外国人から見た日本の魅力:日本への移住や就労願望者の増加

convertkit-htQznS-Rx7w-unsplash
2024.02.27

海外からの入国制限後、筆者のアメリカの友人知人も、次々に日本を訪問しているが、訪日観光客の数は、月ベースでは、すでにコロナ前の水準に回復している。訪日観光客が増えるとともに増えているのが、「日本に移住したい」という外国人たちである。入国制限解除直後は、「日本に移住(留学を含む)(MovingToJapan」のオンラインコミュニティでは、「日本に住みたい」という投稿は週に一度程度だったのが、週に数回となり、今では一日数件にのぼっている。

中でも増えているのが、「日本に観光に行って気に入ったので、住んでみたい」「引退して日本に住みたい」という人たちだ。

上述のオンラインコミュニティはアメリカ企業が運営しているため、ユーザの6割ほどがアメリカ人である。それ以外は、ヨーロッパ、中南米、アジア(インドやフィリピンなど)の在住者だが、(日本人を含め)英語がネイティブレベル、またはそれに近い人たちである。(そのため、中国人、ベトナム人、韓国人などは非常に少ない)

欧米人で日本に移住したい、住みたいという人は、大きく下記のように分けられる。
1)アニメなど日本のサブカルチャーのファン
2)上記以外の日本の文化のファン
3)旅行をして気に入った — 治安の良さや整った公共共通機関など
4)配偶者や親が日本人

1)や2)の人たちには、「日本に住むのが子供のときからの夢」という人も少なくなく、日本語を勉強しているという人も多い。中には「〇〇年後、日本に住むために、今から準備している」という高校生や、大学に入学する前から「日本で大学院に行きたい」という高校生もいる。今まで見た中で一番の年少者は、「日本の美大に行きたいので、日本語を勉強している」という非英語圏の14歳の少女である。

最近では、日本で「仕事のオファーをもらった」という人たちの書き込みも増えている。とくにアメリカから移住の場合、給料は減るが、「日本の方が生活費が安いので、その給料でも大丈夫」という日本在住の外国人からコメントが寄せられる。(「日本の方が生活の質が高い」という声も多い)

「日本の地方で空家を購入してリノベした」「日本で数百万円で持ち家が買えた」「民泊をして儲けている」といったインタビュー記事も掲載され、さらに日本への移住に興味をもつ人が増えている。日本語の「空家」が”akiya”として、主流メディアでも広まりつつある。(なお、地方で空家が安く買えるのは日本だけでなく、イタリアなどでも話題になっている。アメリカでは、100万ドルで売りに出された町もある)

 
自国への不満

最近、アメリカやカナダ、イギリスで増えているのは、「こんな国に住んでられない」「この国に未来はない」「この国で子育てはできない」という20~30代(Z世代とミレニアル世代)である。これらの国々では、近年、海外移住は、ちょっとしたブームにもなっている。メディアでも、実際に(日本を含め)海外に移住した人のインタビュー記事や「移住に適した国」といったリストも、よく掲載されている。オンラインでも、「アメリカ脱出」「(国にかかわらず)脱出したい」といったコミュニティがいくつも形成されている。

 
・物価高と住宅危機

これらの国では、住宅価格や家賃が高騰し、かつ賃貸物件も不足し、住宅危機が起こっている都市が多々ある。「家が買えない」というミレニアル世代、「家賃が払えない」というZ世代が、自国に絶望して他国に活路を見出しているのだ。

日本でも物価高が言われるが、イギリスやアメリカなどに比べれば生易しいレベルである。(※1) イギリスでは「生活費危機」が叫ばれ、2023年の調査では、(労働者階級の)大学生の3割以上が食事の回数を減らしていたが、今では、最高3日、食事にありつけず、キャンパス内のフードバンクに頼らぜるを得ないという学生もいる。オーストラリアでは、とくに食品価格の高騰により万引きが増えているという。豪政府の統計では、2021年、2022年と連続で小売での窃盗が増え、「2023年に万引きをした」という人も15%で、前年比3ポイント上昇している。

 
・アメリカンドリームの終焉

アメリカの場合、そこに異常に高い医療費や健康保険料、学資ローンを含む借金、仕事優先の文化(ワークライフバランスが得られない)、政治的分断、乱射事件の多発などによる治安の悪さがある。(※2) とくに子育て世代になると「子供を安全な環境で育てたい」というのが移住の理由として増える。

