飲食・観光業界向け人材派遣マッチングサービスが進化中

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2022.12.01

前回、報告したように世界各地で空前の人手不足に襲われているホスピタリティ業界だが、欧米では、ホスピタリティ業界に特化したオンデマンドの人材派遣サービスが登場している。

雇用主にとって、スタッフの採用は時間と労力がかかるプロセスだ。とくにホスピタリティ業界では、前回、見たように、離職率が高い。たとえば、20人面接を予定しても、当日2人しか現れず、その後、研修を行った挙句、3ヵ月後には辞められるといった経験をしている雇用主は少なくない。これでは、とくに小規模の飲食店や宿泊施設にとっては負担が大きい。

しかし、ITベースの人材マッチングサービスを利用すれば、スマホから5分で求人広告を掲載でき、独自で人材を審査する必要もない。

また、長時間労働で知られる飲食業界だが、臨時のスタッフを雇うことで、社員に休んでもらうことも可能となる。前回、報告したように、就業者は柔軟な働き方を求めており、社員の離職を防ぐ手段としても有効である。

さらに、同じ派遣スタッフを何度か雇って気に入れば、フルタイムの社員として採用することもできる。自社で採用、審査することなく、新規スタッフを試用して、社員として採用を決められるという点をメリットに挙げる飲食店もあるくらいだ。 

 

アメリカ

アメリカには、飲食店を含むホスピタリティ業の雇用主と、単発の求職者をリアルタイムでマッチングを行うサービスがいくつかある。

こうしたサービスがターゲットにしているのは、主に業界経験者だが、他の飲食店で社員として働きながら、副業として単発の仕事をするという人もいるという。

 
Qwick

2018年にフェニックスで創業し、今では全米23都市で展開している Qwickは、社員300人を擁し、先日、4000万ドルの資金をVCから調達した。

同社に登録している求職者は30万人ほどで、同社のサービスを利用している事業主は7000以上にのぼる。顧客には、飲食店だけでなく、フォーシーズンズやヒルトンなどの大手ホテルチェーン、スタジアムやイベント会社なども含まれる。

2022年には、同社のサービスを利用する事業主が倍増し、登録求職者も70%近く増加した。同社では、求人シフトが埋まる率は98%だという。

・仕組み

求職者は、アプリを使ってプロフィールを入力し、勤務可能な日時を選択すれば、アルゴリズムによって、その人のスキルや経験にマッチしたシフト(仕事)が紹介される。

応募条件は……
・18歳以上
・飲食業界での1年以上の勤務経験、応募するシフトに関連した経験
・ネットにつながる携帯電話の所有
・ポストに資格や免許が必要な場合、それを保有
・動画チャットを使ったバーチャルオリエンテーションの受講。5~10分
・賃金支払のため、決済処理サービス(Swipe)のアカウント開設

シフトを入れた後、勤務時間に遅れる場合は、アプリのシフトカードにある「遅刻」ボタンを押すと、勤務先に連絡が行くようになっている。賃金は、勤務終了後30分で支払われる。Qwickを通じて支払われる賃金は、各州の最低賃金を平均65%上回っているという。Qwickでは、手数料として、賃金の40%を徴収している。

派遣スタッフが必要な雇用主は、アプリを通じ、埋めたいシフトを掲載するだけである。派遣スタッフを雇った後、気に入れば、気に入った就業者のリストを作成できる。正社員として雇うことも可能で、その場合、Qwickでは、手数料は徴収していない。

・双方向の評価システム

シフト勤務が完了する度に、雇用主と就業者によって双方向の評価が行われる。就業者に対しては能力と信頼性に関し、5段階で採点が行われる。評価項目には、下記が含まれる。

・時間厳守、服装(適切な服装をしているか)、勤務態度
・勤務(シフト遂行)履歴
・ドタキャンや無断欠勤は減点の対象。シフトのリマインダーメッセージを確認しているか
・開始直前のシフトを受け入れるとボーナスポイント。また、評価が5つ星の場合もボーナスポイント

入れていたシフトをキャンセルした場合は、減点されるだけでなく、その後のシフト(求人)は閲覧できなくなる。キャンセルが、勤務開始時間に近ければ近いほど、ペナルティは厳しくなる。たとえば、勤務時間前24時間以内にキャンセルした場合は3日間、6時間以内であれば7日間、シフトを入れることができなくなる。無断で欠勤、または勤務時間開始後にキャンセルした場合、それまでに入れていたシフトは、すべてキャンセルされ、2週間シフトを入れることができなくなる。

なお、評価結果は、その後のマッチングに利用され、スコアの高い就業者ほど優先してマッチングが行われる。

 
Gigpro

2020年に南部チャールストンで創業したGigproは、今では、南部を中心に10数州で展開している。創業者は、経歴20年のベテランシェフで、コンサルタントとしてクライアントのために開発したメニューのお披露目で、多くの来場者が予定されていた日に、洗い場のスタッフが突然、来れなくなり、途方に暮れたときに思い付いたという。

