今回、紹介するのは、芸能プロダクションのように、企業にフリーのIT技術者を売り込んでマネージメントするスタートアップである。クライアントはIT技術者であり、雇用先の企業ではない。
このほか、雇用側でなく、技術者らを支援する人材サービスには下記がある。
・HackMatch : ハッカーと雇用先(プロジェクト)をマッチング
・OfferLetter.io : IT技術者に雇用先との契約交渉をアドバイス、コーチング
・Hired.com : 人材に対し企業が入札
■10x Management
URL | http://www.10xmanagement.com/ |
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企業名 | 10x Management |
本社所在地 | ニューヨーク |
代表 | Michael Solomon, Rishon Blumberg, Altay Guvench(共同創業者) |
創業 | 2012年 |
顧客数 | 80人(クライアント希望者 500人待ち) |
従業員数 | 7人 |
売上 | 2013年のクライアントの報酬総額 250万ドルから推定すると、37万ドル |
創業経緯
創業者の2人は小学生時代からの友人で、1995年にミュージシャン(芸能)事務所・エンタテーメント企画会社(Brick Wall Management)を創立。
iTunesで販売用の音楽マルチメディア配信アプリを開発することになり、フリーのWeb開発者らを雇ったが、問題が生じると開発者らと連絡が取れなくなるなどトラブルに遭遇。
さらに、開発者らには交渉力やビジネススキルがゼロであることに気がついた。そうした点で、IT技術者らもミュージシャンと同じタイプであると認識し、ロックスターのように能力がある人気の技術者らを企業に売り込めるはずと、ミューシャンのようにIT技術者らをマネージメントするビジネスを思いついた。
一流のプログラマーは、ロックスターのようにスーパースターで、普通に有能なプログラマーの10倍もの生産性を有することから社名を10xに。(「シリコンバレー」というテレビドラマで、優れたプログラミングスキルの人に対し、「彼は10xer。僕はせいぜいxerがいいところ」というセリフあり。)
IT経験皆無の2人には、IT技術者のスキル診断ができない点が問題だったが、ハーバード大卒のミュージシャン兼フリーのプログラマーと知り合うことに。彼には、ちょうど大企業から仕事の依頼が来ていたところで、その契約交渉を頼まれ、引き受けたところ、自分で交渉するよりも50%増しの料金で、20分で契約が締結したことに感激される。
売り込みや料金請求などが苦手な管理作業を任せて、より自分の理想に近いライフスタイルが達成できるようになると、友人らからも「僕もエージェントに任せたい」と頼まれることになり、10xのクライアントではなく、共同経営者として加わることに。唯一、ITがわかる彼は、サンフランシスコ在住で、クライアント候補が構築したWebサイトやプログラムのチェックを担当している。
創業者ら2人は今も、音楽業界の仕事を続けており、既存の会社にIT部門を新設したという感じ。
仕組み
フリーのプログラマーやWeb開発者などを芸能プロダクションのように企業に売り込んでマネージメント。
企業には、必要な技術者やスキルを見極め、人材審査・選別、チーム編成サービスを提供。
いくらプログラミングスキルに優れていても、コミュニケーションがうまく図れない人材はトラブルを起こし得るため、10xでは面接でコミュニケーション力も審査している。
技術者側のメリット
IT技術者らは、概して売り込みが苦手で、安売りしがちであり、かつ自分の専門以外の作業、とくに事務管理作業はやりたくない。
従来、IT技術者らは、人材斡旋業者やヘッドハンターを通じて企業に雇われていたが、こうした業者のIT業界での評判は芳しくない。ヘッドハンターはIT出身でない場合が多いため、話がうまく通じないことも珍しくない。短期のITプロジェクトの場合、コンサル会社に雇われるが、エンジニアに入るのはクライアントが払う料金の半分以下であったり、使い捨てのモノ扱いであったりすることに不満を抱いている。
IT技術者らとしては、在宅勤務やノマドライフなど仕事と生活のバランスがとりやすくなったり、(ある程度、収入が確保でき)起業がしやすくなったりといったメリットがある。10xのクライアントには、海外のビーチでノマド生活を送る人も。
10xに契約交渉だけを任せるクライアントもいれば、キャリア戦略構築や人生目標達成のために同社を利用するクライアントもいるという。
同社クライアントには、Djangoの共同制作者やPHP開発の主要貢献者などの有名技術者ら、アイビーリーグ卒業者もいるが、高校中退者などもいる。UI専門や古い作動しないコードの修理専門など特別なスキルを有している人材が多い。
雇用側のメリット
雇用側は、オンラインで募集広告を掲載すると、ヘッドハンターや海外の(アウトソース)人材斡旋会社から山ほど勧誘のメールが届き、何百本という履歴書に目を通す羽目になりがちで、かつ求めている人材は、概して、そうした会社には登録していない。企業は、10xを利用することで、そうした無駄な作業から開放される。
非IT企業の場合、IT技術者ネットワークへのアクセスがない。かつグーグルやフェイスブックなどの花形IT企業は、ソフトエンジニア獲得のために莫大な報酬を提供したり、スタートアップを買収することさえあり、非IT企業には、優秀なIT技術者を見つけるのは容易ではない。
また、企業がIT技術者らとの間で抱える最大の問題はコミュニケーションであることが多く、10xを通じて雇えば、コミュニケーション力、対人スキルなども合格水準であるところが安心という企業もある。
収入モデル
IT技術者から雇用契約金の15%を手数料として徴収。
クライアントらの収入は、1年で倍増。
クライアントの大半がアメリカとカナダ在住、イスラエルに数人、その他、インド、タイ滞在者(ノマドワーカー)など。
問題点
・密なコミュニティができあがっているシリコンバレーでは、IT技術者エージェンシーモデルに懐疑的な声も。本当に優秀な技術者は、いくらでも職場、プロジェクトを選べ、「エージェントは必要ない」という有名プログラマーもいる。
・有名IT企業の場合、優秀なIT技術者らは社員の紹介などで集まるので、エージェントを必要とする技術者は、真に優秀でないとの声もある。クライアント希望者数から見て、それは一部あると思われる。
・雇用先との交渉に第三者が加わるのは、気まずい。
10xの拠点はニューヨークであるように、こうしたビジネスに対するニーズはシリコンバレー(特別地区)と、それ以外の地域の違いもあるかもしれない。また、有名IT企業と非IT企業との間では人材確保力の差もあり、シリコンバレー外の非IT企業には有益なサービスと思われる。
・ハリウッドの有名スターや有名な心臓外科医らが特別な存在であるように、本当にユニークな能力を有してロックスター並みの技術者らは、やはり珍しい存在で、いればひっぱりだこであるはずのため、10xのようなサービスは、限られたニーズしかないのではないかとの声もある。しかし、芸能事務所を使っている有名なハリウッドスターもいるので、これもニーズがないとは言い切れない。
・クライアント希望者数からして、クライアントよりも、雇用側を見つける方が難しいのではないかと思われる。企業としては、従来の方法で雇うよりも高い料金を払うことになる。
展望
10xでは、IT職種以外のクライアントも得ており、第一号はブランディング・マーケティングの専門家である。その他、市場分析、戦略プランニング、顧客開拓、製品管理などの人材も提供している。
ハリウッドのエージェンシーが、当初は俳優事務所として始まったものの、その後、脚本家や監督も扱い、結局、映画製作チーム全体をパッケージングするようになったように、10xも同様に、将来、コンセプト作りから設計、構築、テスト、マーケティングまで一貫してできるITチームを紹介できるようにしたいという。
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