世界的なブロックチェーン人材不足

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2019.01.22

 ブロックチェーン技術が有望視されているにもかかわらず、大規模な投資や進歩が見られないのは、人材不足が大きな要因であると言われている。たとえば、IBMやマスターカードでは、ブロックチェーン技術関連特許を、それぞれ80以上申請しているにもかかわらず、開発を進めるための人材を確保できていない。
 Glassdoorによると、ブロックチェーンの人材をもっとも必要としているのが、IBM、オラクル、フィンテックのConsenSysであり、各社200人以上を募集しているという。次に、Coinbaseなどの仮想通貨取引所、アクセンチュアやKPMGなどの大手コンサルティング会社などが続く。
 人材紹介会社によると、アジアでも、2017年に比べ、ブロックチェーンや仮想通貨関連職の数が50%増えているという。とくにPythonに長けた技術者の需要が高い。
 Indeedによると、オーストラリアやインド、シンガポール、マレーシアなどでも、(市場の動きに左右される)ビットコイン関連職よりも、ブロックチェーンや他の暗号(クリプト)関連職の方が一貫して需要があるという。

要因

人材が不足している主な理由には、下記が挙げられる。

1)大きな需要
  とにかく人材の需要が多いため、供給が追い付かない。

2)転職に興味のない人材
 すでにブロックチェーン関連スキルや経験を備えている人材は、就職先を探していない。というのは、大半が独自のプロジェクトを抱えていたり、スタートアップ企業を経営しているためだ。彼らの多くが、創業者・共同創業者、CTO、その他、高給の上級エンジニアである。

3)リスク回避
 ブロックチェーンは、金融取引やデリケートな情報のやりとりが伴うため、法律やセキュリティ順守が求められ、それを嫌がる開発者もいる。かつ順守により開発コストが上昇する。
 今年初め、Gartnerが3000人以上のCIOを対象に行ったアンケート調査では、66%がブロックチェーン技術のことは知っているが、事業に取り入れたいというCIOは、わずか22%で、中長期計画に含むというCIOは14%だった。すでにブロックチェーン技術の恩恵を受けているという回答者は1%のみという結果だった

4)未知数の将来性
 ブロックチェーンは、今後あらゆる業界で必要とされ、非常に有望な分野ではあるものの、将来は、まだ未知数である。スケーラビリティや汎用性に疑問を抱く専門家もおり、将来、別の技術に置き換えられるという懸念もある。

5)変化のスピードの速さ
 ブロックチェーン技術の標準や機能は数か月で変化し、変化のスピードが速く、常に最新のスキルを保つのは容易ではない。

6)軽視の傾向 
多くの開発者が、ブロックチェーン技術を重要なスキルと見なしてこなかったという側面も大きい。何かとお騒がせなビットコインと関連付けられることも、まともな技術と見なされない一因となっている(今も、ブロックチェーンの話題を取り上げるのは、仮想通貨媒体が多い。)多くの技術者は、一部のニッチ的なプロジェクトにしか使われないような技術を学ぶのに時間や労力を費やすのを嫌がる。

7)人材コスト
 給与にとっては後述するが、供給の限られた人材の争奪合戦で、給与が高騰しており、雇用者にとっては、ブロックチェーン人材の高給、高コストがネックとなっている。中小企業には、到底、手が出ない。

6)地理的に限定的 
 ブロックチェーンのスキル・経験を備えた人材が見つかるのは、一定の国に限られている。UpworkやGuruなどフリーランサー向けサイトでは、ブロックチェーンの人材の大半がウクライナ、パキスタン、ロシア、中国、日本、ポーランドなどに居住しているという。
 しかし、 ロンドンのブロックチェーン専門のコンサルティング会社によると、ブロックチェーン開発者の数が一番多いのはアメリカで(27,875人)、次がインド(12,709人)だという。その他、ヨーロッパ諸国が続く。なお、中国は14位で、日本は26位である。(※1)(これは、リンクトインなどのネットでの調査に基づくもので、媒体的に欧米・英語圏に有利にバイアスがかかっていると思われる。)

※1 Dappros, Blockchain developers worldwide stats (absolute va relative to population)

 1.アメリカ
 2.インド
 3.イギリス
 4.カナダ
 5.フランス
 6.ドイツ
 7.オランダ
 8.オーストラリア
 9.スペイン
 10.ブラジル

 ただし、人口に対するブロックチェーン開発者の割合を見ると、下記のように主に小国が上位を占める。人口10万人に対し、1位のマルタは46人、シンガポールは36人である。ちなみに、絶対数で1位のアメリカは8人で18位、インドは89位で1人しかいない。

 1.マルタ
 2.ルクセンブルク
 3.シンガポール
 4.スイス
 5.オランダ
 6.キプロス
 7.ソルべニア
 8.アイルランド
 9.エストニア
 10.カナダ

アメリカ

 Glassdoorによると、今年8月の時点で、アメリカには1775人分のブロックチェーン関連の求人が掲載されていたという(その多くが仮想通貨のプロジェクト)。これは、前年比300%増にあたる。
「仮想通貨(cryptocurrency)」や「ビットコイン」という言葉を含むアメリカ国内の Glassdoorの求人広告を検索したところ、ブロックチェーンのスキルを求めている頻度が多い職種トップ5は、下記の通りであった。

