公開5日でユーザー100万人超えの対話型AIチャットボット「ChatGPT」、仕事や学習の活用例

Chatbot isometric concept with communication and feedback symbols vector illustration
2023.01.31

最近、世界的に話題になっている技術に、AIチャットボットのChatGPTがある。自然言語処理モデルGPTの最新版(GPT-3.5)を利用したもので、GPT(Generative Pre-trained Transformer)とは、大量のテキストデータをAIに与えて学習させる大規模な言語モデルのことである。

ChatGPTは、元Y Combinator(シリコンバレーの有名スタートアップ・アクセラレータ)の社長が2015年に立ち上げたOpenAIが開発し、2022年11月に公開した。同社は、2021年には、画像(デジタルアート)生成AIツール、Dall-E の公開で注目を浴びている。(たとえば、「恐竜」と入力すれば恐竜の画像を作成)

OpenAIには、テスラのイーロン・マスク氏も共同創立者として名を連ね、2018年まで役員を務めていた。マイクロソフトは、2019年と2021年、二回にわたってOpenAIに投資しているが、この1月に、さらに数十億ドル~100億ドルの投資をすると発表した。

後述するが、マイクロソフトは、OutlookやOfficeを含む同社の全製品にChatGPTを搭載する計画である。同社の企業向けクラウドサービスAzureにも搭載される予定だが、クラウドサービスでは、アマゾンがグローバル市場の34%を握っており、シェア24%のマイクロソフトは、これで巻き返し(グーグルは11%)、AIでは首位に立つことを狙っている。

2022年11月にChatGPTが公開されてから、5日間でユーザーは100万人を超えるほど注目を集めている。今のところ無料で公開しているが、一部の人には有料のプロ版が紹介されており、今後、本格的に展開される予定だ。

 

ChatGPTの特徴

ChatGPTの主な特徴には、下記が挙げられる。

会話形式で回答

会話形式で質問に答えることができ、自然な会話の形で情報を提供できる。既存の検索エンジンでは、いくつもの選択肢が表示され、それをひとつひとつ読んで選択する必要があるが、ChatGPTは必要な情報だけを端的に教えてくれる。また、難しいコンセプトを「簡単な言葉で、10歳の子でもわかるように説明して」といったリクエストにも答えられる。

以前の質問を覚えているため、フォローアップの質問などができる。たとえば、「マネージャーにメールを送れ」というリクエストに対しては、「メールの目的とマネージャーに何を伝えたいのか教えてもらえますか」という答えが返ってくる。

その他、「部屋の装飾のアイデア」「〇歳の誕生日パーティーのアイデア」「オーストラリアに旅行するので、1週間の日程を計画して」といったリクエストにも対応できる。料理のレシピも提供でき、例えば「今日は疲れているので、簡単に作れるものはないかな。冷蔵庫には〇〇と△△がある」といった問いかけが可能である。

ただし、ChatGPTの回答が正しいとは限らず、間違った答えをすることは、OpenAIも認めている。例えば、プログラマー向けコミュニティサイトでは、ChatGPTを使った回答の正解率が低すぎて、一時、回答停止となった。

ChatGPTのAIは、インターネットからの膨大なデータを基に学習しているが、ネットにつながってはいない。そのため、リアルタイムでニュースや市場データにアクセスできるわけではなく、2021年までの事象に関してしか答えることができない。

長文作成

ChatGPTが、これまでのチャットボットと違うのは、長めの文章を作成できる点だ。詩や歌、記事やエッセイを書くこともできるし、メールや履歴書に添付するカバーレター、辞表を書くこともできる。人間と違い感情はないため、作成された文章は無味乾燥的、かつ普遍的なものになりがちで、説明のようなハウツーものに向いている。

ただし、「芥川龍之介のスタイルで小説を書け」といったリクエストをすれば、そうしたスタイルも可能であり、実際に「〇〇のスタイルで歌を書け」と有名シンガーソングライターのスタイルで歌を作っている人たちがいる。

クリエイティブな分野では、AIは人間に置き換わることはあり得ないと言われているが、作品のアイデア創出ツールとして、ChatGPTなどのAIを利用することは十分可能である。

