2022年4月から日本で「育児・介護休業法」の改正スタート…欧米の「パパ育休」事情は?

Happy father holding toy and playing with his baby boy or girl while sitting on sofa, smiling man wearing maroon t shirt showing to child orange fish, happy parenthood.
2022.03.31

 日本では昨年(2021年)、大幅に改正された育児・介護休業法が4月から施行される。10月からは産後パパ育休(出生時育児休業)が創設され、育児休業の分割取得も可能となる。また、企業には、育児休業を理由とする不利益取り扱いの禁止・ハラスメント防止、雇用環境の整備が義務づけられる。2023年からは、育休取得状況の公表も義務づけられる。

海外との比較
 2021年に発表された各国の育児政策を比較したユニセフの報告書によると、日本は、OECD諸国およびEU41ヵ国の中で、育児休業制度においては1位であった。(※1) 日本では、父親に認められている有給(給付金給付の)育児休業の期間がもっとも長く、かつ父母に認められた育児休業の期間が、唯一、同じ長さであるためだ。

usatoday

 ただ、日本の父親による育休利用率は低く、厚労省のデータでは、2020年に12.65%であった。政府は2025年までに、これを30%まで引き上げることを目標としており、今回の法改正は、そのための施策の一環でもある。

 一方、昨年11月、朝日新聞が行った調査では、主要企業100社のうち42社で、2020年に育休を取得した男性社員の割合は30%を超えており、20社では70%に達していたという。4社では100%に達しており、積水ハウスでは、最低1ヵ月取得という条件で100%の取得率を達成している。(※2)

 なお、先述のユニセフの報告では、父親向けの育休期間(paternity leave)は、母親向けの育休より、かなり短い傾向にあり、父親向けの育休機関は、各国平均して育休期間全体の10分の1である。少なくとも3分の1に達しているのは、アイスランド、日本、韓国、ポルトガルの4ヵ国のみであった。

※1.UNICEF「“先進国の子育て支援の現状(Where do Rich Countries Stand on Childcare?.)” 2021年6月
※2.The Asahi Shimbun “More than 30% of dads now choose to take parental leave,” 2022年1月8日

 

ヨーロッパ

 EUでは、男女間の不平等、雇用格差を是正し、育児や介護と仕事の両立を可能にする柔軟な働き方を実現するための「(親と介護者向け)ワークライフバランス指令(Work-Life Balance for Parents and Careers)」が、2019年に制定された。加盟国は今年8月1日までに、これを国内法に盛り込まなければならないことになっている。同法は、主に父親の育児休業の普及を目的としており、加盟国には最低10日の有給のパパ育休の制定が義務づけられる。この規定は、パートタイム社員や有期雇用契約社員にも適用される。

  2019年のEUの資料では、法制化されているパパ育休が一番短いのがギリシャで、2日のみであった。1週間というのが、中欧国を中心に6ヵ国あった。(※3) また、父親の育休の取得率は、北欧では概して70%を超えているものの、ギリシャやクロアチアでは数%と、EU内でも国によって大きな隔たりがある。そこで、EUを通して有給のパパ育休を義務化し、取得率を引き上げようと言うのが狙いだ。

※3.European Parliament: “At a glance: Infographic.)” 2019年3月

EU指令
 同EU指令によってEU加盟国が国内で法制化を求められる最低ラインは、下記の通りである。

 誰が、こうした権利を有するかは、各国が規定できることになっている。また、育休や介護休暇取得後、原職復帰する社員の権利保護も義務づけられ、休暇前と同等のポストに戻り、それまでに取得していた権利などは、そのまま保有できるものとする。

 なおEUでは、「産休(maternity leave)」を母親が取得する産前産後の休業、「パパ育休(paternity leave)」を父親、または、もう一方の親(国によっては同性である場合も)が取得できる休業、「育児休業(parental leave)」を産休やパパ育休の後に、どちらの親でも取得できる休業と定めている。

 1)父親の育児休業(Paternity Leave)
・最低10日の有給(給付金あり)義務づけ。10日連続取得か分割取得が可能かなどは、各国が規定。
・既婚か未婚かは関係なく、父親であれば取得可能。
・最低でも、その国の病気休暇と同等の有給を義務づけ。女性の産休と同じレベルの有給を推奨。
・育休を取得する権利は勤務年数には関係ないが、有給を勤務半年以上の就労者に限ることは可能。

 2)両親の育児休業(Parental Leave)
・最低4ヵ月。
・そのうち2ヵ月は、パートナーとシェアしてはならない。つまり、両親それぞれによる2ヵ月ずつの取得を義務づけ。取得しない場合は消失。
・その2ヵ月は有給を義務づけ。給付額は各国で規定。
・育児休業は、柔軟な形で(パートタイム勤務や分割して)取得可能。

 3)介護休暇
・年に5日。
・取得条件などは各国が規定。
・有給を推奨。

 4)柔軟な就業形態
・8歳以下の子供の育児をする就労者は、柔軟な働き方(短時間勤務やリモートワーク)を求める権利あり。
・雇用主は、正当な理由があれば、拒否することも可能。
・柔軟な就業形態は半年以内に限定。

