皆さん、こんにちは。日本ES開発協会の金野です。
http://www.jinji-es.com/
会社というものは、どんな素晴らしい組織でも、人数が増えたり、
年数がたつにつれ、創業当時の情熱というものを失ってくる―、
これは否めないことです。
私の会社もよく「昔は皆、すごい冒険をしたよね」だとか、
「よく、あんなことができたなぁ」だとか思い出話をすることがあるのですが、
では、次の世代はどうなのかというと、なにか、物足りなく思ってしまうのは
社長なら、誰しもが思うことではないでしょうか?
そこで私がお勧めなのは、会社の悪口大会をやってみることです。
具体的には、「自社をつぶすには、どうすれば良いか?」という問いを
皆で真剣に話し合うのです。
社員からは「あの取引先がなくなったらつぶれる」
「右腕の○○部長が転職したら会社はなくなる」
「○○の商品の寿命が尽きたら、会社はつぶれる」
など様々な意見が出てくると思います。
「うちの会社では、こんな怖い取り組みはできない」
という方もいらっしゃると思います。
最近新しく弊社のお客様となった、
アパレル会社の佐々木社長さんも同じことをおっしゃっていました。
確かに私も「タックマンモデル」という理論を知るまでは
「会社の悪口大会」なんてとんでもないと思っていたのです。
しかし、会社がかつての情熱を取り戻すために、
タックマンという学者は“カオスの状態”、
そして“危機感をもった状態”がなくては次の成長への
エネルギーは巻き起こらないというのです。
さて、佐々木社長の会社に話を戻しましょう。
佐々木社長の会社は創業30年、30数名の会社です。
ベルトや手袋を扱う会社です。創業当時は、ヨーロッパへ商品を
買い求めたり、デザイナーを引き連れ海外へ勉強しに行き、
バブルの頃は、作れば売れる勢いだったと言います。
しかし、安価なアジアの商品が出回るようになると、佐々木社長の
会社は急速に業績が落ち始めてしまったのです。
その頃、さまざまなコンサルタントが入って改革の指導をしたと言います。
しかし、一考に業績は良くならない。何をやってもうまく行かず、
社内に活気がない状態だったそうです。
そして、私がこの会社に私どものクレド(行動基準)を
中心とした新しい組織開発のプログラムを導入したときも、
社内は諦めムードで、佐々木社長からもやはりうちの会社では
ダメかなという言葉がでる始末でした。
さて、私がそこで提案したのが、先の「会社の悪口大会」なのです。
最初は渋っていた社長にもタックマンモデルの話をし、
どうせこのままつぶれてしまうのであればやってみますかと、半ば強引に実践へ。
結果は、社長の予想に反して、最初は険悪だった雰囲気も社内からは
「会社をつぶすためには結構いろいろな見えない資産があるんだね」と
若いメンバーから意見が出たことをきっかけに、
「つぶさない為には部署の垣根を越えてこのような会をもっと開くようにしよう」
「楽しかった!」「会社の現状がはじめて客観的に見えてきた」
「何を大切にすべきか分かった」等の感想があがってきました。
そもそもダメな会社というのは、過去に何度も失敗を重ねているうちに、
どうせ何をやっても同じというあきらめ感が出てきて、
行動や変化することを嫌うようになります。
皆さんは「カマスの実験」というエピソードをご存知ですか。
水槽にカマスのえさの小魚を入れ、その水槽に透明な仕切りを
してかますが小魚を食べようとしても、そのしきいが邪魔をして、
食べられないようにします。
それをしばらく倒していくべきなのです。そして、ある一定の期間を経って
からその敷居をはずします。もちろん、これで晴れてカマスはこの小魚を
食べることができるのですが、どうでしょう。
カマスはなんと小魚を食べようと襲うことをしなくなってしまうのです。
私は、負け続けている組織とは、このような現象と似たような状態だと
考えており、イノベーションを起こすための変化への情熱がなくなって
しまっている会社が少なくありません。
そして、変化しない理由を景気のせいにしたり、他部署のせいにしたりして、
現実を見ようとしないのです。
まるで、獲物を襲うことを忘れたカマスのようにただイライラしているだけで
動こうとしない、動かない理由を探すためにエネルギーを
使っているとしか思えない状態なのです。
さて、そのような会社が変化への情熱を取り戻すためにはどうすればよいのか、
それは事実と向き合い、現実から逃げないことです。
これには痛みを伴いますが、継続して活動を続けていくうちに、
必ず、明かりが見えてきます。大切なのは、混乱を招いても続けることです。
「続ける」ことができるかが大切なのです。
事実は、なかなか見えにくいものです。
「群盲象を評す」という言葉をご存知でしょうか。
目に見えない数人の盲人それぞれが、思い描いている“象”の姿について
議論するエピソードです。
一人は、象とは平らで薄っぺらいものだと言い、
一人はへびのようなものだと言います。
そして、別の一人は、毛むくじゃらの獣のようだといい、
最後の一人は壁のようだといいます。
皆さんもこのストーリーからお分かりの通り、どれも、
象の実態を表していないのです。
耳だけ、しっぽだけ・・・を各人が述べているのであり、
本人達は、象とはそのようなものだと信じて疑っていません。
これは笑い話でしょうか?
変化を起こす為には、その事実を皆で共有しなくてはなりません。
ダメな会社というのは実に議論をして、相手と傷つけてしまうのを嫌います。
しかし、このストーリーから言えることは、一同が集まって、
議論をしなければ事実を突き止めることはできないということです。
各人の行動もそれぞれの思っている象の姿に応じて、違った行動をとるでしょう。
しかし、この目に見えない者たちがカンカンガクガク議論をすれば、そのうち、
みんなの意見から化学反応が起き、本当の象の姿に行き着くのではないでしょうか。
ダメな会社というのは、この議論という対話を嫌います。
また無駄な時間とバカにします。しかし、ダーウィンが
「進化とは変化すること」であり、そのキーワードが「つながり」と
「多様性」であると述べている通り、
これを避けては変化への情熱は起こらないのです。
そして、この化学反応から生じるエネルギーから自社の強みを見出して
戦略と変え、事実と向き合い、コンセプトを見出すことにより、
変化が起こるのです。
佐々木社長さんの会社はこの改革の際、見事V字回復を果たしました。
他の会社が海外に出て行く中、佐々木社長も迷ったそうです。
しかし、「我社の強みは安価なアジアのアパレル商品と違い、
常に、ヨーロッパの高いデザイン性を目指している」という自社の強みを
最大化し、これを強みに変え、今ではその頃の競合が次々と、
アジアから撤退する中、デザイン性の高い手袋やベルトの販売から更に、
女性に人気のセーター等のブランドを立ち上げ、
会社は次のイノベーションへと動き出しています。
社長は私に、
「あの時、安易にアジアへの進出をしなくて良かった。
自社の強みを皆で徹底的に対話し、
そこから次の戦略を考えたことが良かった。
本当にありがとう。」
とおっしゃったことは、今でも覚えています。
イノベーションはカオスと危機感から生まれる。
そしてそれには対話という痛みを伴うコミュニケーションが
必要である、ということを私自身が実感しました。