欧米のテレワークの現状_ハイブリット型

funny happy excited young pretty woman sitting at table in black shirt working on laptop in co-working office, wearing glasses
2020.08.31

 各国で経済再開後、職場復帰が始まったものの、コロナウイルス感染が再燃し、復帰を予定より遅らせる企業も少なくない。

 ヨーロッパでは、ECB(欧州中央銀行)などのEU機関が、テレワークを年末まで延長している。とくにイギリスは、首相が飲食店などの支援のために、8月からの職場復帰を促したにもかかわらず、他のEU諸国(63%)に比べ、職場復帰が遅れている。今のところ職場に復帰したのは、ホワイトカラーの34%に過ぎない。(※1)アメリカでも、まだ屋内での集会が制限されている州もあるため、出社できる社員数も限られる。そのため、社員を交替で出社させざるを得ない企業もあり、出社する社員とテレワークをする社員が混在している。
 
 同時に、テレワークが長引く中、テレワークのデメリットも浮き彫りとなり、テレワークか出勤かの二者択一ではなく、両者を併用するハイブリッド型を取る企業が増えている。
 
 なお、英語で「ハイブリッド型」が語られる場合、1)週または月に何日かは出社するという同じ社員がテレワークと出社を兼ねる形と、2)担当業務によって、テレワークをする社員と出社する社員に分かれるという2つの形がある。

※1.フランスではホワイトカラーの83%、イタリアでは76%が復帰済み。

段階的に職場復帰

 5月に、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、カナダ5カ国の従業員数500人以上の企業の上級管理職を含むIT意思決定者600人以上を対象に行われた調査では、「12~18カ月後(2021年末まで)には社員の82%が職場に復帰する予定」という回答が得られた。(※2)その後、各国でコロナウイルスが再燃しているため、職場復帰は遅れそうだが、大半の企業は、いずれは社員の大半を職場復帰させようと考えているということだ。 

 回答企業の半数近くが、社員を一度に復帰させるのではなく、社員の安全を考え、段階的に行なう予定である。また、32%は、一部の社員を恒久的にテレワークさせるという。つまり、大半の企業が、当面、ハイブリッドで運営するということだ。当然のことながら、医療や建設、物流などの(essential)業界の方が、より迅速に”通常”に戻る予定であり、金融やITなどテレワークが可能な業界では、職場復帰には慎重だ。

 なお、回答者の95%が、人材開発や人材アセスメントには対面のコミュニケーションが重要だと答えており、一部のIT企業を除いては、100%テレワークに移行する企業は少数派と思われる。

※2.Xerox: The Future Work in a Pandemic Era.  回答企業は、金融、小売、医療、旅行など多岐の業界にわたる。

出社を望む社員も

 一方、社員側も、前回、報告したように、「在宅勤務ではワークライフバランスがとりにくい」という人は多く、テレワークが長引くにつれ、メンタルヘルスに異常をきたす人も出てきている。在宅勤務が何カ月にも及ぶ中、「同じ部屋で食事をし、睡眠をとり、仕事をする」「一日中、誰とも口を聞かない」「猛暑の中、冷房なしで仕事をする」のは耐えられないという人たちがおり(※3)、 自費で小さなオフィスを借りるという人さえいる。ワンルームの小さなアパートに住んでいる人や一人住まいの人など、居住環境によってもテレワークの受け止め方は大きく異なる。

 アメリカで市場調査会社が、さまざまな業界の多様な属性の1200人以上を対象に行ったアンケート調査では、人によってテレワークの受け止め方は違うものの、業界や属性にかかわらず、満足感ややる気が低下しており、メンタルヘルスにも支障をきたしているという結果が出ている。

回答者の32%が「追い詰められている」と感じており、在宅勤務に耐えられないという。このグループは社内での交流を切望しており、会社のパンデミック対応にも不満を抱いている。次に多いのが27%の「やる気が失せている」人たちで、パンデミック前に比べて仕事に対する満足感がもっとも低下し、落ち込みも激しい。「自分は在宅勤務には向かない」と思っているが、企業の対応には満足している。このグループには外交的な人が多い。

 25%は「在宅勤務は好きではない」が、会社の対応には一番満足しており、まだ「希望がある」という人たちだ。残りの16%は、在宅勤務が気に入っていて「生き生きとしている」という。テレワークの移行によって、仕事や会社への満足感も、やる気も向上している。このグループは、他のグループに比べ内向的な性格の人が多い。

テレワーク(在宅勤務)の受け止め方

このように、回答者の大半が在宅勤務に満足しておらず、メンタルヘルスも、パンデミック前には62%が「良好」と答えていたのが、テレワークが長引く中、「良好」と答えた人は28%まで下落している。仕事に満足している人も57%から32%に、やる気も56%から36%に下落している。

