HRテックが急進中!2021年のトレンドは?

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2021.04.30

  昨年、パンデミックで急速にテレワークが進み、HRテックも信じられないスピードで進化を強いられた。現在HRテックは「あるに超したことはない」というものではなく、事業の成功にとって必須なものとなっている。2020年は、パンデミックのためにHRテックへの投資は抑えられたが、累積需要があるため、今年は経済の再開とともに、HRテックへの投資は元のレベルに回復すると予測されている。下記では、今年のHRテックの主なトレンドをまとめた。


1.SaaS(Software as a Service)への移行


 米IT調査会社が今年に入り、20ヵ国以上の大企業260社をアンケート調査したところ、46%がHRソフトをSaaS(クラウド)で、または社内システムと混在(ハイブリッド)で使っていると答えており、2年前に比べて26ポイント上昇している。将来的には、2023年までに57%が、サブスク型のSaaS、またはハイブリッドを利用すると回答している。回答企業は、HRソリューションにおいて、社内のシェアドサービスを利用している企業とアウトソースしている企業とが約半々であったが、過去数年に比べてアウトソースへの移行が顕著に現れているという。

 この調査で分析した11の人事機能のうち、とくにアウトソースまたはハイブリッド型への移行が顕著なのは、給与と健康関連の福利厚生管理であった。主なSaas型HRソリューションプロバイダーは、パンデミックに対応した新たな雇用継続税額控除などへの対応、コロナ感染追跡、職場復帰管理のために機能を追加している。

 また、SaaS型HRソリューションが測定可能な形で事業的価値を生み出しているという企業も増えている。中でも、SaaSソリューションに移行したことで、HRコストを10%以上節約できたという企業が70%、20%以上という企業が37%あり、費用対効果が認められている。

WFM(Work Force Management)システム
 WRMシステムもパンデミックによって、既存のシステムの欠陥、機能不足が露わになった。社員の勤務時間を追うだけでは不十分で、社員が建物のどこにいるのか、健康状態はどうなのかまでチェックする必要が出てきたからだ。やはりWFMもクラウドベースに移行し、ダイナミック(フレキシブル)な勤務・シフト管理ツール(勤務者のスケジュールの変更に応じて自動的にシフト変更)、社員が安全にタイムカードの打刻ができるようにタッチフリー機能、健康スクリーニング機能、社員が勤務シフト変更や休暇届をオンラインでできるセルフサービスアプリなどが求められている。

 パンデミックによって、HRヘルプデスクやポータル、ケース管理アプリなどは、「あるに超したことはない」から、なくてはならないシステムへと昇格した。かつより多くの企業が社員重視のプラットフォームの価値を見出しており、今年も、こうした傾向は続くと思われる。


2.リモート支援ツールのアップグレード


 上記のアンケート調査では、回答企業の70%近くが、2022年移行も社員の20%以上(一番多いのが20%~40%)が在宅勤務を続けると回答しており、テレワークと出社が混在するハイブリッド型が定着する見込みである。1年のテレワークを通じ、さまざまなリモート支援ツールが登場したが、今後、長期のテレワークに向けたツールや方針が必要となり、今年は、さらなるアップグレードが起こると思われる。

 リモートでの協働やコミュニケーションの向上、ストレスやバーンアウト(燃え尽き症候群)などへの対処といった部分に焦点があてられるだろう。テレワーカーの監視機能の導入も進むと思われるが、これは、ちゃんと仕事をしているか社員を監視するというよりも、社員が働きすぎていないか、バーンアウトの危険性はないかを見守るのが目的で、たとえば、社員に「長時間働いているので、そろそろ机から離れて休憩するように」などのアラートを自動的に送信するといった機能のことだ。


3.職場復帰支援ソリューション

 アメリカでは、テレワーカーの職場復帰が徐々に始まっているが、いくつかのアンケート調査では、ホワイトカラー就労者の25~30%が「職場への復帰を強制されれば、または職場での安全が確保されなければ、別の仕事を探す」と答えている。