家賃が高騰しているため、一人で賃貸物件に住む割合は、2022年、全米平均で18%を切っていた。大半がルームメートなどと同居しており、25~34歳で実家に戻るアメリカ人は、過去20年で9割近く増えている。ミレニアル世代(26~41歳)では、親と同居している割合は、全米平均16%だが、都市によっては3割近くにのぼっている。さらに若い世代(18~34歳)では、約3割が親と同居している。

アメリカで若い世代が持ち家を買えない理由のひとつに学資ローンがある。過去20年で、30代で学資ローンを抱えている人が倍以上に増え、20代では、さらに多い。返済が60代まで続くという人もいる。

こうした中、アメリカでは、18~34歳の半数以上が、親の金銭的援助を受けており、一番多いのが食費や光熱費などの生活費、次に電話代やサブスク料においてである。30~34歳でも、3割以上が親の援助を受けているという。(※3) 一方、「子供の金銭的援助で、自分が経済的に苦しい」という親が36%にのぼっている。 

2023年の調査では、「がんばって働けば、出世できる、人生うまく行く」という「アメリカンドリームは今も健在」というアメリカ人は36%のみであった。「昔はあったが、今はない」という人は45%に達している。(※4) また、「この国の経済・政治システムは、自分のような人間には不利である」に同意する人は半数に達している。

別の調査でも、2019年時点で「この国の問題は、金持ちを優遇する経済制度で不公平なところ」という人が、全体の58%に対し18~24歳では8割近くに達していた。(※5)

こうした中、「新たなアメリカンドリームは、海外移住」といった記事も登場している。(ただし、メキシコとの国境は、ほぼ”開放”状態で、何十万人という移民の流入が続いており、貧しい国の人々にとっては「アメリカンドリーム」は健在である)

なお、アメリカのホームレス人口は、2017年から年々、増加しているが、2022年には58万人以上にのぼり、史上最高に達している。(板橋区や八王子の人口に相当)
 
 
・資本主義に対する反発

海外に移住したいアメリカ人の中で一番人気なのが、文化的に近いヨーロッパで、とくに「ワークライフバランスが得られる」「皆保険がある」「国による子育て支援が手厚い」という点が人気を得ている。とくに物価の安いポルトガルが人気である。

ベビーブーム世代からは「社会主義」と言って批判されるヨーロッパの公的制度だが、若い世代の間では、アメリカでの公的制度の欠如に不満が募っている。2019年の調査では、65歳以上では「資本主義」を好意的にとらえるのは69%だったのが、18~24歳では「社会主義」を好意的にとらえる割合が61%と、「資本主義」を上回っていた。 (※6)

(ニューヨーク市など一部の都市を除いて)車なしでは生きていけないアメリカだが、アメリカを脱出したい理由に「どこに行くのも車が必要」「公共交通機関がない」という点を挙げる若い世代がいるのには価値観の変化がうかがえる。 (※7)

 
・”壊れた”イギリス(Broken Britain)

イギリスでは、もう数年前から、経済の悪化で「イギリスは終わった」という声が聞かれるようになり、”Broken Britain(壊れたイギリス)”といったキャッチフレーズまで生まれている。(下記の調査元では、健康、教育、交通、インフラなどを基に自治体307の「壊れ度(The Broken Britain Index)」も算出している)

こうした傾向は、アンケート調査にも表れており、「イギリスの状態は、過去より悪化している」という人が76%で、2017年に比べ9倍以上に増加している。(※8) 「社会契約(国と国民の関係)は破綻している」という人は62%、「イギリスでは、もう何も功を成さない(救いようがない)」という人も58%に達しており、6年前の何倍もに達している。

また、「自分の人生の方向性を自分で何とかできると思えない」という人も、半数近く(48%)にのぼっている。「イギリスの将来を楽観視している」に同意する人は3割で、同意しない人が4割を超えている。「大半の国に比べ、イギリスは将来への準備ができていない」という人も57%に達している。

昨年、インフレに見合った待遇の改善を求め、教師や医療従事者、鉄道運転士など公務員によるストが、過去10数年で最大規模で行なわれた。イギリスの国民保険サービス(NHS)は、長年の予算削減で、質の低下、待ち時間の長さ、人員不足などが問題となってきたが、近年、さらに悪化している。(※9) やはり昨年、築30年以上の学校施設は崩壊の恐れがあるため(2018年に実際に崩壊した学校が)、100校以上が閉鎖されたが、インフラの老朽も社会問題となっている。