アシスタント的作業

ChatGPTは、アポ取り、買い物リストやto do listの作成など、オフィスアシスタント的な作業をこなすこともできる。AlexやSiriなどAIを利用した顧客サービスツールを提供しているIT会社では、すでにChatGPTの言語モデルであるGPT-3を統合しているところもあり、AlexやSiriの機能の向上にもつながっている。

また、ChatGPTを使ってコーディングやデバックを行っているソフト開発者はすでにいる。ChatGPTが作成したコードをそのまま使えるわけではないが、初めから自分でコードを書くよりも、確実に速く、生産性が30~40%は向上するという開発者もいる。

・マイクロソフト

上述のように、OpenAIに多額の投資をしているマイクロソフトでは、ChatGPTを全製品に搭載する予定である。たとえばBingの新たなバージョンでは、検索結果を会話形式で提供するという。(Bingの検索エンジン市場シェアは3%、グーグルは92%)

また、Outlookにも組み込んで、受信箱から正確な検索結果を入手できるようにしたり、ミーティングの自動スケジューリングなどを行えるようにするということだ。早ければ3月にはサービスを開始するという。

いずれは、メールへの返信も自動的に作成することが可能となる(人間は間違いがないかチェックして手直しをするだけ)。ChatGPTは、WordやPowerPointなどにも組み込まれる予定で、そうした機能を搭載することで、文章・レポート作成機能が向上する。(Wordには、すでにスペルの間違いなどを指摘する機能が搭載されているが、さらに表現を変えたり、文章を簡潔にする指摘もできるようになる)

Wordで作成したレポートを要約し、Power Pointのプレゼンに変換したり、Microsoft Teamsを使って行われたオンラインミーティングの要約を作成したり、といった作業も可能となる。Power Pointも、先述のDall-Eを搭載すれば、ビジュアルも自動的に作成できるようになる。

Excelも、「石油産出国トップ5」と入力すれば、データを基に自動的にグラフを作成といったことが可能となる。

多言語に対応

ChatGPTは、日本語を含む多言語に対応している。日本でも、先月から、ChatGPTを既存の日本語のコミュニケーションアプリに実装している企業がある。

後述するが、GPT-3を利用して20言語以上でマーケティングのコンテンツを作成できるサービスを提供している企業もある。

 

ChatGPTの活用例

ここでは、実際にChatGPTが利用されている例、試験的に使われている例を挙げたい。
  
顧客サービス

チャットボットは、日本でも、すでに顧客サポートに利用されているが、単に顧客の質問に合わせて、既成のFAQを切り貼りつけているようなものが多く、インタラクティブ(双方向性)とは言い難い。それに比べ、ChatGPTでは、あらかじめ用意されたスクリプトを表示することはなく、個々の質問に合わせ、新たに回答を生成する。

顧客サービスのやりとりの3割は、FAQの貼り付けですむような繰り返し行なわれる質問であると言われており、残りの7割で、個々の問いに対応できる会話形式の回答が、本領を発揮することが期待されている。すでに、AIを利用した顧客エージェントは利用されており、個々の顧客のニーズ、回答に合わせてパーソナライズできるというメリットがある。

また、ChatGPTは多言語に対応しているので、顧客サービスを多言語で提供することも可能である。

レポート・記事作成

米ITメディアのCNETでは、試験的に、2022年11月から75本ほどの記事をChatGPTによって作成した。たとえば、「複利とは?」といった類の簡単な内容の説明記事である。しかし、複利計算の例で使われた計算に間違いがあり、何度も人間による修正が必要だったという。(人間が書いた記事にも、いくらでも間違いはあるが)

すでに、大手通信会社や新聞社でも、AIを一部利用しているが、主にスポーツの結果など事実を述べるだけの記事に使われている。

今のところ、ChatGPTは、下書きには使えるが、記事を完成させるには人間によるファクトチェックや編集が必要だというのが大方の味方である。(人が書いた記事でもファクトチェックや編集が入るので、記事になるまでの過程は、あまり変わらないが)

