日本における韓国人就労者
下記のグラフに見るように、日本で就労する韓国人(在日韓国人を除く)は、2018年10月時点で外国人就労者全体の4%(万人)と割合的には非常に少ない。(※1)しかし、その数は、毎年、増えており、昨年には計6万人を超え、過去6年で倍増している。
※1.厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(平成30年10月末現在)』
日本における韓国人就労者の特徴は、次頁のグラフで見るように、在留資格に「専門的・技術的分野の在留資格」が多い点である。韓国人就労者全体の45%(2万8000人近く)が、高スキルの人材であるということだ。
人数的にも、中国、ベトナムに次いで3番目に多く、韓国の人口が5000万人であることを考えると、人口比では突出していることがわかる。
さらに、高等教育機関に在籍する外国人留学生数でも、韓国人は中国、ベトナム、ネパールに次いで多い(1万4000人)。 ※2
※2.日本学生支援機構『平成30年度外国人留学生在籍状況調査結果』 高等教育機関における留学生受入れ状況
<若者の就職難>
近年、韓国の青年失業率が、1997年のアジア通貨危機以来の悪化ぶりであった。今年10月、それまで10%あった若年層の失業率が7%に低下したものの、不完全就業者などを含む青年拡張失業率は、以前として21%以上と高いままである。専門家らは、若年層の失業率の改善は、パートタイム就労者や短期就労者が増えた結果だという。
文大統領は、大企業に対する増税、最低賃金の引き上げ、非正規雇用の正規雇用への移行など格差是正を公約に掲げ、庶民の支持を得て選挙に勝利した。ところが、大幅な最低賃金値上げで、労働コストが上昇し、とくに中小企業が雇用を控える結果となり、廃業や倒産に追い込まれる企業も出ている。
元々、経済が減速していたところに、米中貿易戦争や日韓問題が追い打ちとなり、経済はさらに悪化しており、今後も就職難は続きそうである。
韓国の就職情報サイトが、今夏、就活中の大学卒業予定者を対象にアンケート調査を行ったところ、「今年下半期に就職が決まる自信がある」と答えた回答者は36%を切っており、昨年調査時の同じ回答(56%)を大きく下回った。
<賃金格差による大企業志向>
同アンケート調査では、回答者全体の29.5%が、働きたい職場として公企業を挙げた。大企業への就職を希望する人は20.9%で、中堅企業(13.4%)、中小企業(11.5%)、外資系企業(5.9%)と続いた。
公企業への就職を希望する理由(複数回答)として、「福利厚生と勤務条件がよさそう」が77%、「定年まで安定して働けそう」が51%を占めており、若者の安定志向がうかがえる。また、大企業で働きたい理由には「高い年収」(77.5%)が挙げられた。
韓国では、大企業と中小企業との賃金格差が激しく、財閥系大企業であれば初任給は400万円ほどあるが、中小企業では、その半分ほどしかない。そして、その後、勤務年数とともに収入格差は広がる。そのため、韓国では、財閥系大企業に就職するのが理想とされている。
韓国経済は、サムスンや現代などの財閥系が牽引してきたが、近年、それによる弊害が浮き彫りになっている。1997年のアジア通貨危機で、IMFは救済に際し、財閥の力を弱めることを条件の一つとしたが、その後、反対に生き残った財閥に力が集中してしまっている。
10大財閥グループに属する上場企業の時価総額合計は,韓国証券市場の総時価総額の50%以上に達している一方、これらの企業による雇用数は全体の20%のみである。韓国では、従業員250人以上の企業で勤務する就労者は全体の13%に過ぎず、OECD加盟国ではギリシャに次いで低い。(日本は47%。)
財閥系大企業に就職するための競争率は数百倍にのぼると言われ、ソウル大学などの名門校卒業者でも、入社できるのは応募者の半数以下だという。財閥系大企業に就職するには、一流大学を卒業することが必須であるため、狭き門を狙って子供のころから激しい受験戦争が繰り広げられる。
大学卒業後の資格や語学力などスペック重視の就職戦線は、さらに過酷であり、コネもカネもない大半の中流層が突破することは、ほぼ不可能であり、韓国の若者が、韓国の中小企業に就職するくらいなら、日本の大企業に就職した方が、待遇的にも経歴的にも有利と考えるのは無理もない。
<スキルミスマッチ>
