”目には見えない大切なもの”に気づく感性を高める職場の習慣とは

思わず
  「うう寒い」と云ったら
  「山にいったおっつぁ(父)のこと考えて見ろ」
  と、おっかにどなられた。  

  そうだ。
  ピューピュー風あたりの強い山で
  おっつぁと
  あんつぁ(兄)が
  木を切っているのだ。
  そうだ。
  寒いなんて云っていられない。
  おっかのいうとうりだ。

これは、1950 年の冬に、中学 2 年生の男の子が書いた詩です。

この中学生の担任である無着成恭先生が取りまとめた「文集」からの一編で、
まだ学校に指定の教科書がなかった時代、国語力を高め子供同士のつながりを
強めるために取り組んでいた「生活綴方」という教育方法から生まれた
この文集は、その内容の素晴らしさから、『山びこ学校』(岩波文庫)
という本になって 50 年以上経った今も世の中に伝えられています。

この詩は、東北の雪深い冬のある日、寒いという言葉を口にしたら、
山に仕事に出ている父親や兄のことを考えなさいと母親に注意された、
という場面をつづったもので、
この男の子は、
「山で頑張っている父・兄のことを考えたら、自分だけ寒いとは
言っていられない」という学びを得たようです。

このような詩や作文をまとめた文集は、クラスの皆で声に出して読み上げられ、
その解釈について討論することで、子供たちの感性や人間性を高める目的が
あったのだと言います。

私はこの「生活綴方」の取り組みを知った時に、
色々な職場で行なわれている朝礼や終礼のことを思い描きました。

職場の皆で、経営理念やクレドの読み上げをし、それにまつわる仕事上の
エピソードや日常の気づきを、持ち回りでスピーチしていく―、
これは、単に「経営理念やクレドの内容を自然に覚え理解できる」
だけではなく、理念やクレドを意識して行動した結果生まれた経験知を
共有し、
「会社の独自の判断基準=企業文化の浸透度合いをはかるモノサシ」
として浸透させられる、という効果があります。
そして、そういった日常から得た気づきをスピーチとして表現することで、
一人ひとりの感性のアンテナを磨き、人間性を高めることができるのです。

この詩の男の子が、
「ひどく寒い時=自分が辛い状況に置かれた時」の対処法として、
「他で頑張っている人の存在を意識し、感謝する」という気づきを得た
ように、
職場の中でも、仕事を通した生まれたエピソードを共有することで、たとえば
「最近忙しくて大変だと思っていたが、自分が知らないところで自分のために
資料作りや掃除などをしてくれていた後輩達の存在に気づき、ありがたいなと
思ったら、急に”大変だ”という思いが緩和された」等の
”対処法””解決策”を学ぶことができます。

コップの半分まで入った水を目にした時に、
「あと半分も残っている」と思うか、
「もう半分しかない」と思うかは、
人によって異なります。
その人の価値観や置かれた状況があるからこそ、
一つの事象をどのように捉えるか、という
”解釈の仕方””判断のモノサシ”が生まれるのです。

職場は、さまざまな価値観、生き様、そして背景・経緯をもったメンバーの
集合体です。
だからこそ、いろいろな”モノサシ”が存在します。
組織として何かを意思決定したり進んでいくためには、
共通のモノサシをもつことが必要です。

そこで必要なのは対話(ダイアログ)。

かつての小中学生が、教科書もない中で「生活綴方」を通して
日々の気づきを互いに共有しつながりを強めていくことで、
感性や人間性を高められたように、職場の中でも、朝礼や終礼、
あるいは社内イベントなどの「場」をつくりあげて、
対話(ダイアログ)をし、組織としての”モノサシ”を共有していく、
ということを意識的に取り入れていく必要があるのです。

この『山びこ学校』に収められた詩や作文は、どれも感性豊かでユニーク
だけれども強く心を打たれる表現ばかりです。

パソコンでの資料作りやメール、ソーシャルメディアでのやりとりに
すっかり慣れつつある今こそ、あえて
「自分の気づきを手書きでまとめて皆で読み合う」という場づくりを
することで、右脳を刺激し、感性高い日々を過ごすことができるのでは
ないでしょうか。
 

金野 美香:日本ES開発協会プロフィール
金野美香(きんの みか)日本ES開発協会 専務理事 | 福島大学行政社会学部卒業後、有限会社人事・労務にて、日本初のES(従業員満足)コンサルタントとして、企業をはじめ、大学、商工団体で講師を務めるなど幅広く活動する。“会社と社員の懸け橋”という信念のもと、独自に編み出したES向上組織開発プログラム「クレボリューション」や、組織活性度診断「人財士」を活用した社内プロジェクトの立ち上げに取り組む。[http://www.jinji-roumu.com/] ・Tel:03-5827-8217 ・Mail:info@jinji-roumu.com