オンデマンドの学生作業員による引越サービス

引っ越し
2017.07.11

今回、紹介するのは、何十年と変化のない旧態依然の引越業界に、ITとUberのビジネスモデルで革新をもたらしたスタートアップである。
アメリカでは、引越業者を雇うのは全市場の25%のみで、75%は家族や友人を動員するセルフ引越といわれる。(賃貸経営をしている筆者は、庶民の転居を目のあたりにするが、8万 ドルくらい年収があっても、自分で大型トラックを借りて、他の州から引っ越してくる人もいる。)
アメリカでは、引越業者を雇っても、当日、現れなかったり、(クッションを一つずつ運んだりするマッチョ作業員もおり)横でお客が手伝わないといけなかったり、まともな引越業者を見つけるのは容易ではない。(長距離で引っ越すと、ほぼ必ず、一部荷物が紛失したり、他のお客の荷物が入っていたりする。)
友人知人に頼んだりして素人を雇うと、家具をそこら中にぶつけられたりするので、学生を雇うのは不安だが、同社サービスに対するレビューは「作業員は時間通りに現れ、礼儀正しく、よく働く」と概ね良好である。
セルフ引越を選ぶ人は引越費用を節約するのが目的だが、手ごろな料金で引越業者と同様、 またはそれ以上のサービスを提供すれば、潜在需要はかなり掘り起こせると思われる。

Bellhops

URL https://www.getbellhops.com/

企業名 Bellhops, Inc.
本社所在地 テネシー州
創業 2013 年
代表 Cameron Doody(会長兼社長CEO兼共同創業者)
Stephen Vlahos(兼共同創業者)
フェイスブック https://www.facebook.com/BellhopsMoving/
ツイッター https://twitter.com/BellhopsMoving
グーグル+ https://plus.google.com/+CampusBellhops
従業員数 フルタイム 100 人、パートタイム 50 人
アクティブな登録学生数は約 1000 人
資金調達 VCやエンジェルより計 2100 万ドル。銀行融資 600 万ドル。

 

 
■ 創業経緯
アラバマの大学で友人だった共同創業者2人は、卒業後、地元で銀行に勤務。 就職後も二人で起業アイデアを考え続け、新入生向け大学寮引越サービスを思いつく。親がネットで申し込め、現役の学生を作業員として派遣。

2011 年、母校で学生 80 人を集め試験展開したところ、3 日で 300 件の引越を達成。
2012 年、校外(寮外)在住の学生にもサービスを拡大。テネシーのインキュベータより 60 万ドルを調達。仕事を辞め、テネシーに転居。
2013 年、学生以外からもサービスを希望する声が多く、一般住民や企業向け引越サービスも開始。他の都市にも進出。
2015 年、カリフォルニアやニューヨークのVCから 1350 万ドルを調達。
2016 年、トラックも供給するサービスを一部の都市で開始。
2017 年、シリコンバレー銀行より融資。

■ 仕組み
現役大学生が荷物の積み下ろし作業をするオンデマンドの引越手配サービス。
米中部・南部を中心に 28 都市で展開。 トラック付きサービスも 21 都市で提供。

<予約>
利用客は、(Bellhop と呼ばれる)作業員をネットまたは電話で予約。 トラック付きサービスでない場合、トラックは利用客が自分で手配。 住居タイプ、部屋数、住所、運搬家具などを入力すると、必要な時間と作業員数の見積もりが表 示される。実際の料金は、実際にかかった時間に基づく。最低料金は1時間分。


運搬する家具などの入力画面


必要な従業員数と時間の見積もり

予約にはクレジットカード要。作業完了後まで課金はされない。
24 時間以上前の予約には仕事保証。同日予約でも、通常、サービス提供可能。
引越予定時間の 24 時間前までは変更・キャンセル無料。 その後のキャンセルは予約作業員一人あたり1時間分のキャンセル料。

