IT人材不足—ニュージーランド

ニュージーランド_人材不足
2017.11.06

 Daijob の創業者、Terrie Lloyd 氏の後を引き継いでCEOとなった(2002~2005 年)Jon Doherty氏は、当時、ニュージーランドより日本の方が起業チャンスがあるということで訪日したと語っていた。ニュージーランドといえば、貿易経済では農業が最大の産業であり、その頃はアメリカの中西部(田舎)のような感じであった。
 しかし、その後、IT業界は第三の輸出業界へと成長し、起業環境も向上し、スタートアップ企業も増えている。今では、ニュージーランドへの移住に挑戦する日本人IT技術者もいるくらいだ。(ただし、ネットワーク成熟度指数では、ニュージーランドは 17 位で(※1)、OECD国の中では下位にランクする。当地のネットワーク環境は、日本に比べてよくないと言われる。)

 そうしたニュージーランドでもIT技術者の不足が叫ばれており、他の業界よりも給与も給与上昇率も高いにもかかわらず、埋まらない求人数はIT業界が最高であるという。現時点でも、適格者がいないために 3000 の掲載求人が埋まっていないと言われている。
 2014 年にIT業界団体が会員企業を対象に行ったアンケート調査では、2017 年までに、国内の大学 新卒者に加え、1万人の技術者が新たに必要であるという。同国のIT業界には、毎年、新卒者 2500 人、海外から 3000 人が就職していると言われる。

 元々、移民国であるニュージーランドでは、年に 10 万人以上の移民を受け入れている。2017 年3月までの一年では、13 万人近くの流入があり、純流入数も7万人を超え(※2)、過去最高を記録した。(ただし、今夏から減少傾向にある。)
 大半のアメリカ人にとって、オセアニアは存在しないに等しいのだが、トランプ政権誕生が決まってから、左派の間でニュージーランド移住がささやかれるようになった。英語が通じ(※3)、就労・移住ビザが比較的取得しやすいという点が大きいが、IT技術者にとっては、シリコンバレーのような革新的な環境で働きながら、仕事が終われば、1時間ほどでスキー場やビーチに行けるという自然環境も人気である。
 元々、元宗主国のイギリスからの移住は多かったが、EU離脱の影響でイギリスからの移住者も増 えているという。(イギリスの年金をニュージーランドに移せる制度もあり。)

※1 世界経済フォーラム発行 2016 年版。
※2 流出国は、中国、イギリス、オーストラリアからの順で多い。
※3 カナダやメキシコのIT企業もアメリカ人技術者を勧誘。

 ニュージーランドのITハブとして”Silicon Welly”の異名を持つ(※4)ウエリントンの人材斡旋会社では、IT求人の2割を海外からの応募者で埋めるという。従来、イギリスと南アフリカが中心だったが、 最近ではオーストラリアや南米からの応募が急増しているという。
 従来、LinkedIn や SNS で、適格な人材を見つけることが多いということだが、ウエリントンでは、今年、下記のようなユニークな試みを行った。

自治体によるグローバルキャンペーン

 首都でもあるITハブのウエリントン(4つの市が集まり、人口 50 万人)には、900 社ほどのスタートアップ IT 企業が集まっている。
 今年2月、同市の地域経済開発局(WREDA)が、グローバル人材斡旋会社の Workhere New Zealand と共催で(移民局とIT業界団体も協力)、地元での就職を希望する上級・中級IT技術者を海外から招待するLookSee Wellingtonキャンペーンを行った。
 同市の企業 52 社が参加したが、登録は無料で、参加企業は応募者を採用するまでは費用はかからない。参加企業による登録求人数 265 に対し、キャンペーンウエブサイトを通じ、世界各国から4万8000 以上の応募があった。
 グーグルやフェイスブック、アマゾン勤務の上級技術者からも応募があったという。元々、アメリカ人をターゲットとし、当初、アメリカ人の応募が多かったが、結局、インドからの応募者が最多となったという。
 参加企業が応募者の中から 100 人を選び、地元IT企業による展示会、TechWeek’17 の開催に合わせ、5月に世界各国から 93 人が面接に訪れた。(上位5か国は、米 29 人、カナダ9人、イギリス8人、インド7人、アルゼンチン6人。)
 現時点で、面接を受けた 93 人中、64 人が採用承諾または採用企業と協議中であるという。WREDAでは、採用後、ビザの申請をし、実際に移住するのは、20~40 人と見込んでいる。

費用

 面接に招待された応募者の旅費は、主催者側の負担による。海外からの旅費と5日間の滞在費として、一人あたり 2750 ドルの費用がかかると試算され、WREDA がキャンペーン費用として(地方税収から)30 万ドルを提供した。(以下すべてNZドル)
 LookSee キャンペーンを通じて人材を採用した企業は(応募者が直接、企業に応募しても)、一人あたり 9000 ドル以上を支払う契約になっており、そのうちの一部がWREDAに還元される。

※4 ニュージーランド国外では、あまり知られていない異名。

9000 ドルは Workhere に支払われると思われるが、応募者との契約は Workhere だけなのか、Workhere と
WREDA の両方なのかは、明らかにされていない。

