アフターコロナ:テレワークから職場勤務に戻るアメリカ企業

Portrait from back of tired students stretching after long work. Indoor photo of office workers fooling around during meeting in conference hall with big windows.
2021.05.31

  昨年、パンデミック発生で多くの企業がテレワークに移行し、アメリカでは「恒久的に」または「半恒久的に」テレワークを続けると発表するIT企業も現れた。ところが今年に入り、ワクチン接種が進んだこともあり、大手IT企業が部分的にもオフィスを再開しており、今秋までには、大半の社員が出社を求められるようだ。さらに、金融機関をはじめ、「テレワークは一時的な処置であり、出社が基本。できるだけ早く元の形に戻る」という声も聞かれてきた。


地域差


 アメリカでは、行動制限や経済再開施策が、州によって大きく異なる。知事が共和党の州では、もともと行動制限に否定的であり、テキサスでは昨年の5月末から経済の再開を段階的に始めていた(夏と冬に感染が拡大し、医療が逼迫したにもかかわらず)。今年3月には、(ワクチン接種率が州人口の10%、コロナ陽性率も大阪の最高時よりずっと高い時点で)マスク着用義務を終了し、経済を100%再開した。(※1)

 そのため、オフィス入館時のICカードによる開錠を基にした出社(オフィス占有)率では、テキサスの都市圏が全米で最も高くなっている。5月19日時点で(シリコンバレーから続々とIT企業が移転している)シリコンヒルズのオースティンでは43%、(5年前にトヨタが北米本社をカリフォルニアから移転した)ダラスでは43%、(日本領事館のある)ヒューストンでは42%に達していた。

 一方、(知事が民主党員で)行動制限の強いカリフォルニアにあるシリコンバレー周辺の都市では、16~19%、ニューヨークでは17%と、テキサスに比べてかなり低い数字になっている。このように、(イデオロギーの違いから)州ごとに行動制限も経済再開の度合いも大きく異なる。さらにアメリカでは、テレワークに対する考え方は、業界によっても異なる。下記では、主要業界の動向を紹介する。

※1.テキサスでは、5月中旬からコロナ陽性率(7日移動平均)が4%を切り(大阪府と同程度、現在は大阪府の方が低い)、昨年来、最低の数字となっており、経済は100%再開している。カリフォルニアは陽性率が0.7%だが、6月までマスク着用が義務付けられている。なお、カリフォルニアのように、州内でも郡ごとに規制ステージが異なる州もある。


IT企業

マイクロソフト

 マイクロソフトは、ワシントン州が3月末に屋内の収容上限を25%から50%に緩和したのを受け、希望する社員には収容上限内で出社を許可している。(※2)同社では当初、コロナの感染状況によって指針を提供しようとしたが、感染状況を予測するのは難しいことから、時期・期限ではなく、ステージ別に社員の出社を計画することにした。そこで、刻々と変化する感染状況や政府の指針に合わせられるよう、下記の6つのステージから成る「ハイブリッド職場ダイアル(Hybrid Workplace Dial)」を考案した。

 これは、各地域の感染データや行政指針に準じて、支社・事務所の段階をあてはめるものだ。ステージ1では、オフィスは閉鎖、ステージ2では在宅勤務を義務付け、ステージ3では在宅勤務を推奨するというものだ。ステージ4と5では、オフィスが再開されるが、ステージ5までは、職場でのマスク着用やソーシャルディスタンス、特別な清掃(除菌)などが義務付けられる。ステージ6では、コロナは地域社会にとって脅威ではなく、季節性インフルエンザと同じ扱いとなり、職場でのパンデミック規制は解除され、ほぼすべてのキャンパスにおいてサービスが再開される。

対コロナウイルス・ハイブリッド職場の6つのステージ
CRMdashbord

 ワシントン本社と周辺のキャンパスにおいては、3月29日に、ステージ3からステージ4に移ったことになる。その時点で(ワクチン接種が普及する前、かつ学校が再開する前の時点で)出社を始めている社員にアンケート調査を行ったところ、社内で過ごした時間は、回答者の69%が勤務時間の半分以下で、出社と在宅勤務を併用していることがわかった。
 スレージ6で、大半の社員はテレワークにあてられる時間が、勤務時間の半分未満になる予定である。フルリモートを希望する社員や、他の拠点に転勤を希望する社員は、上司の許可を得る必要がある。