なお、女性の育児休業は、以下のように定められている。
・最低14週間の産休を取得する権利。そのうち2週間は義務。
・産休は、最低でも、その国の病気休暇と同等の有給。

 
北欧
 EUで、法廷の育児休業期間が一番長いのがスウェーデンで、子供一人に対し、両親は二人で通算490日(約16ヵ月)取得できる。そのうち390日は、医療休暇として給与の80%が給付され、残りの90日は一日SEK180(約2000円)が給付される。80%受給するには、育休取得前に継続して240日就労していたことが条件である。

 出産後、最初の一年は、両親がともに最高30日まで育休を取得することが可能である。490日のうち、父母それぞれが90日の取得を義務づけられており、パートナーに振り分けることは禁止されている。消化しなければ消失する。

 こうした父親も必ず取得しなければならないというクォータ制を取り入れたのは、(EU加盟国ではない)ノルウェーが最初で、その後、北欧全域に広がった。ノルウェーでは、70年代から父親の育休が導入されていたが、取得する男性は皆無に近かった。1993年に、育休のうちの4週間の取得を父親に義務づけるクォータ制導入とともに、取得率が大幅に増えたという。

 現在、ノルウェーでは、48週間の育児休業が認められており、取得するには、過去10ヵ月のうち6ヵ月就労し、既定の所得以上を得ていることが条件である。父母ともに、15週間(給与の100%給付)または19週間(80%給付)がクォータとして割り当てられている。父親は、子供誕生後7週間目から取得可能である。16週間(100%)または18週間(80%)は、父母のどちらが取得してもよいことになっている。給付額は、直近3ヵ月の給与に基づいて決められ、雇用主、国のどちらから給付を受けてもよい。

 
女性の育休・産休
 EUでは、女性の出産前後の産休は、EU指令で最低14週間と設定されており、そのうち2週間は義務づけられている。2018年の時点で、女性の育休は、産前の休業が一番長かったのがイギリスの11週間、次いでスペインとリトアニアが10週間であった。一番短いのは、スウェーデンとギリシャで2週間だった。28ヵ国中14ヵ国で、給与の100%が給付されていた。

 産後の育休は、ブルガリアが一番長くて52週間(給与の90%給付)、次いでイギリスの41週間、ギリシャの40週間であった。28国中、半数で給与の100%が給付されていた。ブルガリアやギリシャのように、法定の産休が長い国では、パパ育休の取得が少ない(育休を取得する父親は稀な)傾向がある。これは、根強い性役割分業が要因と見られている。

EU指令遵守
 今年施行の指令に準ずるために、過去2年、各国は次々に国内法を改正している。イタリアでは、2019年に父親の有給育休は4日から7日に、2021年には10日に引き上げられた。

 ベルギーでは、2021年からパパ育休が10日から15日に引き上げられた。最初の3日間のみ給与の100%が給付され、EU指令の最低ラインを満たしている。

 スペインでは2021年から、パパ育休が12週間から、産休(ママ育休)と同じ16週間に引き上げられた。双子の場合、2週間増えて18週間。片方が10週間を超えて取得してはならない。

 フランスでも、2021年、有給のパパ育休が14日から28日間に引き上げられた。このうち、最低1週間の取得が義務となる(それまでは義務づけはなし)。父親の7割が取得していたものの、無期雇用契約の場合、8割、有期契約雇用の場合、6割と格差があり、その是正も議論されている。同法は、性別を問わず、同性カップルの場合、二人目の親に適用される。休暇中の給与の大半は、国の社会保障機関から給付され、雇用主の負担は3日分となる。

 オランダでは、パパ育休は1週間だが、指令が施行される今年8月から、父母ともに9週間の有給育児休暇制度が施行される。その後、無給で17週間、最高計26週間まで取得可能となる。給与は、社員の日給の7割、最高、最低賃金の7割まで給付される。9週間は、子供が生まれてから一年以内に取得する必要があるが、残りの17週間は、子供が8歳になるまで、いつ取得してもよい。

 ヨーロッパでは、育休中の給付金は、日本と同様、雇用主でなく、社会保障からの支出が主流である。
 
 

アメリカ

 アメリカでは、1993年に育児介護休業法(FMLA) が成立し、就労者は育児や介護のために、最高12週間(3ヵ月)、無給で休業が可能となった。同法の適用条件は、最低12週間の勤務経験があり、かつ社員50人超の企業で最低1250時間勤務していることだ。

 このため小企業勤務者は、無給の育休も取得可能ではない。ただし、後述のように一部の州では、小企業の社員、または勤務日数でも適用できるようにしている場合もある。(なお、連邦政府職員には、最高12週間の有給の育休が認められている)同法では、高所得者を除き、育休取得後の原職復帰の権利が定められている。(つまり、育休取得を理由に解雇したり、降格したりすることは禁じられている)