成果

 キャンペーンサイトのビジター数は 200 万を超え、サイト登録者数も予想の 10 倍に達した。(当初、アクセスが多すぎ、サイトがダウン。)
 LookSeeキャンペーンの最大の目的は、世界のITコミュニティに、海外で存在感の薄いニュージーランド、ウエリントンを知らしめられることであり、キャンペーンは世界各国のメディアで取り上 げられ、その目的は果たした。WREDAでは、従来のマーケティング方法(1000 万ドル相当)よりもコスト効果は格段によかったと評価している。
 人材不足の地元企業が経験豊富なIT技術者を獲得できるというメリット以外に、移住者は、地元経済に一人あたり年6万ドル近く、計 460 万ドルの貢献をするものと試算されている。

批判

 ニュージーランドでも、何か月も職が見つからないという新卒者や中高年IT技術者がおり、自国では職が見つからないのでオーストラリアで就職したという自国民がいる中、税金を使って外国人を採用するというプログラムに対し、当然、批判がある。とくに、民間企業の採用は民間企業の費用で行われるべきで、税金を投入するのであれば地元民のスキルアップに使われるべきだという声は少なくない。

他の自治体にも

 実際に、ウエリントンで面接を受けることができたのは 93 人だが、その週は都合が悪かったという応募者もおり、書類審査には 1000 人ほどが合格したという。
 また、応募者のうち2万人が、その後もNZでの就職に興味を示しており、そのうち3分の2が「採用後に旅費を払い戻してもらえるなら、ニュージーランドまで面接に行く」と回答している。
 そこで、こうした応募者らを、クライストチャーチやオークランドの企業に斡旋することで話が進んでいる。8月末にクライストチャーチで地元スタートアップIT企業と共催で、関心のある地元企業に、書類審査を合格した応募者に関する情報を提供した。

他の業界でも

 なお、今後 10 年で5万人以上の人材が必要という建設業界でも、政府と自治体、民間企業が共催で、今月からLookSee Build NZキャンペーンを開催している。今のところ、20 社ほどが参加し、土木エンジニアやプロジェクトマネジャーなどの高スキル人材も含み、最高2万人を採用する計画だという。
 とくにイギリス、アイルランド、アメリカ、アラブ首長国連邦をターゲットに、「採用されたら、応募 者の旅費を払い戻す」という条件で、面接は来月行われる予定である。

移民制限

 一部の業界では人材不足が叫ばれる一方、他国と同様、自国民を優先すべきだとの声も高い。移民増加によって、住宅価格が高騰し、公共サービスを圧迫しているという不満は増しており、今春、技能職ビザ発行条件の見直しが始まっている。
 9月末の総選挙の結果、反移民政策を唱える野党の連立政権が生まれ、移民制限は具体化しつつある。新政権は、近年、とくに急増する留学生を減らすことで(中国とインドからが急増)、年間移入数を最大3万人削減するという。また新政権は、外国人による住宅購入も禁止する予定である。

起業家勧誘

 一方、低スキル労働者ではなく、起業精神のある高スキル人材を呼び寄せるべきだという声もあり、今春、ニュージーランドで革新的なスタートアップを始めようという起業家や投資家向けに、Global Impact Visa という特別な投資家ビザが試験展開されることになった。ビザの有効期間は3年だが、その後、永住権の申請が可能である。
 ビザは、毎年 100 人(20 人はニュージーランド在住者)に発行され、4年で計 400 人に発行される
予定である。
 ニュージーランドには、以前から起業家ビザや投資家ビザがあるが、それぞれ 10 万ドル、300 万ドルといった投資が必要とされる。それでは、資金のない若い優秀な起業家や自国の資産を現金化できない経験豊富な起業家を惹きつけられないことから、今回のビザが設けられた。
 非営利のインキュベーターと組み、応募者の選別などは、そのインキュベーターが行う。

 なお、ウエリントンの LookSee キャンペーンを共催しているグローバル人材斡旋会社について、下記で簡単に紹介する。

Workhere New Zealand

URL https://www.workhere.co.nz/

企業名 Workhere New Zealand
本社所在地 オークランド
創業 2013年
Facebook https://www.facebook.com/WorkhereNZ
Twitter https://twitter.com/WorkHereNZ
LinkedIn https://www.linkedin.com/company/workhere-new-zealand/
YouTube https://www.youtube.com/user/workherenewzealand
登録者数 8万 2000 人、応募者月 4470 人

 

海外からの人材に特化する人材斡旋会社。

求職者向けサービス

 サイトに掲載される求人は、すべて海外からの応募が可能なもので、外国人と在外ニュージーランド人をターゲットとし、海外経験を求める求人が多い。
 採用企業の業種は、ITが主だが、建設、科学研究、教育など多岐にわたる。
 就労ビザの場合、まずは雇用主が必要となるので、ニュージーランドに渡る前に職探しが必須となる。同社ウエブサイトでは、就労ビザの取りやすい高需要のスキル、就労ビザの種類、移住や 住宅探しに関する情報をなど提供している。各種支援サービスは、提携企業が提供する。

採用企業向けサービス

・求人掲載:一件あたり月 249 ドル。
・求人パッケージ:複数の求人掲載可能
・ベーシックプロフィール:会社基本情報掲載。1~10 件の求人パッケージ込み。
・写真プロフィール:写真入り会社詳細情報掲載
・プレミアムプロフィール:上記に加え、求人掲載数無制限。プロモーション、求人・ニュースキューレーション

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。