ハンガリー・中欧諸国
ハンガリーでは、あらゆる分野で史上空前の人材不足が生じており、とくに人材不足が深刻なのが、ITのほか、建設系、運転手、エンジニア、医者、会計士と言われている。IT人材は、現時点で2万人以上が必要だという。
アンケート調査では「人材不足は深刻な問題である」と答る企業が 67%にのぼっている。求人広告の 66%が学歴などの応募条件を下げ、25%以上は「経験を問わず」とうたい、大半の雇用主は「同じような職で1~3年の経験があれば十分」と考えているにもかかわらず、 67%以上の企業は、人材を見つけるのに平均2ヵ月かかるという。夏休みの学生バイトさえ見つからないという企業もある。
ハンガリー政府は、2017 年に最低賃金を引き上げ、給料税減額措置によって給料上昇を促しているものの、人材不足に歯止めがかかっていない。
なお、ポーランドやチェコ、スロバキアも、同様な状況である。 ポーランドでは、2004 年のEU 加盟以来、賃金は倍以上になっている。
要因
・経済発展
資本主義への移行による外資誘致、EU加盟で経済発展が著しい。
・低賃金による労働者の流出
過去何年もの間、東欧諸国から西欧諸国に出稼ぎに出て行った歴史がある。今なお、より高い賃金を求め、若者は西に向かうという。
・出生率の低下
これらの国々では、出生率が日本と同等、またはそれ以下で、2050 年までに4か国合わせて人口は 800 万人以上減少し、計 5600 万人になると言われている。
対策
・二重国籍認可で帰国奨励
西欧に流出したハンガリー人の帰国を促すために、ハンガリー政府は 2010 年に二重国籍を認可している。
・高齢者の活用
専門家は、年金受給者 200 万人の仕事復帰の促進を推奨している。
・限定的な外国人雇用
難民流入阻止のために国境を閉鎖し、EUの移民政策に抵抗するハンガリーは、外国人雇用にも慎重である。しかし、ウクライナからの就労者を限定して呼び込む政策を検討している。ドイツや韓国の企業は、ハンガリー工場でウクライナ人を雇用しており、そうでなければ稼働に必要な人員を確保できないという。
ロシアによるクリミア編入以前から始まっていたウクライナ危機により、ウクライナ経済はIM
Fなどの支援を受けているものの、経済は未だ危機的状況であり、失業率も高い。そのため、他国に働きに出る人が多く、(言語や文化が似ている)ポーランドでは 80 万人、チェコでは 10 万人以上のウクライナ人が働いている。
・自動化
工場では急激に自動化を進めているが、自動化するとプログラミングや保守、サービスで高スキル人材が必要になり、新たな人材不足に陥るというデメリットがある。
ドイツ
ドイツでは、現在、160 万件の求人が埋まらずにあると言われている。さらに、2030 年までに 300 万人の熟練者が不足するという。とくに理工系、医療、研究職などでの人材不足が顕著である。Indeed の 100 万人あたりのIT求人数は、ドイツがダントツで一番多いという。
EU実施によって一番得をしたのはドイツといわれ、実際、2012 年からドイツには6万人以上の高スキル就労者が流入した。しかし、退職するベビーブーム世代が去った後を埋め、現在の就労人口を支えるには、2050 年まで毎年 50 万人の移民が必要であるという。
アンケート調査では、企業の 60%が熟練就労者を見つけるのが最大の問題であると回答し、2016 年、職を埋めるのに 60 日かかっていたのが、2017 年には 100 日と悪化している。
別のアンケート調査では、80%が熟練就労者の不足により「イノベーションに投資ができない」、50%が「将来、事業が存続できない可能性がある」と回答している。
人材不足から、ドイツ国外で投資をする企業も増えており、経済学者の多くも、自動車メーカーやエンジニアリング会社は、海外に出るしかないだろうと予測している。
要因
・生産年齢人口の減少
2020 年ごろからベビーブーム世代が引退を始め、たとえ、年に 30 万人ほどの難民・移民を受け入れても、生産年齢人口は、2025 年ごろから減少に転じると予測されている。生産年齢人口は 2013 年の約 4900 万人から、2060 年には 3800 人に 22%以上、減少すると独政府では予想している。
なお、出生率は、2015 年に上昇に転じ、東西統一後、最高の 1.5 人に達したが、EUの平均を下回っている。※1
・デジタル化の遅れ
ドイツは、2017 年のDESI(Digital Economy and Society Index)でも 11 位で、デジタル化でも(とくにブロードバンドの普及と公的サービスのデジタル化)、他のEU国に後れを取ってい
る。光ファイバーが利用されているのは、ブロードバンドの 2.5%のみであるという。そのため、とくに地方の中小企業では、海外とのコミュニケーションに支障が出ており、ビッグデータアプリ
ケーションも使えない環境である。
また、個人情報保護規制が強すぎ、クラウドの利用が普及していない。企業内ではチャットやビデオ会議などの利用は禁止されており、通信手段は未だにメールである。プロジェクト管理には、エクセルや MS プロジェクトが使われている。
学校のICT環境も整っておらず、他国のレベルに追いつくには 30 億ユーロの投資が必要だと言われている。
・学生の間でのITの不人気
こうした背景からか、職業訓練(徒弟制度)を選ぶ男子生徒の間でITの人気は5位に甘んじており、女子の間では上位5位にすら入っていない。(一位は男子が自動車修理工、女子はオフィスワーク、二位は男女とも小売。)
・若者のモラトリアム
また、若者(ミレニアム世代)の間では、徒弟制度半ばでの離職率(26%)や大学の中退率(30%以上)が増加している。
