欧米のテレワークの現状

欧米のテレワーク
2020.06.02

 パンデミックの発生で、多くの国ではロックダウンや外出禁止令の下、日本の自粛と違い、生活に不可欠とされる業種以外は、法的に営業停止または外出(出勤)停止が義務づけられた。企業は、社員を休ませるか、(※1)テレワークを許可するかの選択を迫られたわけである。
 元々、IT企業のようにテレワークが普及している業界は早々とテレワークに移行したが、そうでない企業は早急な対応を求められた。
 今、各国で経済の再開が始まる中、ツイッターのように恒久的にテレワークを認める企業が現れ、世界的に話題を集めている。GAFAを筆頭に、こうしたIT企業がアメリカ企業であるため、テレワークがもっとも普及しているのはアメリカと思われがちだが、実は、テレワークがもっとも進んでいるのは、ヨーロッパ、とくに北欧である。
 今回も、パンデミック発生後、3月に欧州議会(European Parliament)や欧州委員会(EU Commission)では、基幹業務以外のテレワークを開始している。
 なお、ここでいう「テレワーク」とは、在宅勤務だけでなく、コワーキングスペースやカフェなどでも行われる勤務形態を指す。

ヨーロッパ

 EUでは、数十年前から、とくに若者の間で高い失業率の対策として、ICTを活用して経済成長と雇用を促すためにテレワークが推進されてきた。1990年代から欧州テレワーク議会が開催され、2002年には各国の労働組合など各種団体とテレワークに関する枠組み合意(Framework Agreement on Telework)が締結された。この合意は、署名した15カ国で法制化されることになった。その後、テレワーク議会は解散したが、新たにEUに加盟した国も、この合意に基づいて国内のテレワーク環境を整備している。
 当時から、テレワークは北欧で、もっとも普及しており、南欧で普及率が低い傾向が続いている。
2017年にEU30カ国の給与取得者を対象とした調査では、デンマークでは23%、オランダでは21%、スウェーデンでは18%が、少なくとも月に数回、在宅勤務を行っていた。反対に、この割合が一番低かったのは、ブルガリアとキプロスの6%だった。(※2)
とくに北欧は、フレックスタイム勤務が多いのが顕著である。2013年の調査では、フレックス勤務が可能な企業は、フィンランドで90%。デンマークでは88%、スウェーデンでは82%に達していた。(※3)

※1.有休や病欠を使うか、特別に有休を付与するか、無給の一時帰休。アメリカでは一時帰休の有給化は法的に義務付けられていない。
※2.Eurofound (2016) Sixth European Working Conditions Survey. Luxembourg: Publications Office of the European Union.
※3.Acta Sociologica, “Mobile knowledge workers and traditional mobile workers: Assessing the prevalence of multi-locational work in Europe” 2017

一般的に、管理職や専門職(ホワイトカラー)が多い国ほど(ベルギー、デンマーク、アイルランド、ルクセンブルク、オランダ、フィンランドでは就労者の30%超)、取引先や在宅で勤務できる柔軟な勤務形態のナレッジワーカーの割合が多い。
 反対に、農漁業の就労者が高い国ほど(ブルガリア、スペイン、キプロス、イタリア、フランス、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、ノルウェーでは10%超)、ICTを使わない仕事が多い。
 なお、ドイツやフランスでは、労働時間短縮のための労働時間の管理が厳しく、勤務時間の管理がむずかしいテレワークは、比較的、普及しなかったという背景がある。