 
・オーストラリア・カナダ

生活費の高騰に苦しむオーストラリアでも、親と同居する若者が増えており、18~29歳では3割以上が親と同居している。2019年に自宅を売却した後、帰国し、また家を買うつもりが、価格が倍になっており、家賃も高騰し住むところが見つからないため、カナダに移住したという家族もいる。

ただし、カナダも住宅が高騰して、若い世代は自宅の購入はあきらめている。また、イギリスと同様、カナダでも公的医療の崩壊が社会問題となっている。

従来、移民先として人気のカナダだが、2022年の調査では、最近の移民の間では、35歳未満の30%、大卒以上の23%が「2年以内にカナダを去ると思う」という人が増えている。 (※10) その理由として、18~34歳の75%が「高騰する生活費」を挙げている。また、80%以上が「カナダ国外での資格や経験を考慮してくれない」ため、職が見つからないという。たとえば、カナダで医師免許を取得しても、海外での医師としての経験が考慮されないため、医師として仕事に就けない人が多いのだという。そこで、インドでエンジニアをしていたが、カナダでエンジニアとして就職できないので、タクシーの運転手をしているという人は珍しくない。

※1. インフレ率が最大だった2022年のインフレ率は、イギリス11%、オーストラリア9%、アメリカ8%、カナダ7%。[国によってはコロナ前に比べ20%以上、物価が上昇しているが、賃金は、それだけ伸びていない。]
※2. 政治的分断というのは、保守派とリベラル派の間の溝。20年以上前から始まっており、年々、悪化する一方。日本で、コロナに関して意見が分かれたが、それの何倍もの分断が、すべてのことに関して起こる。オンラインのコメントやSNSでも、まったく政治とは関係ない内容でも、必ず「トランプ」「バイデン」などを持ち出す人がいて、罵声の応酬となる。政治的スタンスの違いで、家族や親せきが分裂することも珍しくない。いつ第二の南北戦争が起こっても驚かないレベルであり、筆者は、解決するには、国が分断するしかないと思っている。日本では、二大政党制を理想的とする傾向があるが、アメリカでは二大政党制への不満が募っている
※3. Pew Research Center, “Parents, Young Adult Children and the Transition to Adulthood” 2024年1月25日
※4. WSJ/NORC Poll October 2023” 2023年10月に1163人を調査。
※5. “Axios/Survey Monkey Poll: 2019 World Economic Forum” 2019年1月に2277人を調査。
※6. 同上
※7. ユダヤ系が多く、ユダヤ系ロビーが絶大な力を握っているアメリカでは、パレスチナを擁護するだけで「反ユダヤ主義」のレッテルを貼られ、イスラエル非難どころか、「パレスチナがかわいそう」というのもタブーだったが、今回、パレスチナ擁護を声にする若者が出てきたのも画期的で、(昔のアメリカを知る筆者には)時代の変遷が感じられる。
※8. The New Britain Project “Broken Britain June 2023” 2023年5月に18歳以上の成人2000人以上を調査。
※9. イギリスより給料の高いUAEに移住する看護師も少なくない。とくにフィリピン系。生死に関わらないような手術は一年待ちなどザラ。たとえば、股関節人工関節置換術であれば2年待ちというのもあり(術後のリハビリなし、医師と連絡もとれない等)、経済的に余裕のある人は自費で民間の病院で手術。カナダも同じような状態。
※10. Institute of Canadian Citizenship (ICC) 2022年2月に18歳以上の2100人以上の新規移民を調査。

 
日本語の問題

「昔から日本に憧れていて日本語を勉強している」という人はいるものの、ビジネスレベルの日本語ができるという人は少ない。とくに上述の 3)の人では、最大の問題が日本語の壁である。つい今週も「日本でパイロットになりたい」というカナダ人が投稿していたが、「日本語が最低でも(日本語能力試験の)N1レベルでないと無理」と日本に住む外国人に一蹴されていた。

また、昔から日本に憧れていて日本語がある程度できても、大卒でないため、就労ビザを取得するのが不可能に近い人たちも多い。(「技術・人文・国際業務」で在留資格を取得するには大卒、または「国際業務」なら3年、「技術・人文知識」では10年の実務経験が必要)

なお、上述の1)や2)の人たちには、期待が大きすぎる分、実際に日本に住んでみて現実を経験して落胆する人も多い。とくに「日本に住めればいい」ということで、経験者が止めるのも聞かず、日本で英語を教える道を選ぶ人もいるが、大学やインターで教鞭をとる以外は、キャリア形成につなげるのが難しく、労働環境の違いに戸惑うことも多い。

