若者(ミレニアム世代)向け共同住宅(co-living)

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2016.09.07

以前、デジタルノマド支援ビジネスで、コワーキングスペース(co-working space)を紹介したが、最近では、働く場所だけでなく住む場所も共有(co-living)しようという動きが出ている。
日本でも、数年前から「ソーシャルアパートメント」という呼び名で、既存のマンションに共有スペースを設けた集合住宅が登場している。
アメリカやイギリスの場合、ニューヨークやサンフランシスコ、ロンドンなどの大都市では家賃が高騰してしまい、若者(をはじめとする庶民)には手が届かなくなったという背景がある。かつ「月単位で借りられ、長期間の契約をしなくていい」、また「居住者らのコミュニティがある」という点も、シェアリングエコノミー好きのミレニアム世代に人気の理由だ。
こうした共同住宅(co-living space)は、上の世代には「コミューン」や「学生寮の大人版」に見えてしまうのだが、当事者の若者らは「職住一体のコミュニティ」だという。(筆者から言わせると、高サ住・グループホームの若者版。)
寝室は個室(ワンルーム)で、リビングや台所、浴室・トイレを共有という形が標準だが、後述するようにジムやスパ、レストラン、映画館まで備えた巨大コミュニティも登場している。
今回、紹介するPodShareは、寝室も共有するという点が他のco-living spaceとは異なる。ホステルと AirBNB(民泊)の中間のような形態だが、目指しているのはあくまでも住居と職場が融合したコミュニティだという。
ただし、VCから資金を調達しているスタートアップもあるが、アメリカでは採算が合わず、昨年すでに廃業した co-living spaceもある。少々、乱立気味なので、今後、淘汰が予想される。

【PodShare】

URL http://podshare.co/
企業名 PodShare
本社所在地 ロサンジェルス
創業 2012年
代表 Elvina Beck(創業者兼 CEO)
フェイスブック https://www.facebook.com/PodShare
ツイッター https://twitter.com/PodShare
リンクトイン https://www.linkedin.com/company/podshare
従業員数 20人以下
資金調達 自己資金+父親が出資

 

 
■ 創業経緯
「一人で孤独な夜を過ごしたくない」という創業者が立ち上げ。創業者自身もPodに居住。
「世界の孤独を解消する」ために住所のある(オフラインの)ソーシャルネットワークの構築を目指す。

ロサンジェルスやハリウッドで3か所の施設を運営。
 

■ 仕組み
自称「ホステルではなく、ソーシャル旅行者向けco-living space」「初の会員制住職一体コミュニティ」物件の所有よりも(スペースへの)アクセスを重視–1つのビルで100室提供するよりも、地域のあちらこちらで100のPod(二段ベッドのベッド)を提供することに意義。

宿泊客に二段ベッドのベッド(pod と呼ばれる)を提供。各施設に10~30のベッドを用意。
ベッドは向かい合うようになっており、宿泊客は他の宿泊客との交流を余儀なくされる。
各ベッドにテレビもついていて、日本のカプセルホテルに似ているが、ドアはなく、プライバシーはない。ベッドは昼間、机として使える。
コンピューター付きワークスペースや録音スタジオ、プロジェクター用大スクリーン(皆で映画鑑賞など)、ゲーム用コンソール、シャワー・トイレ、冷蔵庫、食料や飲物は共有。

利用者は観光客、ノマドワーカー、起業家志望者、長期賃貸物件を探す人たちなど主に20代。
8割以上が海外からの旅行客。9割近くが一人旅。7割以上が3泊以上宿泊。
安く泊まりたいというだけでなく、「AirBNBでは他者との交流が十分にできない」という交流重視の若者に人気。

誰でも申し込めば泊まれるわけではなく、会員になるには入居審査がある。
ネットで応募し、審査ではフェイスブックやツイッターなどのSNSのアカウントのリンクが求められ、かつ「なぜロサンジェルスにいるのか」「共有スペースに住んだことがあるか」といった質問がされる。

会員になれば、どの施設も使え、たとえば施設①に宿泊していれば、施設②のワークスペースも利用可能。
なお、会員は「Podstrian」(pedestrian もじった造語)と呼ばれる。

オープン以来4年で宿泊客累計5,000人。問題を起こしたのは0.1%のみ。
Yelpやトリップアドバイザーでのレビューはパーフェクトに近い。
リピーター14%。16人はPodShareのタトゥーを(入れるくらい気に入った)。

