「越境リモート採用」サービスの実態は? 米・欧など各国の状況レポート

Japanese woman working from home in new normal life
2021.11.30

 コロナ下で、世界的に労働者の越境移動が制限され、先進諸国では人材不足が相次いでいる。アメリカでは、コロナを機に、2020年に3000万人近くのベビーブーム世代が早期退職をした(失業して再就職をしなかった人を含む)。飲食業界では、コロナ感染リスクや低賃金を嫌い、労働者が戻ってこない。

 イギリスでは、コロナ以前からEU離脱のために、EU諸国(とくに東欧)からの労働力の移入が減り、トラック運転手の不足は、サプライチェーンの停滞にまで発展している。

 そうした中、ワクチン接種が進み、各国で入国緩和が進むと同時に、労働者の争奪戦が始まっている。イスラエルでは、ネパールから500人の医療従事者を受け入れる予定で、ニュージーランドではビザ保有者16万人以上に永住権を与えるという。10年以上、出生率の減少が続いているカナダでは、2023年までに120万人の移民を受け入れる方針だ。

 

越境リモート採用

 一方、2020年に190ヵ国の20万人以上を対象に行われたアンケート調査によると、「すでに海外で働いている」または「海外で働きたい」という人は、過去6年、減少傾向にある。2014年には63%だったのが、2018年には57%に減り、2020年には50%に減っている。(※1)この傾向は、中東と北アフリカ以外の地域で、世界的に見られる。

 その理由は、各国が移民を規制する政策を打ち出し、かつ昨年からはパンデミックで海外渡航が難しくなったことがある。さらに、リモートワークが普及してからは、現地居住のまま海外の企業で働くことが可能になったことも一因となっている。

 今年、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、カナダ、イスラエル、シンガポール7国の企業700社の採用責任者や経営陣を対象に行われたアンケート調査では、2021年にリモート採用を検討しているのは、イギリス企業が92%で最も多く、7か国平均の78%を14ポイント上回っていた。(※2)

 回答企業の83%が、フルリモートまたはハイブリッド勤務に移行予定だが、コロナ終息後、フルリモート勤務というのは回答企業の29%のみで、54%がハイブリッド型を導入する予定である。なお、職場勤務に100%戻るという企業が一番少ないのはシンガポール(6%)で、イスラエル(9%)がそれに続いた。一番多いのはアメリカ(29%)で、フルリモート勤務(21%)の割合を上回っている。

 越境リモート採用する予定という企業は、どの国でも半数以下で、イギリスとカナダの企業では48%、イスラエルでは47%、シンガポール44%だった。一番消極的なのはアメリカ(41%)で、59%が米国内のみで雇用予定ということだ。フランスとドイツの場合、リモート採用には積極的なものの、EU内に限定する企業が多い。越境リモート採用に消極的な理由として、47%が現地雇用法の遵守、29%が人事の業務負荷・経費を挙げている。

 イギリスでは、EU離脱後、EU労働者の扱いが問題になっているが、英企業の3分の2がEU労働者の雇用を続けるつもりだという。リモートワークの普及によって、EU在住の人材を雇用することが可能になったが、EU離脱後は、そのためには英企業はEUに事務所を設立する必要がある。一方、越境リモート採用をしたい職種としては、大半の国でソフト開発・IT関連が多く、シンガポールで44%、カナダで41%、ドイツで40%だった。

 日本でも、11月にパソナが、アジアのエンジニアをリモートワーカーとして日本企業に紹介する越境リモート人材サービスを開始した。同社の場合、個人事業主としての業務委託、または同社の海外子会社が雇用してBPOサービスとして提供するという形を取っている。なお、パソナに先立って、同様のサービスを提供しているスタートアップ企業もある。

※1.BCG x Network: Decoding Global Talent, Onsite and Virtual、2021年。2020年10~12月に行なわれ、 回答者の大半が20~40歳で、3分の2が大卒以上。
※2.Omnipresent, How do Employers in Different Countries Feel about Employing Remotely in 2021: A Comparative Report

リモートワーカー雇用の形態

 さて、企業が他国に在住の人材をリモートワーカーとして雇用する場合、主に下記のような形態がある。

 1)現地で事務所・法人開設
 国内に拠点を持たず従業員を雇用するというのは違法、または制限のある国が多い。拠点がなくても、人を雇うことによって、税務、雇用法遵守など、さまざまな義務が生じる。
各国に、すでに拠点のある大企業であれば、これは問題ないだろう。たとえば、アマゾンでは、グローバルにテレワーカーを雇っているが、40ヵ国ほどに事務所を所有しているため、そうしたことも可能である。なお、アマゾンでは、在宅勤務職で「コスタリカ居住者のみ」といった制限を設けている国もある。

