外国人雇用で避けては通れないのが入管法(出入国管理及び難民認定法)です。というのは、この法律こそが外国人と日本人の雇用の決定的な違いを位置付ける“在留資格制度”を定めているからです。この在留資格制度とは、予め数種類の「在留資格」を詳細に規定し、この規定に合致しない人物の入国を拒否し、また、ビザの発給を停止することにより、日本への出入国者を管理する制度です。いわば日本で滞在する外国人を調整するバルブのような役割を果たしており、その時の社会情勢や経済事情などによりたびたび審査の判断基準などが変更されることもあります。
外国人社員を採用するに当たりまず行なわなければならないのが、企業担当者が入管法の基礎を熟知することです。外国人が日本で就業するためには必ず何らかの在留資格が必要であり、採用した人材がどれほど優れていても適切な在留資格が取得できなければ雇用することができないからです。逆にいえば入管法を理解した上で採用基準や募集職種などを決定すれば、採用後の手続きもスムーズに行うことができます。
(1)在留資格の該当性
外国人社員が日本で行おうとする活動は、入管法別表に規定されている在留資格の活動内容に該当していなければなりません。例えば、外国人社員に最も多く利用されている「人文知識・国際業務」の場合、入管法では“人文科学の分野に属する知識を必要とする業務”である「人文知識」と、“外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務“である「国際業務」に分かれます。「人文知識」の典型的な業種は、経理、金融、総合職などであり、「国際業務」は通訳・翻訳、語学指導、海外取引業務などで、理論上ではこれら2つの業務は区分されますが、実務上では活動内容が複雑に絡み合うケースが大半を占めます。「人文知識」と「国際業務」では許可となる基準がそれぞれ違うため、自社で行う業務がどちらに該当するか正確に見極め、的確な申請を行わなければなりません。単に外国人だからという理由で翻訳・通訳として「国際業務」として申請した場合には職歴等の要件で不許可であっても、総合職の「人文知識」であれば許可が出るというケースも多くみられます。もちろん、在留資格申請のために自社での職務内容を勝手に変更することは虚偽申請となりますが、申請に当たり在留資格の該当性を考慮することは非常に大切です。
(2)在留資格の適合性
一部の例外を除き、多くの在留資格には法務省令で定める上陸許可基準が設けられています。外国人社員を採用する際によく利用される「人文知識・国際業務」や「技術」などにも設けられており、この上陸許可基準を満たさない場合には、入国管理局で在留手続きを行っても許可となる事はありません。そのため、企業担当者が採用前に各在留資格の上陸許可基準を熟知することが重要となります。採用側がこの基準を理解していないと、入社後の在留手続きを考えた場合、そもそもどのような経歴の人材を雇用したらいいのか判断できないからです。このように重要な上陸許可基準はすべて入管法で定められていますが、入国管理局の審査における実務においては、その中でもさらに細かく考えられます。例えば、“大学を卒業”といった場合、「そこには通信教育の大学は含まれるのか?」といった具合に、実務上の様々な状況を想定して個別の扱いがされることがあります。このように判断に迷う場合には最寄りの専門家等に相談したほうがよいでしょう。
(3)立証のポイント
在留資格申請においては、入国管理局等で申請に必要な書類のリストなどが配布されていますが、それだけを提出すれば十分というわけではありません。「申請人は自ら在留資格に合致することを立証しなければならない」と入管法でも定められているように、基本的には申請人が自分で筋道を考えそれに対する証拠を提出して許可をもらうことになります。ただし、実際の手続き上では、入国管理局により提出資料が不十分と判断された場合には、追加資料の提出や具体的な説明を求めてきます。これらに対応していけばよいことになりますが、審査に時間がかかり、説明不足等から申請者の意図とは違う方向に審査が行われることで不許可となる事もあり得ます。申請時にはこちらの理論や主張をはっきりと行うとともに、その立証資料を前もって提出することがポイントとなります。
また、立証に当たっては、在留資格の該当性、適合性はもちろんのこと、申請が虚偽の物でない“真実性”も重要となります。立証に必要と思われる資料等は要求されていないものでも、事前に提出した方がよいでしょう。
在留手続きはすべて法律が基本となっており、“お願い”や“熱意”で結果が変わることはなく、あくまでも法律に基づく申し出、さらにその立証というように論理的な作業の積み重ねとなります。安易に誤った在留手続きを行うと就労可能な在留資格が得られず、外国人社員の雇用を断念せざる得なくなります。そのためにも、申請を行う際には事前の準備が非常に重要となります。
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