マネジャー常駐。

■ 収益モデル
宿泊料。
施設によってツインベッド一泊40~50ドル、週250ドル。ダブルベッド1泊70ドル。
ワークスぺースのデイユースは1時間5ドル、1日15ドル、1週間70ドル、1ヵ月250ドル。(飲物、スナック込み。)

ビルのオーナーからビルを賃借して家賃を支払い、居住者にサブリース(又貸し)するいう形。

■ 今後の展望
ソーシャル予約アプリを試験展開中。予約の際に他の宿泊客の出身国や職業を閲覧できるようにし、「この人と知り合いたいので、ここに泊まろう」ということを可能にする。

将来、ジムやプール付きの施設を開設予定。

■ 代表的な米英ソーシャルアパート

Common
2015年10月より、ニューヨーク(ブルックリン)で3棟(計82室)運営。2016年にサンフランシスコにもオープン。

ITスクール(スタートアップ)の創業者が、学生や講師が非常に住居費の高い都市で悪列な環境でルームメートと揉めながら暮らしているのを知り、よりよい住居環境での共同住宅を開発することに。過去2年でVCより2,335万ドル調達。

個室と共有スペースからなるスペースを1ヵ月~1年の賃貸契約で提供。
たとえば、ニューヨークの1号目は4スイート19室、スイートごとにリビングや台所などの共有スペースから成る。バスルーム(浴室+トイレ)は2室で1つ共有。
光熱費やインターネット、トイレットペーパーや洗剤、シャンプーなどの消耗品、ランドリー、週1回の共有スペース清掃サービス込み。コーヒーやビールは飲み放題。(19室のこの物件には300人が申し込み。)

ポットラック(料理持ち寄りパーティー)や映画鑑賞会などのイベントを常時、開催。
読書会など居住者が独自でクラブやイベントも主催可能。
Commonでは活動費として居住者一人あたり50ドルの予算。

家賃は、ニューヨークでは、物件により一年契約で月1,455ドル~3,190ドル。
サンフランシスコでは月2,600ドル~。一部、バスルームと簡易調理スペース付き部屋もあり。

下記のようにコワーキングスペースが運営しているco-livingと違い、居住者の8割が会社員。

WeLive
ニューヨークを拠点に世界23都市でコワーキングスペースを運営する WeWork の住居版。
(WeWorkではゴールドマンサックスやVCより14億ドル調達。大企業の参入など競争激化により家賃減額を強いられており、2016年の利益見込みも7割以上減。)

同じビルでWeWorkのフロアとWeLiveのフロアがあり、住職一体。
一番安いのは寝室をシェアするプラン。
WeLive居住者は独自のソーシャルアプリで連絡を取り合う。施設でのコミュニティイベント情報もアプリで。

Commonplace
ニューヨークのアップステートで、2階はコワーキングスペースで1階が住戸という形態。
21室のうち2室だけをAirBNBで短期利用者に賃貸。長期賃貸と短期賃貸が共存できるかを試験中。全室バスルーム付き。

Collective
ロンドンで550室の世界最大のco-living spaceをオープンしたところ。
ジムやスパ、レストラン、映画館、コンシェルジェ完備。
個室2室で簡易キッチンを共有。各階に30~70人でシェアする台所とダイニングエリア。
宿泊料週225ポンド(294ドル)~。

こうしたソーシャルアパートメントに共通しているのは、

<メリット>
・家具やアメニティ付き。通常のアパートよりオシャレで最新の電化製品整備。
・一般の賃貸物件では、家賃の3倍の所得が求められるなどの入居審査があり、家賃の高い地域では、とくに若い人にはハードルが高い。また入居時の保証金も必要ない。
・会員になると、同じ会社が運営する他のビルへの移転や利用も可能。
・とくに移転してきたところで地域に不慣れな人には、友人作りに役立つ。

<デメリット>
・ニューヨークやサンフランシスコでは、普通のワンルームのアパートは3,000ドル以上するので、それに比べれば安いが、台所や浴室などを共有することを考えると安くはない。
・スペース共有の共同生活で、プライバシーは限られる。
・いったん友人ができ、地元の生活に慣れれば、メリット激減。(そうすると退去して、普通のアパートに入居。結局、長くても一年の滞在で、主に短期滞在者向けか?)
・台所やバスルームのない寝室を賃貸すると法律に触れる自治体や州もあり。(それで「会員契約」のような形態にしている運営企業も。)
 
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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。