1.ソフトエンジニア
2.AR (Analyst Relations) マネジャー
3.プロダクトマネジャー
4.フロントエンドエンジニア
5.テクノロジーアーキテクト

 このように、ARマネジャーやプロダクトマネジャー、 マーケティングやコミュニティマネジャーなど非技術系人材の需要も高まっている。
 なお、ブロックチェーン・仮想通貨分野での求人数トップ3の企業は、ConsenSys(214)、 IBM(214)、Coinbase(63)で、他には、オラクル, Kraken, Circle, KPMG, JPモーガンなどが名を連ねている。

大企業からスタートアップへ

 アメリカでは、FAANG(フェイスブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、グーグル)のオファーを断わって、ブロックチェーンの世界に飛び込むぶエンジニアが増えている。
 フェイスブックなどを辞めて、ブロックチェーンのスタートアップ企業に転職したり、自ら起業するエンジニアも現れている。すでに成長した会社では、制約が多すぎて、イノベーションを起こすのはむずかしいというのが、その動機としてある。
 また、スタートアップ企業が、フェイスブックやグーグルで勤務経験のある人材をほしがるという一面もある。こうした有名企業に勤めている人材は優秀と見なされ、そうした人材を集めることで、資金集めのために投資家にもアピールできるからだ。
 なお、ICO (Initial Coin Offerings)で資金調達が比較的、容易になったことも、起業する技術者が増える一因となっている。
なお、フェイスブックも、今年に入り、フェイスブック全体でいかにブロックチェーンを活用するかを探求するチームを立ち上げており、ソフトエンジニアやデータ・サイエンティスト、データエンジニアなどブロックチェーン関連の求人の募集を何度かかけている。(有名人気企業が求人広告を出さないといけないというところが人材確保の難しさを示している。)
 ブロックチェーンが、シリコンバレーの優秀な人材を吸い込むスピードは、インターネット誕生以来、どのブームよりも速いという専門家もいる。

高騰する給与

 上述のようなブロックチェーン関連職の年収は、3万6000ドルから22万ドルに及び、中央値は8万4000ドルに達している。高度のスキルが求められるだけでなく、こうした求人がニューヨークやサンフランシスコなど生活費の高い都市に集中しているのも、高給の一因である。ブロックチェーンの求人の8割が15の米大都市に集中しており、ニューヨークが24%、サンフランシスコが21%を占めている。ニューヨークでは、ソフトエンジニアの年収中央値は10万ドルを超えており、ブロックチェーンのスキルが必要だから特別に高いというわけではない。(※2)
 数年の経験を有する開発者には、年収50万ドルを稼ぐ者もおり、100万ドルのサイニングボーナスを受け取る技術者もいる。こうした破格値の一因とし、資金調達のためにICOをするスタートアップ企業が増え、多大な資金が業界に流入したことが挙げられる。
 なお、仮想通貨による報酬の支払いも増えつつある。

※2 ニューヨーク市内では、年収10万ドルで家族が生活するのは容易ではない。

対策

 こうした中、人材不足も、そろそろ終焉に近づいているという声もある。
 ブロックチェーンの用途が仮想通貨だけではないことが知られ、関連スキルを習得しようという開発者が増えているからだ。過去2年ほどで、仮想通貨やブロックチェーンに関するリソースは、量、質ともに向上しており、オンラインプログラムや大学、ワークショップなど、必要なスキルを学べる場所が増えている。
 また、企業にとっては、CodementorXなどを通じフリーランスの開発者を見つけやすくなっていることがプラスに働いている。

社内教育

 ブロックチェーン関連スキルを備えた人材をリクルートすることが困難なことから、IBMなどでは社内教育を始めている。IBMは、社外の初心者向けにも無料のオンライン講座を提供している。
 また、IBMでは、コロンビア大学と提携し、コロンビア・IBMブロックチェーンおよびデータ透過性センターを設け、今年、世界中にブロックチェーン関連起業家育成のためのアクセラレータープログラムを開始した。

オンライン学習プログラム

 一流大学の講座がオンラインで受けられるMOOCのCourseraをはじめ、Eラーニング業者を通じ、ブロックチェーンに関するオンライン学習プログラムが数多く提供されている。

大学教育

 今年、スタンフォード大学がブロックチェーン研究センターを開設し、来年よりカリフォルニア大学が認定コースを提供するなど、ブロックチェーンを正規のカリキュラムに取り入れる大学が増えている。 
 アトランタにあるキングズランド大学では、10年前に、破壊的技術の教育のために認定コースのの提供を始めたが、ブロックチェーン学部を設け、ブロックチェーン開発者訓練コースで世界初の認定を受けている。教室ベースとオンラインの両方で講義を行っており、アジア各国を含め世界各地で短期集中講座も提供している。講師陣は、業界有名人を含む開発経験のある業界人から成る。
 同大学では、企業と提携し、インキュベーターやアクセラレータープログラムも提供している。

賞金(バウンティ)提供プログラム

 分散アプリケーションのためのプラットフォーム(Ethereum)では、システムのバグを見つけるなどして問題を解決すると賞金がもらえるという賞金稼ぎができる機会が増えている。賞金は仮想  通貨で支払われるが、とくに新興国の人々に稼ぐ機会と同時にブロックチェーンについて学ぶ機会を与えている。

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。