 

アジア

日本での在留者、就労者では、中国やベトナム出身者が上位を占めているが、ここでは、近年、独自の理由で、日本での就労者が増えているスリランカを取り上げたい。

 
スリランカ

筆者が、昨年12月に成田のホテルに宿泊した際、スリランカ人従業員がハウスキーピングだけでなく、フロントでも働き、流ちょうな日本語を話していた。羽田空港や成田空港でも、リムジンバスのスタッフとしてもスリランカ人が働いているが、英語ができるので、外国人客とのやりとりでも重宝するのだろう。

成田空港のコロンボ行きのスリランカ航空便は、里帰りする多くのスリランカ人乗客が大半だったが、日本人の地上スタッフが、日本語で話しかけ、日本語で返答していた。

そして、昨年12月に1ヵ月間スリランカ滞在中、あちこちで「日本で働いていた」「日本で働こうと思って試験を受けたが落ちた」「日本で働きたいが、行くために必要な資金を用意できない」という現地の人たちに出会った。経済危機が勃発した直後の2022年2月にも1ヵ月間滞在したが、その時には、こうした声は聞かれなかった。

 
・経済危機による出稼ぎ増加 

長年の債務危機が、コロナ禍によって債務不履行に陥り、経済危機に発展してしまったスリランカは、現在、IMF(国際通貨基金)から支援を受け、日本を含む債務国と債務を再編中である。

1983~2009年の内戦時には多くのタミル系がカナダやオーストラリアなどに移住したが、元々、とくに富裕層、高学歴層では、海外への移住が多い国である。経済危機によって、それが加速し、2022年には100万人が国外に移住した。現在、海外在住のスリランカ人は300万にのぼる。

これまでは、一定から上の層が、よりよい生活を求めて海外に移住していたのが、経済危機勃発後は、食べていくためにやむなく、国外に出稼ぎに行くしかないという人が増えている。とくに大卒や高スキルでない層が取り残されており、生活に困窮している状態だ。オーストラリアに向け、船で不法入国を試みる人たちもいるくらいだ。   

筆者が2022年2月に訪れた際に比べ、通貨価値は半減し、かつ物価は倍以上になっており、1年半前に比べ、首都コロンボだけでなく、他の都市でも、路上生活者や物乞いをする人が増えていた。

こうした中、スリランカ政府では、国の施策として国民の海外への出稼ぎを推進している。スリランカの海外雇用局(Bureau of Foreign Employment)によると、2022年に出稼ぎ労働者として出国したスリランカ人は31万1000人を超え、2021年の倍以上に達している。 (※11) これは、内戦時代の数字を上回るもので、過去最高となった。

2022年、とくに女性の海外就労者が、前年比3倍以上にのぼった。これは、女性の出稼ぎ職として最大の家事労働で、出稼ぎ可能な最低年齢を25歳から21歳に引き下げ、かつ、国に残していける子供の年齢も2歳に引き下げたことが影響したと思われる。

なお、スリランカ政府では、経済危機勃発後、公務員に対して最大5年間の海外就労を認める制度も導入している。

一方、出稼ぎ労働者受け入れ側も、人材獲得の大チャンスとして獲得に乗り出している。2022年、サウジアラビアでは、スリランカからの労働者受け入れを18万人から40万人に増やした。

経済危機の発端のひとつに、コロナ禍によって(外貨獲得額第3位の観光業が壊滅したのと同時に)海外から自国民の送金が減ったことが一因にあった。スリランカでは、歴史的に自国民の海外からの送金が最大の外貨獲得手段であったのが、2020年から2021年にかけて大幅に下落した。しかし、2022年に海外での就労が増えたことで、2023年に海外からの送金が盛り返している。2023年3月の海外労働者からの送金額は5億7000万ドル近くに達し、前年同時期の8割増となった。

 
・日本での就労促進

こうした中、日本で自国民が就労する機会の拡大に、スリランカ政府が力を入れている。 2022年、その半年後、2023年にも、就任後立て続けに、労働・海外雇用相が訪日し、日本の政府機関や人材斡旋企業などと面談した。大手人材斡旋会社とは、日本での就労支援などに関する覚書を締結している。 

海外雇用局に登録されている就労者は、日本向けは4500人、1.45%で10位である。なお、上位4位は中東で、7位の韓国は9000人以上で3%である。

2022年11月にジェトロが行った高度外国人材の採用に取り組む日本企業を支援するオンライン合同企業説明会 には、700人を超えるスリランカ人が登録し、2位の中国、3位のベトナムを抑えて、最多であったという。(※12)

