【海外の就活・転職事情】ベトナム人の就活・転職観を見てみる

ベトナム国旗
2019.11.07

日本におけるベトナム人就労者

 日本で就労するベトナム人は、2018年10月時点で31万人を超えており、中国人(39万人弱)に迫る勢いで、外国人就労者全体の21%を占めている(※1)  両国の人口を考えると(14億人弱対1億人弱)、ベトナムからの就労者が人口比にして中国より一桁多いことがわかる。

国籍別外国人就労者の割合

(出典:厚生労働省のデータを基に作成)

 一方、次頁のグラフで見るように、ベトナム人の就労者の在留資格は、中国人就労者とは異なり、「技能実習」が一番多く45%にのぼっている。次に「資格外活動」が多く(39%)、そのほとんどが留学生である。
 「専門的・技術的分野の在留資格」は10%とベトナム人就労者における割合は少ないが、(※2)  人数的には中国に次いで(10万人)、二番目に多い(3万1000人)。これも、両国の人口差を考えると(かつ後述のベトナムの大学進学率を考慮すると)、ベトナムからの高度人材の多さがうかがえる。

(※1)厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(平成30年10月末現在)』
(※2)専門的・技術的分野の在留資格」とは、「高度な専門的な職業」「大卒ホワイトカラー、技術者」「外国人特有又は特殊な能力等を活かした職業」。

ベトナム人就労者の在留資格割合

(出典:厚生労働省のデータを基に作成)

 さらに、高等教育機関に在籍する外国人留学生数でも、ベトナムは中国(8万6000人)に次いで二番目に多く(4万2000人)、外国人留学生全体の20%を占めている。(※3)

日本での就労・留学動機

 日本で働きたいというベトナム人の最大の目的は、お金を稼ぐことだろう。日本で技能実習生が置かれる過酷な状況を見て、「なぜわざわざ日本に来るのか」という日本人がいるが、それはベトナム現地、とくに生活環境を含めた地方の実情を知らない発言と言える。

<ベトナムの賃金>

 ベトナムの法定最低賃金は、地域によって月1万2500円125~180ドルで、平均給与は3万円程度である。ホーチミン市の給与が全国でもっとも高く、職種や経験によって1万2000円~40万円となっている。

(※3) 日本学生支援機構『平成30年度外国人留学生在籍状況調査結果』 高等教育機関における留学生受入れ状況

 そのため、たとえ月給10万円~12万円でも、日本は稼ぐ場所として魅力的なのである。韓国でも同等の給料が得られ、日本と並んで人気の渡航先だ。ベトナムから出稼ぎに行く先としては台湾が一番人数が多いのだが、台湾では平均給料が7万~8万円と低い。さらに中東では4万~6万円しか稼げない。
 ベトナム人就労者を求める日本企業にとっては、他の日本企業以外に、韓国企業や台湾企業が競争相手といえるだろう。

<地方出身の低スキル層>

 ベトナムでは、海外で就労するベトナム人からの海外送金がGDPの8~10%を占めており、海外への労働力輸出は国策でもある。なお、その大半が地方出身の低スキル層である。
 ベトナムは社会主義だが、日本よりも貧富の差は激しく、ホーチミンやハノイなど大都市で起業する若者の多くは、親が裕福で、親の資金で起業をする。(私自身、息子のために、海岸の近くに喫茶店店舗を現金一億円で購入したケースを知っている。)
 当然、そうした層は海外に出稼ぎに行く必要はなく、あえて海外移住や留学をするならば欧米を選ぶ。(なお、ベトナム戦争時に、アメリカやカナダ、ヨーロッパに難民として定住した人たちがいるが、彼らやその子供世代がベトナムに帰国したり、起業などの資金提供をしたりもしている。)

<就職難>

 ベトナム教育・訓練省によると、2018年時点で、大卒者のうち20万人ほどが失業中であった。その最大の理由として、大学の質が挙げられる。ベトナムにある200校以上の大学のうち、アジアでトップ400に入るのは、わずか5校である。理論中心の旧態依然としたカリキュラムが使われており、授業内容が現実社会と乖離しているという批判がある。また、講師が数的にも質的にも乏しく、適格な講師が見つからないために提供されない科目があるという。
 そのため、後述するように、企業のニーズと応募者の資質との間のミスマッチが起こっている。
 私費の留学生には、ベトナムで大学を卒業し、就職活動のために、日本で日本語学校や専門学校に入学する人が多いが、彼らの大半が文系である。彼らは、日本語能力や専門知識を身に付け、日本国内またはベトナムの日系企業での就職を目指している。

<日本語教育>

 日本企業の進出が盛んで、日本企業との提携をさらに進めたいベトナムでは、2005年から「中学・高校での日本語教育試験展開」が開始されたが、今では中高70校で日本語の授業がある。なお、初期の生徒たちは、すでに成人しており、日本語能力をいかして活躍している人たちもいる。
 また、2016年には、ハノイやホーチミンの小学校5校でも、英語と並んで第一外国語として日本語教育が始まった。
 日本語ができれば、日本企業への就職に有利なため、日本語を学ぼうという大学生も少なくない。ベトナムで文系トップのハノイ大学やハノイ貿易大学では、卒業時点で日本語検定1級を取得している学生も多く、卒業後はベトナムの日系企業で活躍している。
 2018年、海外の日本語教育機関の数が過去最高を記録したが、ベトナムでは、2015年に比べ4倍近くに増えており、韓国、インドネシア、中国に次いで、世界で4番目に多い。2018年時点で、818校で、17万人以上が日本語を勉強していた。
 日本語能力試験では、2018年度、ベトナムでは約7万1000人以上が受験し、中国、台湾に次いで多かった。(日本国内での受験生は含まない。)