※3.アメリカでは、セントラル冷暖房が基本だが、以前は大して暑くならなかった地域や古い住宅には冷房がない場合も。以前は、あまり暑くならなかったヨーロッパでも、冷房のない住宅が多い。

オフィスはなくならない

  グローバル人材派遣会社が、5月に、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリア、日本、スペイン、イギリス、アメリカの8ヵ国の上級管理職を含むオフィスワーカーをを対象に行ったアンケート調査では、イギリスの回答者の77%が「テレワークと出勤を併用した形がいい」と答えている。(※4)6月に、オーストラリア、ブラジル、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカの6ヵ国の消費者を対象に行われたアンケート調査でも、64%が「100%テレワークではなく、少なくとも時には出勤(店舗や工場を含む)したい」と回答している。とくに、これは若い世代で顕著で、Z世代(24歳以下)では43%が「テレワークとオフィス勤務の併用が一番魅力的」と答えている。

世代別もっとも魅力的な勤務形態

 なお、「100%在宅勤務」を希望する回答者の割合はベビーブーム世代が一番多いが、「100%オフィス勤務」という割合も最高である。「100%オフィス勤務」を希望という割合は、年齢とともに低下する。また、職種によってテレワークに向くものと向かないものもあるという研究結果もある。テレワークの生産性への影響を調べた実験では、データ入力のような単純作業はオフィス環境の方が向いており(飽きてしまって気移りするから)、同じ人がクリエイティブな作業をした場合、テレワークの方が生産的だったという。(※5)

このように個々の性格や居住環境、職種によってもテレワークが適する場合と、そうでない場合があり、テレワーク、オフィス勤務のどちらにもメリット、デメリットがある。社員の満足感を最適化するには、どちらも取り入れたハイブリッド型が適しているといえそうだ。

※4.The Adecco Group, “Resetting the Normal: Defining the New Era of Work”
※5.Journal of Economic Behavior & Organization:“The effects of telecommuting on productivity: An experimental examination. The role of dull and creative tasks”2012年9月

自宅とオフィスの使い分け

ハイブリッド型では、通常のオフィスワークはテレワークで行い、同僚と協働が必要な場に出社するという使い分けも見られる。前回、報告したように、100%テレワークの企業でも、社員同士の対面での交流は重視されており、テレワークに慣れていない新入社員などがオフィスで働きたいという場合には、会社の費用でコワーキングスペースを提供するという。

東京などでは、テレワークの普及やコロナ不況の影響で、オフィススペース需要の減少が報じられているが、アメリカでは、新たにオフィススペースを確保するIT企業も散見される。フェイスブックは、グーグル同様、2021年夏まで社員のテレワークを許可しているが、新たにマンハッタンに(東京ドーム3個分の)巨大な事務所スペースを借りる契約を交わしたところだ。また、アマゾンでは、ニューヨークやダラスなど6大都市で新たにオフィスを開設し、3500人を新規採用するという。各地にオフィスを設けることで、テレワークと並行して、各地の社員が出社することも可能となる。(※6)

日本では、パンデミック以前からサテライトオフィスを設置する大企業が増えていたが、こうした企業では、出社する場合、都心の本社に出向く必要はなく、最寄りのサテライトオフィスを利用することが可能となっている。数年前からテレワークを導入し、ハイブリッド型を実践している富士通では、パンデミック後の社員アンケートで、8割が「自宅」「サテライトオフィス」「自宅とオフィスの使い分け」を希望したという。そこで同社では、「用途に応じたオフィスの最適化を社員は望んでいる」と結論づけている。(※7)
 
このように、各社員の仕事内容やライフスタイルに合わせて、自宅やサテライトオフィス、コーワキングスペースなど、働く場所を自由に選択できるようにする形が、先進企業では今後の流れになりそうだ。

※6.アマゾンは、新たな給与税などを巡って、長年、シアトル市と対立しており、(マイクロソフト本社のある)ベルビューに本社を移転し、バージニア州に第二の本社を設ける計画。
※7.富士通 「社員の働き方の意識を変えるサテライトオフィス」


ハイブリッド型移行への注意点

 ハイブリッド型が主流になりつつある理由に、(規制や安全確保のために、それしか選択肢がない企業も多いが、)導入が比較的容易であるという点がある。パンデミックで仕方なく一部の社員をテレワークにしたという企業もあり、これまでテレワークを導入してこなかった企業にとっては、一度に100%テレワークに移行するよりもハードルが低い。

また、試験期間として部分的に導入し、IT環境や人事制度、コミュニケーション方法などを整えた上で、導入を拡大することができる。かつ社員がテレワークをどう受け入れるかを評価しながら、段階的に進めることが可能だ。一方、テレワークを提供することによって、場所にとらわれず、優秀な人材をリクルートできるという点をハイブリッド型の利点として第一に挙げる企業も多い。