※1 一般に、ドイツの出生率がヨーロッパで最低のように思われているが、ポルトガル、ポーランド、スペイン、ギリシャ、イタリアなど、ドイツ、日本よりも低い国がいくつもある。
対策
政府におる対策は、総体的には日本と同じで、
・若者の再教育
・女性の活用:女性の就労率は 70%近いが、約半数がパートタイム勤務
・高齢者の活用:退職(年金受給)年齢を 67 歳に引き上げ
・パートタイム就労者の就労時間延長
・難民受け入れ
昨年、シリアなどからの難民に門戸を開いて世界を騒がせたが、ドイツでは 100 万人の難民を受け入れた。しかし、大半が、ドイツの企業が必要としているスキル・経験を持ち合わせていないと言われている。2015 年の調査では、職業訓練修了者や大卒者は、難民全体の 15%未満であったという。熟練者でも、ドイツ企業で必要なスキルを備えている人材は少ない。経済開発協力機構
(OECD)によると、平均して、シリアの8年生はドイツの3年生に相当するという。
難民の独社会への統合を進めるには、最低賃金の減額も含め、ドイツの現水準を下げなければならないという声も出ている。
なお、ドイツの失業率は、現在、東西統一後、最低水準だが、非熟練者に限ると失業率は 20%にのぼっており、難民の増加は、非熟練者の間での競争を激化することになる。
政府では、2019 年までに、すでに失業保険の受給者が 100 万人増えると試算している。
・職業訓練
難民らは、既存の職業訓練(徒弟)制度の下、職業学校に籍を置きながら、主に企業で実践的な職業訓練を受ける。難民の半数近くが 25 歳以上で、こうした正式な職業訓練は受けない割合は高いと見る向きもある。
一方、SAPなど一部のIT企業では、難民にドイツ語やプログラミングを3年にわたり研修する「Study+Work プログラム」を提供している。難民 150 人がプログラムに参加しており、そのうち50 人を雇用する予定であるという。残りは勉強を続けるか、他社に入社する。
オランダ
オランダ経済は好調で、今年度の経済成長率は 3.2%と大半のEU諸国を上回っており、来年度も同様の成長が続くと予測されている。
オランダは、DESIで、北欧諸国に次いで4位、固定ブロードバンドの普及に関しては1位で、デジタル化の進んだ国である。Forbes200 社の 60%が、オランダに拠点を設けている。
また、求人広告の 13%がエンジニア部門(IT、機械、プロジェクト等各種)で、エンジニアの需要が世界で二番目に多い。
IT職では、求人 26 件に対し、適格な初級技術者が1人、中堅の場合、求人 16 件に対し1人しかいないという。なお、一番需要が多いのが、プログラマー、データアナリストと言われている。
こうした人材不足により、首都アムステルダムのスタートアップIT企業では、就労者の 70%が外国人であるという。ブラジル、フランス、トルコ、ウクライナ、インドなど世界各国から集まっている。
なお、2017 年の「IT企業に魅力的な世界の年ランキング」で、アムステルダムは 22 都市中、第5位にランクインしている。(ちなみに、東京は 18 位。)
要因
・スキルギャップ
ミスマッチ優先職として、理工系、IT職が挙げられている。たとえば、失業率は最低水準にもかかわらず、何千人ものICT人材が失業しており、同時にICT求人の半数近くが埋まらないという状態が続いている。
・短い労働時間?
オランダでは短時間勤務者が多いのが労働市場の特徴で、人材不足に影響していると思われるるのだが、誰も労働時間の延長をしたくないからか、フルタイム勤務者の増加は唱えられてないようである
対策
・人材の再教育
蘭政府では、マイクロソフトなどのIT企業と協力して、失業中のIT人材を対象にセミナーなどを行っている。再就職に有利なスキル(クラウド、BI、セキュリティ等)の習得を促し、講師や雇用主も紹介する。
ITハブでもある首都アムステルダムでは、地元スタートアップ企業は、高給を支払える在蘭シリコンバレー企業と人材獲得競争で負けるため、適格な人材の分母を増やすことに注力している。政府の助成金と企業の奨学金で運営されるプログラムでは、新卒向けに、UI/UX デザイン、デジタルコンテンツ開発などの研修プログラム(B. Startup School Amsterdam)を提供している。7~9か月のフルタイムコースには半年の企業での有償インターンシップも含まれる。受講生は、条件を満たせば無料で受講できる。
・アウトソーシング
ソフト開発アウトソーシング先はウクライナが主で、アムステルダムを本社とするアウトソーシング企業では、元々、オランダ企業向けに行っていたが、今ではオランダ企業は顧客全体の 40%のみで、残りは他のヨーロッパ諸国やアメリカ、中近東の企業が占めるという。同社では、アウト ソーシングでなくオランダ国内で開発をしたいという企業向けには、ウクライナの開発者をオランダに転勤させるプログラムも提供している。
・海外からの人材雇用および移民促進
EU外からの留学生は、卒業後一年、高スキル移民として、オランダに滞在することができる。
一年以内に就職すると、居住許可を得ることが可能になる。
また、大学院卒の外国人は、高スキル移民または起業家として、居住および就労許可を得ることができる。ただし、卒業校は、オランダ国内の大学、または指定出版機関のランキング上位 150 校に属していなければならない。なお、高スキル移民を雇えるのは、指定の企業に限られる。
オランダも、北欧諸国と同様、EU離脱でイギリスを離れたい人材を勧誘しており、かつ就労ビザ(H-1B)の発給を引き締めているアメリカでの就労をあきらめた人材の勧誘にも積極的である。
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