上述したように、韓国では、若者の失業率が高いのだが、その一方、単純労働職は人手不足であり、20年前から法制化して海外から労働者を受け入れている。こうしたスキルミスマッチが起きている理由には、韓国の大学進学率が他国に比べて高いという点がある。韓国は、高等教育(大学または専門学校など)を受けている割合がOECD加盟国の中で一番高く、(※3)3K的な仕事を敬遠する若者が多い。
※3.OECD: Education at Glance 2019. 韓国では25~34歳の70%が何らかの大学教育を受けている。日本は61%で、ロシア、カナダに次いで4位。OECD加盟国平均は44.5%。
<政府による海外就職支援>
若者の就職難の解決策として、韓国では、朴政権時代から、国をあげて若者の海外就職支援を行っている(K-MOVE)。2018年には6000人近くが海外で就職し、その数は創設時の3倍以上にのぼっている。送り先国は70カ国にわたり、日本が最多で30%以上、25%がアメリカ、その他、オーストラリアやシンガポールなどに向かい、最近ではベトナムが人気である。政府は、このプログラム向け予算を2015年の53億円から、2018年には73億円に上積みしている。
また企業においても、就職難に悩む若者を送り出したい韓国財界と、人手不足に悩む日本の財界の利害が一致した形で、韓国での日本企業による会社説明会などが行われてきた。外国語に堪能で優秀な人材が多く、かつ日本とは文化的に似ているという点で、韓国からの人材は日本企業に人気である。TOEIC高得点者には資格手当や、住宅手当、報奨金など、高待遇をオファーする大企業もある。
しかし、今年、日韓関係が悪化し、9月に予定されていた韓国政府主催の海外就職フェアが中止になるなどの影響が出ていた。韓国の就職サイトでのアンケート調査でも、求職者の72%が反日の雰囲気が「否定的な影響を及ぼした」と回答した。その理由として「日本での就職準備を断念」「韓国人を採用する日本企業が減少」「周りからのバッシング」が挙げられた。
ただし、「もし今、日本企業への就職が決まったら」、「検討する」「必ず就職する」という回答が合わせて75%を占めており、政治問題とは別に、就職の機会を逃したくないという若者たちの本音が見える。
結局のところ、9月に中止された海外就職フェアも11月に開かれ、出店した外国企業108社のうち、ソニーや日産などを含む日本企業が6割を占めていた。1000人以上の若者が参加し、とくに日本企業が人気だったという。
日本企業の就職を望む理由としては、日本企業は新卒のポテンシャルを重視するため、文系卒でもシステムエンジニアとして採用し、社内で教育してくれる点などがある。韓国では、たとえば金融系では、経済経営学部卒以外は応募すら受け付けないのに対し、日本は専攻をそこまで厳しく問わない。外資系コンサルティング会社も、韓国では学閥が固定化されているが、日本はそうでもないため、日本で挑戦するという高学歴者もいるという。
韓国の就活事情
韓国も、昔は、日本のように新卒の一斉採用が行われていたが、1997年のアジア通貨危機で経済が崩壊し、企業は雇用を抑えるようになった。また、雇用の調整をしやすくするために、非正規採用が増えることにもつながった。
就活時期
韓国企業の採用は春や秋が多く、サムスンやSK、LGなど財閥系は毎年2回、春と秋に何千人規模で人員を募集する。グループでの募集で、実際にどの会社に配属になるかは主に成績に基づき、成績優良者はグループの主力企業に配属されるという。営業職、研究職、技術職など部門ごとに採用されるので、総合職で採用されて、どの部門に配属されるか入社までわからないということはない。
韓国の企業では、即戦力の人材を求めるため、新卒でも資格取得のために、大学時代から外国語や会計などの資格取得に励む。韓国の就職戦線が「スペック重視」と言われるのは、そのためであり、就活を始める前にスペックを向上させるために、大学を休学する学生が多いという。実に、大学生の40%が休学をし、休学中に資格を取ったり、語学研修で海外に行ったりして、就職戦線に備えるということだ。特に最近では公務員の人気が高く、公務員試験の準備のために大学3、4年で半年から1年ほど休学する人が多いという。
休学期間は、男子の場合、2年近くに及ぶ兵役があるため、平均32カ月に及ぶが、女子の場合は16カ月ほどである。そのため、大学3年になると、皆が一斉に就職活動を始めるということはなく、在学中に始める人もいれば、卒業してから始める人もいる。
