(1)外国人雇用の現状
世界経済が一体化したグローバル化の波は日本にも押し寄せ、日本の大手企業は日本国内でビジネスが完結するドメスティック企業からグローバル企業への変貌を迫られています。そして、そのビジネスモデルを確立するためグローバル人材、つまり、大学同等以上の教育レベルを修了または専門学校を卒業し、「技術」「人文知識・国際業務」などの在留資格の基準をクリアしている高度外国人材の採用に積極的に乗り出しています。
[GDPに占める主要国の割合 2009年と2030年予想:内閣府「世界経済の潮流」より]
日本企業の営業利益の比率は、着実に海外へとシフトしており、日本貿易振興機構(ジェトロ)の集計資料によると、特にアジア諸国へのシフトが顕著で、2000年は国内79.9%、海外20.1%(うちアジア諸国が6.0%)であったのに対し、2005年は国内70.8%、海外29.2%(うちアジア諸国が10.0%)、2009年には国内56.5%、海外43.5%(うちアジア諸国が23.6%)と、ここ数年のアジア諸国への依存度は高まっています。また、2005年から人口減少に転じている日本は、今後、本格的な人口減少社会が到来します。労働力人口(満15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者の合計)についてもピークの1998年には6,800万人まで増加しましたが、その後は減少局面に入り、2010年は約6,600万人、2030年においては約1,070万人減少することが見込まれています。人口減少・少子高齢化は、国内の高度専門技術者などの労働力投入量の減少を意味しており、日本経済の成長に対する制約要因となります。
(2)外国人雇用増加の背景
世界経済のグローバル化、日本企業の営業利益の「新興国」への依存や人口減少・少子高齢化は、大手企業を中心にグローバル人事戦略の波を起こし、その波が日本の中小企業へと波及していくことは必然といえます。このような状況も影響して日本国内における外国人の雇用は年々拡大しており、その勢いは急速に加速しています。以前は外国人労働者が単純労働などに就き不法就労問題が発生することもありましたが、現在では「採用活動を行った結果、最も優秀な人材がたまたま外国人であった」という理由で外国人採用を行う企業も増加しています。一部の職種では日本人社員よりもフィリピンや中国などの外国人社員の方が高給を取っている例もみられ、就職活動に関して国籍は関係なく、実力で勝負する時代が近づきつつあります。
このような背景には人口構造の変化、通信技術や交通インフラの発達、そして、日本企業の国際化などがあげられますが、今後は特に少子高齢化がポイントとなると考えられます。アメリカやドイツなどの先進諸国でも同様の問題を抱えており、これらの国では条件付で外国人を積極的に受入れて人口構造を維持しようとしています。日本では外国人労働者の受入れに関して様々な意見があるため積極的な受入れとまではいえませんが、今後も様々な分野において段階的に規制が緩められることが十分に考えられます。
(3)雇用企業の受け入れ態勢
外国人雇用が増加した場合にはメリットだけをもたらす訳ではなく、同様にデメリットも発生すると予想されます。不法就労や刑法犯などの増加、日本人の雇用機会の縮小、それに日本人と外国人という二層化された社会が構成されるなどの問題点が考えられます。そのため、外国人の入国や就労に関する制限を設け一定の枠内での受入れを実施する必要があり、在留カードによる一元管理、不法就労取締りの強化など、外国人雇用を取り巻く法整備も着々と進められています。
不法就労に関しては、不法入国者や不法残留者等を雇用するケースと、正規の在留資格を持っている外国人であっても、許可を受けないでその在留資格で認められた活動の範囲を超えて就労させるケースの2パターンに大きく分かれます。コンプライアンス意識が定着した現在の日本企業では圧倒的に後者の違反が多く、雇用企業の認識違いや知識不足が主な原因となっています。このようなケースでは、不法就労している外国人を雇用しあっ旋した者として “不法就労助長罪”に該当し、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰則に処され、またはこれを併科される可能性があります。不法就労外国人であることを知らないで雇用した場合には処罰されることはありませんが、不法就労であると単に知らなかっただけでは済まされません。状況から判断しその可能性があるにもかかわらず、確認をせずにあえて雇用するような場合には、処罰の対象とされることがあります。
このように外国人労働者を積極的に受け入れた場合には様々な問題はありますが、日本が抱える労働力不足や経済縮小などを考慮すると、外国人の雇用は今後も増加の一途をたどり、避けては通れないと考えられます。外国人雇用はこれからの日本企業にとって重要な人事戦略の一つとなりつつあり、外国人雇用を実施する企業は、コンプライアンスを順守し外国人労働者を受け入れるための適正な社内体制を構築していく必要があります。