 2)個人事業主・フリーランサーの雇用
 海外に適切な人材を見つけた場合、フリーランサーとして雇用する企業は少なくない。ただ、個人事業主(独立請負業者)に関する法律も国によってさまざまであり、ただ発注して支払をすればすむというわけではない。たとえば、イギリスでは、今年から個人事業主であるかどうかは、個人でなく、企業が決めることになり、被雇用者か個人事業主かの地位決定書を作成し、(日本と同様)個人事業主でも支払い時に源泉徴収が必要となった。

 とくに、事業主が複数のクライアントから受注しているのではなく、受注先が、その企業のみであれば、その企業と雇用関係があると見なされることが多い。マイクロソフトをはじめ、多くの企業がアメリカでは敗訴し、独立請負業者(independent contractor)ではなく従業員と見なされ、追徴課税や罰金の支払いを命じられている。

 また、フリーランサーを雇っても、その国で収益活動が生じたと見なされれば、法人税の支払義務が生じる国もある。

 3)PEOの利用
 PEOとは、Professional Employment Organizationの略で、アメリカなどでは80年代から普及している。日本語では「習熟作業者派遣組織」 と訳され、期間工の無期限派遣の代名詞のように使われているが、元々、ブルーカラー職向けのものではない。(※3)

 国によっても定義が少し違う場合もあり、PEOは、下記のEORと同じ意味で使われることも多々ある。しかし、正確には、PEOでは、社員の雇用主は元の企業のまま、またはPEOと共同雇用し、人事機能をPEOにアウトソースする。そのため、人材を雇用する企業では、その国で、法律上の拠点が必要となる。

 なお、アメリカで、以前からPEOや下記のEORが普及している背景には、法人は州法に基づいて設立され、税制や雇用法なども州によって異なるため、州をまたいだ雇用や営業活動には、各州の法律に準じなければならないためである。つまり、国内でも、複数の法律に従わなければならず、‟越境”の管理の煩雑さを抱えているということだ。

 4)EORの利用
 EORはEmployer of Recordの略で、「登記上の雇用主」という意味である。EORは、雇用主に代わって人材を雇用し、その企業に派遣する。日本語で「無期雇用派遣」というのは、この辺を意味する。採用からオンボーディング、賃金支払・福利厚生、現地法遵守まで、従業員管理に関しては、すべてEORが行う。ただし、職場での日々の作業などは、クライアント企業が担う。

  
グローバル人事プラットホーム

 PEOやEORは、コロナ以前から、クライアント企業のために海外での人材雇用を担っていたが、コロナを機に、リモートワーカーの対応にも乗り出している。

 一方、越境でのリモートワーカーの採用サポートに特化したスタートアップ企業も登場しており、下記では、そうしたPEO・EORを紹介する。こうしたPEOやEORは、海外150~160ヵ国でのリモートワーカー雇用、人事サポートが可能とうたっているが、各国でのサポートは現地企業と提携して提供している場合が大半である。

Omnipresent(英)
 2019年にロンドンで創業したOmnipresentは、2020年に資金を調達して展開を開始したが、すでに150ヵ国でのリモートワーカーの雇用をサポートしている。Omnipresentのスタッフ自身が世界各国に居住し、フルリモート勤務をしている。

 同社では、人材の獲得は行っておらず、人材獲得は、クライアント企業が独自で行なう。同社では、オンボーディングおよびオフボーディング(社員退職の際のサポート)、地元の法律に準じた雇用契約書の作成、試用期間に関するアドバイスやサポート、人事評価や処罰プロセス構築のサポート、給与支払、福利厚生の提供を行っている。

 また、同社のプラットフォームには、24のHRIS(Human Resource Information System)の統合も可能で、既存の人事データを容易に移行することができる。

ITスタートアップ企業が利用
 Omnipresentのサービスを利用している企業は、今のところ、大半が小さなIT企業である。たとえば、ロンドンでのIT人材獲得競争は非常に激しいため、ドイツやイタリアでIT技術者を採用したスタートアップ企業がある。別のロンドンのITスタートアップ企業では、2020年にドイツからロンドンに移住した社員が、ドイツに戻ってリモート勤務をしたいということだった。当初、契約社員として雇うことも考えたが、ドイツの関連法は非常に複雑のため断念し、OmnipresentのEORサービスを利用することにした。同社では、ルーマニアでもリモート社員を採用している。

 また、一年でスタッフを3倍にすることを目指しているアメリカのITスタートアップ企業は、理想的なエンジニアを見つけたが、カナダ在住であった。同社では、一人のためにカナダに事務所を開設するよりも、OmnipresentのEORを利用することにした。地元法遵守もうまく行ったため、今後も海外で雇用していく予定だという。

