今年に入り、日本では人手不足による倒産が増えており、とくにサービス業で最多と報じられている。近年、飲食店では、高級店でも個人経営の小さな店でも、スタッフ募集の張り紙が目立つ。こうした状況は、アメリカでも同じで、日本より一足先に、数年前から飲食店でのスタッフ募集広告が目に付くようになった。
アメリカでは、新たな求人は、昨年10月末、前年同時期より100万人分増加したが、その3分の1以上が宿泊、飲食、小売業の初級レベル職であり、最低賃金の低スキル職での空職率が高い。こうした業種では、離職率も高く、100~200%というのも珍しくない。
また、アメリカでは、昨年から時給就労者の勤務スケジュールを予測可能にすることを雇用主に義務付ける州が登場し、追従する州も出てきている。アンケート調査では、勤務スケジュールが2週間前にわかれば、就労者が幸せを感じる確率が10%ポイント上昇する(65%が75%に)という結果も出ており、今後、時給就労者のスケジュールの安定化が促されると思われる。
そこで、今回は、サービス業に多い時給就労者(日本の非正規雇用者に類似)の定着率を向上させるためのモバイルアプリを開発したスタートアップを紹介する。
なお、4年前に紹介したApploiも、接客業の時給就労者向けの採用システムである。
Branch
URL | https://www.branchapp.com/ |
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企業名 | Branch Messenger, Inc. |
本社所在地 | ミネアポリス |
創業 | 2015年 |
代表 | Atif Siddiqi (CEO兼創業者) |
フェイスブック | https://www.facebook.com/branch/ |
ツイッター | https://twitter.com/branch |
リンクトイン | https://www.linkedin.com/company/branch-app | 資金調達 | 過去4年でVCより計1040万ドル |
創業経緯
創業者が、高校・大学時代に小売業でアルバイトをしていた当時、シフトの変更など勤務スケジュール管理は、すべて紙ベースであった。ところが、10年経った今も、小売業界の非効率なやり方は変わっていない。アメリカでは、就労者の約60%、8000万人近くが時給制就労者であるにもかかわらず、このセグメントは効率化から取り残されてきた。
創業者は、数年前、サービス業の就労者たちが、フェイスブックやWhatsAppなど無料のアプリを使ってシフトに関して連絡を取り合っていたのを見て、効率化のためにメッセージングアプリを開発。それが就労者の間で普及し、雇用側にも採用されるようになった。
その後、モバイルベースで、他のサービスを統合したプラットフォームを提供するに至った。
2018年には、従業員に賃金即払いができるBranch Payを展開。
仕組み
Branchでは、時給就労者用WFM(Workforce Management)アプリケーションを開発し、小売業者や飲食業者に提供している。
スケジュール管理
AIによって、時給就労者のスタッフィングのニーズを予想し、AIボットで人事管理を自動化。
従業員はスマホでシフトの確認をしたり、シフトの空きを見ることができる。
従業員には、勤務日のリマインダーが送信されるため、欠勤の減少につながる。
小売・飲食業では、従業員は、勤務スケジュールを確認するには、わざわざ出社しなければならなかったが、航空会社では、本社でCAなどの勤務日程を作成し、各地域に送付し、従業員が変更を希望した場合、時間や手間がかかる。
従業員は、チャットボットを通じて、勤務時間数や給料を確認し、それ以上、勤務できるか、どのシフトをカバーできるかなどを質問できる。
<スタッフィングの効率化>
従業員間でシフトの交換も可能。
拠点が多数ある場合、近隣の他の支店での勤務も可能。地域内でシフトをシェアすることによって、雇用主は、新たな人材を募集することなく、既存の従業員を活用できる。
アプリは、従業員間、マネジャー(店長)との連絡にも利用される。
<収入の安定化>
時給就労者は、不安定な勤務スケジュールのため、稼ぎの目途がつかないことで従業員の生活が不安定となる要因となっていたが、勤務スケジュールを前もって確認することが可能となり、給料を予測でき、必要であれば勤務時間を増やすこともでき、生活の安定につながっている。
賃金即払い
BranchPayによって、従業員は、シフト勤務後、すぐにその分の賃金を受け取ることが可能。
アメリカでは(※1)、賃金は2週間ごとの支払が標準であるが、それでは家賃、その他の支払ができず、給料前借りサービスを利用する人は、とくに時給就労者、低スキル層では、以前から少なくない。 従業員に即払いを可能にすることで(※2)、離職率が平均19%低下するという調査結果もある。
Branch Payは、シフト管理表に直接つながっているものの、雇用主の既存給与システムへの統合やシステムの変更は必要ない。また、雇用主は、Branchに給料分の資金を前もって入金する必要もない。
アプリに即払いが必要な金額を入力するだけ。いつ給料から差し引かれるかも表示。
研修
就労者は、Branchアプリを使ってスマホやタブレットから研修プログラムにもアクセス可能。
※1.最近、アメリカでは、こうした即払いシステムが次々に登場しており、大手ウォールマートにサービスを提供しているスタートアップもある。
※2.日本でも、最近、オンデマンド給料サービスが登場しているが、アメリカでは、インターネットが登場する前から、PayDay Loanという給料を担保にした高利の消費者ローンが普及しており、大手銀行も参入している。Branchのアンケート調査では、Branchアプリ利用者の70%が、過去3か月で家族や友人に借金したという。
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