料金に含まれている損害賠償は、一品あたり1ポンド 60 セント。
無制限損害賠償プランは 23 ドル。

<作業員手配>
予約が入ると、その地域の作業員全員にアプリで通知。早い者勝ちで受注。 利用客には、予約の確認メールとともに担当作業員の写真を送付。

引越完了後、労働時間の確認のメールが送られ、クレジットカードに課金。作業員を評価。

引き受けるのは、近郊の引越のみ。 州外への引越は行わないが、移転先での積み下ろし作業のみであれば利用可。 ピアノや骨董品、フィットネス器具、その他高級品、危険物の運搬は行わない。 住居内の家具や電化製品の移動も依頼可能。

特徴
セルフ引越が多い理由は、引越業者を雇うとかなりの費用がかかることが最大の理由であることから、費用を下げることによって、セルフ引越を業者させるのが狙い。 各地無店舗で、モバイルプラットフォームのみで何千人という作業員を需要に応じて動員することで、既存の引越業者に比べて一般経費を大きく抑制。

利用客にとってのメリットは、
・自分で重い荷物を運ぶことなく、引越費用を抑えることができる。
1LDKの場合、平均約 365 ドル、2LDKの場合、平均約 445 ドルで、引越業者の半分以下。
・作業員一人を一時間だけでも雇うことが可能。既存引越業者では無理。
・予約・支払はすべてネットで完結。前日でも予約可能。 既存の引越業者では、何日も前に連絡し、出向いてもらって見積もりを取らなければならない 。
(それで、当日、現れないことも。)

主なターゲット層:中小規模の引越
1)18~34 歳: 学校や仕事のために頻繁に転居。
(かつ生活費削減のためと、恋人やルームメートとくっつき離れる頻度が半端ない。)
2)45~55 歳: 電化製品の移動、イベント

<Staffing>
作業員として雇うのは大学生のみ。 元々、引越作業を一生の仕事にする人は少なく、仕事が見つかるまで、または副業で行う人が多い過渡的な仕事であり、大学生のバイトに向いている。

現役学生かどうかは、大学のメルアドで認証。 体育会メンバーや予備役将校訓練課程のマッチョ系学生をリクルート。口コミでも多数応募。 応募には、ネットで申込用紙に記入し、1分の自己紹介と腕立て伏せ 20 回の動画を送付。

スマホ所有が条件。犯罪歴チェック。合格率は 50%。 審査合格後は、荷物の詰め方などを含むオンラインのオリエンテーションコースを受講。 約半数が口コミで応募。学生自身が広告塔の役割を果たす。

大学生にとってのメリットは
・仕事を選べ、数時間だけでも都合のいい時に働けるという柔軟性。
(夏休みに帰省している間だけ地元で働く学生も。)
・他のアルバイトに比べ時給が高い。
学生らの時給は 13 ドル+チップ。一時間平均計 24 ドル。
作業チームのキャプテンになると時給 15 ドル。

キャプテンは、当日の作業以外に利用客とのコーディネートを担う。 作業完了後は、利用客だけでなく、一緒に作業した同僚からも評価を受ける

各大学には、学生をリクルートする「キャンパスディレクター」を配置。 現役の学生または元学生が担う。

トラック付きのサービスでは、ドライバー兼作業員は、パートタイムの社員。

収入モデル

引越料
作業員一人あたり1時間 40~45 ドル。料金は 15 分刻みで課金。
トラック:台車+パッド+ガソリン+保険付きで 125 ドル
(別途トラックをレンタルした方が安い。)

今後の展望

今年4月に銀行より融資を受けており、近々、新たな展開を発表する予定。

アメリカで引越業者を利用する引越市場は 180 億ドルといわれ、セルフ引越市場は、それ以上のため、まだまだ開拓余地はある。ただし、一時に比べ、かなり市場を限っており、撤退した市場も多い。市場拡大を急ぎすぎたか。

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。