 別のアメリカのITスタートアップ企業では、以前、勤めていた会社で同僚だったブルガリア出身のソフトエンジニアを雇いたかったが、そのエンジニアはアメリカで就労ビザが得られず、1年後にカナダに移住していた。そこで同社は、Omnipresentを通じ、そのエンジニアを雇用することにしたが、2週間で就業を開始することができたという。そのエンジニアは、今ではOmnipresent(EOR)に雇用されているが、やっている仕事や福利厚生などは以前と何も変わっていない。

WorkMotion(独)
 2020年にベルリンで創業したWorkMotionは、主にヨーロッパの企業向けに、160ヵ国で人事サポートを提供している。8月には、アメリカのVCから資金を調達し、ヨーロッパ市場の拡大を進めている。WorkMotionでは、クライアント企業は、下記のどちらかの形態を選ぶことができる。

 1)EU雇用主(PEO)
 WorkMotionが、クライアント企業が希望するヨーロッパの国で本社を登録し、納税番号を取得する。地元の法律に準ずる雇用契約の作成、給与設定などをサポートし、クライアント企業が見つけた人材を、その企業の社員として雇用する。そして、WorkMotionが、地元の法律に準じて月々の給与支払や人事管理サポートを提供する。たとえば、ポーランドでIT人材が5人必要となった場合、4~6週間で人材のオンボードが可能だという。PEOは、下記のような企業向けである。

・近い将来、人員を大量に雇う予定はない。
・社員と直接、関係を築きたい。
・社員にストックオプションなどを提供したい。
・その国で、営業員が契約を締結するといった商業活動を行う予定はない。

 2)EOR)
 クライアント企業に人材を派遣する形のEORは、下記のような企業に向いているという。

・複数の国に進出したい。
・自社の社員として人材を雇用したくない。
・すぐに雇いたい(4~6週間は待てない)。早ければ4日で雇用可能。

 <EORの例>
 ドイツのIT企業では、特殊なスキルを備えたIT技術者を探していた。数カ月経って、やっと見つかったエンジニアはポーランド在住で、コロナ禍の真っただ中、ドイツへの移住はできないということだった。交渉の結果、両者は、一年、ポーランドからテレワークをし、その後、ドイツに転勤することで合意に至った。その企業は、ポーランドでの事務所開設も検討したが、煩雑さのために断念していた。

 フリーランサーとしての契約も考えたが、そのエンジニアは、ポーランドの健康保険が利用できるフリーランス契約を行っていたため、それも断念せざるを得なかった。(ワクチン接種に保険が必要だった。)クライアント企業は、WorkMotionを通じ、16日後には、そのエンジニアとポーランドの雇用契約を締結し、ポーランドの健康保険に加入したまま、2週間後には勤務を開始することができた。

 ・GEO
 PEOにしろ、EORにしろ、WorkMotionでは、新たな人材の獲得は行っておらず、人材は、あくまでも企業の方で見つける必要がある。ただし、下記の図にあるように、各国のEORを取りまとめるGEO(Global Employment Organization)では、人材のリクルートを行なうことも可能である。GEOが人材を発掘し、オンボーディング以降は各国のEORが担うという仕組みだ。(既存のPEOやEORには、人材獲得も行っているところがある。)

 また、雇用における大半の義務、リスクはWorkMotionが担うが、雇用の終了時だけ、退職金などは企業の負担となる。WorkMotionでは、今のところ、個人事業主の管理(労働時間管理、支払等)は行っていないが、2022年にサービスを開始する予定である。「離職率を下げたい」「勤務時間をコントロールしたい」という理由でフリーランサーを社員にしたいという企業もあり、その場合、社員への移行をサポートしている。

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 <料金>
社員を雇う国によって、料金は異なり、

PEO: 社員一人あたり月199ユーロ(約2.5万円)から
EOR: 社員一人あたり月399ユーロ(約5万円)から

 ・WorkMotion Passport
 WorkMotionでは、一時的に国外で働きたいという社員のためのプラットフォームも提供している。社員はWorkMotionのプラットフォーム(WorkMotion Passport)を通じて、海外でのリモートワークを申請する。企業の規則やその国の法律遵守のリスクなどの検討から、社内承認プロセス、必要な書類の提供まで、すべてが自動化されている。

 企業にとっては、こうした柔軟な働き方を提供することで、優秀な人材を維持し、社員満足度を高めることが狙いである。

海外リモートワーク申請管理画面
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                                                                                         (WorkMotion.com)

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。