また、海外雇用局では、日本語教育の推進も行なっている。スリランカでは、高校では80年代、中学では90年代に、日本語教育が導入され、以前から、日本語は中学や高校で選択科目の「外国語」として一部の学校で教えられてきた。日本語教育は、首都コロンボだけでなく、地方でも行われており、全国138校で行なわれている。

2018年時点では、中学でも高校でも、選択可能な外国語としてアラビア語に次いで、日本語が2番目に多かったという。(※13) 日本語以外に選択できるのは、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、アラビア語、ヒンディー語だが、日本語学習者は、年々、増加しているという。

アラビア語の選択が多いのは、従来、出稼ぎ先としてクウェートやカタールなど中近東が多いからだろう。日本語が多いのは、昔、当地で爆発的な人気を博した「おしん」や最近のアニメを通じ、日本に好意を抱いているスリランカ人が多いためと考えられている。

スリランカでは、日本での就職を前提としたカリキュラムに日本語も盛り込むことで閣議決定しており、海外雇用局では、全国で日本語を学べる態勢を作り、日本で就職先が決まれば、労働者が日本語学習に費やした費用を払戻すという。

なお、ジェトロが2023年に実施した調査では、アジア・オセアニア地域で基本給(平均値)が、もっとも低いのがスリランカだった。(※1) 製造業では、月104ドル、エンジニアでも189ドル、マネジャーでも388ドル、非製造業では、マネジャーで628ドルであった。マネジャークラスでも、日本の方が数倍稼げるということだ。

 
・特定技能職種の拡大

日本に在留するスリランカ人は年々増えており、2022年から2023年にかけては29%と大きく増加し、4万人を超えている。2022年からの半年でも10%増で、ミャンマー、インドネシア、ネパール、カンボジアについで高い伸び率である。

主に大卒層の「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で居住するスリランカ人は、9000人以上おり、インドやフィリピンなどを抑えて6番目に多い。技能実習では9番目、「特定技能」や「技能実習」の資格でも10番目、高度専門職(1号、2号)や特定技能(1号、2号)でも10番目に多い。

また、「経営・管理」の資格では、中国、韓国、ネパールに次いで4番目に多い。この資格では、中古自動車貿易などを手がけている例が多いようだ。スリランカでは、日本からの中古自動車で財を成した実業家が何人かおり、名をはせている。すでに2代目がついでいる例もある。

2023年10月には、海外雇用局と外国人技能実習生の一般管理団体である国際人材育成機構との間で合意書を締結し、これまで特定技能の技能試験は「介護」「外食業」「農業」のみだったが、さらに「建設業」「航空業」「自動車整備業」「ビルクリーニング業」の4職種の試験をスリランカで受けることが可能となった。スリランカ政府は、今後さらに職種の拡大に向けて努めるという。

※11. Sri Lanka Bureau of Foreign Employment, “Statistics 2022”.
※12. JETRO 地域・分析レポート「日本企業も動く、留意点は(スリランカ)日本での就労希望者が増加中(後編)」2023年5月23日
※13. Dilrukshi Rathnayake “スリランカにおける日本語教育の現状。Japanese Language Education in Sri Lanka” 2020年4月。
※14. JETRO 「2023年度 海外進出日系企業実態調査 アジア・オセアニア編」JETRO 2023年11月28日。2023年8月21日~9月20日に地域20ヵ国に進出する日系企業4982社を調査。

 
アジアを選ぶ東南アジアの留学生

東南アジアでも、留学先として英語圏が一番人気であることに変わりはないが、近年、アジアを選ぶ留学生が増えている。

東南アジアは、中国とインドに次いで、世界的に第三の留学生供給地域である。東南アジア内では、海外への留学生数は、ベトナムが群を抜いて多く37%を占めており、マレーシア(16%)とインドネシア(16%)が、それに続く。(※15)

ベトナム人留学生は、近隣諸国に比べアジアを選ぶ傾向が強く、日本への渡航が一番多く(33%)、次いで韓国(19%)である。インドネシアからの留学生では、オーストラリアが一番多いが、その次にマレーシア、日本も4番目に入っている。マレーシアの学生では、(元宗主国の)イギリス、オーストラリア、アメリカがトップ3だが、日本は4位である。イギリスへの留学が、年々、減る一方、オーストラリアの人気が上昇していたが、下記のような状況で、今年からオーストラリアへの留学が難しくなるので、今後、渡航先は変わりそうである。 