※2.アメリカの場合、オフィスビルも収容上限規制がある州が多く、(それがテレワークが大きく進んだ要因でもあり)、それが解かれるまで、全員出社はできない。

シリコンバレー

 一方、カリフォルニアでは、今冬に感染爆発が起こり、全米でもっとも厳しい行動制限(外出禁止)が行なわれた。3月にシリコンバレーを含む北カリフォルニアの一部では、制限が緩和され、オフィスの再開が始まった。(※3)5月20日には、郡によるテレワーク要請は解かれ、バーでの店内飲食やジムの屋内営業が可能となった。(州全体の経済再開は6月15日に予定)

 規制緩和とともに、3月末にウーバーが、希望する社員にはサンフランシスコやシリコンバレーの事務所への出社を収容定員20%まで許可した。同社では9月13日までに、少なくとも週に3日の出社が全社員に義務付けられる。セールスフォースでは4月中旬から、ワクチン接種済み社員には、希望すればサンフランシスコの本社や州内の事務所に最高100人まで出社を許可している。出社する社員は、週に2回、PCR検査を受けることが条件となる。同社では、収容定員20%から75%まで段階的に増やす予定だ。

 フェイスブックは、シリコンバレーの本社を5月10日に再開した。それぞれの地域の感染状況に応じ、近辺のオフィスも5月から6月にかけて、当初は収容定員10%で再開する。出社は、希望する社員に限られる。社員は7月初めまで、またはオフィスの収容定員が50%に達するまでテレワークを続けることができる。本社を含む大規模事務所を収容定員50%まで再開するのは、9月の第一週後になる予定である。その時点で、まだテレワークをしている社員には、その1ヵ月後には出社を求めるという。  

 フェイスブックでは、社員にワクチン接種を促しているものの、ワクチン接種を出社の条件とはしていない。社内では、ソーシャルディスタンスやマスク着用を義務付けし、可能であれば、毎週PCR検査も行うという。社員向けの無料の食事やシャトルバスは、当分の間、再開の予定はない。

※3.アメリカでは、感染対策の営業停止やマスク着用は、州政府だけでなく、郡や市も独自で定めており、州政府の命令とは違うこともある。(それぞれの首長が共和党と民主党化に分かれる場合、相反する命令が出されるケースも多々)さらにマスク着用に関しては、各小売業者や飲食店が独自のルールを設けている。なお、CDCが出すのは指針のみで、法的効力はない。

グーグル
 グーグルでは世界各地の事務所で、社員自らの意志で、すでに社員の6割近くが出勤している。同社では5月に入り、オフィス再開計画を社員に通知したが、約6割が週に数日の出社、2割が別の事務所に転勤、2割がテレワークを続けることになるという。大半の社員が週に3日出社し、2日は自宅に限らず好きなところでテレワークすることになる見込みで、出社した際には同僚との協働に集中することが期待される。出社日は、担当の製品や職種によって決まり、職種によっては、州に3日以上出社が必要な場合もあるという。なお、社員は出社が可能な地域に居住することになっている。

 他のオフィスへの転勤を希望する社員は、6月半ばまでに申請が可能となる。転勤許可は、新たな事務所で事業目標を達成でき、かつ業務をするのに必要なインフラがあるかどうかで決まるという。給与は、勤務地によって左右される。9月以降は、2週間以上テレワークを希望する社員は、許可が必要となる。

 グーグルでは、より柔軟な働き方を可能にするために、新たな制度も導入する。
・上司の許可を得れば、年に最高4週間まで、勤務地以外でのテレワークが可能。これによって、旅先でも仕事ができるようになる。
・プロジェクトに集中できるよう、担当製品や職種別に社内会議の時間を限定。
・パンデミックの間、社員がリチャージ(リフレッシュ)できるよう「リセット日」を増やしているが、それを続行。
・完全にオフィスやチームから離れたところでテレワークができるポジションを増加。

Spotify

 シリコンバレーの企業が次々に、オフィスの再開計画を発表する中、テレワークを恒久的に続けるというのがSpotifyだ。同社では、勤務場所に関して柔軟に対応するため、今夏からMy Work Modeを開始する。これによって社員は、会社でも在宅でも両者併用でも勤務可能となり、どこで働くかは社員一人一人が上司と相談の上、決定する。近くにオフィスがない地域で働きたいという社員には、コワーキングスペースの経費を支給するという。(ただし、時差や現地の法人法などを鑑みて問題がなければ。)


