年初の風物詩のひとつに、東京箱根間往復大学駅伝競走、通称、箱根駅伝がある。第86回を数える今回は昨年度優勝校である東洋大学が2年連続の総合優勝を果たし東洋黄金時代の到来を予感させたのは記憶に新しい。2日間、往復217.9kmの間参加20校で繰り広げられる襷リレーは数々のドラマを生み、我々の心へ多くの感動を与えるだけでなく、我々ビジネスマンが不透明な先行きを生き抜いてゆくための示唆すら与えてくれている。
今年の箱根駅伝で注目されていた選手のひとりに城西大学の7区を走った石田亮選手がいる。彼は昨年の箱根駅伝で8区を走ったが、17kmを過ぎたあたりから低血糖状態へ陥ってしまった。足元がふらつき2度転倒するも立ち上がり、中継所を目指すも残り700mでの3度目の転倒で並走していた監督がたまらず手を差し延べ無念の途中棄権、大舞台での挫折を味わった。
石田選手は大会後、襷をつなげることができなかった事実を重く受け止め、自分自身を責め、大きく落ち込んだ。しかし、箱根を走れることでも幸せなことだと励ます両親や4年生とし9区を区間賞で走るも非公式となってしまった先輩選手、チームメイトからも激励を受け再び立ち上がり、1年間チームの誰よりも積極的に練習を積み重ね、予選会を勝ち抜き大会を迎えた。結果は区間賞にこそ届かなかったものの区間2位の好記録、城西大の初シード権獲得へ大きな貢献をした。
その他、箱根駅伝では過去10年の大会で6回の途中棄権が記録されている(全体では12件)。78回大会2区で棄権した法政大学の徳本一善選手(現日清食品)、84回大会往路5区の順天堂大学 小野裕幸選手(現日清食品)等である。
箱根駅伝ほどの注目が集まる大会で挫折を味わえば、競技生活を離れる選手がいてもおかしくないように感じるが、実際は6人の選手が6人とも陸上競技から離れるという選択はとらず、歯をくいしばり立ち上がり挫折を乗り越え、多くの選手が自己ベストを更新し、活躍を続けているのである。
一体何が彼らを奮起させ成功へ導くのであろうか???
ひとつはチームメイトや監督の励ましや助け、もうひとつは、襷の重さと自分自身の役割と責任を明確に認識すること、そして最後はその役割・責任の重さに時折押しつぶされそうになりながらも、立ち向かう弛まぬ努力をひたむきに続けていることに他ならないのではないだろうか。
現在の企業人の多くの人々は、この不況は時が過ぎれば回復すると、身をかがめ嵐が去るのを待っているかのように見える。果たしてそのような姿勢で景気は回復するのであろうか?今こそ我々自身、箱根駅伝の選手達に負けないレベルで自らの役割・責任を正しく理解し、仲間を鼓舞・支援し、ひたむきに役割・責任を果たす必要があるのではないだろうか?
仕事を懸命にやり続けると、誰もが時折、自分のペースを失い、孤独や挫折を感じ、上を向きたくとも向けなくなることがある。そんな時は一度手を止めて、少しだけ顔を上げ全体を見回して頂きたい。程度は違えども苦しいのはあなたひとりではないはずで、決してひとりで働いているわけでもないはずだ。あなたの周囲の人間は企業ゴールを達成するために共に走る仲間であり、オーバーペースで低血糖状態に陥りそうな仲間がいれば忠言し、悩んでいる人間がいれば声をかけるといったような、今よりお互いが半歩ずつ歩み寄り、全員でそこに到達するのだという強い気持ちで協力しあい精一杯走り続けるべきではないだろうか。さすればおのずと不況という挫折を乗り越え、勝利を共に喜ぶ日は遠くないはずだ。
執筆者: 古賀 功亮
マーサージャパン株式会社
組織・人事変革コンサルティング部門
コンサルタント
略歴:
国内大手食品企業、外資系コンサルティングファームを経て現職。
複数の大規模システム導入プロジェクトへプロジェクトマネージャー、プロジェクトリーダーとして従事。
その後、事業戦略立案・実行支援、チェンジマネジメントを柱とした組織活性化支援、人財育成支援、グローバルプロセス変革コンサルティング、外資系企業の日本法人設立支援等に従事。
現在は人材育成及び人事業務の効率化の側面から戦略の実行力を強化を目的とするコンサルティングを中心に活動。
業界としては、これまでエンターテインメント、情報通信業、電信電話事業、携帯電話事業、ハイテク機器製造業、電気・ガス業、自動車部品業界、食品製造業、消費財、スポーツ育成企業などの企業に対する支援を実施。
岡山大学 経済学部卒