ただし、ネット記事が主流となり、SEO目的で価値の低い記事が大量に作成されるようになってから、事実の確認や文章の構成がひどいものも少なくないので、ChatGPTが作成する記事は、それと変わらないと言える。

SEO目的で価値の低い記事を大量生産するコンテンツミル(content mill)は、ハウツー記事を得意としたが、ChatGPTも、そうした記事の作成に適しているようである。たとえば、投資に対するアドバイスを請うと、「不況時には、市場の変動に耐えられるような分散投資ポートフォリオを築くことが重要だ」といった一般的なアドバイスはできるが、もっと個々の状況に適した具体的なアドバイスは難しそうである。

広告・マーケティング

世界的大手ブランドでは、ChatGPTを利用した広告スローガン作成などを、すでに試験展開中だが、ChatGPTは、広告コピーやマーケティングメール、ソーシャルメディアのコンテンツなどの作成にも利用できる。また、会話形式のマーケティングツールとして、パーソナライズしたインタラクションも期待できる。
 
例えば、インドの結婚紹介サイトでは、LinkedInに掲載するために、ChatGPTに下記(Q)のようなリクエストをしたところ、下記(A)のような投稿文(宣伝文句)が得られた。(ともに原文は英語)

Q. 「新年のあいさつとして、暖かくて、機知に富んで、LinkedInにふさわしい投稿を作成して」
 
A.「また、あの季節がやってきましたね。恋、笑い、そして出会いの季節です。独身の方で出会いを求めている方、あなたのことを真に理解してくれるパートナーをお探しの方、当方にお任せください。当社では、パーフェクトな相手を見つけることはとてつもなく難しいことだと理解しています。我々の役目は、その過程を簡単で、楽しく、ストレスのないものにさせていただくことです。<後略>」

こうしたマーケティングコピーは、(筆者を含め)大半の人には書くことができない。世間では、文章を書くのが苦手な技術者や専門職などは多く、とくにマーケティング用コピーは誰でも書けるわけではない。いちいち専門のコピーライターを雇ったり、外注していたのでは、時間やコストがかかる。ChatGPTを利用すると、人が作成するよりも、何倍も速く作成できるというメリットがある。

アメリカには、GPT-3を使ったコピーライティング、コンテンツ作成サービスを提供している企業はすでに存在している。日本語を含む24言語で入力でき、タグラインやソーシャルメディアのテキスト、宣伝メール、製品説明などを29言語で作成可能であるという企業もある。

コンテンツ作成中に、検索エンジンで上位に位置するためのキーワードが表示されるソフトを提供したり、既存の文章を盗用していないことを確認するため、盗作チェッカーを搭載している企業もある。中小企業向けには、月2000円ほどからあり、お手頃な料金である。

この他、イベントの概要、リスティングでの宿泊施設や不動産の概要の作成など、ChatGPTを使えば、何百件というリスティングに対しても迅速に対応できる。また、チャットボットは、セールスリードの作成、顧客候補の選定、購入完結までの顧客誘導などにも利用できる。

人事

人事分野でも、求人広告や職務記述書(job description)の作成、応募要件のリスト化など人事採用プロセスの自動化にChatGPTは利用されている。

応募要件の確認を含む、ふるいにかける段階の面接であれば、面接にもChatGPTは使えそうである。

・研修

自然言語のため、ChatGPTは、とくにインタラクティブな研修に有効である。会話形式による質疑応答や個々のニーズに合わせたパーソナライズ研修が可能となる。また、個々の社員の学習状況のトラッキング、学習状況に基づいたフィードバックの提供も可能となる。

ただし、ChatGPTが人事のスタッフに置き換わるわけではなく、物事を暗記したり、公にわかるものを調べたりといった作業はAIに任せ、人間はより高度な作業、人間にしかできない作業に専念できるということである。(AIにできることしかできない人間は淘汰されるということでもあるが)

・就活者にとってのツール

一方、就活者にとって、ChatGPTは頼もしいツールとなり得る。

アメリカのコミュニケーションのコンサル会社が、ChatGPTが、同社の事業を脅かすほどのものなのかを確かめるために、社員採用審査過程で、ChatGPTが作成した応募書類を提出した。採用担当者には、ChatGPTによるものが含まれていることは知らされていなかった。

