SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)(※1) の略で、国連が掲げている17の目標と169のターゲットからなる。2005年、150超の加盟国が参加した「国連持続可能な開発サミット」で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」に基づいており、貧困や不平等、気候変動など、世界が直面するグローバルな課題の解決を目指し、より持続可能な未来を築くための道標と位置づけられている。2030年までの目標達成を掲げており、残り10年となった2020年1月には、SDGs達成のための「行動の10年(Decade of Action)」も始まった。17の目標は下記のとおりで、それぞれの目標内に細かいターゲットが設けられている。(※2)
※1.持続可能な開発目標(SDGs)
※2.17の目標ごとの説明(日本語)、各目標のターゲット(日本語)
各国のSDGs達成率
パンデミック発生以前、2015年~2019年の間の196ヵ国の達成率をスコア化したランキングが下表である。SDGsの達成度を測るために国連統計委員会では230の指標を推奨しているが、それでは十分でないとの声が多く、民間の団体が非公式のデータも取り入れて算出している。(※3) スコア100が、17のSDGがすべて達成できているという意味である。スコア80以上はすべて欧州大陸諸国で、上位は北欧が占めている。ヨーロッパ以外では、16位にニュージーランドが最高である。
※3.“Sustainable Development Report 2020” 独立した専門家チーム(独ベルテルスマン財団とSDSNの共同)による分析。公式のSDG指標を補完するもの。日本語概要。
なお、パンデミックの影響で世界各地で貧困化が悪化するなど、これまでの進展が逆戻りし、2030年までに目標を達成できないことが明らかになっている。コロナ禍で先進国と途上国の格差がさらに拡大し、とくに新興国の貧困層はさらなる貧困に陥っている。SDGsの原則は、パンデミックからの回復に肝要であるため、国連および関連団体ではSDGs達成のための努力を続けるよう呼びかけている。
SDGs取り組み事例
SDGsの取り組みは、全体的に政府や自治体、NGO、NPOによるものが多いが、ここでは民間(大手)企業による取り組み事例を紹介する。(※4)
消費財流通業界
The Consumer Goods Forum(CGF)は、世界70ヵ国から400社超の小売企業、メーカー、サービス供給業者などのCEOや上級管理職が集まったグローバルな消費財業界のネットワークで、2009年に3つの業界団体が統合することで創設された。本部はパリで、ワシントンDCと東京、上海に事務局がある。会員企業には、カーギルやコカ・コーラ、P&Gなどのメーカー、ウォールマートやカルフール、アマゾン、アリババなどの小売業者、アクセンチュアなどのコンサルティング会社が名を連ねている。日本からはイオン、味の素、ハウス、カゴメ、花王、明治、森永、日清、資生堂、ローソン、楽天、日立造船、ヤマトなど数十社が参加している。
会員企業の売上総額は3.5兆ユーロ(約450兆円)で、従業員総数は約1000万人近く、さらにバリューチェーンも含めると9000万人の雇用に関わっている。CGFは、グローバル規模で小売業者とメーカーが連携する唯一の団体であり、世界規模でポジティブな変化を起こすために世界のメーカーと小売業者の協働を促進している。CGFでは、4つの柱と8つの連合(Coalition)を戦略的イニシアチブとしているが、それぞれの柱の下、SDGsの達成のために、新たに連合やイニシアチブを設けて取り組んでいる。
たとえば、2016年には強制労働と戦う決議を採択し、SDG 8.7(強制労働の根絶)を達成するための活動を世界的に支援している。(※6) 2017年には、日本サステナビリティ・ローカル・グループが発足したが、環境問題だけでなく、近年、強制労働問題にも取り組んでいる。2019年には、食品・農業セクターをSDGsと歩調を合わせるために、4つの柱が設定された。また、同年には、グローバル規模で栄養不良問題に取り組む団体、GAIN(Global Alliance for Improved Nutrition)とともに、Workforce Nutrition Allianceを設立し、2025年までに会員企業に従業員向け栄養プログラムを設け、職場で安全で栄養価の高い食事を提供することを目標としている。これにより、SDG 2、3、8への貢献を目指している。