先述のアンケート調査にあるように、100%オフィス勤務や100%テレワークよりも、両者を併用することを希望している社員も多い。もちろん、これには、少なくともある程度、社員が勤務スケジュールを選択できることが前提である。基本は、柔軟な勤務形態の提供であり、それによって優秀な人材を引きつけることができるということだ。

問題点

 しかし、テレワークを一部導入しても、会社の方針や枠組みを、そのままにしている企業も少なくない。テレワーク100%の企業では、否応なしに、会社の体制や方針をテレワーク対応に転換することが強いられるが、ハイブリッド型では、そうした状況が起こりにくい。特別な事情で一部の社員にテレワークを許可しても、会社全体でテレワークに対する理解が広がらなければ、テレワークをする社員が置き去りになる恐れがある。テレワークを行なう社員が孤立したり、出社組の間で妬みが生まれたりするのだ。すでに、日本でも「不公平」という声が上がっており、アンケート調査でも、テレワーカーが2~3割を占めるハイブリッド型の職場で、不安感・孤独感を持つ人がもっとも高いという結果が出ている。(※8)
  
 とくに、上司やリーダーが出勤するのか、テレワークするのかは、大きな影響を及ぼす。「当社はテレワーク導入」と言いながら、上司、管理職が出勤している間、どうしても出勤する社員との関係が蜜になり、人事評価にも影響が出かねない。テレワークが昇進、キャリア形成に不利になるとなれば、テレワークを避ける社員が出てくる。テレワークをする社員が一人でもいれば、それはハイブリッドということであり、その社員が不利にならないような規則、態勢づくりが必要なのである。人事の方針が以前のままで、社員をテレワークさせても、士気が下がったりするなど、結局、優秀な人材が辞めることになりかねない。
 
 100%テレワークを推進する企業では、「ハイブリッド型は、従来のオフィス勤務型とテレワークの悪いところどりで失敗する」という声も聞かれる。オフィスがある限り、それが社員をつなぎとめることになり、その企業の制度がテレワーク向けに変化しないというのだ。現に、米ヤフーやヒューレットパッカードなどが、何年も前にテレワークを導入して、断念している。出社組とテレワーク組との間に溝ができ、ひとつの企業としてまとまらなかったのが原因だ。
 
 ハイブリッド型で成功しなかったのは、大企業だけではない。社員40数人のIT企業でも、「仲間と一緒にいたい」「無料の食事・スナックは捨てがたい」「退社後は仕事のことは忘れたい」といった理由で、社員たちが徐々にオフィスに戻ってしまったというケースもある。ただし、「ハイブリッド型は失敗する」と声高に言うのは、以前から100%テレワークをしている小規模のIT企業である。実際、工場や店舗を所有する企業では、100%テレワークは不可能であり、あらゆる業界の全企業がテレワークに移行できるわけではない。

導入の条件

 ハイブリッド型を成功させるには、たとえテレワークする社員が一人でも、テレワークを基本に会社の方針を変更することだ。そして、上司、管理職が、100%テレワークが無理だとしても、かなりの部分をテレワークすることも必要である。コミュニケーションは、テレワークを前提としたものに変え、社内会議は、基本、バーチャルで行われるべきだろう。出席できなかった社員のために、すべてを録画または文書化し、関係者は誰もがアクセスできるようにするといったことが必要となる。
 
就業規則だけでなく、テレワークに即した人事評価制度など、人事制度も根本的に見直さなければならない。前回、紹介したように、福利厚生もテレワークに即したものに変更する必要がある。たとえば、社内で無料の昼食を提供する代わりに、全社員に昼食手当を支給したり、社内イベントは、出勤している社員だけが参加できるような形は避けるといったことだ。


ハイブリッド型移行例

 パンデミック発生以前から、社員の10%がテレワークを行っていたアメリカのIT企業(社員100人規模)では、2021年1月から、社員が3つの勤務形態から自由に選べる仕組みにするという。社員は、年に一度、勤務形態を変更することができる。

勤務形態

さらに同社では、こうした柔軟な勤務形態に移行すると同時に、人事制度も変更した。

人事制度

重要なのは、出社かテレワークか、ということではなく、個々の社員が、それぞれのニーズ、ライフスタイルに合った勤務形態を選べるかどうかということだろう。

※8.パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」
※9.Inclusive/inclusion とは、「除外」の反対で、障害や人種、性的指向などにかかわらず、すべてのメンバーが「受け入れられている」「個々の経験や能力、考え方が認められている」と感じ、かつ機会やリソースが公平に与えられていること。ハイブリッド型の場合、とくにテレワーカーが疎外されたり、不利にならないような配慮を指す。

掲載内容は、作者からの提供であり、当社にて情報の信頼性および正確性は保証いたしません。

有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。