韓国では、兵役もあることから、雇用企業は、新卒にこだわることはなく、年齢にも比較的寛容で、30歳くらいまでに就職すれば大丈夫という考え方がある。先述したように、大企業に正規雇用で就職できるのはほんの一握りだが、就職浪人をしてでも大手や公務員を目指す人は少なくなく、就職活動が数年にわたることもあるという。在学中に就職が決まらないことも普通にあるが、履歴書に空白期間ができることを避けるため、卒業を先延ばしにする学生もいる。
就活手段
主な就活手段はアメリカと変わらないが、下記のような特徴がある。
<コネ(縁故)>
つい最近も、娘の名門大学への不正入学など数々の疑惑で法相が辞任に追い込まれたが、韓国では、過去にも、大統領の近親者による不正事件が度々起こっている。他にも、有力者の子弟が、公企業や民間企業にコネで就職したという疑惑が後を絶たない。財閥改革を含む公正な競争を公約に掲げた文大統領だったが、その側近が疑惑まみれで、改革は進んでいないようだ。
韓国では家族主義が強く、「家族親戚の面倒を見るのは当たり前」という考え方が、いまだ根強い。財閥系企業では、上場企業でも、オーナー一族が要職に就いている。
財閥系を狙うようなエリート学生であれば、一流大学卒、TOEIC満点、第二外国語習得、各種資格取得、ボランティア活動などは当たり前であると言われ、その中を勝ち抜くにはコネが幅を利かす。(スペック不足なのに、コネでねじ込むケースが多いようだが。)
そのため、大企業や要人にコネのない庶民が大企業に入ることは非常に難しく、お金を貯めて子供を海外に送ろうという親は多い。そうした財力もなければ、アメリカほどお金がかからず、近くて比較的ビザも取りやすい日本は、手ごろと言えるだろう。
<インターンシップ>
韓国でも、他国と同様、インターンシップは1カ月~半年の数カ月にわたり、有給である。貴重な実務経験を得られるだけでなく、履歴書にインターンシップの経験を書かなければ、厳しい就職戦線には勝てないといい、ほぼ必須のようである。
就職観
今年、韓国の就職サイトが行ったアンケート調査では、就活者(半数近くが転職者)の3分の2が公務員試験の勉強をしているという結果が出た。学生を含む20代では、半数が公務員試験を受ける予定だという。
その主な理由は「定年まで働ける」「公務員年金がもらえる」というもので、老後を見据えた若者の安定志向がうかがえる。
最近では、あまり使われないようだが、韓国には「38線、45定、56泥」という言葉がある。38歳ごろまでに仕事で何らかの結果を残しているかどうかで、その後の処遇が決まり、45歳で定年、つまり退職を促され、56歳まで会社に残っていると「泥棒」と呼ばれるというものだ。韓国の会社員の平均退職年齢は52.6歳だという。
役員にまで出世すれば60歳近くまで働けるが、そうでなければ50歳になると「そろそろ退職」という話になる。すると、それまでに貯めた資金で、飲食店などを始める人が多いという。つまり、企業に勤めても、まともに働けるのが20年ほどで、その間に子供を育て、老後に向けて蓄えるのは非常に難しいと思われる。そうしたことから、公務員を目指す若者が多いこともうなずける。
韓国の転職事情
韓国では、日本のような新卒一括就職はないし、140万人の失業者が出た1997年のアジア通貨危機や2008年の金融危機などを通じ、「企業に忠誠を誓ったからといって、将来は安泰ではない」ということを前の世代を見て実感している。他によりよいチャンスがあれば、転職するのは当たり前である。そのため、常に資格習得などのスキルアップに余念がない。
他国と同様、若い世代の方が転職頻度が高く、2019年、初めて就職した企業での在籍期間は平均17カ月と、二年を切っている。とくに中小企業では、大学を出たのに、コピー取りなど雑務などをさせられることも多く、韓国人の若者には受け入れがたいようだ。
まとめ
日韓関係が悪化し、韓国の若者の日本での就職に関する両国の協力態勢が危ぶまれたが、人材不足に悩む日本企業のニーズに変わりはなく、韓国の若者も背に腹は代えられない状態だ。
韓国の高校では、第二外国語に指定されている言語の中で、日本語の履修選択者が最も多い。また、2018年、海外の日本語教育機関の数が過去最高を記録したが、韓国が世界で一番多く、(就職のためのスペック向上狙いもあり)日本語習得への関心が高い。他国と比べても、日本語のできる人材が多く、そのレベルも高い。日本文化との親和性も高いことから、日本企業による韓国の若者の雇用需要は続きそうである。
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