2020年には、会員企業14社のCEOの主導により、食品ロス問題を解決する実行連合(Food Waste Coalition of Action)が立ち上がった。2030年までに小売と消費の段階で1人当たりの食品ロスを半減することを目標としている。具体的には、同連合に参加する会員企業は、廃棄物を削減するために、1)食品ロスの定量測定のため、2021年までにデータを報告、2)SDG 12.3の実現に向け、グローバル小売企業10社が、それぞれ20社のサプライヤーとともに、2030年までに主要サプライヤーの食品廃棄物の半減を目指すイニシアチブを拡大、(※7) 3)ステークホルダーと協力して革新的かつ効果的な食品ロス削減戦略を開発し、食品ロスのおよそ3割を占めるとされる収穫後の生産者およびサプライヤーレベルでの食品ロス削減に取り組むというものだ。
さらに、同年、会員企業36社のCEOの主導により、廃棄物行動連合(Plastic Waste Coalition of Action)が立ち上がった。これは、プラスチック包装のデザインルールを確立し、最大手企業がプラスチック使用量の削減とリサイクル性向上のために、問題のある材料や色、ラベルを包装から段階的に排除していくというものだ。かつリサイクルのイノベーションを支援し、世界的にリサイクル率を高める新しいプログラムを試験的に導入するという。
※4.2017年時点で、世界の大企業の約40%、250社が事業報告書でSDGsの活動に言及していた。
※5.The Consumer Goods Forum 日本語パンフレット
※6.SDG8.7 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終らせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。2025年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を撲滅する。
※7.SDG12.3 2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。
ジェンダー平等
先述の達成度ランキングと同様に、独立した団体がSDG5のジェンダー平等達成の進展具合に関するデータを収集し、達成度ランキングを発表している。的確なデータなしには進展が見込めないことから、データ収集・分析をすることで、各国政府の説明責任を明確にするのが狙いだ。(※8) 今のペースでは、129ヵ国中、約半数の67ヵ国(21億人の女児および女性)が、2030年までにSDGのジェンダー目標5つのどれも達成できない見込みのため、各国政府に改善努力を働きかけている。今後10年、最速でジェンダー平等を進めている国と同じペースで進めば、世界の女子・女性の3分の2が目標5つすべて、または4つを達成した国に住むことができるという。下記ランキングは、SDG17のうちの14に対し、健康、性別による暴力、気候変動、仕事など51の課題に対する達成度をスコア化したものだ。(※9)
やはり上位の大半がヨーロッパ諸国で、政府による社会福祉政策、議会などで導入されているクォータ制などの影響が大きい。そうした中、10位のオーストラリアでは、クォータ制の導入なしに、過去10年で世界的なジェンダー平等指数の順位を大幅に上げている。下記では、オーストラリアでの取り組み例を一部、紹介する。
※8.Equal Measures 2030 “Data Driving Change: Introducing the EM2030 SDG Gender Index” 日本語版
※9.“2019 EM2019 SDG Gender Index ”
・オーストラリア郵政公社
オーストラリア郵政公社は、2016年よりSDGsの達成に取り組んでおり、オーストラリアでもいち早く取り組みを始めた企業のひとつである。17の目標のうち10に焦点をあてており、SDG 5のジェンダー平等もそのひとつである。2017年には、郵政公社初の女性CEOが誕生し、取締役の女性の数も9人中5人と半数以上%に達した。また男女の給料格差の解消にも成功している。
さらに、DV・家庭内暴力の犠牲者には、私書箱や郵便転送サービスを無料で提供したり、公社従業員にも年10日間のDV・家庭内暴力休暇の取得を認めている。郵政公社では、元々、SDGs発足以前の2010年に就任した前CEO(男性)が、上級管理職の男女数のバランスが悪い点を是正しようと、公社全体で経営陣らの意識を高め、女性を昇進させようという努力を始めていた。