 また、アメリカでは昨年だけで、コロナ関連で社員が勤務先を提訴するケースが1000件以上にのぼっており、そのうちの5分の1ほどが、職場の安全性に対してであった。勤務先が、十分な防護・衛生用品を用意しなかった、清掃・衛生ルールに従わなかった、顧客や訪問者に対し体温測定やマスク着用を促さなかったなどが提訴の理由に挙げられている。そこで、職場での安全性を確保し、公衆衛生ガイドラインを遵守することが社員の職場復帰への鍵と考える企業が出てきている。

 そうしたタスクを自動化するソリューションも登場しており、たとえば、タッチレスで入館できるデバイス、入口や出口、社員が集まる場所での体温測定、マスク検知、上層部へのリアルタイムの報告など一連のソフトをパッケージにして提供している企業もある。IBMでも、AIワトソンを使って、職場復帰・施設管理、職場安全性管理、感染追跡システム(contact tracing)などで企業の決断を支援するソシューションを提供している。


4.業績管理・ウエルネス管理

 今後の業績管理は、リアルタイムで常時続く統合されたプロセスとなり、年次評価というのは過去のものとなりつつある。四半期・月次など、もっと頻繁な評価へと移行中であり、毎週のチェックというのも出てきている。これは、ITによって、社員の仕事ぶりを常時チェックすることができるようになったからで、上司は社員に期待値をより具体的に伝えることができるようになり、社員にとって評価のプロセスがより透明になる。こうして、期待値の設定とフィードバックのサイクルが築かれ、よりよい人事評価が可能となる。

 テレワークの普及によって、社員のメンタルヘルスが課題となり、企業向け社員健康増進プログラムのオンラインサービスが盛況であることは、昨年報告した。メンタルヘルスのオンライン研修を行う企業が増え、テレワーク社員向け福利厚生サービスとしてデジタルセラピーを提供する企業があることも報告している。今や社員の健康・ウエルネスが、生産性や業績の要と考えられており、今後さらに、こうしたツールはHRソフト・プラットフォームに組み込まれていくだろう。


5.採用活動におけるAIの活用

 とくに採用分野での革新的変化はすさまじく、AIによって、ソーシャルメディアでの活動など、さまざまなソースから応募者をスクリーニングできるようになっている。IBMのAIワトソンは、人事採用や評価などに日本でもすでに使用されているが、それ以外にも、この分野ではスタートアップ企業が次々に新たな製品を開発している。

 2015年創業のFAMAでは、AIを使って人事候補者のソーシャルメディアでの行動を分析するが、性差別、人種差別、偏見、暴力、犯罪行動など、入社後に問題を起こしそうな候補者を機械学習によって見極めるというものだ。たとえば、「デートの相手におごったのだから、その後お持ち帰りさせてくれるのは当然のこと」といった書き込みは危険信号となる。

 元々創業者が、その前に働いていた会社で雇った社員が、入社後、会社にとって大問題を起こしたのだが、その兆候が、その社員のソーシャルメディアに現れていたことを見逃していたことに気がついたという。採用前に、その社員のソーシャルメディアを見ていれば、避けることができた痛恨のミスであった。そして、同じような経験をしている企業は、他にもたくさんあることを知り、主にソーシャルメディアでの行動を基に、人材をスクリーニングすることを思いついた。AIを使った候補者のスクリーニングによって、社員の定着率は97%に向上したという。

 同社のソリューションでは、クライアント企業の要件に基づき、人間がチェックすべきとAIが判断したネット上のコンテンツはすべて要注意として検知されるが、決断を下すのは、あくまでも人間であり、AIは、それを補完する位置づけだ。AIが候補者をスコア化したり、合否判断をすることはない。あくまでも、その企業が築きたい組織を築くサポートをするという姿勢だ。同社のAIは、ソーシャルメディアだけでなく、ウェブ、データベースなどアクセス可能なソースすベてからデータを収集する。手作業で情報収集をした場合、8~10時間かかるところが、同社のウェブポータルを使えば10秒ですむという。