金融業界

 今年2月に、アメリカ各地のファンドマネジャー88人に対して行なわれたアンケート調査では、82%が「オフィスは閉まっている」、52%は「オフィスがいつ再開されるか不明」、28%が「再開は2021年7~9月」と回答していた。しかし、ワクチン接種が進み、ニューヨークの大手投資銀行は次々に、6月からの再開を発表している。

 最大手のJPモーガン・チェース(米国内では商業部門の「チェース」として知られている)では、昨年から支店やコールセンターの社員は交代で出社していた。他の社員も、5月から出社が始まり、7月までに社員の半数が出社する予定だ。収容定員の50%が常時出社するよう、月火出勤組と木金出勤組に分け、出社とテレワークのローテーションを組むという。なお、同行では出社する社員に、ワクチン接種は義務付けてはいない。

 同行CEOは、一部テレワークを許可して「柔軟な働き方を支援はするが、テレワークは社内勤務の代替とはならない。9月か10月にはコロナ前の状態に戻る」と公言している。また、「私としてはズーム会議は、もう終わり。すべてキャンセルする」とも発言し、自らの経験から「ズーム会議は対面の会議には置き換えられない」とも断言している。

 さらに、クライアントに「訪問してきた競合他行と契約をした」と言われ、「当行の社員は訪問しなかったために、クライアントを失った。痛い教訓だ」としており、対面重視が揺るぐことはなさそうだ。とくに「若い社員や野心のある社員にとって、アイデアが自然発生するには、テレワークは適していない」と言い切っている。

 大手投資会社(投資ファンド運用)のブラックストーンでも、今月、競合他社に先駆け、6月7日までに出社するよう全社員に通知した。同社では、昨夏、希望者には出社を許可していた。同社では出社を始める前に、社員にワクチン接種を義務付けている。また、社員の通勤にタクシー代を出すなど、感染防止対策に2000万ドル費やしており、感染リスクを理由に「出社しない」という選択肢はないということのようだ。

 大手投資銀行のゴールドマン・サックスも、今月、全社員に6月14日までに出社するように通知している。同行では、2020年に出社した社員は全体の10%未満であったものの、「当行のような革新的で、協働を要する(先輩の仕事を見ながら学ぶ)見習い制度的文化には、テレワークは適さない。テレワークはニューノーマルではなく、異例の事態であり、できるだけ早く元に戻したい」とCEOが発言している。とくに、今年採用した新入社員3000人ほどは、昨年のように、今年も「リモート入社」というのは避けたい意向で、今夏、大手銀行として初めて、対面のインターンシッププログラムを再開する予定だ。

 先述のファンドマネジャーに対するアンケートでは、「恒久的にテレワークをするのは全社員の25%未満だろう」と答えた回答者が78%で、「50%以上が恒久的にテレワークを続けるだろう」と答えたのは10%だった。また、出社する社員にワクチン接種を義務付けると答えたのは3%のみだった。


他の業界

 金融業界と同様、保守的で知られる法曹界も、当初からテレワークには否定的だった。5月13日時点で、法律事務所の出社(オフィス占有)率は44%を超えており、業界平均28%に比べて高い割合となっている。とくにヒューストンの法律事務所では61%で、業界平均42%を大きく上回っている。

 また5月には、コワキングスペース運営のWeWorkのCEOが、「会社に非常にエンゲージした社員ほど出社をしたがる。エンゲージ度が一番低い社員が、在宅勤務を心地よく思っている」と発言して物議をかもした。同CEOも、「協働と革新には、対面での作業が不可欠」という考えで、「誰も出社したくないとは言っていない。問題は、週に5日出社するか3日出社するかであり、まったく出社しないということではない」と発言している。

 このように、パンデミックによってテレワークが強要されて、デジタル技術の導入が進み、より効率的に経営が行えるようになったものの、長期的には大した変化は起こらず、アフターコロナの事業経営は、それまでと大して変わらない、という見方も根強い。


ワクチン接種

 アメリカでは、秋の新学期に向け、職員や学生にワクチン接種を義務付ける大学が増えている。また、クルーズ船会社も、続々と乗組員や乗客全員にワクチン接種義務付け始めている。(これは、米当局にクルーズ禁止を緩和してもらうのが狙いでもあるが。)ただし、ワクチン接種を社員に義務付ける企業は、全体的に少数派である。5月に大手法律事務所が様々な業界の企業の顧問弁護士600人超に対して行ったアンケート調査では、社員に「ワクチン接種を義務付けている」という企業は4%のみであった。83%は「ワクチン接種を推奨」に留めている。