2015年には、女性向け雇用およびキャリア開発機会の創成を念頭に、「ジェンダー・アクションプラン」を発足し、公社内の様々なレベルで女性人材プログラムに投資した。その結果、1700人以上の女性が、このプログラムを修了したという。オーストラリアでは、賃金に関し労使裁定制度があるため、(※10)郵政公社従業員の大半が、職種別条件によって賃金も定められているが、給与考査時に性差別、ジェンダーバイアスがないように、市場の賃金幅を検討し、その幅から逸脱している従業員の給与は調整することにしたという。逸脱している従業員のほとんどが女性だったそうである。その結果、2016年には1.4%だった男女の給与格差が、2017年にはゼロとなった。ちなみに、日本郵便は、17の目標のうち4つに取り組んでいるということだ。(※11)
※10.労使裁定は、Fair Work Commissionが業界・職種毎に定める法律文書。フェア・ワーク法が定める最低条件に上乗せする形で、業界・職種別の最低賃金等の裁定基準が定められている。オーストラリア独特の制度。
※11.日本郵便株式会社:SDGs達成に向けた取り組み
・HESTA(産業年金基金)
オーストラリアの医療および社会事業従事者向け年金基金であるHESTA(Health Employees Superannuation Trust Autralia)は、560億豪ドル(約4.7兆円)の資産を管理しており、9万社以上の企業の従業員87万人以上が加入している。その8割が女性であるという。HESTAのCEOも女性である。HESTAでは、SDG5の、とくに5.5(意志決定への女性の参加)に力を入れている。HESTAは、基金の運用に外部の投資運用会社を利用しているが、投資決定に関わる女性の人数、多様性を向上させるためにどのような取り組みを行っているかを会社起用時に重視している。かつ運用会社が採用・人事過程で多様性を向上させるよう奨励しており、毎年、進展状況をチェックしている。
投資運用業界は多様性に欠けるため、まずは業界にその事実に気付いてもらい、より多くの女性がキャリアチョイスとして目指すよう奨励するための取り組みを促している。男女の比率のバランスが取れていない、多様性に欠けるということが企業にとってはリスクであるという視点を投資運用者に持ってもらうことにも力を入れているという。HESTAでは、投資する企業の取締役会に占める女性の割合も注視しており、2018年までにASX200(指数)構成企業の取締役の3割を女性にするという目標を掲げていたが、2019年に達成している。2017年には、HESTAのCEOが直々に、172社に取締役会における多様性の向上させ、経営陣の多様性向上のための目標値を定めるよう通達した。
また、投資候補の企業で多様性の導入が進んでないと思えば、その企業には投資をしないというスタンスである。なお、HESTAでは、2013年にはタバコ関連企業はすべてファンドから除外し、2015年には海外で人権を侵害したとされる企業も外している。
日本企業の取り組み
日本でも、多くの企業がSDGsに向けた取り組みを宣言しており、取り組み例も紹介されている。(※12) 2018年には、トロントで、企業のSDGs貢献度を競う「The Global SDG Awards」で、リクルートホールディングズが、SDG 10(人や国の不平等をなくそう」のカテゴリーで受賞している。(※13) 同社では、個人ユーザーと企業クライアントが出会う場となるプラットフォームを作り、情報の非対称性をなくし、双方が満足する最適なマッチングによって世の中の「不」の解消に寄与していくというビジネスモデル、「リボンモデル」を構築し、それを軸としてビジネスを展開している。また、リクルート住まいカンパニーが運営する不動産情報サイト「SUUMO(スーモ)」で、は2017年からLGBTフレンドリーの物件検索も可能にし、グループ全体でSDGsの達成に努めている。
大企業以外に、世界にはSDGsの達成のために創業されたスタートアップ企業、社会起業家も多数存在するので、次回は、それを紹介したい。
※12.2017時点で、事業報告書でSDGs活動に言及していた大企業の割合は、日本では49%。ヨーロッパは60%以上、アメリカは31%(アメリカではアンチUN派が多い)。日本企業事例:コマニー株式会社、滋賀銀行、TBM、春日製紙工業、その他。吉本興業との連携「笑いでSDGを」
※13.SDGs17の各目標に対し、応募企業をサステナビリティ専門家や有識者などが審査。
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