいくらでもいるが、ジョブシェアを受け入れる企業を見つけることが障害となっており、ジョブシェア希望者を支援するだけでは十分ではなく、企業に対しジョブシェアに対する啓蒙活動が必要であるという。イギリスなどが、上級管理職の間でジョブシェアに力を入れているのも、上層部にジョブシェアを理解してもらい、組織内でジョブシェアを普及させるためである。


5.メリット・デメリット


  ジョブシェアは、一つの職を社員二人が行うことで、プラス面が倍になるのか、問題が倍増するのか、という議論もあるが、主なメリット、デメリットには下記が挙げられる。


メリット


  まず、ジョブシェアを可能にすることによって、フルタイムでは退職せざるを得ない優秀な人材をキープすることができる。ライフスタイルやライフステージに合った形での就労を可能にすることによって、社員の士気があがり、仕事への満足感も増す。二人が、ぞれぞれ週に数日ずつ働く形が多いので、週に二度、社員が心身をリフレッシュした状態で働けるため、業務遂行力が上昇し、バーンアウトも避けられる。

  また、フルタイムでは働けない人たちも採用でき、人材候補が、より多様で枠が広がることになる。どの企業も、「マルチリンガルで、クリエイティブで、かつ分析力もある人」と完璧な人材を求めがちだが、一人で、すべてを備えている人を見つけるのは至難の業である。それが、異なるスキルや経験を備える二人を雇うことで、マルチリンガル能力も得やすくなり、クリエイティブな人と分析力に優れた人をセットで確保できる。一人分の給料で、二人分の能力やスキルが得られるということである。
 
  さらに、社員間で仕事をシェアすることで、知識・経験(ナレッジ)の共有も可能となる。たとえば、中高年と新人が組むことで、熟練者から若い世代に知識や技術が継承される。また、多くの国で、以前より高齢でも働き続ける人が増える中、パートタイム就労、ジョブシェアによって、高齢者が就労を続けることが容易となる。


デメリット


  先述のように最大の障害は、企業にジョブシェアを理解して受け入れてもらうことだが、一つの職に対し二人雇うことで、企業にとって作業が煩雑になることは否めない。ジョブシェアでは、二人が週3~4日ずつ働くといった形が多く、そうすると週に1~2日、両方が働くことになり、重なった日は倍の給料が必要となる。さらに、二人分の福利厚生を提供することになれば、その分、企業のコストが増す。

  研修も二人に行なわなければならず、ジョブシェアに対し、追加の教育も必要となる。ただし、新人研修には時間がかかるものの、その後は、フルタイム勤務者に比べて、教育に時間がかかるということはないという現場の声もある。また、ジョブシェアをする二人の社員同士の関係がうまくいかなかったり、一人が辞めることになった場合に、うまく対処し、人材を補充できるかという問題もある。部下や同僚が、ジョブシェアする二人を仲たがいさせて妨害しようとするケースもあるという。

  管理職の場合、二人のマネジメントスタイルが違うと、部下にとって混乱を招く恐れもある。社員側としては、適格なジョブシェアパートナーを見つけることも簡単ではない。一つの仕事をシェアするということは、同じような専門性や経歴の人である必要があり、また勤務時間も補足しあえる相手でなければならない。ジョブシェアがなかなか普及しないのには、こうした背景があるが、導入している企業では、デメリット以上のメリットがあるということだ。

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。