 また、夫婦が同じ企業で働く場合、一人12週間ではなく、二人で12週間の取得に限られ、まず有休や病休を消化してから(育休にあててから)、育休の取得を促す企業も少なくない。なお、アメリカは、先進国で唯一、(有給の医療休暇だけでなく)有給の(給付金のある)産休・育児休業が法律で定められていない国である。ただし、コロナ禍で、育休・介護休暇を制定した州が増えており、連邦政府でもいくつかの法案が議会に提出されている。

 
州法による義務化
 ただし、州によっては有給の育休を義務づけている場合もある。2004年、カリフォルニア州が、初めて有給の育休・介護休暇を義務づける州となり、今では西海岸と東海岸(リベラル州)を中心に10州で法制化されている。(オレゴン州では2023年、コロラド州では2024年より施行。)

 カリフォルニア州では、12ヵ月の間に最長8週間(2ヵ月)、直近の給与に基づき、週に50~1300ドルの給付金が給付される。コネチカット州やマサチューセッツ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ワシントン州では、12ヵ月(または52週)の間に最長12週間(3ヵ月)の育休が認められている。給付金は、州の最低賃金の60倍(コネチカット)、または州の平均賃金の64%~90%が給付される。

 取得条件は、社員8人以上、25人以上の企業勤務、最低20週間就労、同じ雇用主で12週間勤務など、州によって様々である。ニューヨーク州では、週20時間以上、最低26週間継続して勤務、または週20時間未満の場合、最低175日継続して勤務していることが条件である。ワシントン州の取得条件は、無給の育休の場合、同じ雇用主で最低1年勤務、有給の育休の場合、社員50人以上の民間企業で820時間以上勤務と制定されている。

 なお、こうした給付金は、社員に対する給与税によって捻出し、保険プログラムによって運営されている。

 
企業の福利厚生
 こうした状況から、アメリカでは、ほとんどの州で、有給の育休を取得できるかどうかは、雇用主次第ということである。連邦政府のデータでは、2018年時点で有給の育休を取得できたのは、民間企業勤務者の16%のみであった。(※4) また、育休を取得可能な就労者の25%は、賃金上位10%の就労者で、賃金最下位10%では4%のみであった。大企業でも、有給の育休を取得できるのは、月給制の社員(ホワイトカラー)に限り、時給制の社員は取得できないという企業は珍しくない。このため、学歴や職種によって大きな格差が生じている。(アメリカの時給制社員は、日本の非正規社員に類似した待遇である)

 また別の調査では、2018年時点で有給か無給かにかかわらず、女性の70%が産休を取得し、その期間は平均10週間であった。約半数が5週間取得し、9週間以上取得する女性は25%のみであった。約3割は、まったく育休を取得せず、産後すぐに職場に復帰している状態だ。無給のため、生活のために復帰せざるを得ないということである。(※5) なお、国際労働機関(ILO)では、最低12週間の産休を求め、14週間を推奨している。

 2018年のアンケート調査では、回答者の74%が「連邦政府による産休の法制化が好ましい」と答えたものの、半数以上が「税金からの捻出で、所得税が450ドル以上引き上げられるのであれば、法制化に反対する」と答えている。また、アメリカでは、父親の育休は、取得できる企業でも、平均1週間である。

 有給の育休を提供する企業は、2018年には40%のみであったが、コロナ禍を契機に増え、2021年には61%に増加している。(※6) なお、2018年時点では、産休制度を設けている企業では、有給の産休は平均4週間で、80%が給与を100%給付していた。

・有給の育休制度を設けている主なIT企業

 まだ有給の産休制度を設けていた米企業が全体の20%(大半が大企業)だった2015年に、ネットフリックスが、最高1年間の有給の育休制度を開始すると発表して話題になった。ただし、当初、取得可能なのは、ストリーミング部門の月給制社員(ホワイトカラー)、約2000人のみであった。その後、内外から批判を受け、時給社員も同等の育休の取得が可能となった。

 同じ頃、フェイスブック(現メタ)のCEOが「子供が生まれたら二ヵ月の育休を取得する」と公言し、同時に世界中のフェイスブック社員を対象に4ヵ月の有給の育休制度を開始した。

 続いてマイクロソフトも、有給の産休20週間とパパ育休12週間の制度を開始している。(ワシントン州では、2020年から社員50人以上の企業に12週間の有給の育休を義務づける育児介護休業法が施行されている。)また、コロナで学校が休校になったことから、2020年には12週間の育休取得も可能にした。

  今年に入り、グーグルでは、全世界の社員を対象に、子供出生時の有給の育休を18週間から24週間に引き上げた。その他の育休は、12週間から18週間に、介護休暇は4週間から8週間に引き上げられた。ツイッターには、20週間の有給の育休制度があるが、今年2月に、11月に就任した新CEOが、第二子誕生後に数週間の育休を取得すると発表して話題になった。

※4.Bureau of Labor Statistics “Access to paid and unpaid family leave in 2018.)” 2019年2月27日
※5. Mercer “2018 Survey on Absence and Disability Management,” 2018年10月
※6.Mercer“survey highlights: employers revisit time-off benefits,” 2021年

 
 
                  
※掲載内容は、作者からの提供であり、当社にて情報の信頼性および正確性は保証いたしません。

有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。