 他にも、社員のスキルや知識、能力、性格を見て、プロジェクトチームに最適の混成を見つけ出すAIエンジン、社員が自分のキャリアパスを描き、次のレベルに上がるために必要な研修やスキル開発を見つけるAI、また、非常に優秀な社員が別の会社に転職しないようにつなぎとめるAIエージェントなど様々なソリューションが登場している。

 なお、DEI(Diversity, Equity, Inclusion)を第一の目的に、採用過程でのバイアスを取り除き、より多くの人材から人選したいという理由で、採用にAIを利用する企業は多い。しかし、アルゴリズムやデータにバイアスがあれば、結果からバイアスを取り除くことはできない。そのため、AIの採用での利用に反発する声もあり、ニューヨーク市では、AIの採用での使用を法的に制限しようという動きがある。

AI利用の人材採用ソリューション例

 AIを使った人事採用ソリューションを提供する企業に、アメリカのPhenom Peopleがある。同社では、人事採用過程のルーティンタスクをすべて自動化し、応募者、採用担当者の両者に対してパーソナライズのサービスを提供している。求職者は、同社のプラットフォームでチャットボットやキャリアサイトを利用して、パーソナライズされた求人情報やコンテンツにアクセスできる。そして、そのままシームレスに応募ができる。採用担当者は、候補者の適性スコアを見ることができ、かつAIを使って、CRM(Candidate Relationship Management)で、より速く人材をスクリーニングできる。候補者とのやりとりは、プラットフォームからショートメールやメールで行なえ、最初からエンゲージメントを高めることができる。

リアルタイムのCRMダッシュボード
CRMdashbord

 また、既存の社員向けには、社内モビリティ&社員紹介機能を使って、適したポストや新たなキャリアパスを表示し、求人に対して推薦してもらうためのネットワークへのアクセスなどを提供できる。また、社員は自動チャットボットを通じ、質疑応答やイベント参加などもできる。

社員ポータル
portal

地域ごとの社内候補
phonem media kit

 管理職向けには人事戦略用に、人材アナリティックスや予測機能などが搭載されている。Phenomでは、こうした機能をひとつにまとめ、Talent Experience Management(TXM)プラットフォームとして提供している。同社のAIは、複数の言語での180国の10億人以上の候補者プロフィール、4億の職などを基にしており、その機械学習能力に対して、AI優秀賞などを受賞している。同社のプラットフォームは、医療、小売、金融などさまざまな業界の企業400社以上で利用されており、2020年には、採用担当者2万5000人によって200万人以上を採用するのに活用されたという。

 たとえば、アメリカの国内航空会社では、独自のキャリアサイトでは応募者の反応が芳しくなく、潜在求職者も発掘できておらず、費用対効果を測るアナリティックスもなかった。同社には、年間何万人もの応募があったのだが、同社の価値観を共有できる適格な人材を引きつけられているのか疑問を抱いていた。

 それが、TXM導入後90日で、採用プロセスの全面を改善することができ、求職者が高い満足度を得たということで受賞もするに至った。TXMによって、まずキャリアサイトでの求職者の体験をパーソナライズされたインタラクティブのものにすることができた。かつ潜在候補を発掘するキャンペーンを行なって、費用対効果も測定できるようになった。

 また、社内モビリティモジュールを使って、既存社員の離職を防ぎ、かつ新たな人材確保に社員紹介を促進した。その結果、同社キャリアサイトへの新規ビジターは100万人に達し、応募者への変換率も上昇した。同社に「応募すると思う」と答えた求職者は26%増、同社を「誰かに紹介する」といった人が17%増という満足のいく結果が得られた。

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。