フィンランド

 今回のパンデミック発生後、テレワークに移行した就労者の割合は、EUの平均は37%だったが、フィンランドが最高で60%近くに達している。その他、ルクセンブルク、オランダ、ベルギー、デンマークの4カ国では50%を超えている。※4
 フィンランドで柔軟な働き方が普及したのは、1996年に法制化された労働時間法によるところが大きい。同法によって、就労者は、勤務開始および終了時間を3時間早めたり遅らせたりして、自由に設定することが可能となった。
 2011年に39カ国を対象に行われた調査では、フィンランドは、2010年時点で就労者が勤務時間を選択できた企業が全企業の92%を占めており、世界でもっとも柔軟な勤務形態を可能としていた。86%のスウェーデン、85%のオーストラリアとタイが、それに続いた。(なお、日本は18%で、39カ国中最低だった。) ※5
 フィンランド議会は、2019年に新たな労働時間法を法制化し、2020年1月より施行されている。これによって、4ヵ月の労働時間平均が週40時間を超えないという条件で、フルタイム就労者の多くは、勤務時間の半分を自宅やカフェなど、どこで勤務できるかを決めることが可能になった。かつ一日の労働時間を最長4時間増やしたり、短くしたりして勤務の開始や終了時間を決めることができる。幼稚園に子供を迎えに行ったり、外が明るいうちに運動するために、仕事を朝早く始めて、午後早めに切り上げるということが可能ということだ。
 フィンランドでは、元々、ワークライフバランスが重視されている点がテレワークを可能にしていると言える。

・テレワークが普及する背景

 フィンランドをはじめ北欧で、こうした柔軟な勤務形態が普及している理由として、高緯度のために、長い冬の期間、日照時間が数時間しかないという厳しい気候がある。

※4.Eurofound (European Foundation for the Improviment of Livng and Working Conditions)
※5.Grant Thornton International

また、政府や企業に対する国民の信頼度が挙げられる。EU諸国における公共サービスへの信頼度に関する調査では、フィンランドでは「知らない人でも信用できる」という市民同士の信頼度がヨーロッパでもっとも高いという結果であった。※6 社会的信頼に基づき、人が見ていないところでも仕事をさぼったりしないという姿勢が柔軟な勤務形態を可能にしていると言われている。
 上記の信頼度に関する調査では、フィンランドに続き、デンマーク、スウェーデン、アイルランド、オランダでも信頼度が高いという結果が出ている。これらの国では、社会福祉が整備され、市民が平等に医療などの恩恵を受けられ、かつ経済的安定が得られることが(つまり、貧富の差が小さく不平等感が少ない)、こうした信頼につながっていると考えられている。(反対に、スロバキア、ギリシャ、キプロスは市民同士の信頼度で最下位で、不健康や不幸感が低い信頼度につながっている。)

また、合意に基づく意志決定やフラットな組織が、公的機関への信頼につながっているとも言われている。労働条件の設定は労働組合を通して行われ、新たな法制には、企業や労働組合も参加している。

アメリカ

 一方、アメリカでは、2019年に行われた調査で、柔軟な勤務形態またはテレワークが許されているのは、民間企業勤務者の7%のみという結果であった。※7 そして、その大半が、管理職や専門職(ホワイトカラー)などである。(そこで、テレワークでも格差生じているということが問題になっている。)
 業界によってテレワーク導入率は異なり、保険会社がもっとも高く32%、法律事務所や会計事務所、広告代理店、コンサルティングなどのビジネスサービス業で29%、ITセクターでは16%であった。
 また、日本と同様、大企業の方がテレワークが浸透しており、従業員500人以上の企業拠点では12%、従業員100人未満では6%であった。
 なお、アメリカでは、MozzillaやMySQLのように、以前から社員の大半がテレワークを採用するIT企業もあったが、テレワークを禁止するIT企業もあった。Yahooは、2013年にテレワークを禁止し、従えない社員は退職するように促した。その後すぐに、世界最大の家電量販小売チェーンのBest Buyも、それまで社員が自由にできたテレワークを許可制とし、「在宅勤務プログラム」を終了した。2017年には、IBMも、アメリカだけでなく、ヨーロッパの拠点でもテレワークを禁止し、社員に拠点の近くに引っ越すか退職するように促した。
 こうした企業がテレワークを禁止するのは、社内で社員同士が触れ合って他愛無いおしゃべりをすることで新たなアイデアが生まれるのであり、テレワークはチーム構築の妨げになると考えるからだ。
 アメリカの場合、コロナ感染対策で、多くの州(または郡)で外出禁止令が出されたが、生活に不可欠な業種として営業停止を求められなかった企業には(通信インフラ企業など)、テレワークを許可しない企業もあり(有休消化後は無給の病欠を取得するか退職を迫られた)、批判を浴びる企業もあった。また、州の外出禁止令が解除される前に、社員に出勤を求めて批判を受けている企業もある。