コロナ禍で、多くの就業者が飲食業界を去ったが、彼らに話を聞いたところ、一番の理由が低賃金と自由の利かない勤務形態だったため、就労者が働きたいときに働くことができ、相場より高い賃金を提供する仕組みを考案した。対象職種はコックや給仕人、皿洗いなどだが、飲食店だけでなく、ホテル、ケータリング業者、農場、清掃業なども含まれる。

登録の仕方などは、Qwickとほぼ同じである。ただし、勤務後の評価は、雇用側が就業者に対して行なう一方向だけで、就業者が雇用主に対しては行わない。終業さは5つのシフトをこなせば、完遂率100%となり、予定勤務時間の24時間以内にキャンセルをすると減点となる。就業者の平均スコアは、5段階で4.94だという。Gigproの手数料は、派遣スタッフの賃金の18%と、Qwirckに比べて低く設定されている。なお、これには、給与税や労災保険料などが含まれる。アメリカでは、小規模事業者では社員に健康保険を提供しないケースが多いが、Gigproでは、就業者が希望すれば、最初の2か月は同社が保険料を負担し、その後は任意で継続可能である。

 

イギリス

経済の悪化が伝えられているイギリスでは、インフレ率が10%を超えており、消費者信頼感が急落している。

今年第四半期に行われたホスピタリティ業界のアンケート調査によると、回答者の96%が「エネルギー費の高騰」、93%が「食品価格の高騰」を経験しており、35%が2022年は「赤字」、または「年内に廃業せざるを得ない」と答えている。(※1) 同時に、77%が「顧客が減少している」と答えており、85%が「今後、状況は悪化する」と予想している。

また、9月に金融機関が行ったアンケート調査では、一年の利益の大半を稼ぎ出すクリスマスの繁忙期を迎え、消費者の半数以上(52%)が「生活必需品以外の消費は控える」と答えている。(※2) さらに、62%が外食を控え、3分の1近くが、職場には、自宅から昼食を持参しているという。

人手不足によって賃金も上昇しているため、事業者は、コスト高と消費額減少のダブルパンチに見舞われている。

こうした中、イギリスでも、飲食店と求職者をマッチングするサービスがいくつか誕生しているが、学生やバリスタに特化したものを紹介する。

※1.UK Hospitality, BBPA (British Beer and Pub Association), BII (British Institute of Innkeeping), Hospitality Ulster
※2.Barclays 2022年9月

 
Stint

ロンドンのStintは、飲食店に対し、働き手として学生をマッチングしている。当時、大学生だった兄弟が、2018年に立ち上げたのだが、兄は投資銀行からのオファーを辞退し、弟は大学を休学して事業に専念したという。

当初は、派遣スタッフを集めるのに、クラスメートのリクルートから始めたというが、今では、登録している学生は7万5,000人以上にのぼっている。同社のサービスは、全英32都市でホスピタリティ業者1,000以上が利用しており、小規模な飲食店だけでなく、大手ピザチェーンや大手ホテルチェーンなども含まれる。同社を通じ、週に20人の学生を雇うという飲食店もある。

・仕組み

雇用側は、最短2時間からシフト求人の掲載が可能である。応募には顔写真と税務関連の書類の提出が必要で、5分あれば学生が労働許可を所有しているかどうか確認できるという。求職者は、アプリで働きたい日時を入力するだけで、やはり、アルゴリズムによってマッチングが行われる。

同社が扱う作業は単純作業のみのため、学生には勤務経験は求められず、ほとんどの求職者が未経験だという。同社では、シェフなどスキル・経験が必要な職種には対応していない。求職者は、シフトを入れる前に、下記のように、求められる作業のリストを閲覧することができる。作業リストは、Stintが雇用主と相談して作成し、これによって、雇用主は派遣スタッフがいつ、何人何時間必要かを把握できる。

・グラス磨き
・刃物類磨き
・テーブルでの水の補充
・テーブルセッティング・片付け
・食洗器への食器セット・取り出し
・床掃除

Stintが学生に求めるのは、定時出勤、出勤時のあいさつ、自己紹介、退勤時のマネジャーへのお礼などだ。なお、出勤・退勤時は、アプリでQRコードをスキャンすることになっている。また、黒のTシャツ、白のシャツなど、ユニフォームとなる一定の衣服の用意も求められる。

派遣スタッフに支払われる時給は10.54ポンドだが、雇用側には一時間2.95ポンドの手数料が徴収される。勤務時間から72時間以内の募集の場合は、手数料が高くなる。雇用主が、派遣スタッフを社員として採用する場合は、Stintに1,500ポンド支払うことになっている。大口顧客の場合、カスタム契約となる。同社も、双方向の評価システムを導入しているが、就業者によるものは匿名になっている。