オーストラリア留学

 
・英語圏での留学規制

今年に入り、カナダやオーストラリアが学生ビザの発給を厳格化しており、今後、さらにアジアを選ぶ学生が増えると思われる。

カナダ政府は、12月に、今後2年間、留学生の数を限定すると発表した。大学の学部の学生を年に3万6000人ほどに限るということで(大学院生は除外)、学生ビザの発行数が35%ほど減る見込みである。さらに、生活費の高騰に伴い、2024年1月から学生ビザ取得のために必要な資金が、1万ドルから2万ドル以上と倍になる。

カナダでは、2022年に初めて1年で移民が100万人以上増え、人口が4000万人と史上最多にのぼった。留学生は、2012年に27万5000人だったのが、2022年には80万を超えており、10年で3倍近くに増えている。住宅価格の上昇を移民の増加が原因とするエコノミストもおり、留学生がやり玉に上がった形だ。

オーストラリアも、2023年に純移民流入数(流出数が流入数を上回ったの差)が52万人近くに達しており、今年は、これを35万人に抑えたい意向である。2023年10月時点で留学生数は77万人近くに達しており、2025年7月までに、新規留学生の数を25万人に減らすという。やはり、住宅価格や家賃の高騰で住宅危機に見舞われていることが背景にある。

オーストラリアでは、学生ビザの申請が却下される割合が、2023年後期は19%となり、過去3年で最高となっている。本来の目的が勉学ではない学生を受け入れることで大学は(学生のビザ違反が見つかると)、移民局にハイリスクの評価を受け、ビザの審査が厳格になる。それを避けるため、合格通知を受け取ったものの、まだ学生ビザを取得していない学生に、入学を辞退するように促す大学も出ている。とくにビザの降りない確率の高いインド、ネパール、パキスタンの学生が影響を受けている。

 
・ヨーロッパでも制限

イギリスでも、学生ビザの発行数がコロナ前に比べ81%増え、純移民流入数が74万人を超えたため、昨年から、(ポスドクの研究者以外の)留学生の家族帯同が禁止となった。留学生に帯同する家族が、EU圏外からの留学生数の25%を占めている。そのためか、2024年1月からの学年度では学生ビザの発給数が71%減少している。とくに家族を帯同する割合が一番高いナイジェリアからの学部への応募が他国に比べても激減している(46%減)。(※16)

こうした背景から、インドでも、(元宗主国の)イギリスやカナダを抜いて、ドイツが一番の留学先となっている。

また、オランダも、留学生の増加を懸念しており、大学学部での英語課程を削減する具体的な策を  するよう議会が政府や教育機関に要請している。諸大学では、国際留学フェアなどでの勧誘を止め、留学生受け入れ数を削減する予定である。

学部レベルでは授業の7割がオランダ語だが、18%が英語版もあり、英語のみの課程と併せると3割にのぼっているという。学生だけでなく講師陣のオランダ語の能力を高めることも推進され、今後、すべての専攻課程はオランダ語で行なわれ、オランダ語による新たな課程も創設される一方、新たな英語の課程は許可されないことになった。

 
・東アジアでは留学生招致合戦

一方、逆の方向に舵を進めているのが、日本を含む東アジアである。東大では、2027年に学部・修士一貫の5年生の新課程を設立すると発表したが、授業はすべて英語で行われ、半数を海外から優秀な学生を集めるという。

日本政府は、2033年までに留学生の数を40万人に増やすことを目標に掲げている。2019年に31万人だった留学生数は、コロナの影響で2022年には23万人に減少した。 

韓国も、言語要件やビザ取得要件を緩和し、2027年までに留学生数を今の20万人から30万人に増やすことを目標としている。大学院生には、永住権や市民権取得への道を開くという。台湾も、2030年までに32万人の留学生受け入れを目指しており、とくに半導体などの技術分野での留学生に焦点を絞り、東南アジアを中心に10拠点に留学生リクルートセンターを開設するという。また、卒業後の台湾での就職を促すよう、今年から卒業後の就活のための在留資格を取得しやすくしている。

※15. Acumen “2024 Key Trends in Southeast Asia”
※16. UK Universities and College Admissions Service

 
 
                  
※掲載内容は、作者からの提供であり、当社にて情報の信頼性および正確性は保証いたしません。

有元 美津世プロフィール
大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。 社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米27年。 著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』など多数。