<親日>

 他国同様、若い層には、アニメや漫画を見て育ち、日本に憧れてやって来る留学生や就労性も少なくない。(なお、テレビドラマでは韓流ドラマが圧倒的人気である。)
 また、ベトナムでの日本製品に対する信頼は厚く、ベトナム製や中国製でも日本的な名前をつけた電化製品などがよく見られる。ベトナムでは(歴史的に)嫌中感情が非常に強く、在米ベトナム人でも「まずは日本製を探し、入手できなければ韓国製を買う。中国製品は絶対に買わない」という人たちがいる。

ベトナムの就活事情

 ベトナムでは、大学を卒業後に就職活動を開始するのが一般的である。在学中、アルバイトを行う学生は少なく、実務経験がないため、経験を得るためにインターンシップが重宝される。
 また、優秀な学生は、給料の高い外資系企業を狙い、英語の勉強に力を入れる。

就活手段

<人脈・口コミ>

 ベトナム独特の事情として、大半の求人が人脈(口コミ)を通じて埋められるという点があるだろう。国際機関(ILO)の調査によると、ベトナムの若者の約40%が、友人や家族を通じて仕事を見つけたという。
 人材紹介・斡旋サービスを利用する応募者は、まだ少ないが、学歴が高くなるほど、そうしたサービスを利用する割合が高くなる。

<ソーシャルメディア>

 他国と同様、ミレニアル世代の特徴として、就活にソーシャルメディアが活用されている。アデコベトナム社が同世代を対象に行ったアンケート調査では、回答者の48%がソーシャルメディアでキャリア選択肢に関する情報を入手しているといい、大学(19%)を大きく上回っている。

キャリア選択肢に関する情報源

 ソーシャルメディアも友人や知人とつながっているわけで、人づてで情報を入手するというのは、ベトナムでは主流であることがうかがえる。

<インターンシップ>
先に述べたように、アルバイトが一般的ではないベトナムでは、実務経験を得る手段としてインターンシップが重要視されている。大学一年の間からインターンシップを探し始める学生もいる。

職業訓練の手段

就職観

 先述のアデコベトナム社による調査では、仕事を選ぶ上で重要な要因として、ミレニアル世代は「給与および金銭的恩恵」を一番に挙げ、次に「資格・スキルなどの評価」「仕事への満足感」を挙げている。
 日本語教育にも力を入れ、毎年、250~300人の卒業生が日本企業に就職するという理系トップのハノイ工科大学によると、学生が日本企業を選ぶ基準は、「働く環境」「待遇」「専門知識・能力を発揮できるか」だという。

ベトナムの転職事情

ベトナムでは、他にいい仕事があれば転職をするというのはあたり前であり、3年ごとに転職するという人は、とくに若者の間では珍しくない。 
 2018年末に人材紹介会社が行ったアンケート調査では、回答者の8割近くが2019年に転職を希望していた。その理由として、「キャリアアップができない」というのが最多で(30%)、これに「給与に不満足」(24%)が続いた。
 先述のアデコベトナム社による調査でも 仕事を辞める理由として、「仕事上の能力開発ができない」が51%と過半数を占めており、「もっといい仕事が見つかった」(32%)や「現職場で直属の上司とうまく行っていない」(11%)を上回っている。
 こうしたことから、優秀な人材を採用し、できるだけ長く働いてもらうためには、給与面とキャリア開発環境を整えることが重要といえる。

スキルミスマッチ

 米中貿易戦争の恩恵を一番受けたのがベトナムだと言われており、中国からベトナムに製造拠点を移しているのは任天堂や京セラなどの日本企業だけではなく、アップルやグーグルなども移転を計画をしている。
 その分、ベトナム国内での求人は増えているものの、それを満たせるだけの人材がいないことが大きなネックとなっている。とくに、こうした生産拠点が設けられるのは地方であり、高スキルの人材が不足している。また、必要なスキル・経験を備えた中間・上級管理職を見つけるのが困難なため、異業種からもヘッドハンティングが行われてる状態だ。
 ベトナムでは、高度のスキルを備えている人材は、就労者5800人近くのうち12%のみと言われている。ベトナムの大学進学率は30%を切っており、50%に達している中国はもちろんのこと、40%を超えているタイやマレーシアに比べても低い。さらに、先述のように大学教育の質も問題となっている。
 このように、ベトナムでは、若者のスキルアップが急務となっている。

IT業界

 とくにIT業界は、以前から人材不足のため、激しい人材獲得合戦が行われている。大学在学中からヘッドハンティングを受け、卒業後、1年半ごとに転職し、毎回、50%の昇給を受けたというソフト?開発者もいる。
 ITのスキルがあれば、海外は日本だけでなく、シンガポールやマレーシアなどでも就労チャンスがある。なお、ソフト開発者の給与は、下記の表で見るように、一般の平均給与よりはるかに高い。

ソフト開発専門別平均月給

<日本企業から引っ張りだこの工学部生>

 ベトナムの理系最高峰のハノイ工科大学では、日本語の授業を行ったり、日本企業と提携して日本企業就職向け特別プログラムを提供したりしている。こうしたプログラムを受講した学生は、卒業前に就職先が決まっており、同校からは、年間、250~300人の卒業生が日本企業に就職しているという。
 さらに、毎年、ベトナム国内日系企業と日本国内企業をベトナム人学生と結びつけるためにジョブフェアを開催したり、学生との面接や日本でのインターンシップをセットアップする日本企業もある。また、ベトナムの大学を周って、卒業前に、ベトナムの工学部の学生を青田買いしている大企業もあるという。

掲載内容は、作者からの提供であり、当社にて情報の信頼性および正確性は保証いたしません。

有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。