・売上増

雇用側は、こうした単純作業をする派遣スタッフ(アルバイト)を雇うことで、社員をより重要で、収益につながる作業に専念させることができる。

アメリカの大手メキシコ料理チェーンが、ロンドン市内の店舗7店でStintを利用したところ、昼食や夕食の混雑ピーク時に1時間半~2時間、必要なだけスタッフを増員することで、売上が増加したという。これによって、閑散期の人件費も削減でき、サービスが滞りがちのピーク時の顧客満足度向上にもつながった。

 

雇用主のソフト画面

雇用した学生数、学生の平均評価スコアなどを表示

Stint

 
Barista on Tap

2017年にロンドンで創業したBarista on Tapでは、バリスタのマッチングに特化している。今では、オーストラリアやアメリカにも進出している。

同社が派遣するバリスタの多くが、口コミを通じて紹介されるという。登録するには、業界で最低2年の経験が必要で、かつスキル試験において、さまざまな環境で多様な機器を使いこなせることを証明しなければならない。スペシャルティコーヒー協会の資格を保有しているバリスタもいるという。求人シフトは、最低6時間から掲載可能である。派遣バリスタに、バリスタ業務以外をさせることは不可である。

賃金は、ロンドンでの一時間12ポンドだが、48時間前の通知であれば13ポンド、24時間前であれば14ポンド、当日であれば15ポンドと、急であればあるほど、料金が上がる仕組みだ。ロンドン以外では、1ポンドずつ低い設定になっている。これ以外に、プラットフォーム料金としてが一時間2ポンドが加算される。なお、アメリカでは、それぞれ16ドル、17ドル、18ドル、20ドルの料金体系となっている。

 

派遣バリスタ向けの予定シフト表示画面(左)/ 雇用者向けの必要なシフト入力画面(右)

BaristaonTap

 

日本

おてつたび

日本にも、ユニークなマッチングサービスが登場している。2018年に東京で創業した「おてつたび」では、旅行をしながら働きたいという人を地域の事業者とマッチングしている。

創業者自身が地方の出身で、観光名所がないため訪問者が少ないという現状を変えたいという思いから始まった。日本各地の地域を知ってもらい、地域のファンを作るためにどうすればいいかを思案する中、東京都内でアンケート調査を行ったところ、地域の魅力をわかってもらうためのハードルとして、金銭面と「それ、どこ?聞いたことない」と地域が知られていないという点が浮き彫りになった。そこで、旅費を抑えて地域を旅行したいという人と、人手不足に悩む旅館などの宿泊施設や農家とマッチングする「短期的・季節的な人手不足を解決するためのお手伝い」を考案した。

・仕組み

事業としては、有料職業紹介事業であり、事業主と就業者の間で雇用契約が交わされる。派遣先の業種は限定していないが、4割が観光業と農林業などだという。宿泊施設での作業は清掃や配膳、調理補助などで未経験者でもできるものが中心である。派遣は最高1ヵ月の期間限定で、数日から2週間が多いという。1ヵ月以上必要であれば、何度かに分けて募集することは可能である。

交通費は就業者が負担し、宿泊場所は雇用側が提供する。応募資格は18歳以上で、雇用契約が交わされるため、ボランティアの参加は受け付けていない。賃金は最低賃金以上が求められており、金銭以外での支給も不可である。就業者にとっては、旅費を抑えながら旅行ができ、新たな経験もできるという点が魅力で、10~20代の若者の応募が中心だが、コロナ禍で仕事がなくなった飲食店従業員やフリーランサーの応募も多いという。

おてつたびではマッチングは行うが、どの応募者を受け入れるかは事業主の判断に任される。これまで紹介してきた米英のマッチングサービスのように、自動的にシフトが埋まるわけではない。若者がどんどん都会に出てく地方では、募集してもなかなか人手が集まらないが、時給だけで他地域から人を雇うことができるというのはメリットであり、かつ繁忙期だけ増員することで人件費を抑えられる。

就業者も事業者も、スマホさえあれば登録できるという手軽さも魅力である。ただし、事業者の参加には審査がある。

・古いマイナスイメージを払拭

最近、日本国内では、あまり聞かなくなった「出稼ぎ」や「季節労働者」という言葉にはマイナスのイメージがあったが、同社では、ITを利用し、「旅行」という切り口で「おてつたび(お手伝い+旅)」とネーミングすることで、そうしたイメージの刷新に成功している。

おてつたび登録者は2万4,000人、事業者は47都道府県で750件に達している。最近では、応募者が増え、倍率も高まっており、応募したら、誰でも行けるわけではない。派遣後、その地域を気に入って移住したり、地元で就職する人もいるという。ただし、おてつたびでは定住やIターンを促進しているわけではなく、雇用側が人材を取り合うのではなく、一人の人をシェアし、一人の人が2~3役こなせるような環境を整えることを目指しているという。

 
 
                  
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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。