※6.Eurobarometer Date Service: Trust in National and International Institutionsd
※7.Pew Research Center, “Before the coronavirus, telework was an optional benefit, mostly for the affluent few” 2020年3月20日

パンデミックの影響

 アメリカでは、コロナウイルスの感染者が初めて確認されたのは西海岸で、真っ先に社員をテレワークに移行したのは西海岸を拠点とするフェイスブックなどのIT企業であった。西海岸で、東海岸ほど感染が拡大しなかったのは、早々と3月頭に在宅勤務を命じた企業が多かったからであるという公衆衛生の専門家もいる。
 経済再開が始まった今、シリコンバレーを拠点とするツイッターとSquare(同じCEO)では、恒久的に社員にテレワークを許可すると発表している。フェイスブックは、6月にオフィスを再開する予定だが、在宅勤務が可能な社員は、今年いっぱいテレワークを許可するということだ。
 フェイスブックでは、今後、採用する社員(有経験者)は、恒久的にテレワークが許され、2030年までに社員の半数が在宅勤務をすることになり得るという。恒久的にテレワークが許されるのは、テレワークが許されているチームの一員で、上司の許可を取得した実績のある社員という条件付きだ。また、チームワークが損なわれないよう、アトランタ、ダラス、デンバーにテレワーカー用のハブを開設するという。
 グーグルは、7月のオフィス再開を目指しているが、テレワークを続けたい社員には備品経費として1000ドルを支給する。アマゾンやSlack Technologiesも秋までテレワークを続ける予定で、東海岸拠点のCNNやニューヨークタイムズも、社員が職場に復帰するのは、早くて9月だという。
 オースティン(シリコンヒルズ)を拠点とするデルは、元々、フルタイム社員のテレワークの割合が高かったが、それまでの30%が、パンデミック発生後は90%に達している。パンデミック収束後も、全世界16万人以上の社員の半数以上がテレワークを続けるという。
 全米最大の小売業者ウォールマートは、低賃金、ローテクのイメージが強いが、今回、全米に散らばる1万人ほどのIT社員がテレワークに移行した。その結果、テレワークの方が、意思決定、行動ともに迅速に行われるという効果が見られ、パンデミック収束後もIT社員はテレワークを続けるという。同社では、シリコンバレーにもIT拠点があり、有名IT企業と競って優秀な人材確保するには、柔軟な勤務環境を提供することが必要だという考えからだ。
 大手銀行も、全米で20万人ほどの社員がテレワーク中で、そのために社員に9万台のラップトップを供給した銀行もある。大手10行の社員数は計100万人を超えるが、そのうち1行は9月頭までテレワークを続ける予定で、他行は、地域ごとに外出禁止令解除とともに徐々に復帰することになるという。

3月にテレワークをする就労者割合の推移

連邦政府

 今回、テレワークで大きな変化が見られたのは、民間企業よりも米連邦政府だろう。
 連邦政府は、1990年代からテレワークの導入を推進してきたが、なかなか進まなかった。2010年になって、オバマ政権下でテレワーク強化法(Telework Enhancement Act)が制定され、各政府機関はテレワークに関する方針を設定することが義務付けられた。
 米政府がテレワークを推進する背景には、通勤ラッシュによる交通渋滞緩和、排気ガス削減、危機管理(テロや災害時にも業務継続)、事務所経費削減、ワークライフバランスの向上などがある。
また、一般的に、米政府の給料は民間企業に劣るため、優秀な人材を確保するためにも、柔軟な労働環境の整備が必要とされている。
 同法の下、連邦政府職員のうち、雇用契約でテレワークが許されているのは、2012年の47%に対し、2017年には43%と、5年間、ほぼ横ばいであった。ただし、テレワークが可能な職員の間でのテレワーク参加率は、2012年の29%から2017年の49%に上昇している。また、全職員の間では、14%から21%に上昇した。