社員に対するワクチン接種
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 また、回答企業の36%が、ワクチン接種を促す理由は「マスクを着用しなくてもいいため」と答えており、5月に出されたCDCによる「接種者はマスクを着用しなくてよい」という指針に影響を受けていると思われる。ワクチン接種を義務付けない理由は、半数以上が「希望する社員は、すでに接種済みである」と答えたが、3分の1近くは「ワクチン接種の義務化は違法なため」と回答している。

 実際のところ、知事が共和党員の州では、次々に雇用主によるワクチン接種の義務付け、非接種の社員や応募者に対する差別を違法にする法案を通している。(※4)これらの州では、「接種済みの社員のみ出社許可」というのも違法となる。

 一方、先週、米雇用機会均等委員会(EEOC)が「雇用主は、出社の条件としてワクチン接種を義務付けることができる」という指針を発表した。ただし、(喘息や各種アレルギーを含む)障害、または宗教が理由でワクチン接種をしない社員には、「障害をもつアメリカ人法(ADA)」に応じ、マスク着用やソーシャルディスタンス、テレワークを可能にするなどの救済処置を講じなければならないとも述べている。

 ただし、そうした処置によって、その社員の障害の有無が顕在化し(たとえば、マスク着用者は非接種者)、個人情報の開示となり得るため、そうした社員による訴訟は免れないと見る法律家も少なくない。またEEOCでは、上記のようにワクチン接種を促すために(ワクチン接種が勤務先によって行なわれない限り)インセンティブを与えることは違法ではないとの見解を示している。なお、大量のエッセンシャルワーカーを抱える大手小売業者では、社員にワクチン接種を義務付けるのではなく、接種のために社員に半日有休を与えたり、現金(25ドル等)を支給したりするなど、接種に対しインセンティブを与えている。

ワクチン接種を義務付けを巡る訴訟

 EEOCの指針が出された翌日、テキサスの病院に勤務する職員ら100人以上が、「勤務先にワクチン接種を義務付けられ、しない場合は解雇という選択を迫られた。これは州法および連邦公衆衛生法違」として勤務先を提訴した。※5実は先週もノースキャロライナで、ワクチンを接種したかどうか(個人情報)を上司に伝えるのを拒否したために解雇された警官が、義務付けは連邦法違反だけでなく違憲として、勤務先を提訴している。

 また、郡職員全員にワクチン接種を義務付けたウィスコンシンの郡では、「接種をしなければ解雇」というのは州法違反であるという高齢者施設の職員の弁護士から提訴の警告を受けた後、郡議会が多数決で義務付けを却下した。このように、訴訟のリスクだけでも雇用主にとっては義務付けを回避する十分な理由になっている。

 医療機関や高齢者施設では、インフルエンザ予防接種も、医療機関や高齢者施設では職員に義務付けているところもあるが、義務付けた病院で、宗教を理由にワクチン接種を拒んだ職員が勤務先をEEOCに訴えるケースが、過去にいくつかあった。雇用主側は、たいてい和解で決着をつけているが、実質、職員側の勝訴で、勤務先より賠償金が支払われている。ただし、職場で感染クラスターが起きた場合、やはり社員に提訴される可能性もある。また、「社員全員が接種するまで出社したくない」という社員もいる(接種している人の方が安全なはずなのだが。)企業にとっては、どちらに転んでも悩ましい事態である。

 なお日本では、医療従事者へのワクチン接種が始まった時点で、厚労省がワクチン接種の有無を雇用や解雇の条件とする差別行為は許されないという見解を示している。

※4. 州によっては、(雇用主としての)州政府に限って禁止しているところも。たいていの州では、医療機関での義務付けは除外。

※5.どのワクチンもFDAが認証したのは緊急使用であって正式認可は受けていないことから、人体実験を禁じるニュルンベルク綱領も提訴の理由として言及。同綱領は、第二次世界大戦後のニュルンベルク裁判の一環として、ナチス政権下、非倫理的な処置を行ったドイツ医師らが裁かれたを医療裁判の結果、生まれたもの。

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。