横浜で10数名程の会社で造園業を営む石井造園さんという造園会社があります。小規模ながらCSR企業として高い評価を得ている企業で、私も、この会社の社長である石井直樹氏の経営姿勢を大いに学ばさせていただいています。
例えば、石井社長の会社には、さまざまな庭の手入れの際に出る廃材があります。それらの廃材をただ捨てるのでなく、わざわざ細かくして、薪などの燃料になるように加工をしています。そして、何とそれらの手間暇かけた薪を、近所で必要な方に無料で分けてしまうのです。
私はその石井社長の発想について興味を持ち、あるイベントの対談でご一緒した際に、そのことについて疑問を投げかけました。石井社長から返ってきた答えは、
「必要な方がいるのに、ただ捨ててしまい、ゴミとして出してしまうのは、もったいないことです。それよりも、喜んでくれる方がいるのなら、多少の手間はかかっても暖炉の燃料などのために差し上げ、ありがとうと言われるのなら、その方が気持ち良いし、木も喜ぶと思います。そして何より、社員たちにとっても、ありがとうとお客様から言われることは良いことです。」
とのこと。さらに、次のように続きました。
「実は、それだけではないのです。この活動は、本業にも結びついてきます。一見、社員にとっても一見大変な活動は、実は、将来のお客様を創造する活動でもあるのです。暖炉の燃料の為に私達の薪を必要とするお客様は、同時に自分の庭を私達の競合会社に庭の手入れを頼んでいるということでもあります。そのような方がちょっとしたこの取り組みから私達のお客様につながることもあるのです。ありがとうと言われながら、将来のお客様を創造する、弊社にとっては大切な活動の一つなのです。」
さて、現在CSRがブームとなっています。社会に貢献しようと企業が躍起になって取り組むこと自体は悪いことではありませんが、パフォーマンスでやっていたり、続いていかない企業が多い中で、この石井社長のCSR活動は、しっかりと本業に結びついている好例です。
他社のCSRを参考にするのはもちろん必要ですが、目に見える活動や経営システムだけを参考にするのではなく、その根底にある、目には見えない経営理念との結びつきや業績とのつながりについても、よく見て、自社に置き換え吟味しなければなりません。他の企業が石井社長のCSR活動を真似することは簡単です。「もったいない活動」や「安い金額で燃料を販売する」ということは出来ます。しかし、おそらく、そのような活動は長くは続きません。それは、本業と結びついていないからです。
業績を上げ続ける会社は、この目に見えないお客様とのつながりや地域との結びつき、信頼を積極的に築くことを第一に挙げ、CSR活動を行っています。しっかりと戦略に結びつける「しくみ」を確立し、または、絶えず変化をしながら磨きをかけているのです。
ダメなケースというのは、CSR活動を行ってはみたものの続かず、無駄な出費を行い、挙句頓挫し、かえってお客様の信頼を失うことになるのです。
CSRを中小企業が行うことは、大賛成です。私も活動を行っていますが、やるからには、意地でも本業に結びつける覚悟をしなければいけません。「目に見える商品サービスは3年で真似される」と言われる中、石井社長の取り組みは、会社のブランドを創り上げ、たとえ商品で追いつかれても、持続的なファンを創り出し、結果的には底力のある強い会社を創り上げることにつながるのです。