「300語で、優れた文章を書く秘訣を説明しなさい」という問いに対し、ChatGPTの回答は合格し、面接に呼ばれる結果となった。なお、合格したのは、応募者の2割未満のみで、ChatGPTは、応募者の8割より優秀だったということである。

別のケースでは、応募の際のカバーレターをChatGPTを使って書いたところ、採用担当者は人間が書いたものと区別がつかなかったという。

面接に関しても、応募者は、ChatGPTを通じて、多くの質疑応答の例を使って練習することができる。

採用側は、ChatGPTを使った応募者を落としたり、減点するのではなく、ChatGPTの利用で合格できるような審査過程を見直すべきであり、今後、時代に合わせて人事採用過程も大きな変革が求められるだろう。

上述のほか、法務、医療、旅行などの分野でも、自動化において、ChatGPTの活用が期待されている。例えば、契約書の作成などは、ChatGPTに任せることができる。    

教育

ビジネスの世界では、さまざまな分野での活用が期待されるChatGPTだが、教育現場では、思わぬ動揺が広がっている。

昨年、ChatGPTが登場してから、学生と比較してChatGPTは試験などで、どのような成績を収めるのかといった実験が、各地の大学で行われている。

米有名ビジネススクールでのオペレーション・マネージメントの試験では、ChatGPTは、点数Bに相当する成績だったという。ロースクールでの試験でも、C相当の成績で、マルチプルチョイスよりもエッセイの方が得意だったという。なお、米司法試験では、ChatGPTは半数に正解した例がある。受講者の平均は68%なので、数を重ねれば、合格は可能だと見られている。

こうしたことから、学生が試験や宿題にChatGPTを利用することを危惧する教授陣が増えている。実際に、ChatGPTを使って書いたレポートを学生が提出したケースがいくつか報告されており、今後、「持ち帰り試験はできない」「どのようなITツールを使ってレポートを書いたかを開示させる」という教授も出てきている。

また、チャットボットを使って書いたレポートなどは“盗作”にあたるのかどうかを審議し、学校の「行動規範」を改正する必要があるというロースクールもある。

・禁止する学校も

ニューヨーク市やロサンゼルス市などの教育委員会では、すでに、学校で使われるデバイスでのChatGPTを禁止している。こうした動きは、今後、他の地域でも広がると見られている。

こうしたことから、教師が盗作を見つけるのに利用しているソフトを開発している企業があるが、今年から、生徒がチャットボットを使って宿題を行ったかどうかを見抜くサービスを開始するという。

・学習のツールとして

一方、チャットボットは、同級生に「この部分、ちょっとわからないんだけど、教えて」と聞くのと変わらないのではないかと声もある。

学習のためのツールとして活用できるものであり、使用を禁止するのではなく、生徒に使い方を教えるべきだという意見もある。生徒が社会に出た後は、ChatGPTなどのAIツールと触れる機会は増えるわけであり、そうした世界に適応できるよう準備すべきという意見だ。

世界初の電卓が誕生したのは、1960年代で、70年代には広く普及し、手動やそろばんで計算する必要はなくなった。その後、コンピューターが登場し、複雑な計算も一瞬に行えるようになった。そうしたツールを使わずに、生徒たちには手動での計算の仕方だけを教えるべきなのかといった議論と似ている。

ロースクールでも、一年目の法務リサーチや法務ライティングの授業で、法務データベースの使い方を教えるように、ChatGPTの使い方も教えるべきだという声が出てきている。将来、職場では、こうしたデータベースと同じように使われることになるからだ。

ChatGPTは、新たな言語を教えるツールとして使えるのではないかと、その効果を研究している大学教授もいる。

新たな技術を恐れるのではなく、新たな学習方法として受け入れて活用すれば、教育自体を根本から大きく変革することにもなり得る。

 
「自分の職がChatGPTによって置き換えられるのではないか」といった懸念の声も上がっており、ChatGPTを巡っては、当分、不安と期待が交差した状態が続きそうである。

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有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。