前回までお伝えしてきたとおり、今、伸びている企業に共通しているのは、“個”として豊かな「つながり」をもった社内起業家的な人材が存在している、という点です。
仲間同士のつながり(絆)、自分が所属する組織とのつながり(貢献意識)、自分が携わる商品サービスとのつながり(こだわり・仕事哲学)など、いかに多くの“つながり”を生み出すか、という視点が、人材育成においても組織開発においても重要なのです。
たくさんの「つながり」を持っている、ということは、そのつながりの相手・関わっている人たちから、たくさんの共感を得る“接点”がある、ということです。
それらの接点を通して互いに共感した状態で仕事に取り組めば、何か問題が生じても協力して歩み寄りながら問題解決に取り組んだり、対話をしながら良い仕事を創り上げようと努力するようになります。
たとえば、あるIT系の企業では、二日間の合宿研修の中身を変えたところ、組織風土にも大きな変化が生じた、と言います。
かつては、専門知識や最新情報に関する講義を一方的に講師が伝える形式の研修だったものを変え、知識・情報の習得のための時間が一部にとどめ、双方向で対話するためのワークショップや懇親会の場に多くの時間を割くようなカリキュラムにしたのだそうです。
その結果、対話によって互いの理解が深まりコミュニケーションが活性化し、日常の職場で何かトラブルが発生した時も部署を超えて一丸となって問題解決にあたる姿が多くみられるようになったと言います。
対話や懇親の場を通して社員同士のつながりが強まり、それによって“接点”が増えて、互いの共感が高まる。その共感を糧として、さまざまな局面においても問題解決や課題解決がスムーズに進む、というわけです。
つながりというのは、社内だけで増えていくものではありません。
お客様や地域など社外との接点が増えることによっても、つながりという資産を増やすことができます。つまり、共感を得る接点は、社外に対しても創ることができます。
このことを、「ヒト・モノ・カネ」という会社の三大資本に加え、新たな“第四の資本” として「共感資本」と言います。
組織のつながりの大きさは、すなわち、組織に所属する一人ひとりが持つつながりの総量でもあります。
つまり、一人ひとりが持つつながりが多ければ多いほど、組織のつながりも大きくなり、社内外の接点が増え、共感資本を高めやすくなります。
個がもつつながりの豊かさを表す指標として、「SQ(Social Intelligence and the Biology Quotient)」があります。
SQとは、「EQ(Emotional Intelligence Quotient)感情知能指数」という概念を提唱した心理学者ダニエル・ゴールドマンが、脳科学の進歩により見出された新たな知見として掲げたもので、「社会性の知能指数」「“関わり”の知能指数」とも言います。
自分と他者とを効果的につないでいくためのコミュニケーション力の高さを指し、組織、そして地域社会という複雑な世界を生き抜くための基礎能力のことを言います。
SQが高ければ、複雑な環境の中でも他とつながる力が高い、ということなので、それだけ“接点”が多い、ということになります。
接点が多くなれば、さまざまな関わりを通して共感を得たり支援を受ける場が多くなるということなので、その状況から多くの学びを得ることができ、成長することができるわけです。つまり、SQが高い人は、多くのつながりから多くの学びを得ることができ、成長力がある、と捉えることができます。
このようなSQの高い個々の社員のつながりの総量が組織のつながり力となり、共感資本を生み出し、企業が成長する原動力となります。
そして、共感資本の高い企業がCSRの視点で活動を進めることによって、その地域全体のつながりが豊かになります(コミュニティデザイン)。
さらに、その地域のつながりが豊かになることで、地域がもつ価値(ソーシャルキャピタル)が高まり、地域全体が活性化する、という考え方が、ここ最近のさまざまな地域で見られる動きです。
「企業が基点となって、企業の資本と地域のソーシャルキャピタルとを融合させて地域のコミュニティをデザインする」というサイクルに個々の社員が関わることによって、社員自身も「働くよろこび」を得ることができ、それがESに結びつきます。
今伸びている企業は、個々の社員が地域の人たちとのつながりを多く持つことで、働くよろこびを実感し、仕事を通して成長し続けられるイメージを描く土壌ができていると言えます。
これからの企業には、働く個々のよろこびや誇りの実感が、組織の活性化にもつながり、訪れるお客様や関わる人たちの満足感や充実感にも結びつく、という好循環を生み出していくことが求められています。
その好循環の基点となるのが、地域の企業なのです。
だからこそ、企業の中で、豊かなつながりを有する人材を育てていく必要性があるのです。