「ローマ人の物語(IV・V)」*に学ぶ変革と寛容の精神 – 「違い」を乗り越えた先にあるもの

 「何ものにもましてわたしが自分自身に課しているのは、自らの考えに忠実に生きることである。だから、他の人々も、そうあって当然と思っている」 – 古代ローマの帝政の基礎を築き、「ローマが生んだ唯一の創造的天才」とも評されるユリウス・カエサルの言葉だが、これはその中でもわたしの最も好きなものである。自らの意思で考え、行動に移すという自由があってこそ、その人の善き特質も活かされてくるし、そういった人々の集まりこそが組織としての活力と創造性を生み出すと信じて疑わない。

 凡そ「考える」ということは、様々な違いを生む源泉なのではないだろうか。コンサルティングという仕事を通じて現場で相手の想いや考えと向き合っていると、そう感じることが少なくない。「何故、こんな仕組み・制度がこれまで上手くいっていたのだろう」といぶかしむことがあったとしても、その会社の歴史や当時の事業環境・組織風土を振り返ってみると、「なるほど、そんな考え方もあったのか」と恐れ入る、そんな経験を自分自身が積み重ねてきた。コンサルティングの現場で求められる「変革」とは、クライアントの欠点を暴いて他社のベストプラクティスに無理に合わせるのではなく、それが何故上手くいかなくなったのかを丹念に調べあげ、いいところと環境に合わなくなった部分を明確にする、前者は活かし、後者は入れ替えていくことでクライアントが自分らしさを失わず、目指していた姿へと再び向かっていくための活力を与えていく、ということである。

 他でもない自分らしさを「考える」ことは、自らの独自性・アイデンティティを見出すための第一歩である。それがひいては個々の企業の「差別化」や「優位性」を実現し、市場・社会における自らの存在意義を確立することにつながる。更に、市場・社会がそうした多様な「想い・考え」を受け入れ、成長の原動力にしていくことが健全なグローバル化には欠かせない。自分は「変革」を仕事にするということは、他者とは違う「自分自身の想い」を優位性や社会的な存在意義に変えていこうとするクライアントを理解し、手助けしながら社会へ貢献することだと受け止めている。

 だからこそ、「変革」に直面した際には、相手と違う立場・視点で自分も必死に「考える」ことが必要であり、相手との「違い」を排除することなく真摯に耳を傾けて理解する努力を欠かしてはならない。また、「変革」を実現するには、相手の意見を鵜呑みにするのではなく、お互いの考えの違いを理解し、それぞれの意見・考えを等しく尊重することで、相手の良いところに改めて光を当てると共に、これまで気付くことが無かった新たな価値を見つけ出そうとする意志が必要、ということを肝に銘じるべきである。そう考えることができると、「自分の考えに忠実であるべき」という意思と、「相手にもそうであって欲しい」という願いが自らの中に自然に沸き起こってくる。

 カエサルは自らの治世の基本方針として「寛容」を掲げたが、これは単に相手を無条件に「赦す/受け入れる」ということではない。彼が寛容の精神を掲げたのは、恐らくこんな想いがあったからではないだろうか。

* 相手との「違い」を単なる「違い」と片付けず、何が違うのかを直視する
* 自分と相手との「違い」は何に根ざすものなのか、自分は何故相手と違う考えなのかを相手との対話を通じて問い続ける
* そういったやりとりのなかで、相手との「違い」から自ら「学習/成長」し、相手との「違い」を乗り越えて共有できるものを見出す
* 相手との「違い」を不安と感じることなく、お互いを尊重し活かしていくことで結びついていく共同体を築くことで、社会の繁栄と安定を実現する

 古代ローマが共和制から帝政への変革期を迎える中、カエサルは自らの理想とした社会を見ることなく世を去ったが、異人種・異民族・異文化が混ざり合いながらも法律を通じて平和と安定を確立したその後のローマの歴史(パクス・ロマーナ)を学ぶことで、彼の願いは実現されたことを後代のわたしたちは知ることが出来る。日本も今、国内市場が成熟化し、カネやモノに留まらない組織・人の「グローバル化」を将来の基軸としていく中で、他国との制度・文化・価値観の「違い」を乗り越え、お互いを認めながら共に成長する道を探るべき岐路に立っている。その過程で直面する問題の全てを我々の世代で解決することはできないかもしれない。だが、それらを異質なものと避けるのでなく成長への機会とみなし、相手との間で共有すべきものを追求していくことで解決への礎を遺していくことが後の世代に対する我々の責務であろう。たとえ生きているうちにはその結果を見届けることが叶わなかったとしても、である。

* ローマ人の物語 – ユリウス・カエサル – ルビコン以前(IV巻)/ルビコン以後(V巻) 塩野七生 著

執筆者: 寺田 弘志
マーサージャパン株式会社
組織・人事変革コンサルティング
シニアコンサルタント
グループ人材マネジメントシステムの設計・導入、人材モデルの策定・運用支援、企業統合・再編に伴うマネジメントおよび社員コミュニケーション支援、および、日系企業のグローバル化支援と海外現地法人の人材マネジメント改革支援に従事。
アンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)、日本ジェイディエドワーズ(現・日本オラクルインフォメーションシステムズ株式会社)、およびアーサーアンダーセンを経て現職。
京都大学大学院工学研究科電気工学専攻を修了。
 

マーサージャパン株式会社プロフィール
マーサーは世界 40カ国以上、約180都市において、コンサルティング、アウトソーシング、インベストメント分野で 25,000 社以上のクライアントにサービスを提供するグローバル・コンサルティング・ファームです。世界各地に在籍する 19,000 名以上のスタッフがクライアントの皆様のパートナーとして多様な課題に取り組み、最適なソリューションを総合的に提供しています。ニューヨーク、シカゴ、ロンドン証券取引所に上場している、マーシュ・アンド・マクレナン・カンパニーズ(証券コード: MMC )グループの一員です。[http://www.mercer.co.jp/ ]