・パンデミックの影響

 パンデミック発生当初、政府は国民に外出禁止を促しながら、職員には出勤を迫っていると批判を受けていた。しかし、連邦政府機関が集まる東海岸で感染が拡大してことで、政府の対応は一転した。その結果、連邦政府各省庁でのテレワークは、下記のように急増した。 

連邦政府各省庁の現テレワーク率

 上記で見るように、コロナ対策は省庁によって異なる。防衛省では、政府職員だけでなく、軍属や請負業者にもテレワークが許可されている。
 歳入庁(IRS)では、3月時点で、テレワークの許可を各上司が与えることになっていたが、基礎疾患を抱えていたり、休校で子供が在宅のため自宅で働きたいという職員がテレワークを申請しても、上司がなかなか許可しないという事態が生じていた。歳入庁では一般市民と対面で対応を強いられる職員も多く、3月末には「避難命令」を出し、テレワーク契約が締結されているか否かにかかわらず、どうしても出勤しなければならない一部の職員を除いて全職員がテレワークを義務付けられた。
 5月に経済の再開が始まり、職員の職場復帰が呼びかけられているが、対応は、やはり省庁によってまちまちである。基礎疾患を抱え、職場復帰を躊躇する職員も少なくない。連邦政府職員には各種労働組合があり、テレワークや職場復帰に関しては、基本的に組合との団体交渉で決まる。
 これを機に、今後、連邦政府でも、職種によってはテレワークが続く可能性は高い。今後5年で連邦政府職員の3分の1以上が定年を迎える予定で、若い世代を引きつけるためにも(30歳未満は全職員の6%のみ)、テレワーク政策を近代化し、ITインフラを向上させる必要があるからだ。今回も、一気に増えた回線負荷やセキュリティが問題となったが、それに関しては、来月、報告する。

州政府および自治体
 
 上述の2019年の調査では、柔軟な勤務形態またはテレワークが許されているのは、民間企業勤務者の7%に対し、州政府や自治体では職員の4%と、さらに低かった。
 今回、3月に、コロナウイルスの感染拡大を抑えるために、まずニュージャージー州とノースキャロライナ州が、テレワークの導入を勧告した。その後、他の州も、これに続いた。
 自治体国際協会(International City/County Management Association)でも、各自治体が長期にわたるテレワークの可能性に備えるように促している。自治体の場合、物理的かつ法的にテレワークが可能な態勢が整っていない自治体も少なくない。
 今回、日頃からテレワークに備えていた自治体とそうでない自治体との差が顕著となった。たとえば、北カリフォルニアのオークランド郡では、2014年にテレワークの試験運用を開始しており、職員は週に2回テレワークを行っていた。それに合わせ、雇用契約もすべて更新している。
 (デル本社のある)テキサス州トラビス郡では、3月末に外出禁止令発令後、郡職員2300人がテレワークを行っている。今月に入り、外出禁止令解除を前に、郡政委員会(立法府)では、6月までに、テレワーク権利を有する郡職員3000人のうち75%が長期的にテレワークを行えるよう計画するという議案を可決した。
 トラビス郡、オースティン市ともに、テレワークによって交通渋滞が緩和され、大気汚染も減り、環境保護のためにもテレワークを続けるべきだという考えだが、こうした動きは他の自治体でも広がっており、今後、自治体でのテレワークも進みそうである。

掲載内容は、作者からの提供であり、当社にて情報の信頼性および正確性は保証いたしません。

有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。